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カテゴリ:Figure Skating
全日本フィギュア男子フリーでの最大の収穫は高橋選手がフリーで4回転トゥループを単独とコンビネーションで2回成功させたことだろう。4回転を2度入れると、一番危ぶまれるのは「たとえ4回転は成功しても、そのあとのジャンプで体力がついていかずにミスる」ということだったが、高橋選手はそのあとのジャンプも後半の3F+3Tの3Tが回転不足になっただけで、大きなミスなくまとめた。ということは、4回転ジャンプを2度入れてもフリーを滑りきることができる、ということだ。これは心強い。
グランプリファイナルでは、高橋選手はショートでランビエールより高い点だったが、フリーで負けて、結果僅差で敗れた。実はすべてのジャンプをほぼミスなくまとめた高橋選手に対し、ランビエールはジャンプで細かいミスを連発している。にもかかわらず負けたということは、やはりジャンプの難度をあげて戦うことができれば、それにこしたことないのは間違いない。 ジャンプにしぼってランビエール選手と高橋選手の構成をショートで見てみよう。 ランビエール 基礎点(GEO後の実際のスコア) 3A 7.5(8.1) 4T+3T 13.0(12.8) 3Lz 6.0(5) 基礎点合計26.5 実際のスコア合計 25.9 高橋 基礎点(GEO後の実際のスコア) 3F+3T 9.5(10.9) 3A 7.5(8.9) 3Lz 6.0(7.2) 基礎点合計 23 実際のスコア合計 27 ランビエール選手は4T+3Tという大技をもってきているので基礎点は高橋選手よりはるかに高いのだが、ジャンプがうまく決まらないことも多いので、GEO後で見るとグランプリファイナルショートでは高橋選手のほうがジャンプで点を稼いでいる。ちょうど女子フリーのキム選手と浅田選手のようなものだ。浅田選手のほうが難しい技をもっているが、着氷でしばしば乱れる(ルッツでは踏み切りエッジ)ので、加点で稼ぐキム選手に差をつけることができず、逆に今シーズンは負けている。日本人がキム選手のジャンプの加点による高得点に苛立つように、ランビエールの側だって高橋選手の加点には相当頭に来てるだろう。ランビエールは3Aが苦手なので、3Aを必ず跳ばなければいけないショートのジャンプはどこかで乱れる可能性が高い選手だ。グランプリファイナルでは苦手の3Aは決めたが、次の2つのジャンプでミスって減点されている。 加えてショートの振り付けと曲の解釈に対する点は、フリーとは逆に高橋選手のヒップホップのほうが高かった。それだけプログラムが評価されたということでもある。しかも、高橋選手はコンビネーションジャンプの難度が低い分、今シーズンのショートは抜群の安定感を見せている。だからジャンプの構成ではおとっても、ショートは、たとえランビエールがすべてのジャンプを決めても、総合得点はランビエールより若干低い程度でフリーに入ることができるだろうという予想は立てられる。 そうなったときに、フリーのジャンプ構成をどうするかだ。グランプリファイナルフリーでのジャンプ構成を比べてみよう。ちなみに男子はジャンプを8箇所、連続ジャンプは女子と同じく3箇所で入れることができる。3回転と4回転ジャンプについては2種類まで繰り返してよく、そのうち1回は連続ジャンプにしなければいけない。 フリー ランビエール 基礎点 3A 7.5 4T 9 3Lo 5 2A 3.5 3F+3T+2T 11.88(後半) 2Lz+3T 6.49 3S+2T 6.38 3F 6.05 基礎点総合 55.8 高橋(グランプリファイナル) 基礎点 3T 4 4T 9 3A 7.5 3A+2T+2Lo 11.33(後半) 3F 6.05 2S 1.43 3Lo 5.5 3Lz+2T 8.03 基礎点総合 52.84 高橋選手はもう1度どこかで連続ジャンプを入れることもできたわけで、2Tだけでももう1つどこかでつけておけば多少点が伸びた。ジャンプのグレードについてはお互いに少しミスがあったのだが、総じてジャンプの基礎点は高橋選手のほうが低い。他の要素が高くもらえるのなら問題はないのだが、相手はスピンの名手であり、今回のフラメンコに関してはステップの評価も高く、しかも振り付け+曲の解釈とも高橋選手の今回のロミジュリより評価が高かった(グランプリファイナルでは、だが)。 あくまで個人的には「スケーティング」の技術に関しては高橋選手のほうがランビエールより上だと思っている。それはひとこぎひとこぎのスケートの伸びの違いでわかる。ランビエールはスピードをつけるために、「何度もこがなければ」ならない。高橋選手が滑るとまるで氷がよりなめらかになったように見える。これは両者の滑る技術の差なのだが、残念ながらフリーでの「スケートの技術」では同点だった。それは、ある意味、ランビエールのフリーの振り付けが非常によく、「スケートがもうひとつ伸びない」というランビエールの欠点をうまく補っているということでもある。 となると、やはり4Tを2度入れてジャンプの基礎点を上げたい、ということで方向性は固まったようだ。今回の高橋選手のフリープログラムの前半の3つのジャンプのつなぎは、かなりスカスカで、ジャンプ以外はほとんどただ滑っているだけ。つまり4Tを2回入れることを想定して作ったプログラムでもある。一番の懸念は体力だったのだが、全日本で「いける」ことは証明された。 高橋(全日本フリージャンプ) 基礎点 4T 9 4T+2T 10.3 3A 7.5 3A+2T 9.68(後半) 3F+2T 7.48(2Tは3Tから回転不足によるダウングレード) 3S 4.95 3Lo 5.5 3Lz 6.6 基礎点総合 61.01 つまり、グランプリファイナルのときより全日本ではジャンプで8.17点も底上げしたのだ。これが決まれば、かなりの確率で世界チャンピオンの座につけることは間違いない。 あとは世界選手権での本人の調子と他選手の出来でモロゾフが判断するだろう。4Tはきれいに決まれば高得点が出るが、失敗したときのリスクも高い。他に敵のいない全日本と違って、極度の緊張を強いられる世界選手権でモロゾフがどう指示するか、こればかりはフリー当日まではわからない。ショートのお互いの得点によっても判断は変わってくるだろう。だが、どちらにせよ、日本男子初の世界チャンピオンの実現に向かって、また一歩近づいたのは事実だ。 う~ん、でももし、世界選手権で日本人初の世界チャンピオンになったら… 大ちゃん、泣いちゃうだろ~な~、モロゾフにすがって(笑)。NHK杯優勝で織田選手が号泣したシーンでは、けっこう「引いた」が(苦笑)、『ニコライ+大ちゃん涙の図』は相当「萌え」そうだ。ワクワク。 しかし、モロゾフって人の人生は、日本人には想像もつかないぐらいスゴイものがある。彼はまさしく、「サヨナラだけが人生だ」を地で行っている。彼の最初のキャリアは男子「シングル」の選手としてだった。だが、それもクーリックの才能を見て、とてもかなわないと悟り、すぐにサヨナラ。それからアイスダンスに転向し、アゼルバイジャン代表として戦うも、パートナー替えにともなってアゼルバイジャンともサヨナラ。次はベラルーシ代表として長野オリンピックに出場(つまり荒川選手と同じオリンピックに選手として出ていたのだ)するが、オリンピック後に引退して選手生活ともサヨナラ。次にタラソワのもとでコーチ業に入るものの、結局タラソワを裏切るようなカタチでサヨナラ。結婚もあの若さで何度したんだろう? 旧ソ連人→フランス人→カナダ人と渡り歩き(?)、2007年の夏には2度目だか3度目だかの離婚をしている。つまり、今は「シングル」に戻ったのだ。ただ、モロゾフのために(??)言っておくと、ロシア人で30代で3度目の結婚というのは別に珍しくもないらしい。だいたいみんな最初の結婚は17歳ぐらい。20代になると離婚して、再婚。それから30代になって3度目に入り、そこでだいたい打ち止めとなるらしい(ワラ)。日本人とは結婚観も人生観もえらく違うのだろう。 これだけケーケン豊富で精神的に超タフなモロゾフから、いろいろ教わってネ、大ちゃん。願わくばオリンピックまでは大ちゃん(もちろんミキちゃんとも)とはサヨナラしないで欲しいものだが、さてどうなりますか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.01.01 04:18:56
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