三文芝居
三文芝居 南風一彼女ならそれでも良かったと思うことがあるなぜそう思うのか分からない彼女が言ったのは二度だったと思う二度目は久々に会った夜の街そこは付近で最も賑やかな界隈らしかった格子の入った洒落た窓の近くできみは怪しげな話しを聞かせるのだった家主さんが誕生日を祝ってくれた遠くから出てきて淋しいだろうと言って指輪を買ってくれた家主さんにドライブに連れて行って貰った山でトイレがなかったから奥の茂みに行ってした家主さんが見張っていてくれたから大丈夫だったあんなところは初めてだったからやりにくかった ・・・・私が怪訝な顔をしているのに気付いたのか彼女は慌てて否定した「大丈夫よ 私は大きな木の根っこの後ろに隠れて 誰にも見られなかったから」そんなことを心配しているんじゃない「その家主さん ちょっとおかしいんじゃないか?」「何がおかしいのよ わたしのことをすごく思ってくれていて 親切なおじさんよ」私は黙っていた・・・その日は地元の大学の合格発表があった日だった彼女は私に電話をかけてきて「大学に落っこちた」と言ったそんなことくらいで彼女に対する気持ちが変わるはずがなかったしかしそんなときこそ気のきいた言葉の一つも必要だろうと思った「一人で大丈夫?きみさえ良ければ今から行くから」と伝えた湯上りのまだ乾き切らない髪を沈丁花の香る風になびかせながら私は彼女の元へ急いだ私が目的地に向かう途中で思いがけず彼女に呼びとめられた彼女は祖母の家を一旦出てまた引き返してきたのだと言った彼女は思ったより元気だった私は彼女の話しに黙って相槌を打つだけだった「こんなわたしでも・・・」言わずもがなだった「さあ元気を出して それじゃ」私は彼女が家に入って行く後ろ姿を見送っていた帰路につきながらそれから後の展望が描けないのだった・・・