おしん 18回
今回のおしんは、悲しいです。
-ゆきふかいやまおくにいつかはるがおとずれ、
しゅんさくとまつじいとのくらしにわかれをつげるひがおしんにちかづいていた。-
暗い顔をして下を見つめているおしん。
「な、帰らねばならねんだぞ。春になっておしんの年季奉公があけて、いさ、けえってくる、
おっとうも、おっかあも、ばんちゃんも、首長くして待ってんだぞ。
もし、帰らなかったら、どげんしんぺえするかわからねんだぞ。」松じいの言葉が終わると
おしんは、俊作の方を見た。
「おしんは、よく働いてくれた。気立ても優しいし、利発な子だ。これから
つらいことやくるしいことたくさんあるだろうけど、今の気持ちを忘れずに自分を大事に
生きるんだ、きっと幸せになれる。おれたちのそばにいたって幸せにしてはやれない。」そこまで言うと俊作は、下を向き、
小さい声で、「帰るんだ」と、おしんにいった。
俊作の言葉を下を向いたまま黙ってきくおしん。
「明日、夜明けにここを出るんだぞ。俊作、支度してやってくれ。
今晩は、米のまま,たくべえ。米少し残ってんだから。
おかずは、いわなだ。そろそろ川下はいられんだろうから、
おれがとってくる。おしん、こい、おれの腕前みせてやるから。」
そういって松じいは外に出た。
黙ったままのおしんに俊作が明るく
声をかけた。
「さあ、元気を出して。明日、お父さんやお母さんに会えるんじゃないか。」
おしんは、俊作の目を見ずに、黙って外に飛び出していった。
雪の中、俊作が狩りをしている。
遠くからおしんが俊作を呼ぶ。
「あんちゃん、あんちゃんきてけろ、あんちゃん、あんちゃん」
俊作がおしんのほうに向かう。
「あんちゃん、じっちゃんが、じっちゃんが、、。」
小屋の中で足を介抱される松じい。
俊作が松じいの足のあざになった箇所に手を当てる、
「あいたーー」松じいが声を上げる。
「おれも年だ―何十年て山歩いてるのに、あげなところで足、ふみはずしてしまうだなんて」
「でも、川に落ちなくてよかったよ。どうやら、骨は折れてないみたいだから。
松じい特製のこの薬ぬっておけば大丈夫だろ。」
「それは、きくさけのー」
「だども、困ったことになってしまっただなーこれでは明日、やまおりられねぞ。」
「ああ、しばらくは無理だな、こんなにはれ上がってしまってるんだ」俊作が軟膏をぬりながらいった。
「んだら、おれも山おりねでええんだな?じっちゃんのあしよくなるまで、かえらねでええんだな?」
とおしんが嬉しそうに言う。
「えがったーー」おしんの顔にいつもの笑顔があらわれた。
「おれが送っていく」俊作が低い声で言った、
「「俊作ー」今度は松じいが困ったような申し訳ないような顔で言った。
「おしんのうちまでは送って行かれないが、山を下りるところまでだったら。あとは、おしん
一人で大丈夫だろ?」
おしんの顔が再び暗くなった。
「なげも、そげな無理しなくたって」
「松じいの足が良くなるのを待っていたら、一日遅れたら遅れた分だけおしんも帰りにくくなる、
やっぱり、明日、おれが送っていく。」
再び悲しそうな顔になるおしん。
外は、雪がしんしんと降っている、
雪の中、俊作が立っている。
後ろにおしんが立った。
「これくらいの降りだったら、大丈夫だろ、いこうか、。」と俊作。
暗い顔をしたおしんが、顔を上げた。
「あんちゃん、あんちゃんが時々ふいてだ,ええ音がするもの、あれ、聞かせてケロ。
なんていうもんだかしらねけど、おれ、大好きだった。うちさ帰ったら、もう、あの音もきけね。
おねげえだ、ふいてけろ。」
俊作が、ハーモニカを取り出して、曲をふいた。
その姿をじっと見つめるおしん。
曲が終わる、おしんは俊作をみた。
「なげえこと、、、、ありがとうございました」押し殺すような声で、そういうと
頭を深々と下げた。
そして、俊作に背を向け、小屋の方に走っていこうとした。
「おしん!」俊作がおしんを呼んだ。
おしんが振り向いた。
「これ、おまえにやる、好きなんだろ?」
目をまんまるくするおしん。
「こだい、大事なもの、だめだ」
「いいんだ、これからも。
つらいことやかなしいことが、たくさんあるだろう。そんなとき、
ふけば、慰めになる。」
「だめだ、だめだよ」とおしん
俊作は続ける、、。
「これは、ハーモニカっていうんだ。戦争に行くときに買って、戦場にも持って行った。
いろんな思い出がしみ込んでいる。だけど、その思い出も忘れなければいけないんだ。
持ってれば、、、つらいだけだ」
「でも、、」
「だから、おしんが大事にしてふいてくれるんだったら、おれがもっているよりもそのほうが」
そういうと、俊作はかがんで、おしんと目をあわせた。そしてハーモニカを手に渡し、ハーモニカをもつおしんの手を両手で
優しくおおった。
「簡単だ、すぐ覚えられる。さ、ふいてみろ、いきをふきかければそれでいいんだ。」
おしんがハーモニカをふく、ぴゅーというおとがなる
「おお、それでいい。もっとふいてみろ、あとは歌の節の音色を探せば、
ちゃんと歌になる。すぐふけるようになるぞ。」
おしんはハーモニカを俊作にまたわたした。
俊作がハーモニカをふく。
「おれ、その歌おぼえた、あんちゃんがいつでもふいてたから」
俊作がまた、かがんでおしんとめをあわせ、ハーモニカをそっと
渡した。
「おまえのハーモニカだ」
「あんちゃん、おれ、きっとあんちゃんの歌、ふけるようになってみせる」
そういうと、おしんは俊作に抱きついた。
小屋に入っていくおしんと俊作
松じいが小屋の中で荷物を包んでいる
「握り飯もちゃんと入ってるからな。腹減ったら歩けなくなるからな。」
「はい」とうなづくおしん。
「おくっていかれねえのがこころのこりだど、ぶじけえれるように
いのってるからな」
おしんが、膝をついて挨拶をしようとした
「あいさつなんていらね!いくった!」
おしんは、松じいを見ながら、ゆっくり立ち上がった。
「ぐずぐずしてると明るいうちにつかなくなってしまうど」
「じっちゃん、、」
「早くいけ!」
おしんは、小屋の中を見回し、
「藁の布団あったかかった。この囲炉裏でいろんなものにて、うまかった。
もう二度とこられねんだな」
「おしん!」おしんは、松じいをじっと見つめた。
そして、一言、
「だら」そういっておしんは、じっちゃんがつくってくれた荷物をもって
逃げるように外に出た。
松じいは、顔をくしゃくしゃにして、出口をじっと見ている。
俊作が出口の前で立っている。
「じゃ、」
「くれぐれも、きいつけてな。おめだけじゃねえ。あいつらはほかの連中んとこも
厳しく探ってんだからな。」
俊作は、大きくうなづき、外に出た。
松じいは、痛めた足をひきづりながら、出口に向かう俊作の後ろ姿をおって目に納めた。
雪の中、おしんと俊作が山を下りていく。
周りは雪だらけで何もない
雪が深く、おしんはあしをとられそうになりながら、俊作の後をついていく
おしんが転んだ姿を見た俊作
「少し、休むか?」
「早く降りねばあんちゃんが帰れなくなる」
そういって頑張って歩くおしんだった。
松じいが、二人を案じながら小屋で待っている姿が画面に映し出される。おしんとの時間は松じいにとっても最良の時間だったのだ。
俊作がとうとう、おしんをおんぶした。
雪がどんどんとふってきたからだ。
おしんはうつろな顔で、おぶさっている。
と、民家の屋根が見えてきた。
「あんちゃん、村が見えた!もう、ここでええから」
そうおしんが言ったが俊作はおしんを肩から降ろさなかった。
「もう一人で帰れるよう」
背中でおしんが俊作に言った
しかし、俊作は黙っておしんをおんぶしていた、と、
急に俊作が何かを見つけ、隠れた。
向こうからすげ笠をかぶった男と、軍服を着た男たちが歩いてきた
すげ笠をかぶった男が山の方を指さした。
俊作とおしんは、坂の下に隠れた。その坂をゆっくりとその男たちがのぼっていく
「あんちゃん、兵隊さんだ、こだなとこでなにしてるんだべ」おしんが俊作に聞いたが、
俊作はおしんに口を閉じるように「しーー」と合図をした。
「もうかえってけろ、このあたりは、村さ近い、、」というおしんの言葉を遮り、
「未だお前ひとりでは無理だ」俊作はそういってまた、おしんをおぶって
雪の中を歩いた。
すると、先ほどの兵隊たちが、先に見えた。俊作は、あわてて違う道にそれようとした。
しかし、一番後ろにいた兵隊が俊作と
おしんに気がついた。
「おめたちは、どこのもんだ」兵隊が走ってきて聞いた。
俊作は、
「上で猟師をしてる」といった。
兵隊が俊作に聞いた。
「名前は」
俊作は、
「かすけ」と答えた。
兵隊がおしんをみて、
「その子供は?」とたづねた
「妹だ、今度学校さ入るんで村の知り合いに預けさいくんだ。」
「なんちゅう家だ?」兵隊が聞いた。
今度は、おしんが
「作造さんとこだ」と答えた
しかし、上官のような兵隊が二人をじっとみて言った。
「連行しろ」
すると、他の兵隊たちが、おしんと俊作を捕らえようと後ろに回った。
「ちょっとまて、おれたちが何したっていうんだ」
俊作が兵隊にいった
「目下、事情があって山狩りをしている。怪しいものは連行して調べろという命令だ。」
「おれはただの猟師だ、連れていかれる理由なんてねえ。」
「申し開きは、後でしろ」
俊作とおしんは無理やり引き離された。
「理由もいうこたねえ、、おしん、おしん、」
俊作が兵隊たちに連れていかれる。おしんは、兵隊にとびかかり、
一人の兵隊の手にかみついた。
「いてっ」といってその兵隊がおしんをふりはらう。
雪に投げ出されるおしん。
その姿をみた俊作が、兵隊たちを振り切り、おしんの元に向かう。
「この子に何の罪があるっていうんだー」そう、俊作は叫びながら、
兵隊たちともみ合う俊作。兵隊たちよりも俊作のほうが強かった。
俊作は、倒れているおしんをおこし、抱きかかえ、その場を走り去ろうとして、兵隊たちに背を向けた。
逃げる俊作の背中にむけて
先ほどの上官が、無言で銃を放った。
「パーン」
おしんを抱きかかえた俊作のからだがまえのめりになる。
「パン」
二発目が、放たれた。
おしんをかばい、倒れる俊作。
「あんちゃん、あんちゃん、」
「おしん、、、これでおれも、やっと楽になれる、、これでいいんだ、これで、、」
「あんちゃん!」
「おしんは、後悔しないような生き方をするんだぞ。」
そういって、俊作はがくっと頭を垂れた。
「あんちゃん!あんちゃん!!」
おしんの悲痛な叫びが雪山にこだました。
雪はまだふりつづいている。
窓の雪を見ている現代のおしん
目には涙を浮かべている。
「ああ、弟よ、君を泣く、君死にたもうことなかれ
末に生まれし君なれば、親のなさけはまさりしも、
親は刃をにぎらせて、人を殺せと教えしや
人を殺して死ねよとて24までをそだてしや
きみしにたもうことなかれ、
すめらみことはたたかいに、おんみずからはいでまさね
たたみに人の血を流し、獣の道にしねよとて
死ぬるを人の誉れとは、
おお御心の深ければ、もとよりいかでおぼされぬ」
おしんは、俊作あんちゃんの姿を思い出している。あんちゃんが雪の中で銃をかまえて
狩りをする姿、うさぎをとっておしんに見せてくれた姿、切株に座って悲しそうに
ハーモニカをふいている姿
そして、兵隊に銃でうたれ、雪の中で倒れているあんちゃんの姿、、
その情景を思い出しながら、おしんは、
与謝野晶子の詩を口ずさむのであった。
※俊作あんちゃんが、ハーモニカで演奏していた曲は
アイルランド民謡の「庭の千草」です。
郷愁を誘う曲です。