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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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Tomy's room Tomy1113さん
2008.02.29
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カテゴリ:Figure Skating
映画『ラスト、コーション』は音楽も素晴らしかった。作曲はフランス人のアレクサンドル・デスプラ。いかにも洒脱なパリ生まれの音楽家が東洋をイメージして作ったといった雰囲気の旋律で、陰鬱でありながら洗練された雰囲気に満ち、曲が終わったあとも何か切ないような余韻が残る。

映画でこの東洋的な音楽を聴いているうちに、「これはフィギュアのキム・ヨナ選手が使ったら、とてもいいプログラムになるんじゃないか」と思った。キム・ヨナ選手の独特の憂いのある雰囲気や表現力、そしてまるが「蛇が吸い付いていくように」氷を滑っていく個性的なエッジ使い…… 実際に映画館から出るときは、キム・ヨナ選手がこの曲で氷上を舞う姿さえ見えていたかもしれない。

かつて中国の陳露(ルー・チェン)が映画音楽の『ラスト・エンペラー』を選び、彼女にピッタリの赤い衣装を身にまとい、独特な東洋的な振り付けで17歳にして一挙に世界女王にのぼりつめたが、あの名プログラムに匹敵するぐらいの傑作ができるかもしれない。

今年のプログラム構成の巧みさに関しては、高橋大輔選手の『ヒップホップ白鳥の湖』+『ロミオとジュリエット』が群を抜いて際立っている。高橋選手はもともと、男子フィギュアスケーターの王道をいく「正統派王子様」ではない。彼の魅力はどこかに「ヤバさ」があるところだ。だから、高橋選手は『オペラ座の怪人』や『ロクサーヌ(ムーランルージュ)』を演じさせると、誰も真似のできない世界を作り出す。

前者はオペラ座の暗闇に棲みついたこの世のものではない存在が歌姫に寄せる悲恋だし、後者は高級娼婦と売れない芸術家の許されざる愛を描いた物語だ。今シーズンのEX プログラム『バチェラレット』も、何かにとりつかれたような雰囲気を出した妖しいダンスだ。こうした音楽に向いているというのは、高橋選手の中に何か「バロック(歪んだ真珠)」のような魅力があることだ。モロゾフはそういった高橋選手の「バロックな魅力」を非常に、いやあまりにも、うまく引き出す。あのレイバックスピン1つをとっても、相当に「ヤバい」感じがする。腰を氷ギリギリまで落としたスピンについていえば、ヤバさを超えてサディスティックですらあった(実はやめてくれて結構ホッとした。あんなことを続けていたら膝が壊れてしまいそうだ)。ああいうポーズを高橋選手に取らせるところにモロゾフの「ヤバさ」もある。

だが、こうした高橋選手の個性は、ともすると清潔感に欠け、拒否反応を示す人もいる。だから、モロゾフはショートとフリー両方とも「ヤバそうな世界」に浸ってしまうことは決してない。今期のショートのヒップホップは「相当にヤバい」。対して「ロミジュリ」はかなりの正統派だ。とはいっても「ロミジュリ」も悲恋の物語だ。つまり、モロゾフは、高橋選手のもつ「陰の魅力」を両方のプログラムの底流に共通しておきながらも、超現代的な振り付けとクラシックな雰囲気との対比を鮮やかに描いてみせたのだ。そして、女子選手のプログラム構成で同等のレベルの評価ができるものといえば、(残念ながら)浅田選手のショート+フリーではなく、キム・ヨナ選手のそれだ。

キム選手は、ショートではオペレッタ『こうもり』を、フリーでは映画音楽から『ミス・サイゴン』をもってきた。『こうもり』である。鳥でもない、動物でもない、あのクラ~イこうもり。『ミス・サイゴン』も決して明るい話ではない。このように共通の「陰影」をもちながら、ヨーロッパ伝統のオペラとアジアを舞台にした映画音楽というコントラストもつけたプログラム構成。これは選手の個性を強調しつつ、対照的な曲を使うという非常にうまい手法だ。

浅田選手のショートは当初素晴らしい振り付けだったが、今はそのほとんどをそぎ落とし、エレメンツをしっかり決めることに集中せざるをえない状況になっている。フリーはショパンの『幻想即興曲』。実がこれがイケナイ、とMizumizuは思っている。『幻想即興曲』は誰からも好かれる人気のある美しい曲だが、フィギュアスケートの曲としてはあまりにありふれている。日本女子選手はこの曲を使いすぎる、というイメージもある。もちろん、演奏方法が違うし、ショートとフリーで構成は全然違うが、要するに曲に「新鮮味」がないのだ。

キム・ヨナ選手の『ミス・サイゴン』は映画音楽だから、ドラマ性をもたせやすい。クワンなど、過去に使った選手もいることはいるが、やはりアジアのイメージが強いから、フィギュアの世界では、ショパンほどありふれた感じはしない。キム選手には脚使いが弱く、細かいステップが長く踏めず、フリー後半になるとバテるという欠点があるが、ミス・サイゴンでは、途中にポーズを決めてみせながら、ちょっとお休みする部分もあり、最後のステップでもあまり体力を消耗しないよう、そのかわり彼女の正確なターンと深いエッジ使いを強調できるよう、うまく構成している。つまり、キム選手はショートとフリーの共通性と対比性を明らかにするよう配置し、かつ彼女の欠点をうまくカバーできるよう無理なくプログラムを組んでいるのだ。

対して、浅田選手のフリーは体力的に非常にキツい。最初から最後までほぼ切れ目なく走らなければならないし、スピードを強調するあまり、メリハリに欠ける。高難度のジャンプも次々入るし、最後のステップも相当動いている。にもかかわらず、平凡な曲と密度は濃いものの強弱に欠ける演技構成で、キム選手のフリーのような叙情性と強い印象を与えることができずにいる。

これは完全に浅田陣営の作戦の失敗だ。ジャンプにあれほど問題があるにもかかわらず、こんなに運動量の豊富なフリーを作ってしまって、一体どうするつもりなんだ、と言いたい。せめて武器であるスパイラルをもっとゆったりと見せるように作ってもよかったんじゃないか。スパイラルから次のジャンプへの間隔が短すぎないか。あれじゃ、次のジャンプが気になってスパイラルに集中できなさそうだ。つまり、密度が濃すぎて、何かの要素に集中すると別の要素を完璧にこなすのが難しくなる。これはランビエールのフリーにも言えることだ。だから、浅田選手はレベル取りに失敗しないよう、プログラムを少しいじって密度を薄くせざるを得なくなっている。

そのよい例が最初のスケートカナダ。このときのフリーで浅田選手はスパイラルでレベル1にされてしまった(あの美しいスパイラルが!)。脚上げ3秒キープができなかったのだ。この原因はハッキリしている。スパイラルの後すぐに3ループが来る。この間隔が短すぎて、次のジャンプが気になり、ついついスパイラルでの脚上げの時間が短くなったのだ。だから、次はからはそこを修正しなければいけなくなった。エリック杯では時間オーバーで1秒減点された。これも次から修正しなければならない。ジャンプに問題があるのに、同時に次々起こる別の問題にも対処し続けなければならなかったということだ。これらは要するにいろいろやることが多すぎる、密度の濃いプログラム作りに原因があるのだ。実力を超えたプログラムを作るのは、自殺行為だ。ただ、さすがというべきか、四大陸では他の問題を解決し、ほぼ、「ジャンプだけの問題」にまで集約ができてきている。だが、「スパイラルでレベル1」だの「タイムオーバーで減点1」だのは、最初から起こらないようにしておく問題だったはずだ。

安藤選手のショート『サムソンとデリラ』は相当曲を編集して、メリハリをつけている。スピンが始まると鈴の音が鳴り響く。スパイラルに入る直前に曲が劇的に盛り上がり、スパイラルの途中で曲調がいきなりしっとりと変わる。だから、安藤選手が脚を上げている時間が実際よりも長く感じるし、ただ脚をあげて滑っているだけなのに、メリハリが出るのだ。さすが、モロゾフだ。

キム選手がすでに東洋的で憂いのある表現、という独特の世界をほぼ完成させ、安藤選手が成熟したセクシーな魅力で年下の選手に対抗しようという路線をハッキリさせているのに対し、浅田選手は迷走してしまっている。今期は滑るたびに課題が出るので、それに対処するためにプログラムも相当いじっている。もはや何が何だかわからない。

ただ、世界選手権に向けての課題は昨日書いたようにハッキリしているので、とにかくジャンプの精度を上げることだ。そして、「浅田真央はもう跳べなくなってきた」という世間に一部にある論調を彼女自身の力で封じなければ、世界女王にはなれない。このままズルズル失敗を繰り返していると、圧倒的な身体能力をもちながらシルバーコレクターだったサーシャ・コーエンの二の舞になってしまう。

できれば山田コーチにそばにいてほしいと思う。高橋選手にはモロゾフと並んで、必ず母親のように長年高橋選手を見てきた長光コーチが寄り添っている。これが非常にいいと思うのだ。モロゾフも恩人だが、長光コーチは高橋選手にすべてを賭けてきたといってもいいくらいの存在だ。高橋大輔は、長光コーチが長年のコーチ人生の中で初めて出会った「圧倒的な才能」だったという。自分の才能を見出し、長年親代わりになってくれたコーチに恩返しをしたい、という気持ちが高橋選手にはあるはずだ。

浅田選手がそうした気持ちをもてるのは山田コーチをおいて他にはいない。そして、こうした気持ちこそ、大きなモチベーションになる。山田コーチは自分の個人的な野心のためではなく、本当に浅田選手のために一緒に戦うことのできる人だ。今後外国人コーチをつけるにしても、浅田選手には子供のころから見てくれていたコーチも精神的な支えになるためには必要ではないかと思うのだ。四大陸では浅田選手はアルトゥニアンなしで戦い、「影響はなかった」と言っていた。浅田選手の明るさで皆は気づかないでいるかもしれない。だが、わずか17歳の女の子が、コーチを精神的に見切り、1人で戦っているというのが異常事態なのだ。アルトゥニアンには、「いったいぜんたい、そんなコーチって何? コーチ料をいくらもらってたワケ?」と言ってやりたい。

浅田選手は本当に偉い。そうした自分の中にある辛さや不信感や不安感を決して他人にぶつけることがない。だいたい、あそこまで辛らつな判定で減点されたら、普通の神経だったら、とっくにふてくされている。努力し、自分なりに自信をもって臨んだ今シーズン。ショートでは2度続けて自己ワーストを更新し、決めたと思ったジャンプまで回転不足でダウングレードされる。こんな状況でも決して精神的にボロボロにならず、「今回減点された部分を次で修正していきたい」なんて言えるのは、並大抵の精神力ではない。山田コーチは、浅田選手が伊藤みどりに勝る部分として、「性格」を挙げていたが、そうかもしれない。

昨日書いたように、現状ではキム・ヨナ選手のミス待ちであることは、残念ながら間違いないが、フィギュアの試合は何が起こるかわからない。とにかく、ジャンプですべてが決まる。伊藤みどりに言わせれば、「ジャンプは跳んでみなければわからない」そうだ。100年に一度と言われたジャンプの天才が言うのだから、そういうものだのだろう。だから世界選手権で誰が優勝するか、今から予想することは不可能なのだ。





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最終更新日  2008.03.01 23:18:16



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