“THE EATTH DOES NOT BELONG TO US, WE BELONG TO THE EARTH”
1858年、白人により土地を追われることになったネイティブアメリカン(先住民)のシアトル首長(Chief Seattle)が、第14代大統領フランクリンに伝えてほしいと語った言葉。~FATHER SKY, MOTHER EARTH(父は空、母は大地)~はるかな空は、涙をぬぐいきょうは美しく晴れた。あしたは雲が大地をおおうだろう。けれど、わたしの言葉は星のように変わらない。ワシントンの大首長が土地を買いたいといってきた。どうしたら空が買えるというのだろう?そして大地を。わたしには、わからない。風の匂いや水のきらめきをあなたはいったいどうやって買おうというのだろう?すべて、この地上にあるものはわたしたちにとって神聖なもの。松の葉のいっぽんいっぽん岸辺の砂のひとつぶひとつぶ深い森を満たす霧や草原になびく草の葉葉かげで羽音を立てる虫の一匹一匹にいたるまですべてはわたしたちの遠い記憶の中で神聖に輝くもの。わたしの体に血がめぐるように木々のなかを樹液が流れている。わたしは、この大地の一部で大地は、わたし自身なのだ。香りたつ花は わたしたちの姉妹、クマやシカやオオワシはわたしたちの兄弟岩山のけわしさも草原のみずみずしさも小馬の体のぬくもりもすべておなじひとつの家族のもの。川を流れるまぶしい水はただの水ではない。それは、祖父のそのまた祖父たちの血。小川のせせらぎは、祖母のそのまた祖母たちの声。湖の水面にゆれるほのかな影はわたしたちの遠い思い出を語る。川は、わたしたちの兄弟。渇きをいやしカヌーを運び子どもたちに惜しげもなく食べ物をあたえる。だから白い人よどうかあなたの兄弟にするように川にやさしくしてほしい。空気は、すばらしいもの。それは、すべての生き物の命を支えその命に 魂を吹きこむ。生まれたばかりのわたしにはじめての息をあたえてくれた風は死んでゆくわたしの最後の吐息をうけいれる風。だから白い人よどうか、この大地と空気を神聖なままにしておいてほしい。草原の花々が甘く染めた風の香りをかぐ場所として。死んで星星の間を歩くころになると白い人は自分が生まれた土地のことを忘れてしまう。けれど、わたしたちは、死んだ後でもこの美しい土地のことを決して忘れはしない。わたしたちを生んでくれた母なる大地を。わたしが立っているこの大地はわたしの祖父や祖母たちの灰からできている。大地はわたしたちの命によって豊かなのだ。それなのに白い人は母なる大地を父なる空をまるで羊か光るビーズ玉のように売り買いしようとする。大地をむさぼりつくし後には砂漠しか残さない。白い人の町の景色は、わたしたちの目に痛い。白い人の町の音は、わたしたちの耳に痛い。水面を駆け抜ける風の音や雨が洗い清めた空の匂い松の香りに染まったやわらかい闇のほうが、どんなにかいいだろう。ヨタカのさみしげな鳴き声や夜の池のほとりのカエルのおしゃべりを聞くことができなかったら人生にはいったいどんな意味があるというのだろう。わたしには、わからない。白い人には、なぜ煙を吐いて走る鉄の馬のほうがバッファローよりも大切なのか。わたしたちの命をつなぐためにその命をくれるバッファローよりも。わたしには、あなたがたの望むものがわからない。バッファローが殺しつくされてしまったら野生の馬がすべて飼いならされてしまったらいったいどうなってしまうのだろう?聖なる森の奥深くまで人間の匂いがたちこめたとき、いったいなにが起こるのだろう?獣たちがいなかったら人間はいったい何なのだろう?獣たちがすべて消えてしまったら深い魂のさみしさから人間も死んでしまうだろう。大地は、わたしたちに属しているのではない。わたしたちが大地に属しているのだ。“THE EATTH DOES NOT BELONG TO US. WE BELONG TO THE EARTH”たおやかな丘の眺めが電線で汚されるとき藪はどうなるだろう?もうない。鷲はどこにいるだろう?もういない。足の速い小馬と狩りに別れを告げるのはどんなにかつらいことだろう。それは命の歓びに満ちた暮らしの終わり。そしてただ 生きのびるためだけの戦いがはじまる。最後の赤き勇者が荒野とともに消え去りその記憶をとどめるものが平原の上を流れる雲の影だけになったとき岸辺は残っているだろうか。森は繁っているだろうか。わたしたちの魂のひとかけらでも、まだこの土地に残っているだろうか。ひとつだけ確かなことは、どんな人間も赤い人も白い人もわけることはできないということ。わたしたちは結局おなじひとつの兄弟なのだ。わたしが大地の一部であるようにあなたも、また、この大地の一部なのだ。大地がわたしたちにとってかけがえがないようにあなたがたにとってもかけがえのないものなのだ。だから白い人よ。子どもたちに 伝えてきたようにあなたの子どもたちにも伝えてほしい。大地はわたしたちの母大地にふりかかることは、すべて、わたしたち 大地の息子と娘たちにもふりかかるのだと。あらゆるものが、つながっている。わたしたちがこの命の織り物を織ったのではない。わたしたちは、そのなかの一本の糸にすぎないのだ。生まれたがばかりの赤ん坊が母親の胸の鼓動をしたうようにわたしたちは、この大地をしたっている。もし、わたしたちが、どうしてもここを立ち去らなければならないのだとしたらどうか白い人よ、わたしたちが 大切にしたように、この大地を 大切にしてほしい。美しい大地の思い出を受け取ったときのままの姿で心に刻みつけておいてほしい。そしてあなたの子どものそのまた子どもたちのために、この大地を守りつづけわたしたちが愛したように愛してほしい。いつまでも。どうかいつまでも。【父は空 母は大地 インディアンからの手紙 ~FATHER SKY, MOTHER EARTH~ 寮美千子(編・訳)より】