歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』
歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』 ~文春文庫、2017年~ 歌野晶午さんによる、ノンシリーズの短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「ずっとあなたが好きでした」大型スーパーでアルバイトをはじめた大和は、年上の高校生に恋をする。しかし、休憩時間などに二人がいっしょにならないよう、主任が邪魔をし始めて…。 「黄泉路より」五十嵐は、ネットで知り合ったメンバーとともに、自殺するため樹海に向かった。しかし、道中に意外な展開が起こる。 「遠い初恋」小学校に、東京からすごい転校生がやってきた。弓木が彼女を意識しはじめた頃、彼女のネックレス紛失事件が起こる。クラスも険悪なムードになりはじめ…。 「別れの刃」大学生の継世は、勧誘の先輩に憧れ、関心が余りないのに演劇部に入部する。飲み会の際、何年も在籍している大先輩に誘われ、二人は特別な関係になるが…。 「ドレスと柘榴」佐和子が、何者かにつけられているという。永嶌は、犯人を突き止めようとするが…。 「マドンナと王子のキューピッド」転校先になじめなかったDJマイケルだが、ラジオに取り上げられることが多く、クラスメイトから、自分のかわりに企画への応募を依頼される。名前も知らぬ思い人に、思いを伝えるという番組だが、マイケルは級友が恋する女性に恋してしまい…。 「まどろみ」大輔と友里のある日の光景。 「幻の女」チラシ配りでをしていた馬渡は、多くのチラシをもらってくれる日傘をした、貴婦人のような人を意識をしていた。ある日、その人とゆっくり話す機会があるが、とつぜん逃げられてしまう。その後、チラシ配りでトラブルがあったアパート近くで、馬渡は殺人事件の容疑者とされてしまう。 「匿名で恋をして」掲示板で知り合ったπとロレッタ。トラブルで掲示板を去ったπに、ロレッタは連絡をとる。ついに、実際に会える日がやってきた。ロレッタはそれまでのやりとりから推理して、慈善にπの容姿を確認してから会おうと考えるが…。 「舞姫」就職の条件としてフランスを訪れた十條。フランソワーズと同居しながら、飲食店でバイトをしていたが、高級ワインの紛失事件が起こる。従業員の誰かが犯人なのか。そんな中、マネージャーが密室状況で死亡する事件も起きてしまう。 「女!」世之介に起こったある日の出来事。 「錦の袋はタイムカプセル」生まれ故郷に戻り、デイサービスセンターの厨房担当になった男は、参観日に利用者家族として訪れていた女性をみて驚く。懐かしい人物との再会だった。 「散る花、咲く花」父の病室に花を持っていっても、すぐに花がなくなってしまう。また、ある日には父の手首に傷が見つかった。虐待を疑う義理の娘だが…。 ――― これは面白かったです。 「まどろみ」「女!」は全体の中では意味を持つのですが、それ自体ではミステリ要素はほぼなし。一方、その他の短編は、それぞれ恋愛をテーマにしつつ、ミステリ要素もあります。特に「黄泉路より」「幻の女」「舞姫」はその要素が強いです。 物語自体も抜群に面白い(やられた!となる)のですが、本書は大矢博子さんによる解説がとても秀逸です。本編を読んでからという注意書きがありつつ、それでも最初に解説を読んでしまう人のために最初は概要だけ書き、あらためて本編のネタにふれるという構成ももちろん、後半での解説がすごく分かりやすく、いくつかの短編についてはその意義も的確に指摘されています。 面白い作品に秀逸な解説と、これは素敵な一冊です。 (2020.01.05読了) ・あ行の作家一覧へ