筒井康隆『言語姦覚』
筒井康隆『言語姦覚』~中公文庫、1986年~ 筒井さんのエッセイ集です。「現代の言語感覚」「超虚構宣言」「しあわせ座長」「A型社会の弊害」「タンク・タンクロー賛」の5部からなります。「現代の言語感覚」の部の、標題と同名の「現代の言語感覚」が、本書の目玉ですね。「あのですね」「どうも」「そうですね(応える前の間として使う方)」「と言いたい」などの言葉が、批判的に分析されます。いま例に挙げた中で印象的だったのは(どれも面白いのですが)、「と言いたい」でしょうか。断言せず、へりくだっているようでいで、実は猛烈に自己主張していて、それでいてへりくだることで相手の反論を拒もうとする…といった分析がなされています。どれもこんな感じで、痛烈な風刺(皮肉?)が感じられて面白いです。マスコミやジャーナリズムに対する批判的な分析もあります。「超虚構宣言」の部は、自作の創作にあたっての方法論であるとか、創作に対する圧力の問題(言葉の検閲や政治的立場などによる圧力)に関するエッセイを集めています。特に興味深かったのは「外部からの圧力内部からの圧力」です。 いろいろ考えさせられました。「しあわせ座長」は、劇や芝居に関するエッセイを集めた部です。「A型社会の弊害」は、それこそ島田荘司さんの日本人論を連想せずにいられないような日本人論を展開しています。標題にもなっている「A型社会の弊害」は、教科書の言葉を変えたことで中国・韓国の批判を呼んだことを下敷きにしているのですが、言葉を変える経緯や中国などへの弁明について、A型の心理を鋭く描いています。 もう一つ、この部で面白かったのは「不用意な発言」。これは政治家の不用意な発言のことですが、これはたいてい「本当のことを言ってしまったとか、本心を暴露しすぎたとかいう場合」です。そこで、作家がタテマエ的な言葉ばかりしていては作家生命を失ってしまうが、政治家も思いきっていっせいに「不用意な発言」をすればどうか、という提案があり、笑いました。「たとえば選挙で当選した人たちは「努力が実った」「国民の支持」などと言わず、「あれだけ金を使ったのだから当然」ということになる」。…いやはや。 最後、「タンク・タンクロー賛」の部は、筒井さんの過去の読書体験などについて、主に思い出話にまつわるエッセイを集めています。冒頭の「筒井康隆に25の質問」も、その次に収録されていて10年ごとの本のベスト10を紹介している「私のオールタイムベスト10」も、とても興味深く読みました。 そして。「人生の設計」と題する文章は、ぐっときました。 筒井さんの作品は、続けてエッセイ集を読みましたが、エッセイも面白いですね。また見つけては読んでいきたいと思います。文庫本のエッセイ集は、電車の友に重宝します。(引用) たとえ挫折しようと、別の道で努力していれば、本当に才能があるのなら知らぬ間にもとの大目的へ通じる道が開かれているのではないだろうか。 人生の設計をしたり、自分の生きかたを演出したりするのは、人生の醍醐味のひとつである。なんで他人に訊いたり、親まかせにしたりできようか。 ―「人生の設計」(2008/02/04読了)