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祈りと幸福と文学と

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もず0017

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2019.04.29
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カテゴリ:随筆集「百鳥譜」
僕は昭和生まれで、当然のことながら昭和最後の日というのを憶えている。
昭和最後の日というのは、つまり昭和天皇が亡くなった日のことで、

「崩御」

という聞き慣れない言葉が飛び交った日だった。

僕が実家の二階で目を覚ましたとき、すでに昭和天皇は亡くなっていて、おはようと目をこすりながら挨拶する僕に、母がそのことを告げた。テレビ番組からCMが消えていて、ニュースと昭和を振り返るような古いモノクロフィルムがくり返し放映されていた。
灯油ストーブにあたりながら、僕はそれを眺めた。正月がいっぺんに葬式ムード一色に変わったようだった。まだ十代だったせいか、世の中がいつもと違っていることに僕は軽い興奮をおぼえた。

自粛ムードは既に前の年の秋くらいから始まっていたはずだ。
夕食時に、天皇が下血したというニュースが伝えられていただけない思いをしたこともあった。
だから、突然この日が来た、というのではなく、
「とうとうこの日を迎えてしまった」
というのが、多くの人の感想ではなかったろうか。
むしろ、僕らは昭和64年という年は来ないだろうとすら考えていた。たとえ一週間でも昭和64年があったのは凄いことだったと今では思う。

小渕官房長官が「平成」という新しい元号を紹介したのを、ストーブにあたりながら母と二人、テレビで観た。平日だったし父は職場へ行っていたのだろう。家にはいなかった。


その夜、僕は友人の佐藤君の家を訪ねた。佐藤君は電話で三枝君も呼び出して、
3人で「烏合の衆」という同人誌の「号外」を作った。友だちの間に配るだけの小さな同人誌だった。
深夜に集まったから、佐藤君の家で号外の原稿を書いているうちに昭和最後の日が終わり、平成最初の日を迎えていたことになる。

佐藤君が、昭和天皇が見たら泣くだろうと思えるような、ひどい昭和天皇の肖像画を表紙に描き、題字を僕が書いた。
それから号外の序文を僕が書いた。たいした文章じゃない。
「詩人の草野心平が死んで驚いていたら、今度は天皇だ」
というようなことを書いた。それから、
「たいへんな時代の天皇として生きなければならなかったのは、思えば気の毒であった」
と、えらそうなことを書いた。
当時の僕は、カミュの『異邦人』に強い衝撃を受けていた十代のガキで、天皇が死んだら国民は悲しまなければならないといった同調圧力への青臭い反発があったのだ。
なので「上野動物園がパンダの存在で他の動物園に優越を示すように、日本人が世界中の共和国に対して優越をおぼえるために一個の人間を天皇にまつりあげているとすれば、天皇はその犠牲者であり救済すべき被害者だ」とか「人の死への悲しみは個々にどこまでも相対的であるはずだ」といった内容のことも書き添えたような気がする。この頃書いたものは全部、ばかばかしすぎて思い出すと冷や汗ものだ。

結局、佐藤君の家でその夜を明かしたのだと思う。だから昭和と平成の境界線を、僕は佐藤君の家でまたいだわけだ。佐藤君のご家族にはいい迷惑だったことだろう。朝には印刷も済ませて、友人たちに宛てた封筒に入れ終えていた。

こうして思い出してみると、昭和最後の日は、朝から晩までテレビを観て、深夜に佐藤君の家を訪ねただけ。劇的な出来事も、記録すべき内容もない一日だった。

そして、明日は平成最後の日。
昭和の時と違って、今回の改元は穏やかでいい。
うちの奥さんは友だちと遊びに行く予定で、マヒワは連休の最初の3日を遊び倒したので、ちょっと勉強すると言っている。
僕はご飯を作ったり、ぬか床をまぜたり、家事をばたばたやりながら少し読書をするくらいで、劇的な出来事も、記録すべき内容もない平凡な一日を過ごす予定だ。
昭和の時、灯油ストーブにのんびりあたりながら、激動の一日をブラウン管のむこうに眺めていたように、
今回も平凡に過ごしながら、世の中の賑わいを川のむこう岸に眺めていることだろう。








#昭和 #平成 #小渕官房長官 #自粛 #天皇 #元号





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Last updated  2019.04.29 23:33:57
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