仔猫と少年
ある日の出来事です。運動のためにウォーキングを始めて1ヵ月。同じ道に飽きてきた私は、いつもと違う道を歩こうと思いつきました。 20分ほど歩くと、空き地から少年が小走りに出てきました。 何気に少年を見ていた私の耳に、 「キャ! キャ! キャ! キャ!」 おかしな声が聞こえ、振り向くとまだ歩くのもおぼつかないような仔猫がたどたどしい足取りで、少年の後をついてきていますちっちゃなその姿は、少年には気づかれず、あぶなっかしい足取りで道路を歩き出しました。 「あ、あぶない・・・」 と、私が引き返そうとした時、近所のおばさんが、「あぶない、あぶない! あんた仔猫ついてきてるで!」少年は慌てて引き返し、仔猫を抱え、また空き地へ連れて行きました。 「キャ! キャ! キャ! キャ!」 何とも大きくておかしな鳴き声のその仔猫には、母猫も兄弟猫もいないようでした・・・。 「その猫、飼えるんか?」と、近所のおばさんの問いに、少年はかすかに首を振ったように見えました。 (少年が飼えなければ、仔猫はここに置き去りにされてしまう・・・) しばらく動けずにいた私は、少年に 「その猫、飼えないの?」 と、確認したい気持ちを抑え、また歩き出しました。 (助けられるわけでもないのに、聞いてどうなるというのか・・・) 歩いても、歩いても、仔猫と少年のことが頭から離れません。 (あんな小さい仔猫が生きていけるわけがない・・・)(連れて帰ろうか・・・?)(でも、うちには猫がいるし・・・)(旦那はまず反対するだろうし・・・) あれこれと悩んで、結局またあの空き地へ・・・ そこには、まだ少年と仔猫が遊んでいました。(この子も気になるんだなぁ・・・)私はまた、歩き出しました。(もう少し歩いてから、来てみよう!) 10分ほど歩いて、再度空き地へ・・・。少年と仔猫は、まだそこにいました。また歩き出し・・・また空き地へ・・・ また歩き出し・・・また空き地へ・・・ 何度行っても、そこには少年と仔猫が一緒にいました。 もう2時間はたっていたでしょう。。。(この子は、何とかして仔猫を飼ってくれるのかも・・・)そんな気がしてきた頃、あたりはもう薄暗くなっていました。 「よし、もう帰ろう!」そして、「明日の朝、もう1度来てみよう!」そう心に決めて、やっと私は家路に着きました。 夜明け前、気がつくと雨が降っていました。 (もし、少年が連れて帰っていなければ、あの仔猫は・・・・・) 「まだ早いけど、行ってみよう!」いなければきっと、少年がお母さんを説得して、連れ帰ってくれたという事だ。でも、もし1人だったら、どんなに心細い思いをしているか知れない・・・・・夏とは言え、あんな小さな仔猫が、たった1人で長く生きれるとは思えない・・・・・ 空き地に仔猫の姿はありませんでしたが、私は探し回りました。「なんだ、いないのか・・・」ホッとしたような、寂しいような気持ちになりながら最後に・・・・・「ネコちゃん! いないの?」と、声を出しました。 「キャ・・・ キャ・・・ 」 か細いけれど、確かに昨日聞いたあの声が空き地に響きました。 声をたどってみると、上手に何かの四角いカンカンを雨よけにし、中でポツンと座り、すっかり途方に暮れているあの仔猫がいました。昨日より、すっかり薄汚れて・・・ 手を差し伸べると、ヨロヨロしながら、自分で缶から出てきて、今度はとても大きな声で、 「キャ! キャ! キャ! キャ!」 と、私の手の平で鳴き続けました。 「ごめんね! 怖かったね!」 お気づきかと思いますが、この仔猫はダヤンです。あの空き地に行くたびに、あの少年を思い出します。 もしかしたら少年は・・・ダヤンを捨てに来ていたのかも知れません。でも、少年がずっと傍にいてあげなければ、ダヤンはきっと車に轢かれていたことでしょう・・・ 少年に会って、「あの仔猫はとても元気にしてるよ!」そう、伝えてあげたいのですが、残念ながら私は彼の顔を覚えていません。ダヤンはあの少年の事、覚えているのかなぁ・・・