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カテゴリ:Figure Skating
浅田選手の優勝で終わった今回のフィギュア世界選手権女子シングル。結果は妥当だと思うが、最後の中野選手のフリー演技の低い点数には納得できない方も多いのではないだろうか。
最終滑走、(見た目)ノーミスできれいにまとまった中野選手の演技が終了、満場の拍手とスタンディングオベーション。ホームの日本ではない。北欧スウェーデンの観客が自然に立ち上がって中野選手をたたえたのだ。「ノーミスですね~」「素晴らしかったですね~」。解説者も興奮気味。これはメダル間違いなし? 金? 銀? 期待が盛り上がる。 ところが点が出て、「あれ~?」。フリーの得点は56.98+59.32で116.30。ちょっとフィギュアに詳しいファンなら「120点いってない?? うそ? なんで?」という反応だろう。 この低い点数、拙ブログを読んでいる方なら察しがつくだろうと思う。そう、中野選手の最大の武器であり、かつ一見「決めたように見えた」トリプルアクセルが点数上は「ダブルアクセルの失敗」とみなされたのだ。 つまり、回転不足によるダウングレードをくらったということだ。何度も説明しているが、初めてこのブログを読む方のためにもう一度簡単に説明すると、ジャンプで4分の1回転以上回転不足で降りてきたとみなされた場合、3回転なら2回転へ基礎点を下げられ、さらにGOEという複数のジャッジがジャンプの質を(マイナス3からプラス3までの間で)評価する加点・減点でも減点されてしまう。 トリプルアクセルの基礎点 7.5点 ダブルアクセルの基礎点 3.5点 こんなに違うのだ。今回のフリーで中野選手のトリプルアクセルは着氷が回転不足と判断された。そこで基礎点が3.5となった。次にGOEを見ると、12人のジャッジがそれぞれマイナス1とマイナス2をつけている。結果として中野選手が獲得したこの最初のトリプルアクセル(に見えたジャンプ)での点数はたったの 2.24点! 普通に跳んだダブルアクセル3.5点より低いのだ。さらに言えば、ダブルアクセルをきれいに決めればGOEで加点がつく。キム・ヨナ選手がフリーの最初のほうで入れた単独のダブルアクセルはこの加点をもらって4.07点になっている。トリプルアクセルをほんの少し回転不足にしてしまうと、とたんに普通にきれいに跳んだダブルアクセルよりずっと低い点になってしまう。これが今のフィギュアのルールなのだ。 ちなみにキム・ヨナ選手はショートのトリプルルッツで大オケした。で、あの点数、何点だと思いますか? 基礎点が6点。回転不足で降りてきてコケたと見なされ「なかった」ためにダウングレードなし。GOEでマイナス3。ここで得点が3点。別枠で「転倒でのマイナス1点」で減点されて、2点。中野選手のトリプルアクセルよりわずか0.24点低いだけ! こんな点のつけ方がまっとうだと思う人がいるだろうか? 転倒ジャンプは回転不足とか、GOEでマイナス3とか、別枠でマイナス1とか、わけのわからない引き方をせずに、一律で0点にする。それで何も問題ないはずだ。 中野選手のプロトコルをみると、後半に入れた単独のトリプルフリップでもダウングレードがある。トリプルフリップの基礎点は5.5点だが、後半だと10%増しの点数になる。ところが、回転不足で降りてきたとみなされたためにダウングレードされ、基礎点がたったの1.87(つまりダブルフリップの10%増しの基礎点)に下げられたうえ、GOEで減点されて1.48点。見た目は3回転フリップを決めたように見えるのに、たったの1.48点にしかなっていないのだ。 ノーミスに見えて、実はこれだけミスをしたと判定されれば、点がのびるわけがない。「あれ~?」という結果になるのは当然だ。回転不足というのは、これも何度も書いているが、素人目にはほとんどわからないことが多い。着氷の際の「お手つき」は明らかなミスで、誰でもわかる。コストナー選手は2度お手つきをしたから、印象としてはミスが多かったということになる。ところが回転不足で着氷したとは見なされなかった。だからダウングレードがなく、GOEだけの減点に留まり、結果点数がそれほど下がらなかったのだ。 加えて中野選手はセカンドジャンプに3回転がない。コストナー選手は2回セカンドジャンプにトリプルトゥループを入れた。コストナー選手は最初の3F+3T+2だけで基礎点11に対して12点もの点数を稼ぎ出している。セカンドジャンプにトリプルのない中野選手の場合は、後半に跳んだ3T+2T+2Loでの7.48点(これは加点も減点もされなかった)が最高だ。こんなに開いていてはどうやったって追いつけない。 きれいにまとまったノーミスのプログラム、観客のスタンディングオベーション。ところが結果はショートから順位を落として4位のメダルなし。こんなふうに一般のファンの印象と出てくる点数が極端に乖離してしまうのが現行の採点システムの大きな問題点なのだ。それぞれの要素を厳密にジャッジしようとするあまり「木を見て山を見ない」採点になってしまっている。 同じ木を見ても誰もが同じ判断をするわけではないというのが、また困ったところなのだ。「4分の1以上の回転不足判定(ダウングレード)」は、明らかに、判定をするジャッジによって試合のたびに甘かったり厳しかったりする。それがまたわかりにくさの原因になっている。解説者がよく「回転不足、かもしれない」「もしかしたら回転不足ととられるかも」と言っているのは、いかにその判断が曖昧かを示している。プロが見ていてもよくわらかないのだ。見る角度によっても違ってくる。そんな微妙な判断に非常に大きな点数がからんでくるのが一番の問題なのだ。 トリプルアクセルを回転不足で降りたといっても、当然ながらダブルアクセル以上には回っている。ところが、それをダブルアクセルの失敗だと見なすからこんな極端な低い点になる。回転不足はGOEで減点すればいいことだ。基礎点を下げたうえに、二重にGOEで減点するなんて不合理極まりない。 どうしてこんな不合理な規定を作ったのかといえば、それは「あまりに難度の高いジャンプへの挑戦」を抑制したかったのだ。特に男子は4回転に比重がいきすぎて、軒並み選手生命が短くなってしまった。4回転を跳ぶ有力選手はほとんど、若にころから怪我に悩まされ、引退を早めてきた。そうした状態に危機感をもった連盟が、「難しいジャンプをリスクをおかして跳ぶより、確実に跳べるジャンプをきれいに決めれば得点が出る」ようなシステムを作ろうとしたのだ。 だが、そのためにメチャクチャな理屈を作った(45度以上回転不足だとグレードの低いジャンプの失敗とみなす)ことが、公正なジャッジをゆがめる結果になり、さらに悪いことには、ジャンプの比重は低くなるどころか返って高まってしまっている。3回転以上のジャンプの基礎点の高さとGOEでの極端な加点・減点(3回転以上のジャンプ以外の要素の加点・減点はジャッジが1から3点をつけても、それがそのまま反映されるわけではなく、何掛けかに抑制されている)のために、結局はジャンプを決めなければ点が出ないシステムになってしまったためだ。 せめて回転不足判定でのダウングレードだけでも早めに撤廃すべきだ。ジャンプの質を評価することには賛成だが、現状は判断が曖昧なくせに、加えられる、あるいは減点される点数が極端すぎる。このままこの不毛なシステムを続けていくと、一般ファンは「まったく理解できない採点」に愛想をつかせて、フィギュアから離れてしまう。 XXXXX 安藤選手の途中棄権は残念という以上に心配。ショートでは「右脚で回るスピン」で多少ぐらついたが、左脚に問題があるようには見えなかった。安藤選手の説明では直前の公式練習のアップ時に肉離れを起こしたとか。試合前の合宿でも実は痛めていたという報道もある。左脚ということは、サルコウジャンプを踏み切るほうの脚だ。4回転サルコウをかなりハードに練習していたというし、その影響かもしれない。大技をもつ選手につきまとうリスクだ。 特に安藤選手は試合直前の怪我が多い。故障が度重なると精神的にも萎えてくる。すぐに脱臼する右肩も治らないようで、この肩の故障以来安藤選手はビールマンスピンができなくなり、スピンのレベルが取れなくなった。不運が重なっている。 ただ今は、怪我が軽いことを祈りたい。 <明日は、浅田選手のプロトコルを分析します> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.03.06 05:02:49
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