人生まだまだ半ばじゃないか
人生まだまだ半ばじゃないか 宮本輝さんの小説を読むことが多い。 数ある作品だが長編が多くまだ数編しか読んでいない。読んだ中で「錦繍」(きんしゅう)がとてもよかった。 「錦繍」は元夫婦の書簡のやりとりで構成されている。読みはじめは重く辛い内容だ。 10年前に離婚した元夫婦が蔵王でバッタリ出会い、元夫の変わりようを気に掛けた、いまは母となった元妻が手紙を出すところから物語が始まる。 ふたりの往復書簡で、妻が知らなかった夫婦時代の夫のこころと、幼なじみの女性との関係がわかってくる。そもそも離婚することになったのも夫の心中事件?がきっかけだった。 また離婚後の、妻だった彼女の生活が細やかに手紙に書かれ、再婚までの道のりと障害を持った子どもと自分のこころの葛藤が手紙に書かれていた。 彼も落ちるところまで落ちていった。そしてヒモのような生活をしていたが、一緒に住んでいる女性から愛情を掛けられて、また、元妻からの手紙にもよって少しずつ生きる励ましをうけてくる。 お互いの書簡のやり取りの中で、いまの生活を一新しようとする気持ちがお互いに沸いていく。その過程が静かに描かれている。 とはいっても、お互いが再会するとかハッピーエンドで終わる月並な小説ではけしてない。 読み進んで行くうちに、書簡から人間の生きる価値や苦悩の先にあるものの捉え方が重要であることがみえてくる。 読み終えた頃に、生きる明るささえ感じ、人生まだまだ半ば(なかば)じゃないかと思えてくる作品だ。「あなたのしあわせな未来を、この果てしない宇宙に祈ります」綿繍(宮本輝・著)より 宮本輝さんは私の好きな作家になった。 2005年10月2日記きんしゅう【錦繍】錦(ニシキ)と縫いとりをした布。〔いろどりの美しい織物や衣服、また、紅葉や花、あるいは、美辞麗句を連ねた詩文などの意にも用いられる〕(Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997)より宮本輝さんホームページ http://www.terumiyamoto.com/楽天ブックス 宮本輝http://esearch.rakuten.co.jp/rms/sd/esearch/vc?sv=30&sitem=%C3%F8%BC%D4%CC%BE%A1%A7%B5%DC%CB%DC%B5%B1