フィリップ・アリエス(成瀬駒男訳)『日曜歴史家』
フィリップ・アリエス(成瀬駒男訳)『日曜歴史家』 ~みすず書房、1985年~ (Philippe Ariès, Un historien du dimanche, avec la Collaboration de Michel Winock, Éditions du Seuil, Paris, 1980) 熱帯植物の研究機関で働くかたわら、独自に歴史学の研究を続け、『<子供>の誕生』や『死を前にした人間』などの大著を刊行したフィリップ・アリエス(1914-1984)の自伝的対談です。 アリエスの著作はかつて少し読んでいますが、まだ記事に書いたことはないですね。これを機に、またいつか挑戦できればと思うのですが、はてさて。 さて、本書の構成は次のとおりです。 ――― 序 1 大西洋沿岸の一族 2 半ズボンの時代 3 ソルボンヌとアクション・フランセーズ 4 戦争の四季 5 歴史の時間 6 外側の世界 7 『ナシヨン・フランセーズ』紙の冒険 8 新しい歴史学者 後記 原注 役者あとがき ――― 本書は、ミシェル・ヴィノック(何冊か邦訳も刊行されている歴史家。フランス近代の政治思想史の専門家のようです。)とフィリップ・アリエスの対談をベースに、アリエスが一人称で語るスタイル(後記のみ二人の対談)となっています。 残念なのは、(おそらく)彼の両親の名前は出ないこと(おじさんたちの名前は出ますが)。また、アリエスの生年にもふれられていません(対談ではお互いに自明だったからでしょうか)。というんで、私の読みが浅いことに加え理解不足によるところも多いと思いますが、本書だけ読んで、アリエスの経歴が細かいところまで分かる(年譜が作れる)、ということはないように思います。 それぞれの章の概要を簡単にメモしておきます。 1章では、アリエスの先祖について語られます。母方の祖父の家を訪れた思い出などの中で、老人との交際が多かったこと、子供に聞かせられない話以外は、大人は子供の前でもいろんな話をしていたので、勉強になったことなどが語られます。 2章は、子供時代~日本でいう高校生くらいまでの時代の回顧です。高校一年生くらいから、<アクション・フランセーズ高等中学同盟>に入り活動家として働くなど、この頃から、彼は政治活動も積極的に行っています。 3章では、大学入学資格試験合格後、ソルボンヌで歴史学を学びつつ、アクション・フランセーズの活動を引き続き行っていた時期のことが語られます。 4章では、第二次世界大戦の経験、教授資格試験への失敗、筆記試験には合格し中学教師のポストも指定されたたものの家庭の事情からそのポストにはつかず、後に熱帯植物の研究機関に入ったことなどが語られます。またこの時期、1943年(29歳ですね)に、最初の著作『フランスの諸地方における社会的伝統』(邦訳なし)を、1948年に『フランス諸住民の歴史』(邦訳なし)を刊行しています。 5章では、1951年に3冊目の単著にあたる『歴史の時間』(邦訳あり)を刊行した背景やその概要などが語られます。また、彼の著作が歴史学界からはあまり注目されなかったことや、1940年代末頃に結婚されたことなどもふれられます。奥様は図像学に造詣が深かったようで、アリエスのその後の研究方法にも影響を与えます。 6章は、もともと『アナール』に関心を寄せていたアリエスが、アナール学派第二世代のブローデルの著作にふれたり、『アンシャン・レジーム期の子供と家族生活』(邦題『<子供>の誕生―アンシャン・レジーム期の子供と家族生活―』)を刊行したりする時期の話です。 7章では、再び政治活動に深く関与した時期について語られます。 8章では、大著『死を前にした人間』刊行の背景が語られます。熱帯植物研究所での仕事のかたわら、奥様と協力しながら、膨大な史料の研究を進めたそうです。そして、アメリカでの講演をきっかけに、フランスの歴史学界にも注目を集めはじめます。 後記では、「信仰と政治と未来のことが話題になってい」ます。 アリエスは、1979年、65歳になって、社会科学高等研究院の準教授に認められます。 もともとが対談ということですので難解ということはないですが、逆に叙述の流れがやや不明瞭(必ずしも時系列にきれいに沿った展開ではない)に感じられる部分もあり、そのためやや読みにくくもありました。 とはいえ本書は、正式に大学や研究所のスタッフになることなく、地道に歴史学の研究(や、本書では政治活動にも熱心だったことが分かりますが)に打ち込んでいていた「日曜歴史家」の、様々な経験や思想にふれられる一冊です。 ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ