レポートとフィギュア
12月24日クリスマスイヴの夜のこと。「あえてフィギュアを見るぞ!」 真昼の夜は誰に言うわけでもなく、自分自身に宣言した。「いいんですか、テレビを見ていて? 明後日がレポートの締め切りなんですよね?」 トワは全日本フィギュアスケート選手権を見るためにテレビの前に座った夜へ訊ねた。「いいんだ。フィギュアかレポートかは僕が決めることなのだから」 そう言い切る夜の横にトワはテーブルに2人分のココアを置いて座った。「まあ、いいですけどね。困るのは夜さんなんですから」 注意を促しつつ、湯気の立つココアを飲んだ。 そして、全日本フィギュアスケート選手権が始まった。 次々に選手たちが演技を行っていく。 そして、トリノ代表を賭けた選手たちの演技を夜は真剣に見ていた。「それぐらい真剣にレポート作成もすればいいのに」 トワの呟く声に気がつかないのか夜はテレビ画面を見続けた。 どの選手も大きなミスを見せることなく演技を終え、点数が発表されていく。その点数に夜は疑問を覚えつつも、素晴らしい演技を見せてくれた選手たちにうんうんと頷いていた。「さあ、終わりましたよ。夜さんレポートに取り掛かるんですよね?」「うん。さあ、取り掛かるか」 選手たちの演技に気持ちを動かされたのか、夜はパソコンの前に座り、レポート作成を始め――「あっ、トワ」 ――たと思ったのだが、夜はトワに声をかけた。「なんですか?」「パソコン画面に『パソコンをする時は、部屋を明るくして離れてやってね』と表示されたんだ。でも、離れたらパソコンできないよな」「……いいから、作成してくださいよ」 日付も変わり、12月25日。 ふと目を覚ましたトワはテレビの音に気がついた。 まだ外は暗く、深夜なのがわかる。 テレビのある部屋へ行くとレポート作成しているはずの夜がテレビの前に座ってテレビを見ていた。「……何しているんですか?」「あえてフィギュアを見ているんだ」 テレビ画面を見ると、男子の試合が行われていた。「レポート終わったんですか?」「全くだ」 きっぱりと清清しささえ覚えるほどの言い方だった。 トワは夜の横に座り、一緒に試合を見た。 選手たちの演技がだんだん消化されていく。 代表1枠をかけた選手の演技も終わった。 そして、代表が決まったかと思うと採点ミスで順位の入れ替えにより、それはまた代表の入れ替わりも表していた。 こんな大事な試合でそれはとても悲しいことだ。 一度代表の座を勝ち得たと思った選手はどんな心境なのだろうか?「さあ、もう寝よう」「レポートは?」「明日やるよ」 そう言って夜は寝室へと戻った。「あえて」「もうわかりましたよ」 夜の言葉を遮り、トワは言った。 今日もフィギュアスケートをテレビの前に座って2人して見ていた。 今日もまた素晴らしい演技を選手たちは見せてくれた。 それぞれの持ち味を出せたのではないだろうか。 全ての演技が終わり、順位が発表された。 今回のポイントを前回までのポイントを加算してトリノ代表が決まる。 そして、フィギュアのトリノ代表が発表された。 夜は頷き納得したようにテレビの前を離れ、レポート作成へ向かった。 そして、24時を過ぎ、12月26日。 レポートの締め切りの日となった。 夜は再びレポート作成をやめ、テレビの前に座った。 フィギュアのエキシビションを見るためだ。 夜は戦いとはまた違ったこのエキシビションも好きだ。 それを黙って1人で見ていた。 見ていても代表争いとは違う雰囲気を感じた。 それが見ていてとても楽しかった。 放送も終わり、夜は満足して再びレポート作成を始めた。「じゃあ、行ってくるね」「はい、いってらっしゃい」 無事レポートを仕上げた夜は大学へと向かった。