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• 読書感想『地球星人』

  『地球聖人』村田沙耶香　新潮文庫　「ヲコ幻想」をそのまま物語にしたような小説である。　人間はサルから進化したといわれている。なにが進化したのか、それは本能（有機物が存在を続けるために必要なもの）を幻想化したことである。　本能にすぎないものが、なぜこんなにもいろんな価値がある幻想になりえたのか。神がAdamとEvaに隠せと言ったからである。それを破ったから人間はどえらい目にあっている。「原罪」に匹敵するぐらい価値があるもの、それが「ヲコ幻想」。だからこの小説にも書かれているように、あれのための器官にすぎないのに、人間存在の価値そのものようにふるまうのである。それとうまく付き合えないやつは、欠陥部品として工場のスクラップ置き場に投げ捨てられるのである。「コンビニ人間」の主人公も中古青年もスクラップ人間である。この小説に登場する何人かもスクラップ人間ということである。もちろんあたいもそうである。　この本はまた「自由」とは何かを問いかけている。あたいのようなおいぼれには、「自由」について考える気にはなれないが、若い人には「自由」について考えざる得なくなるだろう。AI化が進めばAI判断（アルゴリズム）が絶対客観判定の正義とされる。そうなると人間の「自由意思」は減少傾向になっていく。考えるというめんどくさいことが、あほらしくなるということだ。　「コンビニ人間」でも感じたのだが、この作者は安部公房の系にあるような気がする。この本も「方舟さくら丸」に似た感触がある。　あたいもスクラップ人間だから、この小説を読み通せたのだろう。まっとうな部品はこんなあほらしい小説は読まない。　足もとに石ころが転がっているようで歩きずらい、そんな小説である。それも安部公房に似ている。　まあ、あたいはやっぱり世の中は「私有幻想」と「ヲコ幻想」だけでうごいているのであると言いたい。

  2021.05.28

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• 新聞小説『また会う日まで』

  朝日新聞小説『また会う日まで』池澤夏樹　　　　272　ベータ―ハーフ8　2021.5.9（日）​　そうなのだ。アダムとイブは楽園を追われた。額に汗して働かねばならなくなった。しかしそれは恩寵であった。人間は労働するものだ。空の鳥とは違う。　小説のストーリーには関係ないのだが。　人間の労働と鳥が食べるものを探すのとは何が違うのか​。鳥たちは自分の食べる分と、子供の食べる分のために働く。人間どもは自分の食べる分と、子供の食べる分のためと、神様に捧げなければならない分のために働く。労働とは神様に捧げるために余分に働かなければならないということである。鳥は自分たちが食うより余分に働く必要がない。ここが違うのである。　神様はデビュー当初から人間に食べ物をせびった。恵んでくださいとお願いしたのでなく、ひどい目に合わすぞと脅かしたのである。　聖書が書かれた時代にはもう搾取する側とされる側がはっきり分かれていたのである。聖書がどういう意図でつくられたのか、わからないが、神は搾取する側に使われたのである。そしてせびり取った食べ物を、恩着せがましく恵みと称して、微々たるものを民の方に還元したのである。神の正体とはこんなものなのである。　「私有幻想」の原理は神よりも古い。なぜなら創世記で神が人間を創るよりも以前にサルから進化した人間といわれる動物がいたのだから、人間は二種類いることになる。サル進人間と神創人間、搾取人間とお恵み人間。バカとアホ。　人間は鳥たちや他の動物よりも寿命というものが飛躍的に伸びた。そのため働けなくなる時間も生きなければならない。その働けなくなる時間のために、働ける時間で稼がなければならないから、より労働は重くなる。　とはいっても、長生きして、うまいものが食いたい。搾取されても生きていけるだけのお金を稼がなければ、と考えるのが搾取される側の本音にある。ということで搾取する側とされる側、これは人間が存在する限り永遠に続く、それしかない。　国および戦争がなくなれば搾取される側も少しは楽になる。ただそれだけのこともできない。　鳥たちよりも頭でっかちになったけれど、アホなんです。　もう一度断っておきますが、先に挙げた新聞小説のストーリーとこの文章の内容とはまったく関係ありません。

  2021.05.16

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• 読書感想『ホテルローヤル』

  『ホテルローヤル』　桜木紫乃　集英社文庫　すこしまえに原作を読んだ。こんど映画になったので見に行った。　ラブホテルという狭い空間で物語が展開するので、「ピンク」か喜劇でないと、映画としては物足りなさを感じる。それにしても、観客（コロナ禍で客が少ないのだが）がクスッとでも笑う場面がない映画とは珍しいものである。　この小説は作者の実家がかつて経営していたホテルを舞台としている。作者自身もそこで働いていたということだから、実話にもとづいて、この小説は書かれていることになる。　しかし小説家というものは、1cmのふし穴から見たものを100ページぐらいに書くことができる想像力をもっているから、どこまでほんとうで、どこまでが創作かわからない。小説だからそんなことはどうでもいいといいながら、そこを詮索しながら読むのもの楽しい。　ということで、あたい妄想エロジジイとしましては、ーーわずかに芯をーーというこの描写が気になりました。これは作者の実体験でないと、こうは書けないのではないかと。　ブーツが物語の展開の中で出てくる。これが強烈に臭い。小説の中で何回も、その臭さが強調される。映画の中でもその臭さが表現されている。このストーリーでは、そのブーツの匂いが、そこまでくさいと強調されなくていいように思える。これは作者の実体験だからここまで強調されるのだろう。　小説でも、映画のほうでも、心中事件があったから、ホテルは廃業に追い込まれたことになっている。しかし実際には心中事件というのはなかったのではないか、そら、心中未遂というようなものはあっただろうが。このくさいブーツを履いたアベックがホテルを利用したあと、その臭いが部屋についてしまった。汚れや、キズであれば、洗ったり、隠したり、交換したりして修復できる。しかし部屋についてしまったにおいは、簡単に取れない。つぎに入った客から、えらいクレームをつけられた（怒鳴られ、騒がれた）。そして悪いうわさがたって、ホテルは廃業に追い込まれた。その臭いは、作者の鼻先に憑いて放れなかった。　えっち屋さんのせりふ―ー（体を使って遊ばなきゃいけないときがある）ーーフィットネスクラブやスポーツクラブの器具のように、ここに出てくるものがストレス解消に役立つ道具になる。あたいのようなジジイにはよくわからんが、時代はもうその方向に動いているのか、心地よい気持ちを得るための道具として独立する。行為そのものが「快感指数」としてAIによってあらわされる。（将棋の優劣がコンピューターで数値化されるように）幸福度をはかるのに「偏差値」から「快感指数」に代わる時代が来るのだろうか。ジジイの妄想はきりがないのでこれぐらいにしておこう。　「ヲコ幻想」も実体がともなうと、むなしいものになるんだなというのがこの本を読んだ感想。そしてこれがいい小説だと思うのは、－－「星をみてたー」－－「そうか」というセリフがあるからだ。

  2020.11.29

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• 読書感想『コンビニ人間』

  『コンビニ人間』　村田沙耶香　文藝春秋　この小説は人間社会が「ヲコ幻想」と「私有幻想」からしか成り立っていないことをよくいいあらわしている。それは縄文時代から変わらないというのもするどい。さらに現代の「共同幻想」（村）と「対幻想」のあり方も暗示している。（村）はいつの時代も貧しいものなのだ。そんななかで「自己幻想」と「対幻想」を大事にして、他者から侵蝕されないように踏ん張って生活しているのが、だいたいの人たち。　この物語に出てくる中古青年は「ヲコ幻想」と「私有幻想」に侵蝕されている。だから（村）には入りきれない。当然のようにさえない、この男がちょっと考え方のずれている主人公の女性に就職の面接試験を受けさせるとこまでこぎつける。このとき、この男は今までになく生き生きとなるのである。それは「私有」するものを得た喜び、高揚なのである。　女が心変わりして、面接試験は受けないという。へんな女だからそれはしかたがないのだ。男は捨てぜりふをはいて、その場を出て行く。小説はこの辺で終わりである。　この小説は図書館で借りたのだが、けっこう予約が入っていた。はばひろく人気があるのだろう。集中すれば2，3時間でよめる小説である。　その後のこの中古青年のことを少し考えてみる。　この男、捨てぜりふをはいても行くところがない。このさえない女の部屋にころがっているより、しょうがない。この女を（私有）できたことで多少自信をつけることができたのだが。一方で、こんな女は僕の女ではないと、自分に言い聞かせることでプライドを保ちつつ寄生を続ける。そして良質のひもであると自覚したとき、愛というようなものがめばえる。それによって縄文時代からの呪縛が解ける？　いい小説に蛇足をつけてしまって申し訳ない。　インターネットに、この小説から安部公房の「箱男」を思ったというのがあったが、あたいは読んでるとき「友達」を思い浮かべた。そして今これを書いていて「砂の女」が頭に浮かぶ。

  2020.11.28

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• 読書感想　「中村文則」

  『悪と仮面のルール』　　中村文則　講談社『あなたが消えた夜に』　　中村文則　毎日新聞出版　人間はなんとめんどくさい生きものなんだろう。こんなにめんどくさいならAIは人間になりたがらないだろう。　子どもはじゃまものにされるか、おもちゃにされるか。そういうことで年少のころに心に傷をもったものは、対人、社会との安定関係を持つのに苦労をする。あるいは安定関係がもてないことを、生きる拠り所にするしかない。　心に傷を持った者同士(-)×(-)=(+)になれるのだろうか。すくなくとも社会生活においては、(-)+(-)=(-)である。ここに大きな(-)を(×)ないと(+)にはなりえないということである。つまり犯罪によってしか(+)を得ることはできないということになってしまう。　「ヲコ幻想」と「私有幻想」の究極は、人格の破壊にある。にんげんは単純なくせに、めんどくさい生きものだからそうなってしまう。　人間の寿命が延びたから自殺者が増えた。これは(%)の問題である。ふと思ったことだが、他の動物の寿命は何百万年のあいだ変わっていないのだろうか。　人間の不完全を補うために神が必要になる。なんに対して不完全なのか、それはめんどくさい生きものであることに対してである。

  2020.11.15

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン33

  ㉝　　　起源論2　吉本がいうように、国家は共同の幻想なのか、わたしは国家は「私有幻想」拡大の手段にすぎないと思う。そして手段にすぎない国家がわれわれに「私有幻想」を与える。われわれは貧しくともその「私有幻想」にしがみついて生きていくよりすべがない。　吉本隆明は自分のことを軍国少年だといっている。少年のころ「戦争は兵隊さんがやるものだ」と思っていたのだろう。しかし、敗戦によって、戦争は兵隊さんがやったわけではないと、知ることになる。ではだれがやったのかという疑問が出てくる。戦争は「お国」がやったのだ。「お国」のためにみんな戦ったのだ。ではこの「お国」とは何だったのか。「それまでわたしが漠然ともっていたイメージでは、国家は国民のすべてを足もとまで包み込んでいる袋みたいなもので、人間はひとつの袋からべつのひとつの袋へ移ったり、旅行したり、国籍をかえたりできても、いずれこの世界に存在しているかぎり、人間は誰でも袋の外にでることはできないとおもっていた。」（角川文庫版のための序　p257）という。この「袋」がなにでできているか、それを考察するのが、この『共同幻想論』の主旨だとわたしは思う。　最後に「後記」からの文章を引用して、”ロン”という上がりの発声もなく終局とします。​本書では、やっと原始的なあるいは未開的な共同の幻想の在りかたからはじまって、〈国家〉の起源の形態となった共同の幻想までたどりついたところで考察は終わっている。つまり歴史的な時間になおしていえば、やっと数千年の以前までやってきたわけである。もちろんわたしのとった〈方法〉は現代的なものであるから、たんに本書の項目が歴史的な秩序として読まれることを願っているわけではない。わたしは終始、わたしんとって切実な課題がわたし以外の人々にとって切実でないはずがないし、わたしにとって現代的な課題が、わたし以外の人々にとって現代的でないはずがないという確信をいだいてきた。それがうまく本書を読まれる人々に伝わってくれたらと願うだけである。（p459～469）​　AIやロボットの発達にともない、人間的存在とはなにかという問題がますます顕著化するだろう。そして人間は「ヲコ幻想」と「私有幻想」でしか、できていないことを知ることになる。われわれ下級国民の未来は明るくない。せめて、いじめや虐待がなくなることだけをねがうだけである。（終局）

  2020.10.24

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン32

  ㉜　　　起源論　吉本隆明の『共同幻想』も最後の「起源論」までくることができた。ここでの（起源）とは言うまでもなく〈国家〉の起源である。吉本先生は〈国家〉というものがどう発生したかという考察をしてきたのである。将棋でいうなら、王様を詰ませる最終局面である。長い手数があり、難解な局面もあったが、最後の王手である。詰むや詰まざるや、である。​はじめに共同体はどんな段階にたっしたとき〈国家〉とよばれるかを、起源にそくしてはっきりさせておかなければならない。はじめに〈国家〉とよびうるプリミティヴな形態は、村落社会の〈共同幻想〉がどんな意味でも、血縁的な共同性から独立にあらわれたものをさしている。この条件がみなされたら、村落社会の〈共同幻想〉ははじめて、家族あるいは親族体系の共同性から分離してあらわれる。そのとき〈共同幻想〉は家族形態と親族体系の地平を離脱して、それ自体で独自な水準を確定するようになる。（p440）​　「ヲコ幻想」から「私有幻想」に、狩猟採集民から定住農耕民に変化していくなかで、人間同士を結びつける意識もかわっていく。　ユヴァル・ノア・ハラリもいうように、より多くの人の集団をつくりあげるには血縁関係では、まかないきれないのである。ある種の同一価値観が必要なのである。それが〈宗教〉であり〈国家〉である。わたしの考えでは、〈国家〉は「私有幻想」拡大の手段にすぎない。​なぜなら〈国家〉の本質は〈共同幻想〉であり、どんな物的な構成体でもないからである。（p441）​　〈共同幻想〉を「私有幻想」と読みかえてもいい。〈国家〉はこれによってできあがっているのである。​魏志はそれぞれ統治する官名を記載しており、それによるとこれらの〈国家〉は、すでにさくそうする官制をもっていたと推測できるからである。（p441）​　〈国家〉は官僚制度をもって、〈国家〉という形を整える。それは今も同じである。政治家や官僚が〈国家〉の中枢ではない。かれらは「私有幻想」の代理人なのである。王権時代から富める「私有幻想」の拡大を手伝う代理人なのである。決して貧しい「私有幻想」の方にはつかない。それは資本主義でも、共産主義でもかわらない、なぜなら彼らも自らの「私有幻想」を拡大させたいからである。共産主義の方が代理人としての権利が大きい分、いばっている。貧乏人にとってはこっちの方が最悪であり、ごく一部の富裕層にはありがたい制度なのである。貧乏人は資本主義をと声を上げ、金持ちは共産主義をと声をあげるのがまっとうなのであるが、われわれは逆を教えられてきた。​この世襲的な宗教的王権に関するかぎり、魏志の邪馬台的な〈国家〉は起源的な〈家族〉および〈国家〉本質からつぎのような段階をへて転化したと想定できそうにみえる。　（一）〈家族〉（戸）における〈兄弟〉↔〈姉妹〉婚の禁制。〈父母〉↔〈息娘〉婚の罪制。　（二）漁撈権と農耕権の占有と土地の私有の発生。　（三）村落における血縁共同制の崩壊。〈戸〉成立。〈奴婢〉層と〈大人（首長）〉層の成立。　（四）部族的な共同体の成立。いいかえれば〈クニ〉の成立。（p452）​　ここで、わたしなりの解釈をつけてみよう。　①は、ヒトが直立二足歩行をするようになってから、長～い年月を経てできあがった禁制である。「ヲコ幻想」のひとつのかたちで、〈対幻想〉に属する。ともあれ、ヒトが人間として成り立つには、この禁制を人間自身が必要としたのだろう。　②は、「私有幻想」があらわれたということ、もともと自然はだれのものでもなかった。そこに〈権利〉という不自然な「幻想」をつくりだし、自然を不自然なものにしてしまった。これによってヒトは自然から孤立するはみだしものになった。またこれはヒトを人間として完成さすことになる。もう自然には帰れない、自然と対等と思える存在になったのである。いまわれわれが直面している自然災害というものは、人間災害であるということは言うまでもない。また領土問題もこの「私有幻想」から発生していることも当然のことである。　③「私有幻想」拡大によって、小さな共同性は大きな共同性に呑み込まれていった。血縁（信頼）による結びつきより、私有（利害）による結びつきの方が「私有幻想」拡大には役に立つということである。　「私有幻想」が拡大することによって、貧富の差も拡大していく。この差によって奴婢が発生した。このようなものは、富める権力者にとって必要不可欠のものであった。官僚制より奴婢の方が早く出現したのではないか。　④は、「私有幻想」の発生から、共同体がある程度の規模になったとき、身分制度をつくり、富裕者の「私有幻想」拡大がよりやりやすく、より安定するように〈クニ〉というものが創り出されたのであろう。　この〈クニ〉は〈国〉であり、規模を大きくして〈国家〉になる。この何千年も前にできあがった流れは今も変わらない。

  2020.10.19

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン31

  ㉛　　　規範論2​経済社会的な構成が、前農耕的な段階から農耕的な段階へ次第に移行していったとき、〈共同幻想〉としての〈法〉的な規範は、ただ前段階にある〈共同幻想〉を、個々の家族的あるいは家族集団的な〈掟〉、〈伝習〉、〈習俗〉、〈家内信仰〉的なものに蹴落とし、封じ込めることで、農耕法的な〈共同規範〉を生みだしたのであること。だから〈共同幻想〉の移行は一般的にたんに〈移行〉ではなく、同時に〈飛躍〉をともなう〈共同幻想〉それ自体の疎外を意味することなどである。（434）​　「私有幻想」の拡大にともない、新しい共同体がうまれた。それは〈対幻想〉を中心とした血縁関係の共同体ではない。もっと大きな組織である。それを結びつける幻想が必要になる。それが〈宗教〉であり〈法的〉なものである。〈対幻想〉が後退することによって、〈ヲコ幻想〉も後退したかのようにみえる。しかしそれは、いわゆる〈対幻想〉にとどまらない〈価値〉をもって社会の中心に居座るのである。　この規範論で書かれているのは「私有幻想」がはっきりと〈国〉という形をとったということである。それを維持するための〈手段〉としての幻想があらわれたということである。　それにしても水泳選手の「ヲコ幻想」（不倫）が取り上げられているが、みんなうらやましいから、やんややんや言っている。水泳連のジジイどもは「私有幻想」（お金……てめえの金ではない）をもっているから、妬みから金をとりあげるとぶっている。やっぱり世の中は「ヲコ幻想」と「私有幻想」だけで回っているんだ。

  2020.10.17

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン30

  ㉚　　　規範論　「ヲコ幻想」と「私有幻想」という概念だけから、吉本隆明の『共同幻想論』を読み解くという試みはうまくいっているのだろうか。読み解くというよりも、人間は「ヲコ幻想」と「私有幻想」だけによって成り立っているという、わたしの主張を『共同幻想論』にのせてやっているだけなのである。ただそのことでこの難解といわれる『共同幻想論』を解かすヒントにはなっていると、自負している。　この「規範論」は「私有幻想」を守るための方法についてである。「私有幻想」の拡大は暴力（戦争）によって、ひとのものを盗むということによってはじまった。ひとはむかしむかし鳥ではなく、盗人だったのかと。　「私有幻想」が一定の水準にまで達して国という形ができれば、こんどはそれを維持しなければならない。もうかすめ取ったものは自分たちのものである。それは人であれものであれ守らなくてはならない。外に向けては暴力は有効手段だが、内に向かっては効率が悪い。そこで出てくるのが、ここに書かれている言葉だけを並べれば、〈宗教〉〈法〉〈規範〉そして〈国家〉である。ここでは〈倫理〉〈道徳〉は出てこない。これらはやっぱり「ヲコ幻想」に属するのだろう。​はじめに確かにいえることは、〈法〉的な共同規範は、共同体の〈共同幻想〉が血縁的な社会水準をいささかでも離脱したときに成立したということだけである。（p426）​　「血縁的な社会水準を離脱する」ということは「私有幻想」拡大の波に飲み込まれてしまったということである。それまでの「ヲコ幻想」中心の社会から「私有幻想」中心の社会に移ったことを意味している。「ヲコ幻想」でなりたっていた原始社会では、罪に相当するものは個の問題として処理することができた。それはまだ自然本能にもとづいた行為であるからして、そうだといえる。しかし、「私有幻想」から出てくる罪は、人間の意思が入っているので、それに対して罰がいるのである。​しかし未開的な社会での〈法〉的な共同規範では、個々の〈人（格）〉はまだそれほど問題になっていない。また行為そのものもあまり問題とはならない。ただ部族の〈共同幻想〉になにが〈異変〉をもたらすかが問われるだけである。〈神話〉のなかにあらわれる共同的な規範が〈法〉的な形をとるときは、そこに登場する〈人（格）〉はいつも、ある〈共同幻想〉の象徴だということができる。（p426）​　自分の息子が家の金を盗んでも警察にすぐに届けないだろう。しかし他人の子が金を盗んだらすぐに届けるだろう。ここでの「ある〈共同幻想〉の象徴」とは、支配される前農耕的な共同体であり、「共同的な規範が〈法〉的な形をとる」のは支配する農業技術を持った共同体なのであろう。このふたつは最初は対立関係にある。この対立関係を緩和するには、〈対幻想〉での結びつきがまったくないので、〈法〉というような概念を創らなければならない。　それにしても、特殊詐欺（オレオレ詐欺、振り込め詐欺）のなんと多いことか。これらの多くが〈対幻想〉のうえに成り立っているということである。日本では、〈家族〉という〈対幻想〉がまだまだ強いのか、あるいは〈対幻想〉が弱くなっているから、そのすきを突かれるのか、あたいにはよくわからない。

  2020.10.11

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン29

  ㉙　　　罪責論2　この「罪責論」で引用されている「古事記」の挿話は、支配者がいかに「私有幻想」を拡大していったかである。ヤマトタケルノミコトのいだいた〈倫理〉が、「私有幻想」のぶつかり合いとしてストレートに利害関係にならないのは、島国日本の特殊な共同体のあり方にあるのだろう。これが吉本のいうところの、日本の国家はヨーロッパと違って袋のようなものということになるのである。​一般に世襲的な君主にとって〈家族〉は擬制にしかすぎない。だからこそ権力の世襲が可能なのである。（p417）​　権力者が「私有幻想」を維持するのにもっとも安定した方法が世襲制なのであろう。血縁には強い幻想の絆があるのだろう。それは吉本がここまでにいってきたことである。　〈倫理〉〈道徳〉というのは「私有幻想」を維持するためのもである。定住農耕により〈私有〉意識が芽生えたときから、盗人はあらわれた。〈私有〉が拡大に向かうと裏切り者があらわれる。それらを抑え込むために、支配者は〈倫理〉〈道徳〉を被支配者に植え付ける必要があった。　​ニーチェは『道徳の系譜』のなかで〈道徳〉の発生の起源を、原始社会での個人と個人のあいだの物権的な債権者と債務者の関係にもとめた。ニーチェによれば、共同体でもこの関係はかわらない。共同体とその成員のあいだにも、債権者と債務者という根本関係は存在するとみなされた。ニーチェはいかにもニーチェ的な皮肉をこめて「人はみな一つの共同体の中で生活し、共同体の利便を享受している（おお、なんという利便だろう！われわれは今日これを往々にして過少評価するが）。……』（信太正三訳）とのべている。（p419～420）​　「私有幻想」は権力欲者や富裕層だけのものではない。権力欲者や富裕層にこき使われているわれわれ大衆（吉本的な言い方）も「私有幻想」をもっている。そのことによって共同体の一員として自覚しているのである。この小さな「私有幻想」を守るために、仕事をしたり、株に手を出したり、あるいは詐欺を働いたりしている。こういった努力をして、大きな「私有幻想」を妬ましく思いながら、小さな「私有幻想」でなんとか満足するうように、心に言いきかせているのである。こういった心のバランスが、社会というものを形作っているのである。だから多少の不満（不満は常にあるのだが）があってもベクトルは体制維持の方に向かうのである。また「私有幻想」維持のために努力しているという自負とつらさがあるから、落ちこぼれたひとに対して、自己責任という言葉を投げつけることができるのである。　この「私有幻想」拡大あるいは維持を社会から阻まれたものが、前にも書いたが、〈私有〉の〈幻想〉が身近な幼児や配偶者に向かうのである。優しさと、むごたらしさは心の中で、意外と簡単に反転してしまうのである。虐待やいじめをするひとが、最初からむごい人ではないのである。​あらゆる政治的な統一権力が存在する社会を、いちばんプリミティブな形態までさかのぼれば、そこでの〈倫理〉は一対の男女の〈性〉的な関係のあいだに発生の起源をもとめるほかない。（p420）​　もともと動物存在であったにんげんは「ヲコ幻想」を持つことによって人間になったのだから、いちばんプリミティブな形態までさかのぼれば、とうぜんのこととしてそうなる。「ヲコ幻想」は倫理をまとわらせることによって、男と女の〈性〉行為の外側に取り出すことができたのである。人間のあやはそこにしか見いだせないのである。　テッド・チャンの『息吹』（大森望訳「早川書房」）のなかの「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」という（近）未来小説にロボットあるいはバーチャル存在である子どもを育てるという話がある。ここで問題として出てくるのは〈性〉のことである。動物行為としてなら〈性〉はロボットにはいらないだろうが、「ヲコ幻想」としての〈性〉はさけられないのである。ロボットをできるだけ人間に近づけようとするなら、人間の本質である「ヲコ幻想」はさけて通れないのである。ということはAIは「ヲコ幻想」をもたなければ、人間に忠実な機械であるが、それをもてばにんげんに対抗する存在になってしまうのである。​そこでこの〈性〉的関係という概念は、自然な（性）行為を禁止されたり、伴わなかったりしても〈家族〉のあいだに成り立つとかんがえられる。内なる道徳律というカント的な概念が〈倫理〉の起源としていちばんおくれて人類にやってくるのは、それが個体的な概念だからである。（ｐ４２０）​　「そこでの〈性〉的関係という概念」を「ヲコ幻想」と読み替えれば、〈家族〉というせまい関係にとどまらないだろうし、カント的な道徳律（あたいはカントの道徳律をしらないが）にもならないだろう。吉本が最初にあげている「禁制」がトーテム・ポールのような象徴ではなく、「禁制」として人間の心に残ったものが〈倫理〉になったのではないか、だから「起源としていちばんおくれて人類にやってくる」というのはどうかと思う。やはり〈性〉的関係を〈家族〉でとらえるから的を射たことにならないのである。​「感動」とか「敬愛」とかいう言葉を排除して、ただ〈対幻想〉という言葉をつかうことにすれば、事態はもっとはっきりしてくる。このばあい「感動」とか「敬愛」とかヘーゲルが呼んでいるのは心身相関の〈性〉的な構造にほかならない。（p421）​　ここで吉本先生が引用しているヘーゲルの『精神現象学』の内容はよくわからないが、現代の世相で考えるなら、こうなる。　昨今の若い娘さんはなかなか結婚しないでいる。それは社会の構造にもよるのだろう。　娘が結婚したら頼りになるのは母親である。ましてや子供が生まれればもっと頼ることになる。それは経験者としていろいろアドバイスしてもらえるからである。お前が生まれたときはこうだったんだよとか。〈対幻想〉の絆があるから信頼関係も厚いのである。だから娘は母親を「敬愛」できる。しかし結婚しなければ、母親からアドバイスをもらう必要がないから、「敬愛」の情は薄れてしまう。いいおばあさんになる機会をなくした母親はどんな「対幻想」をもてばいいか戸惑ってしまうのである。それにしても結婚しない娘さんたちは、どんな「対幻想」をもっているのだろう。あたいのようなものにはわかりようがない。​

  2020.10.10

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン28

  ㉘　　　罪責論　ここからは「私有幻想」の領域に入るのである。​それぞれの種族には〈歴史〉が途絶えてしまう時間がある。どうしてもそれ以前の共同社会の構成については知ることができない。わが種族では現在のところ、千数百年の時間の外に出ることができない。これは歴史的な時間として、あまりに真新しすぎるといっていい。〈歴史〉がと絶える時間は、生活史が不明な時間とはそくざにむすびつかない。ひとつには生活史の断片は、発掘された器物や遺跡の断片から部分的には復元できるからである。もうひとつは、生活の上層にあったはずの観念の共同性は、考古学的な発見では、単純に復元できないからである。この部分で〈歴史〉は時間的に途絶えてしまう。これを復元する可能性は〈神話〉にもとめられる。わたしたちが原理的に正当に〈神話〉を扱う方法をもっていれば、である。〈神話〉の時間性はどこでも〈歴史〉がと絶える時間よりずっと遠くをさしているといっていい。（p407）​　遠くをさしているのは自然の光ではなく、人工の光なのである。だからどこをさすか、それにはやはり意図が混ざっているのである。​ここであらためて〈神話〉はどう取り扱われるべきものか、という問いをとりあげてみたい。そういう段階にきたようにみえるからである。（p407）​　そういう段階とは、「私有幻想」の拡大が一定の水準まで達して国家というようなものがあらわれたという段階なのだろう。共同体の構成員の統一性を図るのに神話が必要なことは、ハラリが「サピエンス全史」でもいっていることである。​それをいま〈神話〉はその種族の構成を語るとかんがえておこう。そして〈共同幻想〉の構成を語っている点をのぞけば、どんなことも〈神話〉では恣意的だといえる。登場人物も物語の進行も、プロットの接合の仕方も、時間的な、空間的な矛盾も、他の種族の〈神話〉からの盗作やよせあつめも、すべて恣意的にゆるされている。ただし〈共同幻想〉の志向に抵触しないか、または〈共同幻想〉の志向によって恣意的なかぎりにおいてである。（p409～410）​　神話は史実ではない。だから恣意的になるのはしかたがない。しかし共同体の構成員の〈共同幻想〉をまとめあげる方向性を持っていなければならないと吉本先生はいっている。　この恣意的な志向は、富をもった権力者によってつくりあげられるものである。被支配者から出たものがあったとしても、支配者側に都合のいいものだけが取り上げられて、支配者の〈共同幻想〉の一角を担うのである。​ニーチェは『道徳の系譜』のなかで、原始的な種族共同体の内部では、現存の世代にたいし、とりわけ種族を草創した最初の世代にたいして不可解な義務をおうものとかんがえており、種族の社会は、徹頭徹尾祖先の犠牲と功業のおかげで存立したという観念が支配する盲をのべている。（p411）…………だが農耕土民の祖形であってアマテラスの〈弟〉に擬定されたスサノオの背負った〈原罪〉は〈共同幻想〉としてみれば、ニーチェのいうようには不可解なものではない。この〈原罪〉が、農耕土民の集落的な社会の〈共同幻想〉と、大和朝廷勢力に統一されたのちの部族的な社会の〈共同幻想〉のあいだにうまれた矛盾やあつれきに発祥したのはたしからしくおもわれる。（p412）​　いまの〈会社〉社会にだって、こういうことはよく起こっている。会社の合併において、社是や社訓の違いや、社風の違いによって、こういったあつれきはよく起こることである。ハラリがいうように〈会社〉も「共同幻想」であり、いまわれわれのなかで一番多くの人がかかわっている「共同体」ではないか。そして「私有」とも直接かかわるので、もっとも重要な〈幻想〉になっている。経営者、株主、労働者、それぞれ立場の違う「私有幻想」でなりたっている。鉄砲担いで戦争に行くわけではないけれど、激しい競争にさらされて、自死やうつ病という死傷者も多く出る。原始農耕時代と変わらないのかもしれない。

  2020.10.05

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン27

  ㉗　　　対幻想論6　吉本隆明の対幻想論にもどろう。​これにたいして共同性としての人間、いいかえれば集団生活をいとなみ、社会組織をつくって存在している人間という概念のなかでは、人間はいつも架空の存在、いいかえれば共同幻想としての人間であり、どんな社会的現実とも直接結びつかない幻想性としての人間でしかありえない。（p403）​　人間は想像力をもったということである。目の前にあるものだけが、あると考えるのではなく、目の前にないものも頭の中であるように考えることができるようになったということである。このことが人間を他の動物から異質の系列の存在とならしめたのである。どんな動物も獲物を捕ったり、子供を産んだりという現実と直接結びついて生きているが、人間は架空の存在を作ることができるのである。　ユヴァル・ノア・ハラリはこのことを「サピエンス全史」のなかで次のようにいっている。​では、ホモ・サピエンスはどうやってこの重大な限界をのり越え、何万もの住民から成る都市や、何億もの民を支配する帝国を最終的に築いたのだろう？その秘密はおそらく、虚構の登場にある。厖大な数の見知らぬ人同士でも、共通の神話を信じることによって、首尾良く協力できるのだ。　近代国家にせよ、中世の教会組織にせよ、古代の都市にせよ、太古の部族にせよ、人間の協力体制は何であれ、人々の集合的想像の中にのみ存在する共通の神話に根ざしている。（p43）​　吉本隆明が「角川文庫版のための序」でいっている。​国家は共同の幻想である。風俗や宗教や法もまた共同の幻想である。もっと名づけようもない形で、習慣や民俗や、土俗的信仰がからんで長い年月でつくりあげた精神の慣性も、共同の幻想である。（ｐ２５８）​　吉本が「共同の幻想」といってることを、ユヴァル・ノア・ハラリは「認知革命」といっている。ブジョーというフランスの自動車メーカーを例にして、「会社」も集合的想像の生みだした虚構だと説明している。　こういった想像力を作り出す核になっているものが、直立二足歩行によって生まれた「ヲコ幻想」であり、その想像力を育てたのが、定住農耕による私有意識から生まれた「私有幻想」であるというのが私の主張である。​男・女神が想定されるようになると〈性〉的な幻想に、はじめて〈時間〉性が導入された。〈対〉幻想もまた時間の流れに沿って生成することが意識されはじめた。そしてこの意識が萌したのは、かれらが意図して穀物を栽培し、意図して食用の鳥獣や魚を育てるすべを知ってからである。（p404）​　定住農耕以前の狩猟採集時代にも時間はあった。逃げる獲物を追いかけて槍を投げる。そこには空間だけでなく、時間もあるということは人間だけでなく、動物にもわかっている。ゼノンの逆説のように「アキレスはカメに追いつけない」「飛んでいる矢は静止している」とだれも思っていない。そんなことを思っていたら、狩りはできない。カントのいうように時間と空間は先験的な認識様式としてあるのだから、動物にだってある。ものがそこにあると認識するための最低条件である。　定住農耕をするようになって、穀物の栽培や、鳥獣や魚の育成をするようになって、人間は時間の流れを意識するようになったと、吉本先生はいっているのである。つまり自然の側にあった時間を人間のうちに引き寄せたということである。これもまた想像力と同じように、人間と他の動物とを隔てることに重要なことである。　吉本先生はここで、農耕祭儀と〈性〉的な行為（結果）との関連性について考察しているが、歴史そのものを検証しているわけではないので、明確な証を示すことはできないのである。ただ、〈性〉に関することが人間にとって一番の関心ごとだから、お祭りに顔を出すということにうなずける。　この「対幻想論」は最後にこう締めくくられている。​人間は〈対〉幻想に固有な時間性を自覚するようになって、はじめて〈世代〉という概念を手に入れた。〈親〉と〈子〉の相姦がタブー化されたのはそれからである。（p406）​　こういったことはもっともらしくきこえるが、歴史以前のことなのでよくわからないということになってしまう。​​​

  2020.10.04

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン26

  ㉖　　　対幻想論5　「ヲコ幻想」が人間（サピエンス）の本質であるなら、これは「対幻想」ではなく「共同幻想」として拡大していくのである。共同体の祭儀には必ず「ヲコ幻想」が象徴として取り入れられる。　象徴であるから儀式に使われている意味を読み取ろうとしても意味がない。それは男にとっても女にとっても、一番の関心ごとだからである。ひとの集まるところ、興奮するところにそれはあらわれる。だから農耕祭儀と「ヲコ幻想」を直接結びつけて、意味をひもとこうとしても、それらしい意味が出てくるだけで、意味がない。​　〈性〉としての人間、いいかえれば男または女としての人間が〈自由〉な個人として乱交する場面を空想し、ある意味では必然的に空想せざるなったのは、マルキ・ド・サドの奇譚小説をあげるまでもなく〈近代〉以後のことである。〈性〉としての人間、いいかえれば男または女としての人間という範疇は、人間としての人間、いいかえれば〈自由〉な個人としての人間という範疇とも、共同社会の成員としての人間とも矛盾しているのは申すまでもない。この矛盾は人間の共同幻想と個人幻想のはざまに〈対〉幻想という考えを導かずには救抜されないのである（p398～399）​　「ここでの〈対〉幻想という考え」をそのまま「ヲコ幻想」とあてはめれば、救抜というややこしい言葉を使わなくてもいいのである。「ヲコ幻想」は共同幻想と個人幻想のはざまにあるのではなく、人間の本質（これは吉本自身がいってる）として、共同幻想や個人幻想のまえに導き出されているではないか。マルキ・ド・サドは「ヲコ幻想」を変態的にあらわしたかもしれないが、それは近代以後にあらわれたわけではない。ある意味、人間が成立する条件としてあらわれたのである。だから、動物たちにはない人間の本質なのである。農耕初期の時代には、もう人間の本質としてがっちりと組み込まれているのである。　「ヲコ幻想」は拡大していけば、共同体の儀式にもなりうるし、芸術にもなりえる。また倫理にもなる。収縮していけば、個人妄想〈エロ〉になるし、〈性〉犯罪にもなる。「ヲコ幻想」は個人とも共同社会とも矛盾しているわけではないが、それを世間で声高にいえば、〈変態〉〈セクハラ〉と糾弾されることは間違いない。​ここは共同幻想〈国生み〉が〈対〉幻想の行為と同致するのを象徴している。この共同幻想と対幻想との同致は、人類のどの社会でも農耕社会の初めの時期に発生した思考とみなしてまちがいない。ここでは〈対〉幻想はその特異な位相をなくして共同幻想のなかに解消したかのようにみえる。（p400）​　農耕社会が始まったとき、土地所有から「私有幻想」という観念が生まれた。だからどの社会でも発生は同じなのである。「ヲコ幻想」は「私有幻想」拡大の手段として変質していくのである。変質とはその価値を上げていくということである。吉本は〈対〉幻想を血のつながりによる絆というようにとらえている。「私有幻想」にとりこまれた〈対〉幻想は「共同幻想」として、おんなの〈価値〉をあらわしていることになる。いままでの「対幻想」とまったく違うのである。これが正しい意味での「ヲコ幻想」である。だから吉本のいう〈対〉幻想の位相をなくして共同幻想のなかに解消したようにい見えるのである。​それなら男・女による国生みは、あきらかに農耕社会にはいった時期に固有な象徴でなければならない。（p401）​　農耕社会における穀物と「ヲコ幻想」は対等の価値にあるということなのである。農耕社会は畑を持つことによって〈土地〉という「私有物」を本来なにもない地べたからつくりだした。これが人間といわれる第二の要因になったのである。これによって、人間は動物とまったく違う存在になってしまった。〈土地〉は「私有幻想」を生みだした。それは、持つものはさらにもつようになり、持たないものは、持つものの下につくより仕方なくなった。この「私有幻想」は「ヲコ幻想」と比べるとはるかに速い速度で、人間の観念として広がっていった。なぜなら「ヲコ幻想」は「対幻想」を基盤としていたが、「私有幻想」は最初から「共同幻想」を基盤としているからである。「私有幻想」により人類にまたたくまに格差社会ができあがった。「私有幻想」はどんどん膨張するから、格差もどんどん拡がる。とうぜんながら、いまも「私有幻想」はみんなの心にあるのだから、格差は拡がるばかりである。拡がり過ぎたもの同士がぶつかって、戦争して縮まって反省して、またしばらくしたら拡大を始めるのである。​あたい​が生まれてからこのかた、大きなぶつかりがなかったのは幸運だけれど、もうそろそろという感じもしないでもない。あたいが生きているうちはそういうことがないようにと願うばかりである。　「私有幻想」が拡大してぶつかるのも怖いけど、縮こまった「私有幻想」が配偶者や、同居の幼児をいじめるのも困ったものである。最近そういうのが多いような気がする。　​

  2020.09.27

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン25

  ㉕　　　対幻想論4　ほんとうにそうなのか、ボノボも立ち上がるがそうはならない。ボノボにエロ本を見せたらどうなるのか、もちろんメスザルの写真である。興奮するのか、そんなことはあり得ない。　ホモ・エレクトスもネアンデルタール人もそんなことはなかったのか、ホモ・サピエンスだけ「ヲコ幻想」をもったということか。　以前に読んだ本で、なぜサピエンスだけが生き残ったかという理由を、サピエンスが他の人類の種と出会ったとき、サピエンスは他の種を「うまそうだな」と思い、他の種はサピエンスのことを、そう思わなかったと冗談半分のように書いてあった。サピエンスがネアンデルタール人などを食ってしまったから、それらは絶滅してしまった、ということらしい。われわれサピエンスは人食い人種ということになってしまう。それはあまり想像できない。　それではサピエンスの男が他の種の女を襲ったというのはどうだろう。サピエンス以外の人類の種は直立二足歩行していても、そこまで「ヲコ」に反応がなかった。ボノボなんかとおなしで、交わりは自然本能の内にあった。われわれサピエンスは違った。それを見ると、興奮して他の種の女を追いかけまわした。当然他の種の男は仲間である女を守ろうとして、戦う。しかし、ユヴァル・ノア・ハラリがいうように、サピエンスがコミニケション能力に長けていることで戦略的に勝れ、他の種を圧倒した。こうして最終的には、われわれサピエンスだけが生き残ることになった。　ハラリが『サピエンス全史』で書いてるように「中東とヨーロッパの現代人に特有のDNAのうち、1～4パーセントがネアンデルタール人のDNAだったのだ」（P29）ということであれば、このわたしの説はあながち妄想ではないことになる。　しかし、『サピエンス全史』から都合のいいところだけ取り出して、つなぎ合わせていると批判されてもしかたないだろう。それでも、わたしは人間と他の動物を分けた原因は「ヲコ幻想」にあるといいたい。『サピエンス全史』の訳者、柴田裕之氏は「知恵の木の突然変異」の注釈で〔知恵の木は「創世記」に出てくるエデンの園に生えていた木で、アダムとイヴはその実を食べて「目を開け」た〕と記している。　裸では危険であるということの自覚から隠すという行為はうまれた。そのことで人間への第一歩を踏み出した。この隠すという行為がサピエンス全滅の危機を救った。しかしそれだけで終わっていたら、サピエンスは人間にはならなかった。ヒト科の一種で終わっていた。隠すという行為のうらに見せるという行為があって、人間になったのである。ここに「ヲコ幻想」のはじまりがあり、人間が頭の中で想像するということをもたらした。これが人間脳とその他の動物脳との分岐点になった。

  2020.09.21

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン24

  ㉔　　　対幻想論３　さきほどの「人間は猿から進化したわけではない」に関する全体を引用してみよう。​人間を〈性〉としてみるかぎり〈家族〉は夫婦ばかりでなく、親子や兄弟や姉妹の関係でも大なり小なり〈性〉的である。この意味でおそらくフロイトの学説には錯誤はなかった。ただかれはこういう関係が〈対〉幻想の領域でだけ成り立つもので、けっしてそのまま社会の共同性や個人のもつ幻想性には拡張できないことをその考察から除いてしまったのである。　現在ではほとんど否定しつくされているが、エンゲルスは、モルガンの『古代社会』の見解を理論的に整理しながら『家族・私有財産及び国家の起源』のなかで、原始的な乱交〈集団婚〉の時期を想定している。エンゲルスの根拠は、あらゆるばあい、例えば言語や国家の考察でも露呈されるように、人間が猿みたいな高等動物から進化したものだという考えに根ざしている。たとえばモルモットを親子兄弟姉妹にわたって同居させれば、雌親は子供の子を生むことができる。おなじように意識性を切除された人間の〈家族〉を同居させれば、母親は子供の子を生むことがあり得るだろう。しかしわたしたちは、意識性を切除された人間を、ただ動物としての〈人間〉と呼ぶだけで人間としての〈人間〉とは呼ばないのだ。人間は猿から進化したわけではないし、人間生の本質は動物生から進化したものではない。いいうべくんば、猿みたいなもっとも高等な動物と比較してえさえ、人間は異質の系列として存在している。またそのことで人間とよばれる本質をもっている。（p396～397）​　「人間生の本質は動物生から進化したのではない。」としたら、人間という存在の成り立ちをどう説明するか、まず最初の説明は神による創造である。これは神という存在があるといえば、最も正しい答えになる。しかし神はないとか、あるいは神は人間が想像した存在であるといえば、この説は霧散してしまう。次にあるのが、異星人説、他の星からきた知的生命、今の人間には異星の記憶はないが、そうであると。この説も魅力あるが、近代の人間が考えたあとづけのようにも思える。　いま、主流なのはやっぱりサルからの進化、二足歩行をすることで手が使えるようになったことで、道具を作ったり、火を使ったりできるようになった。そこから知的さにおいて、飛躍的に進化して、サルとまったく違う存在になったということである。しかし、吉本はそういった進化論を否定しているのである。　『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリも、そういった進化論とは少し違った見解を述べている。それをここに引用してみる。​​　このように七万年まえから三万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法のことを、「認知革命」という。その原因は何だったのか？それは定かでない。最も広く信じられている説によれば、たまたま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わり、それまでにない形で考えたり、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通をしたりすることが可能になったのだという。その変異のことを「知恵の木の突然変異」と呼んでいいかもしれない。なぜその変異がネアンデルタール人ではなくサピエンスのDNAに起きたのか？私たちの知るかぎりでは、それはまったくの偶然だった。だが、より重要なのは、「知恵の木の突然変異」の原因よりも結果を理解することだ。サピエンスの新しい言語のどこがそれほど特別だったので、私たちは世界を征服できたのだろう。（p35～36）​　ここでハラリ氏が言っているのも、たんなるサルが進化しただけで人間になったのではないということである。サピエンスの言語のどこが特別だったのか、それは目の前にないものについてかたりあえるということであると、彼は言っている。想像力を持つということである。それを彼は「認知革命」と名づけた。　たとえば、こういう会話だ。A君「今度、あの店に入った女のこ、かわいいよね！」B君「そうそう、あの角の店の女のこだろ、かわいい、かわいい」C君「どこの店」B君「ほら、駅の西口のパチンコ屋の通りの角の居酒屋だよ」C君「あ、あそこか行ってみたいな」A君「こんど、いっしょに行こうよ」　つまり、目の前にないものについて、会話できるということである。どんな動物や鳥でも言語はもっている。しかし、目の前いないものについて語り合えるのは、サピエンスだけである。彼はそういっている。　しかし、　ハラリも「知恵の木の突然変異」の原因は語っていないし、吉本も「人間と呼ばれる本質」、その本質の原因は語っていない。　わたしはその原因を「ヲコ幻想」にあるとしているのである。平たくいえば、「私たちが世界征服」をすることができたのは、わたしたちサピエンスが他の動物や、他の人類の種よりもすうだんにスケベである、ということである。このほうが、ハラリ氏のいうような「遺伝子の突然変異による脳内配線変化」より、よっぽど現実味があると思うのだが。

  2020.09.20

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン23

  ㉓　　　対幻想論2​〈性〉としての人間はすべて、男であるか女であるかいずれかである。だがこの分化の起源は、おおくの学者がいうように、動物生の時期にあるのではない。すべての〈性〉的な行為が〈対なる幻想〉生みだしたとき、初めて人間は〈性〉としての人間という範疇をもつようになった。〈対なる幻想〉が生みだされたことは、人間の〈性〉を、社会の共同性と個人性のはざまに投げだす作用をおよぼした。そのために人間は〈性〉としては男か女であるのに、夫婦とか、親子とか、兄弟姉妹とか、親族とかよばれる系列のなかにおかれることになった。いいかえれば〈家族〉が生みだされたのである。だから〈家族〉は、時代によってどんな形態上の変化もこうむり、地域や種族でどんな異なった関係におかれても、人間の〈対なる幻想〉にもとづく関係だという点では共通している。そしてまたこれだけがとりだせる唯一の共通性でもある。わたしたちは差し当たって〈対なる幻想〉という概念んを、社会の共同幻想とも個人のもつ幻想ともちがって、いつも異性の意識でしか存在しえない幻想性の領域をさすとかんがえておこう。（p395～396）​　これはあきらかに「ヲコ幻想」のことを言っている。先にもいったように吉本のようなえらい先生は「ヲコ幻想」のようなあやしげな言葉は使えない。だから「異性の意識でしか存在しない幻想性の領域をさす」といういい方になるのである。　吉本がいっている「動物生」は自然本能と言い換えてもいいと思う。「ヲコ幻想」は自然本能ではない、しかしそこから発生したことも事実なのである。　妄想エロジジイのあたいは、「ヲコ幻想」はエロ（スケベ）と芸術の源であると思い込んでいた。しかしそれだけではなく、「夫婦とか、親子とか、兄弟姉妹とか、親族とか」という人間関係を生みだす源にもなっているということである。この『共同幻想論』では「ヲコ幻想」を人間関係の面だけでとらえられている。　吉本隆明が「異性の意識でしか存在しえない領域」を「ヲコ幻想」とよぶといっていたら、この『共同幻想論』はもっとわかりやすいものになっていたはずである。　そのことに関して、呉智英氏の「吉本隆明という『共同幻想』」から引用してみる。　この本で、呉氏が主張していることと、わたしがここでいわんとすることはまったく関係ないが、わたしがなんども書いている「ヲコ幻想」という考え方にとって重要だし、吉本隆明の『共同幻想論』を理解するためにはとても重要なことだと思うので、引用させてもらう。​テープでは、吉本隆明の講演が一旦終わり、質疑応答の時間になった。一人の青年が質問に立った。「えーっと、先程の吉本さんの話にあった共同体のあれですけどぉ、人間は猿から進化したわけですから……」。その時、吉本は質問者を制するように言った。「人間は猿から進化していません」。会場は小さく沸いた。青年は臆することなく再度口を開いた。「いや、あのう、そもそもはアメーバから進化し……」またも吉本は青年を制して言った。「アメーバからも進化していませんよ」。会場は大きく沸いた。そして吉本は進化論の話ではなく、共同体がどうのこうのという話を再説し始めた。　この吉本隆明の発言は進化論否定説を述べたものだろうか。そうではない。人間は猿から進化したわけではなく、アメーバから進化したわけではない、という正確な進化論を、きわめて不親切、不十分に述べたのである。我々は日常的に、人間は猿から進化しアメーバから進化したといっている。正確には、人間と猿は同じ祖先を持つのであり、しかし、それは我々から見れば猿としか言いようのない生物である。そうであれば、日常会話で人間は猿から進化したといったとして、言下に否定し去らなければならない妄説ということにはならない。アメーバについても同様である。（吉本隆明という「共同幻想」p270～271）​　「対幻想論」の中から、この引用に関する部分だけを、引用してみる。​人間は猿から進化したわけでないし、人間生の本質は動物生から進化したものではない。（p397）　この前後に、猿から進化したわけではないという、説明が入るのだが。　吉本隆明が講演でこの箇所の話をしたのなら、質問に立った青年はまったくとんちんかんな質問をしたことになる。そうでないとしたら、〈対幻想〉と吉本が名づけたことの意味がまったく解っていない。まあ吉本は青年に対して、「ぼくの『共同幻想論』を読むより、グラビアアイドルの写真集でもながめたほうが、〈対幻想〉についてよくわかるよ、猿はそんなものを見ないから」といった方が親切である。猿から進化した、そうではないということを頭に入れながら、エロ写真をながめていたら、吉本のいう〈人間生の本質〉というものがわかったのではないかと思う。　​吉本隆明はもちろん進化論否定者ではない。日常会話で「猿から進化し……」を聞いても言下に否定したりしないだろう。　「人間は猿から進化する過程で道具を使うようになり……」も否定はしないだろう、ただ人間になったといことで、もっと重要なのは目の前にないものを想像することができるようになった、ということである。

  2020.09.15

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン22

  ㉒　　　対幻想論　​​〈家族〉という概念の発生について、きわめて鋭い考察をしめしたのはフロイトの「集団心理学と自我の分析」であった。フロイトはモルガン―エンゲルスのように原始集団婚をはじめに想定せずに、ただひとつ「原始群族の父祖」という概念をはじめにもうけている。この「父祖」は原始的な集団の息子たちには理想でもあり同時に畏怖の対象でもあった。つまり禁制（タブー）の対象になる両価性の条件をもっていた。そこで息子たちは団結してこの「父祖」を倒した。しかしそのあと息子たちの誰かひとりが「父祖」に肩代わりしても不安定で、争いがたえないので、息子たちはたれもじぶんが「父祖」になるのを断念して、そのかわり禁制の対象である条件をもった物（たとえばトーテム）で「父祖」を象徴させるようになった。しかし息子たちは「父祖」でありたいという願望を圧殺することができなかった。そこで共同の集団のなかでではなく〈家族〉のなかで「父祖」としての位置を満足させるようになった。この〈家族〉は、一対の男・女さえあればそれだけで集団の共同性とちがった位相にとじこもったより古い時期の〈家族〉とは意味がちがっている。集団の共同性にたいして、はっきり固有の位置づけと根拠をもった〈家族〉である。フロイトによれば、こういう意味の〈家族〉をつくった息子たちは「父祖」を倒した時代にできた女性の支配を破壊し、その償いとして母性神化をみとめえた。（p389）​​　ここでどんな組織を想定しようと、どんな人間関係を想定しようとも「ヲコ幻想」という事実からはのがれられない。もっと露骨ないい方をすれば、「ヲコ革命」である。動物とおなじような機能でありながら、人間を動物とここまで違う存在にしたのだから革命とよぶよりしかたない。革命というのだから、多くの犠牲をともなったのも事実であろう。　フロイトやエンゲルス、へーゲルといった大先生や、吉本先生はわかっていても「ヲコ幻想」というような下品な言葉は使はない。それだから、からまった糸のように論理の糸口がみえない。ここで論じられていることも、個人と個人（男と女）の問題ようにみえて、組織（共同体）の問題であるように扱われている。確信的な証拠が見当たらないから、状況証拠だけで犯人を追い込もうとしている刑事みたいである。​フロイトが集団的な心理を考えるのにいちばん苦心を払ったのは、エンゲルスと同じように、どのように集団の心（共同幻想）と男・女のあいだの心（対幻想）とを関係づけるかという点であった。人間がある最古の時代に、集団を組んで生活しながら、男・女としてそれぞれ〈性〉的にも組んでいたとするなら、このふたつの場面で人間はどうじぶんを使いわけているのか。そしてその使いわけにはどんな関連が存在するかということである。（p390）​　男（オス）と女（メス）の関係が〈性〉だけであれば「ヲコ幻想」にならない。〈性〉的になってはじめて「ヲコ幻想」はあらわれる。襲う男（オス）と襲われる女（メス）というだけであれば、人間としての成立はなかった。ただのサルの変種で終わっている。いまここに、われわれは人間として存在していないということになる。　最古の時代から何百万年の時間がある、そのどこかでパンツをはいた。ただ隠すということ、これが「ヲコ幻想」のはじまり。ただ隠すものに、それさえに幻想性がうまれた。これが人間のかしこさ、ずるさ。これによって、ヒトはサルの変種から人間になった。　​いちばん簡単なのは、エンゲルスのように最初に原始集団婚を想定することである。（p390）​　「原始集団婚」の想定。なんだか宗教団体の集団婚のように、整然とした結婚式をイメージしていしまうが、そんなものではないだろう。襲うか、襲われるかの世界である。籍を入れることも、結婚式もない。​​フロイトはこれとちがって一人の集団の「父祖」と多数の息子たちという概念から出発した。​（p390）　​これまた、この言い方では、宗教のグル様と信者たちみたいな感じになる。そんな区別がつけられる世界ではない。力の強いものが多くの女（メス）を手にいれる、そいつが弱ったら、それに代わる力のあるものが出てくるというだけの世界である。親子関係を示す謄本があるわけではない。　​〈対なる幻想〉を〈共同なる幻想〉に同致できるような人物を血縁から疎外したとき〈家族〉は発生した。（p390）​　人類が誕生してから、今日に至るまで600万年とかいわれている。少なくとも5万年前ぐらいまえでは、ここでいわれているような〈集団婚〉とか〈父祖〉とか〈家族〉とかいう概念的なものはなかったのである。「ヲコ幻想」だけで、女対男、男対男、女対女の関係はできていたのである。定住農耕の生活がはじまるまでは、集団生活はあっても、「共同幻想」や「対幻想」はなかったのである。　定住農耕以後に、「私有幻想」がうまれ「共同幻想」ができたのである。それに対応して「対幻想」がでてきたのである。　フロイトやエンゲルスの論では、このへんの時間軸がよくわからないと、わたしは感じる。

  2020.09.14

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン21

  ㉑　　　母性論3​ところで一対の男・女のあいだに性交が禁止されるためには、個々の男・女に禁止の意識が存在しなければならない。そしてこの禁止の意識は〈対なる幻想〉の存在を前提としている。〈対なる幻想〉は〈性〉的なものであっても、性交的なものとかぎらないことは、人間の性交が動物的なものであっても、同時に観念的（愛とか憎悪とか）でありうるのとおなじであり、同じ程度においてである。（p386）​　これが「ヲコ幻想」である。もちろんこの幻想には（愛とか憎悪とか）が含まれている。ここで吉本隆明がこれを「ヲコ幻想」とよぶといってしまってもいいのだが、そういってしまえば、あまりにもエロのイメージがついてしまう。あくまでも「対幻想」の一環としての「ヲコ幻想」なのである。「対幻想」の横軸が〈夫婦〉であるなら、縦軸が〈姉妹〉〈兄弟〉なのである。それは〈母系〉とか〈父系〉に関係なく、血縁幻想による関係性なのである。この関係性の方が〈夫婦〉より縦（時間性）によって結ばれているから、絆が強いのである。​だがたとえ性交はなくとも〈姉妹〉と〈兄弟〉のあいだには〈性〉的な関係の意識は、いいかえれば〈対なる幻想〉は存在している。そしてこの〈兄弟〉と〈姉妹〉のあいだの〈対なる幻想〉は、自然的な〈性〉行為に基づかないからゆるくはあるが、また逆にいえばかえって永続する〈対幻想〉だともいえる。（p386～387）​　「対幻想」であるが「ヲコ幻想」の弱い関係、たしかにあたいにもそれは実感としてある。​けれどもこのばあいでも同母の〈兄弟〉どうしは〈母〉または遠縁の〈母〉たちが死んだとき〈対幻想〉としてはまったく解体するほかない。（ｐ３８７）​　自分にてらしあわせて考えてみてもまったくそうだと思う。母方の祖母が亡くなって、いとこたちとの縁が切れたし、あたいの母親が亡くなって、年に一度、正月にきょうだい夫婦やその子供たちが集まることも、自分の中では無意味に感じるようになった。それは吉本隆明のいう、「対幻想」の解体ということになるのだろう。​​こうして同母の〈姉妹〉と〈兄弟〉は〈母〉を同一の崇拝の対象としながらも、空間的には四散し、またそれぞれ独立した集団をつくることになる。（p387）​​　こうして世代交代がおこなわれていくのである。あたいのように子供をもたないものは、世代交代の輪を新しく作れなくて、孤独の中に置きやられるのである。それは自己責任というものである。​『古事記』のなかの挿話で、スサノオが死んだ母のいる妣の国へゆきたいといって哭きやまないために〈父〉から追放され（このことは兄弟のあいだの〈対幻想〉の解体と同一である）、しかも同母の姉であるアマテラスと幻想的な共同誓約の〈性〉儀式を交換する。これはこの転化の契機をよく象徴しているようにみえる。『古事記』の挿話ではスサノオは追放されて土着種族系の共同体の象徴的な始祖に転化する。けれどかれは妣の国への崇拝を失うことは共同規範として許されていないのだ。（p388）​　「『古事記』は天皇を中心とする日本の統一の由来を物語る。ふることぶみ。」と電子辞書に出ている。　これは天皇という「私有幻想」の象徴を強化するための手段としてつくられた〈神話〉なのだろう。天皇の手の届くところ（日本といわれる国）はすべて天皇の下に位置づけられるということをいっているのである。

  2020.09.13

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン20

  ⑳　　　母性論2​​​　いうまでもなく、家族の〈対なる幻想〉が部落の〈共同幻想〉に同致するためには〈対なる幻想〉の意識が〈空間〉的に拡大しなけらばならない。このばい〈空間〉的な拡大にたえるのは、けっして〈夫婦〉ではないだろう。夫婦としての一対の男・女はかならず〈空間〉的には縮小する志向性をもっている。それはできるならばまったく外界の共同性から窺いしれないところに分離しようとさえするにちがいない。（p379）​　わたしのエロ頭は「ヲコ幻想」をあまりにも〈エロ妄想〉の方に引っ張りすぎた。人間にしかない「ヲコ幻想」には、もう一つの面があるということである。それは家族の絆というようなものである。夫婦にはない血縁関係が信頼の担保になっているのである。それにしても夫婦は「外界の共同性から窺いしれないところに分離しようとさえするにちがいない。」とはどういうことか、昨今のDVや子ども虐待は外界の共同性から窺いしれないところで起っているということか。これらは「私有幻想」を外界で拡大できないちんけな男が、嫁や子どもを私物化して暴力を振るうということである。「ヲコ幻想」と「私有幻想」が空間的に縮小した結果？ということなの。ヘーゲルが鋭く洞察しているように家族の〈対なる幻想〉のうち〈空間〉的な拡大に耐えられるのは兄弟と姉妹との関係だけである。兄と妹、姉と弟の関係だけは〈空間〉的にどれほど隔たってもほとんど無傷で〈対なる幻想〉としての本質を保つことができる。それは〈兄弟〉と〈姉妹〉が自然的な〈性〉行為をともなわずに、男性または女性としての人間でありうるからである。（p379）​​　北の独裁者のNo.2は妹である。兄は追放されたし、嫁は出てこない。兄には権力を奪われる可能性があるし、嫁に権力の一部を握らすと、別の「私有幻想」集団（嫁の家族筋）がでてきそうで、わずらわしい。妹なら、こういった面倒な問題は発生しない。「ヲコ幻想」をともなわない「対幻想」がなりたち「私有幻想」を共有できるからである。安定関係を保ちやすいということである。一般論でいえば、妹に伴侶ができればこの関係は崩れる。​そこで未開の段階のある時期に、女性が種族の宗教的な規範をつかさどり、その兄弟が現実的な規範によって統治したことがあったと想定できよう。また〈母権〉制社会をかんがえれば、種族の女性の始祖が神権と政権を一身に集中した場合も想定できるはずである。（p382）　"そこで"といっているのはアマテラスとスサノオの神話を引用し、その内容を指している。男（弟）が女（姉）の統治権（私有権）を奪い。（姉）は宗教（神と結びつく人）として「私有幻想」の手段に押しやられるのである。「種族の女性の始祖が神権と政権を一身に集中した場合も想定できる」が長くは続かなかっただろう。「私有幻想」を拡大（これには守ることも含まれる）するには武力が第一である。いうまでもなく、これは女性よりも男性の方がはるかに得意だった。　「ヲコ幻想」の暴走を防ぐということで、女性はみずから自分たちのからだに禁制をもうけた。そしてこの禁制を利用して、男をコントロールしたのである。このことが〈母系〉とか〈母権〉とかということである。なんでパンツというめんどくさいものを穿くようになったのかということである。　次に、〈イザイホウ〉という南の島の儀式が取り上げられている。わたしはこれがなにを意味するかわからない。ただ、吉本のいう次の言葉に反応するだけである。​水田稲作が定着する以前の時代の〈共同幻想〉と〈対幻想〉との同致する〈母系〉制社会の遺制を想定しることはできる。（p384）​　直立二足歩行から狩猟採集民時代までは、「ヲコ幻想」を中心とした〈母権〉であり、定住農耕以後は「私有幻想」を中心にした〈父権＞であるということである。

  2020.09.12

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン19

  ⑲　　　母性論　この〈母性論〉はかなり「ヲコ幻想」に接近している。　​​人類の共同性がある段階で〈母系〉制の社会をへたことは、たくさんの古代史の学者にほぼはっきりと認められている。そしてあるばあいこの〈母系〉制は、たんに〈家族〉の体系だけでなく〈母権〉制として共同社会に存在したことも疑いないとされる。（p375）​​　〈母権〉制は人類の共同性のある段階で発生したのではない。人類（少なくともサピエンス）が直立二足歩行を始めたとき、〈母権〉制は発生していたはずである。でないと人類は滅んでいた。これが「ヲコ」の幻想化のはじまりであり、人類と他の動物を分ける決定的な要因である。　吉本隆明はエンゲルスの『家族・私有財産及び国家の起源』から引用して、エンゲルスの〈嫉妬〉に関する考えを一蹴している。​人間は歴史的などの時期でも、かつて男・女として〈嫉妬〉感情からまったく解放されたことはないのである。せいぜいうぶな男〈雄〉の方が、さんざん女遊びをやっている遊治郎より異性に対する〈嫉妬〉感情は大きという事実が眼のまえにみられるだけである。(p376)​　自分自身のことをかえりみれば、自意識過剰で内向的性格であったあたいは、この〈嫉妬〉の感情にとらわれすぎていたのである。だからこのトシになって、その反省と言い訳から、この「ヲコ幻想」という観念にたどりついたのである。​この問題はエンゲルスのいうようなものにはならない。人間が動物とおなじような〈性〉的な自然行為を〈対なる幻想〉として心的に疎外し、自立させてはじめて、動物とはちがった共同性（家族）を獲得したのである。人間にとって〈性〉の問題が幻想の領域に滲入したとき、男・女のあいだの〈性〉的な自然行為とたとえ矛盾しても、また桎梏や制約になっても、不可避的に男女の〈対なる幻想〉が現実にとれるすべての態様があらわれるようになった。そこでは男・女がたがいに〈嫉妬〉しようが〈許容〉しようが、ある意味では個々の男・女の〈自由〉にゆだねられるようになった。（p376～377）​　「〈対なる幻想〉として心的に疎外し、自立させた」、これがわたしのいうところの「ヲコ幻想」なのである。ただわたしの考えでは、動物とはちがった共同性（家族）を獲得したとはならないのである。​​それに動物と違った価値をつけたのである。このつけられた価値が、さまざまな芸術、そして犯罪を生むのである。　動物と同等の〈ヲコ〉、それにそれ以外の価値がつけられる、それが「ヲコ幻想」なのである。それには男（オス）と女（メス）、男と男、女と女、それぞれの要因がからんでいる。たった〈ヲコ〉ひとつから、これだけたくさんのことが引き出されるものだと、感心するしかない。人間の脳の大部分はこれによって発達したのである。　やっぱり、エンゲルスがいうところの、嫉妬からの解放というのは無理がある。むしろ男性どうしの嫉妬心を女性が利用することで母権制ができあがったといえる。直立二足歩行をはじめることで、人類が成立して、それから定住農耕民になるまでのあいだは、だいたいにおいて女性がイニシアティブを握っていたのである。そうでないと人類は存続できなかったはずである。男性がそれにとって代わるようになったのは、定住農耕の生活が安定して、「私有」という意識が芽生えてからである。女は男の〈所有物〉になり下がった。それは今日まで続いている。ほんとうにごく最近それを覆そうという動きは出ているのだが、結果はまだまだである。もちろん少子化というのもこの動きと無縁ではない。女性にとってだれが敵で、だれが味方かもはっきりしない。

  2020.09.07

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン18

  ⑱　　祭儀論3　「私有幻想」の拡大がある一定の水準まで達し、およそ国という形ができたとき、「私有幻想」は「ヲコ幻想」を手段として取り込むことになる。　ここで引用されている「古事記」の伊邪那岐（イザナギ）と伊邪那美（イザナミ）の説話や、豊玉姫（トヨタマヒメ）の説話は「ヲコ」を幻想化さすために、出産という対幻想にかかわる行為を遠ざけて、「ヲコ幻想」を共同幻想に引き上げているのである。​　男のほうが〈死〉の場面でも〈生誕〉の場面でも、場面の総体からまったくはじきだされる度合いは、女が〈性〉を基盤にした本来的な対幻想の対象から、共同幻想の表象へと変容する度合いに対応している。（ｐ３６４）​　男に関係なく、女の〈ヲコ〉が幻想性を強化されたかたちで、支配者の共同幻想の中に取り入れられるのである。このとき重要なのは「ヲコ幻想」が価値を持つということである。権力者が支配を維持するため、男のはたらきの対価として与えるのである。　古代ではどの地域においても、女性が生贄になったという話がある。これは「ヲコ幻想」が〈神〉にひってきする価値があるものだということである。ここでの「古事記」の話や、「古代メキシコの母子神」話も、「ヲコ幻想」が生活必需品の穀物と同じ価値があることを示しているのである。だから〈生誕〉とか〈生む〉とか〈子〉の成長とかは一切関係ないのである。吉本先生は「ヲコ幻想」という概念がないから、女性を道具としてしかみえてないのである。​​ 　民族的な農耕祭儀では、〈田神〉と農民とはべつべつであった。世襲大嘗祭では天皇は〈抽象〉された農民であるとともに〈抽象〉された〈田神〉に対する異性〈神〉としてじぶんを二重化させる。だから農耕祭儀では農民は〈田神〉のほうへ貌をむけている。だが世襲大嘗祭では天皇は〈抽象〉された〈田神〉のほうへ貌をむけるととともに、じぶんの半顔を〈抽象〉された〈田神〉の対幻想の対象である異性〈神〉として、農民のほうへむけるのである。祭儀が支配的な規範力に転化する秘密は、この二重化のなかにかくされている。なぜならば、農民たちがついに天皇を〈田神〉と錯覚できる機構ができあがっているからである。（p371）​　支配者がいかにして農耕民を「私有幻想」に取り入れるかあらわしている。農耕民の代表という顔と農耕の神という顔を見せるのである。これが支配者側の「共同幻想」である。　これに関する宇田亮一氏の解説を引用する。​第二段階から第三段階への農耕祭儀の高度化（抽象化）には重大な意味があります。それは、天皇制が二千年たらずの歴史にもかかわらず、それ以前の数千年にわたる農耕儀式の歴史を、言い換えれば、国家成立以前の農耕儀式をそのまま引き継いだということです。つまり、大嘗祭によって天皇制は前古代社会（原始農耕社会）からの農耕祭儀をそのまま引き継いでいだのです。ここに天皇制が"万世一系"の共同幻想として確立するのです。見事な儀式の構成の仕方というほかありません。　前章で、日本における共同幻想の際立った特色が〈祭祀、儀礼、宗教を通じて上位・下位の共同幻想が強く結びつくことにある〉と述べましたが、今、ここでみた第三段階の農耕祭儀がこの実例です。〈上位の共同幻想が下位の共同幻想を壊すことなく、そのまま組み込む〉ことが農耕祭儀の構成の仕方に具体化されているのです。　近代主義者は「日本民族が"万世一系"ではない」科学的な事実を示すことができれば、"天皇制"の根拠を簡単に崩せると考えますが、吉本さんは「天皇制を甘く見ちゃいけないよ」と言っているのです。というのは、天皇制は前古代社会（原始農耕社会）の歴史を祭儀の中で継承しているからです。以上が「祭儀論」後半の概要です。（p109～110）​　この解説を読むと左の論客としてあらわれた吉本隆明が、右の論客の中心にいるようにみえてくる。そういうことをいうと、「ちがいます。そういう読み方をする人たちを吉本信者と言って、吉本さんが一番嫌うのです」（呉智英「吉本隆明という『共同幻想』」p272から引用）ということになる。　吉本信者といわれるような熱心な吉本ファンは今でもいるのだろうか。このまえnhkの100分で名著という番組で『共同幻想』が取り上げられていたから、信者は別としても、まだ熱心なファンはいるのだろう。​​それまでわたしが漠然ともっていたイメージでは、国家は国民のすべてを足もとまで包み込んでいる袋みたいなもので、人間はひとつの袋からべつのひとつの袋へ移ったり、旅行したり、国籍をかえたりできても、いずれこの世界に存在しているかぎり、人間は誰でも袋の外に出ることはできないとおもっていた。（p257角川文庫版のための序）​​　この袋のイメージは天皇（制）であることが農耕祭儀の文章からうかがい知れる。西欧の国家のイメージは社会のうえに聳えているというイメージであるという。ヨーロッパは常に国境が変わったり、国王がが変わったりしていたから、国民をすっぽりいれる袋ではなく、国民の上にそびえ立つ権力であるということか。日本は四方を海に囲まれている。これも袋の役割をはたしてきたのかもしれない。　ここでいわれているのは天皇（制）は権力的ではなく、宗教的だということである。天皇（制）は倒すべき対象ではなく、担ぐものなのである。これは平清盛に始まって、鎌倉幕府によって確立されたのである。徳川家はかしこくこれを守ったのである。明治維新では薩長と岩倉がずるがしこくこれを利用したのである。ただそのつけは権力を握った者に重くのしかかった。担いだ神輿は簡単におろせなくなったのである。日本の農耕の象徴としてかたすみにあったものが、いきなり近代日本の象徴になったのである。初めての日本国憲法というのができて、そのど真ん中に置かれ、多くの権力を押しつけられたのである。「甘く見ちゃいけないよ」なんていう甘いものではない。近代国家を目指す日本国民の象徴としての神、国を動かす多くの権限を持つ権力者。現人神、ひととしては国の最高権力者、かみとしては国民の共同幻想の最大の象徴。甘くない、甘くない、半島のドンなんかよりよっぽど怖い存在であったはずである。明治、大正、昭和の天皇は皇紀史上、最高、最大の力をもった存在ではないのだろうか。（日本史、ましてや近代史なんかろくすっぽ勉強していない、あたいのような者が論ずることではないが）　現行の日本国憲法第一条で「天皇は、国民の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の在する日本国民の総意に基ずく」となっている。いまの日本は平和だから、令和天皇は平和の象徴であるといえる。しかし、もし戦争にでもなろうものなら、戦争の象徴になってしまう。心優しい令和天皇は、そのことを危惧されているのではないかと、終戦記念日のお言葉を聴いて、あたいは考えてしまった。

  2020.09.06

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン17

  ⑰　　　祭儀論2　わたしはあたいのエロ頭から「ヲコ幻想」という概念を引き出している。ただ吉本先生はそんなエロ頭は持ち合わせていないので、そのあたりのことで苦労している。　宇田氏は別のページで、吉本の文を引用している。いまそれをまたここに引用してみる。​​​​　吉本さんは、『心的現象論』の中で「児童期という発達段階は動物にない奇妙な発達段階である」として、〈児童期〉について次のような疑問を投げかけます。​　なぜヒト（人間）は自然な性的な発現力が萌し、噴き出しはじめる時期に、それを弾圧し、禁欲的な規律のもとに技術、知識、道徳などを学習する時期を持たなくてはならないのか、それは根底からヒト（人間）の子どもにとって必要なものなのか、それともほんとうは近々１、２世紀のあいだに風習となったたんなる制度の産物なのか？　またこの時期に発見される、乳児期に次ぐ重要な心的な世界の揺れ、異常、疾病（それにともなう家庭内暴力、学校暴力、近親者から受けとる性的な外傷）は、性的な抑圧と禁欲的な学習と​​​​かかわりがあるのか？こういう疑問だといっていい。（『心的現象論』本論　原了解以前4）　ここで吉本さんは、児童期を古代社会の精神構造になぞらえる必然の発達段階なのか、それとも近代が生み出した単なる制度的な段階なのか、よくわからないというスタンスをとっています。（p153～154）​　ヒトは自然的な発現力を萌芽するのでなく、不自然に性的な発現力を萌芽するのである。だからパンツを穿くのである。「パンツをはいたサル」は栗本慎一郎の本の題名だった。　パンツを穿かないと危険だから穿いた。穿いた理由を子どもに教えるのは危険だから教えられない。もうひとつはそこに価値をつけて幻想化したから、その価値を下げたくないという理由。もう何百万年も前から、児童期は禁欲的であったのだろう。そうして「ヲコ幻想」を育ててきたのである。そういうことで、児童期が古代社会の精神構造になぞらえるのではなく、必然的に古代社会に現れたのである。　しかし、性的な抑圧と禁欲的な学習の期間が、なぜこんなに長いのかわからない。人間の寿命が延びれば伸びるほどこの期間が長くなっている。いまでは大学出るのは当たり前、大学院を出てから就職する人もけっこういる。サルの世界ではアカンボウ、ワカモノ、オトナという世代わけになっている。ヒトはその間にコドモというのをいれても、その期間が長すぎる。これはやっぱり「私有幻想」と関係しているのか、よくわからない。よい「私有幻想」、よい「ヲコ幻想」を得るためのがまんする期間ということなのか。自分のこどもは「よい私有幻想」、「よいヲコ幻想」ここは「対幻想」といいかえてもいい、を持たなくてはいけないという共同幻想を母親が持っているのだろう。子どもを育てるのも母親の役目だから。

  2020.09.03

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン15

  ⑮　　　他界論4​​​​　この他界論で「共同幻想」という言葉が多く出てくる。「共同幻想」というのが本書メインテーマであるから、吉本隆明が「共同幻想」という概念をどう確立していくかそれを追わなければならない。​​​​もちろん、六十歳をすぎた存在の老人が、村落共同体の共同利害と矛盾するからである。農耕にかける老人の労働力うみだす価値が、その再生産の過程に耐えないからである。……個々の老人は、村落共同体から共同幻想の〈彼岸〉へ生きながら追いやられたとき、かならず、〈家〉の対幻想の共同性から追いやられたはずである。そして〈家〉からおいやられるには、老人の存在が〈家〉の利害関係と矛盾しなけらばならない。身体的にいえば〈家〉の働き手として失格していなければならない。………いうまでもなく、対幻想として特異な位相を保ちえなくなった個体は、自己幻想の世界に馴致するか、村落の共同幻想に従属するほかに道はない。（P353～354）​　いうまでもなくこれは現代でも同じだ。寿命が延びた分年齢が上がっているが、働く力のなくなった者は「自己幻想」の中に埋没するか、地域社会という「共同幻想」に居場所を見出すかである。間違ってもわずかな退職金と少ない年金で、「私有幻想」拡大の夢に走らない方がいい。その市場の餌食になるだけだ。こういうあたいも70越えをして〈仕事〉にしがみつき、かろうじて「対幻想」を維持しているのである。子供のいないあたいは〈仕事〉をやめると、そく「対幻想」をなくすことになる。そうなれば「ヲコ幻想」に埋没するエロじじいになるしかない。そして孤独死するのである。どちらにしても「他界幻想」などもてずに、​​​死んだら死にきり​​​、葬式も墓もいらないのである。　近年、葬儀を簡略にするという風潮になっている。これは現世の「対幻想」が来世の「共同幻想」を凌駕しているのか、そうではなく我々の生活が都市化することによって共同体意識が薄らぐことによる現象なのであろう。ただ、個人の〈死〉を「共同幻想」から「対幻想」の方に取り返したともいえる。それが〈他界〉というあの世幻想を消滅させることになるのか、むつかしいところである。​​​真に〈他界〉が消滅するためには、共同幻想の呪力が、自己幻想と対幻想のなかで心的に追放されなければならない。　そして共同幻想が自己幻想と対幻想のなかで追放されることは、共同幻想の〈彼岸〉に描かれる​​共同幻想が死滅することを意味している。共同幻想が原始宗教的な仮象であらわれても、現在のように制度的あるいはイデオロギー的な仮象であらわれても、共同幻想の〈彼岸〉に描かれる共同幻想が、すべて消滅しなければならぬという課題といっしょに、現在でもなお、人間の存在にとってラジカルな本質的課題である。（p358）　共同幻想の呪力は「私有幻想」でできている。「私有幻想」は〈個人〉の欲望から成り立っている。「私有幻想」に変化がないと「共同幻想」は変われない。　現在でいうなら、「私有幻想」の権化みたいなアメリカ大統領トランプ氏、それに張り合う中国の習主席、それに追従するロシアのプーチン大統領。かれらがトップにいるかぎり、「私有幻想」の拡大はおさまらない。われわれもそれに追従しなければ、私有拡大の餌食になってしまう。そういった恐怖がわれわれにつきまとっているのである。われわれ日本はアメリカに追従するより術がないのである。そういった意味合いでは安倍政権は正しかったのである。いま安倍さんは辞任したのだが。　「私有幻想」が膨張しつづけて、やがて爆発したらどうなるのだろう。どこかに核爆弾が落ちるのだろうか、ニッポンあやうしである。そこで「私有幻想」拡大が止まる。そしてまた年月を置いて、またはじまる、それの繰り返しである。　みんなが本気で天国や浄土を信じきれれば、「私有幻想」の拡大は止まる。〈他界〉が〈天国〉か〈浄土〉であるならば現世の「私有幻想」はなくなり「共同幻想」は消滅する。しかし〈欲望〉をエネルギーにして生きているわれわれは、欲望のない世界はつまらんとどこかで思い込んでいる。まあ、〈天国〉〈浄土〉が「私有幻想」拡大の手段として発明されたのだから、こんなことを考えるのは、将棋で二歩を指すようなもんだ。　もうひとつは、この宇宙に人間が住める星があるかである。その星に先住星人がいなければなおよしである。すきなだけ私有化すればいい。そうすれば「私有幻想」が消えてしまう。しかし、これも天国や浄土と同じ考え方だと気づく。「ヲコ幻想」や「私有幻想」が人間存在の根底をなしているかぎり、「自己幻想」と「対幻想」の先に必ず「共同幻想」があらわれる。ということは吉本先生のいうように「自己幻想」、「対幻想」は「共同幻想」と逆立するのだろうか。　人間がもし、不死の存在になったらどうなるのだろうか。あらゆる幻想性はなくなり、他の動物とおなじようになる。つまり人間以前に戻ってしまう。二足歩行もやめちゃうのかな。そのときはAIロボットが世界を席巻している。かれらには「ヲコ幻想」がないので、なにをもって統治のルールを作るのだろうか。　設我得仏　十方衆生　至心信楽　欲生我国　乃至十念　若不生者　不取正覚　（NHK こころをよむ　仏典　付属テキスト『大無量寿経』p149 中山元）

  2020.08.31

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン14

  ⑭　　　他界論3　小さな虫をたたき殺そうとしたとき、虫が逃げるのはなぜだろう。死の恐怖をかんじているからだろうか。生存するものの本能として必ず死の恐怖はあるのだろうか。そして、小さな虫は肉体的な死は自己の存在のすべての終わりと、わかっているのだろうか。かれらは霊魂の存在をしらない。　なぜ人間は霊魂の存在をしることができたのだろう。　「私有幻想」拡大の最大の敵は死である。多くの敵を死に追いやった王であっても、自分の死に対する勝利の方程式はみいだせない。これは王だけでなく一般の人も同じことである。唯一これに対抗できるのが、不死である。「私有幻想」拡大の成功者は不死を得んとして、最大の努力をはかってきた。しかし、これを完璧に成し遂げたひとはだれ一人としていない。（当然ながら幻想としてはそういうひとはいるだろうが）　科学技術、医療技術の進歩によって、不死は完成させられる。肉体のほとんどが人工のものに変わったとしても、自分が自分であると連続して意識できるひとは、個人として存在できる。そして「自己幻想」のなかで個人の物語は変化していくから、ここでも個人とは何かとい哲学的な命題はついてまわる。　〈死〉、肉体が動かなくなる。それは初原の人間にとっても悲しい出来事であったのだろう。初原の人間にとって、死んだ人間の肉体は食べなかったとしても、それをエサにして他の動物を狩るというようなことをしたのだろうか？そんなことはどこにも書かれていない。集団移動生活の中で、個と他の結びつきが強くなって、他の〈死〉が悲しいものとなり。それを何らかの形にすることで、悲しみが癒されることになる。ひととしての早い段階で、肉体が死んでも霊魂は生きているというふうに考えていた。肉体と霊魂、人間は早い段階で、人間そのものをこの二面でとらえることができた。死んだひとの心は霊魂であるが、生きているひとの心は精神である。肉体は有限であるが、精神は無限であるかのようにみえてしまう。世間は犯罪者の心の闇などといういい方をするが、そんなもんがあるのだろうか。「自己幻想」や「対幻想」そして「共同幻想」のちょっとしたずれがあるだけである。ちっぽけな嫉妬心と執着心それだけである。　つまるところは「ヲコ幻想」と「私有幻想」の幻滅だけである。

  2020.08.30

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン13

  ⑬　　　他界論2　太平洋戦争における大敗によって、日本という「お国」は、戦争による「私有幻想」拡大をあきらめざるえなくなった。戦争後は軍隊を表面に出さないで、「私有幻想」を拡大させることに成功した。この平和を前面にして「私有幻想」を拡大するという方法は日本のGDPの飛躍的な伸びもあって、世界に注目された。そして、これをまねて追従する国が多く出てきた。日本国は世界平和に貢献できたかのようにみえた。しかしここにきて、風向きが変わってきた。軍事力を前面に押し出して、「私有幻想」を拡大するという帝国主義が幅を利かせるようになった。　「赤信号みんなで渡ればこわくない」（ツービート）ではないが「核兵器みんなで持ったらこわくない」である。サピエンスは核兵器に頼らなくては生きていけない種になってしまった。　われわれの日常はすっぽり核兵器につつまれて、ある。一杯のコーヒーも核兵器に感謝して飲まなければならない。ありがとう核兵器、おまえのおかげで、あたいは戦場にいかなくてすんだ。もう少しであたいの一生も終わるよ、だからお願いもう少しがまんしておくれ、そのあとは“”ドカーン“”と派手にやりなよ。　敗戦よりあとの日本と国民は、〈平和〉であることが「私有幻想」拡大の条件であると信じようとした。またそうしてきた。しかし、それができたのは戦勝国であるアメリカが、原子力爆弾という狂気の兵器を使って、多くの日本の生活者を殺したという負い目があるからである。これはアメリカ人の「共同幻想」である。だから日本の経済による「私有幻想」拡大にある程度目をつむったのである。　日本が近隣国に対して戦争責任を完了させたと考えるように、アメリカの「共同幻想」の負い目もなくなったのである。　次は朝日新聞の連載小説から引用。​​　普通の国民にとって、ただ受難でしかなかった戦争が終わったというのが正直な思いなのだろう。戦争が終わった。一昨年の八月十五日の青空はようやく終わったという安心感のしるしだった。負けを認めたくなくて何年も引きずったあげく、何百万もの臣民を死に追いやったあげく、戦争は終わった。海外に送り出された兵たちが帰ってくる。兵ではなく夫として、父として、息子として復員してくる。（「また会う日まで」25　池澤夏樹）​　共同幻想としては兵である。対幻想としては、夫であり、父であり、息子てある。死んだものは英霊として共同幻想に残るしかないのである。

  2020.08.29

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑫

  ⑫　　　他界論​　われわれは〈死〉の意味づけを必要としている。社会的な共同利害とまったくつながっていない共同幻想はかんがえられるのだろうか？共同幻想の〈彼岸〉にまたひとつの共同幻想はおもい描くことができるだろうか？（p345)　他界論の最初のこの文章を読んで思うのは、天国はだれが創ったのだろうか、浄土はだれが造ったのだろうかということである。神、イエス・キリスト。阿弥陀仏（法蔵菩薩）、ゴータマ・ブッダ。これらは〈彼岸〉に〈此岸〉からおもい描く共同幻想の代表であるといえるであろう。　なんのために、だれのために「天国」や「浄土」はつくられたのか。わたしの考えではこれらは、「私有幻想」拡大の手段として、此岸の共同幻想ののうちにつくられた。　吉本隆明はハイデガーの『存在と時間』から引用して、次のようの述べている。​　しかしハイデガーの考察のうち、ここで拾いあげたいとおもうのは、〈死〉が人間にとって心的に〈作為〉された幻想であり、心的に〈体験〉された幻想ではないということだけである。（p347）だから現代的な〈他界〉にふみこむばあいでさえ、まず〈死〉の関門をくぐりぬけるほかないのである。（p345）　死の扉は自分の手では開けられない。自死者といえども、自分の手で扉を開けたわけではない。自死者は吉本流にいえば共同幻想に抹殺されたということになる。​だから 〈死〉は想像の世界の中にしか存在できない。科学技術やAIが発達して宇宙を征服できたとしても、死後の世界を征服することはできない。せいぜい不死の技術を発展させて、死後の世界を遠ざけるだけである。​人間は知人や近親の〈死〉に際会して悲しんだり、じぶんの〈死〉を想像して怖れたり不安になったりできるように〈死〉は人間にとって心の問題としてあらわれる。人間の生理的な〈死〉が、人間にとっての心の悲嘆や怖れや不安としてあらわれるとすれば、このばあい〈死〉は個体の心の自己水準にはなく、想像され作為された心の体験の水準にならなければならない。そしてこのばあい想像や作為の構造は、共同幻想からやってくるのである。人間にとって〈死〉に特異さがあるとすれば、生理的にはいつも個体の〈死〉としてしかあらわれないのに、心的にはいつも関係についての幻想の〈死〉としてしかあらわれない点にもとめられる。もちろんじぶんの〈死〉についての怖れや不安でさえも、じぶんのじぶんにたいする関係の幻想としてあらわれるのだ。（p347）　現代の〈死〉に対するわれわれの考えている水準をよくいいあらわしている。じぶんの子孫を残したい、財産があれば子供に残したい。少しでも現世に生きた痕跡を残しておきたいと思う。死後の世界がどんなところか本当のところはわからない。死んだら何も残らない、肉体の消滅ですべてが終わる。ただなにも残すものがなくとも、近しい人の心のうちに少しでも残っていたいという自己幻想はある。​​ここまできて、わたしたちは人間の〈死〉とはなにかを心的に規定してみせることができる。人間の自己幻想〈または対幻想〉が極限のかたちで共同幻想に〈侵蝕〉された状態を〈死〉と呼ぶというふうに。（p348）　〈死〉も「私有幻想」拡大の手段として利用されるのである。一個人の肉体的な消滅を、それだけで終わらせないところに大きな意味があるのである。古代王の大きな墓や、遺体といっしょに埋葬される装飾品をみるまでもなく、「私有幻想」はあの世まで拡大される。反対に現世でこき使われる奴隷たちには、あの世では「天国」や「極楽浄土」といったような仕合せ幻想が与えられるのである。少しでも権力側に逆らえば、「地獄」という恐ろしい幻想を首からぶら下げられてあの世に送り込まれるのである。​　〈生〉に意味があると考えるなら、〈死〉にも意味があると考えたがるのが人間である。宇宙は無限だといっても、その先にまだ何かあると考えたがるように。「無」も「有」として妄想するのである。　〈英霊〉、なんという素敵な言葉だろう。戦争で戦地でもないところで餓死した人も〈英霊〉である。〈英霊〉は死んだ人の「共同幻想」ではなく、生き残ったものの「共同幻想」なのである。国という名の共同幻想の「私有幻想」に取り込まれた個人の〈死〉の代名詞、反立語は〈犬死〉。　戦場に行った人は自己責任で行ったのではない、国の「私有幻想」拡大ののために行かされたのである。このばあいの「国」には、あなたもわたしも入っている。どんなにあんたやあたいの「私有幻想」が小さくとも、国の「私有幻想」が拡大すればあんたやあたいの「私有幻想」は拡大するのだと信じこんでいる。だから「お国」のためは、親、兄弟、子供のたためであるとなる。「国」に「お」がつけば、あんたも、あたいも「国」と対等ということになるのである。奴隷も死ねば〈英霊〉、なんと素晴らしい言葉なんだろう。

  2020.08.27

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑪

  ⑪　　　巫女論4​『遠野物語』には、この種の共同性愛がやや高度になった形の〈巫女〉譚がある。「　遠野在にまじないで蛇を殺し、木にとまった鳥を落としたりするかくれ念仏者の老女がいた。この老女が語るところでは、昔あるところに貧しい百姓がおり、妻はなくして美しい娘がいた。馬を一頭かっていたが娘は馬を愛して夫婦になった。ある夜これを知った父親は娘に知らせず馬を連れ出して桑の木につりさげて殺した。娘はこれを知り悲しんで、死んだ馬の首にすがって泣いた。父親はこれをにくんで馬の首を斧で切り落したが、たちまち娘はその首に乗ったまま天に昇り去った。」（『遠野物語』69)　これはたくさんのヴァリエーションをもったいわゆる〈オシラサマ〉の起源譚ひとつである。　ここでは巫女の口から、巫女が共同幻想を〈性〉的な対象とみていることが語られている。馬は共同幻想を象徴する動物であり、娘はいわば、仮託された老巫女自身の伝承的なすがたである。老巫女はこれを伝え話としてしっていたにすぎないだろうが、隠れた室で祈祷し、まじないをやるときこういう伝え話に、じぶんの〈性〉的対幻想を融合させる状態をもつにちがいない。（p339）​　かくれ念仏者の老女、巫女としては賞味期限はすぎているが、まだ色気は十分である。それが、蛇を殺し、木にとまった鳥を落とす力があるとということで表現されている。そうでないと、だれもくそババアの話などきかない。　妻をなくして美しい娘がいた。これが醜い娘がいた、では話にならない。　村はずれの、薄暗い小屋に何人かの男が集まる。そこにむかし巫女だったという老女がやってくる。ほの暗い明かりの中で老女は語る。美しい娘とその父親のあやしげな話。美しい娘と馬のいやらしい話。話しに熱が入ると膝を崩して、白い足をチラチラさせる。うすぐらいなかで老女の色気はムンムンと発揮させられる。男たちは膝を乗り出して、耳を傾ける。男の頭は妄想でいっぱいになる。エロ話に結末はいらない。男たちが頭の中でそれぞれに物語を再構築するからである。今の時代のようにAVなんてない。神社の囲われ者から解かれた老巫女は、こうして村落共同体の片隅でその日の糧をえるのである。　しかし「わか」に象徴される口寄せ巫女のばあい、シャーマン一般の修行のような心的な苦痛は存在しないはずである。それは〈性〉的な対幻想の対象として、村落の共同幻想を措定することだから　〈性〉的な幻想の対象として共同幻想を思い描くという〈自然〉に根ざした幻覚の問題があるだけだ。地上的にいえば村落共同体の共同利害と〈家〉の利害の関係だけが巫女にとって現世的な矛盾にすぎないからである。（p344）​　ここまでくると巫女は、宇田亮一のいうような"超自然的な世界（霊的世界）と交信できるような特殊能力（病的な）をもった存在ではなく、〈性〉的な対幻想しか持たない村落共同体は生活基盤を得ることのできない存在であるというしかない。共同体の現実問題としてとらえたなら、この時代の女性は働き手として男より能力が低いということである。それはそのまま価値の問題である。支配層の共同体の幻想にとっては、女の「ヲコ幻想」を価値あるものにすることができた。村落の余剰女はその流れに身を任せるしかなかったのである。たしかに、宇田亮一のいうように「対幻想の対象として共同幻想を選ぶ」ことができる存在は〈女性〉だけだと言える。しかし対幻想の対象として選ぶのは共同幻想の方なのである。霊感的な能力ない女性は受け身にならざるえないのである。​　柳田国男や折口信夫は、村落共同体の政治的象徴であり、同時に祭司であった上代の巫女が、時代がくだるにつれて神社にいつく巫女と、諸国を流浪し、村落に埋もれて口寄せ巫女になって分化する過程を思い描いている。この措定はけしてまちがっていないとおもう。なぜなら、巫女が神社に寄生するか、諸国を流浪して、村落共同体の片隅に口寄せ巫女となって生きるかの二者択一以外の道をたどれないのは、彼女たちが現世的な〈家〉の体裁をかまえるかどうかにかかわりなく、架空の〈家〉をいとなむ〈異性〉として選ぶべき本質をもっているからである。〈巫女〉にとって〈性〉的な対幻想の基盤である〈家〉は、神社にいつこうが諸国を流浪しようが、つねに共同幻想の象徴と営む〈幻想〉の〈家〉であった。巫女はこのばあい現実には〈家〉から疎外されたあらゆる存在の象徴として、共同幻想の普遍性へと霧散していったのである。（p344）　上代の選ばれた巫女は、宇田がいうような交信能力を持っていただろうが、村落の余剰女がなったような巫女にはそんな能力はない。「ヲコ幻想」だけが唯一の価値なのである。それは年齢とともに価値は下落する。下落したとしても彼女たちは「ヲコ幻想」だけを手段として村落共同体の〈家〉と違った場所に生活の場を持つしかない。それは芸能という世界を生み出すことになる。直接生産に関わらない文化として共同体のなかに根をおろしていくのである。村落共同体の〈家〉を捨てたならず者たちも、またこの世界に生活の場を求めてうごめくのである。　「対幻想」の一方のベクトルが〈家〉（ファミリー）であるとするなら、もうい一方のベクトルは「ヲコ幻想」そのものを力とする〈芸能〉（芸術からエロまで）なのである。エネルギー量としてはこちらのベクトルの方がはるかに大きいといえる。しかし、「ヲコ幻想」はサピエンスが誕生したときから、禁制のワッパをかけられたため、まともに論じられることはなかった。この『共同幻想論』においてもそれは同じことである。それゆえに論理の停滞はまぬがれないのである。

  2020.08.23

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑩

  ⑩　　　巫女論3　次に出てくる馬頭観音の話しは、賞味期限の過ぎた巫女がなんとか生きるために、神に仕えた経験を活かして、神や仏のことをあれこれと村人に吹き込むのである。若くして巫女になったのなら、畑仕事や家事のこともできないだろう。村人たちが神や仏を恐れていることを知っているから、おどかしたり、すかしたりして生計を立てていたのだろう。​　『遠野物語拾遺』にあらわれた〈巫女〉譚の位相は、日本民俗譚にあらわれた対幻想と共同幻想の特異な関係を象徴していて、わたしたちをさらなる理論的に誘惑する。(p336)​　〈巫女〉譚が対幻想と共同幻想の特異な関係を象徴しているわけではない。〈巫女〉が上部共同体の神社と下部共同体の村落の境界に位置しているのである。吉本隆明は対幻想を〈家族〉という側面だけでしか見ていないので、〈巫女〉が〈性〉的な意味合いで共同体の幻想にあらわれることが読み取れないのである。〈巫女〉は神社という上部の共同体に属している。下部の村には「ヲコ幻想」としてしかあらわれえない。それが吉本には特異な関係に見えるのである。いまのゲイノウ村のABC集団のように、下部の村民には握手会ぐらいの「ヲコ幻想」で、銭を吸い上げるのである。　つぎに、吉本先生は西欧の〈聖女〉と〈神〉の話をとりあげて、共同幻想と対幻想の共同性を〈性〉的な関係で結びつけようとするのである。しかし「ヲコ幻想」という視点を持たないから、彼の言葉を借りるなら、矢は的に当たっても的を射抜いていないのである。​〈神〉がフォイエルバッハのいうように、至上物におしあげられた自己意識の別名であっても、マルクスのいうように物質の倒像であっても、このばあいにはどうでもよい。ただ自己幻想かまたは共同幻想の象徴にしかすぎないということだけが重要なのだ。そして人間は文化の時代的情況のなかで、いいかえれば歴史的現存性を前提として、自己幻想と共同幻想とに参加していくのである。(p338)​　フォイエルバッハやマルクスという歴史上の有名な哲学者の名前を出して、自己の理論を補強するのはこの先生の得意パターンである。　神は自己幻想か共同幻想の象徴だといいたいのか。なんかあいまいだ、まあ神そのものがあいまいだからしかたがないとしても、なにも言っていないのと同じである。そのあとの文化の時代的情況のなかで……うんぬんも論点がはっきりしない。これでは呉氏に日本語としてなっていないし、中身がないといわれるのもしかたがない。　神は「私有幻想」拡大の道具である。この道具を使うと、鉄砲などの道具を使うより安上がりに大衆を服従させることができる。人間の存在よりもはるかに大きな存在であると見せかけることによって、そのしっぽをつかませないのである。　そのあとの、自己幻想と共同幻想とに参加……も、人間は自己の物語と他の人の自己の物語とのあいだで生きていくのだとしたほうがわかりやすい。　吉本は、〈巫女〉が神社そして長者と村人の境界に「対幻想」として存在するということが明確にできない。それで西洋の話までもちだし、自己幻想と共同幻想にまで話を広げてなんとか〈巫女〉の存在の意味を説明しようと苦闘している。　「対幻想」には〈家族〉これも〈性〉を基盤にしているが、もうひとつ〈性〉的な幻想という意味合いが含まれている。〈巫女〉の「対幻想」としての存在は後者であることはいうまでもない。アイ・ドールなのである。理想の人形は存在しないから、〈性〉的な幻想としてはいつの時代にも存在するのである。

  2020.08.22

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑨

  ⑨　　　巫女論2​　たんに男〈巫〉に対して女〈巫〉というとき　、この〈巫〉には共同的な権威は与えられていない。けれども自己幻想と共同幻想が別物でない本質的な巫女は、共同性にとって宗教的な権威をもっている。そして人間〈史〉のある段階ではその権威が、普遍的な時代があったとかんがえれれてよい。(p334)​　吉本先生の迷走は続く。女性の〈ヲコ〉に権威があるわけではない。「ヲコ幻想」に共同体価値をつけられたのである。男の「ヲコ幻想」に価値はまったくない。ゲイノウ村のイシダイ某のように男の「ヲコ幻想」を振り回せばうらやまし～と嫉妬の対象になり、本人は気分良しだろうが、ちょっとずっこけると、ボコボコの目に合うのである。ただ本人は「ヲコ幻想」が生きがいであり、しかもそれで生活の糧を得ているのであるから、また女にもてるハウツー本でも書いて、蘇生することだろう。吉本の言葉を借りるなら、自己幻想になりえても共同幻想にはなりえないのである。わたしのようなもてないおとこは、イシダイ某さんをうらやましいと思う（嫉妬する心）自己幻想を持っている。　女の「ヲコ幻想」は自己幻想と共同幻想が別物でないのではなく、これも吉本の言葉を借りるなら、自己幻想が共同幻想にまで浄化（上価）されるのである。それが宗教的な権威をもつ時代もあったのだう。女の「ヲコ幻想」の価値がどんなに上がろうと、女性そのもの価値が上がるわけではない。こんにちでは、そのへんのことがわかってきて、女性の価値ということに苦労している時代なのである。女性が「ヲコ幻想」で評価される時代が長かったので、それを変革できるかどうか、わからない。まあわたしのようなエロじじいがいうのもなんですから、この辺でやめときましょう。　吉本先生の論に戻りましょう。遠野物語からの引用を見てみましょう。​（　遠野近郊の或る家で一時に三人も急病人がでた。するとどこからか一人の老婆がやってきて、この家には病人があるが、それは二三日前に庭前で小蛇を殺したせいだと言った。家人が思い当たるふしがあるのでわけをきくと、その小蛇はこの家の三番目の娘を嫁にほしい淵の主のお使いでそれを殺したのだから三人が同時に病気になったのだとこたえた。娘はそれを聞いて驚いて病気になったが、家族三人の病気は癒った。娘は医者の薬の効いもなく、とうとう死んでしまった。）『遠野物語拾遺』三四(p334)そしてこの伝承のうちもっともたいせつなのは、共同幻想の象徴である〈蛇〉が〈娘〉と〈性〉的にむすびつけてかんがえられていることである。……柳田国男のように逆のかたちでもいうことができる。村落の共同体は〈女性〉を、共同幻想のの至上の〈性〉的な対象としてえらんだ未明の時期をもっていたというふに。(p335)​　〈蛇〉が〈娘〉と〈性〉的に結びついたと妄想するだけで、十分に「ヲコ幻想」は刺激されるし、女性の「ヲコ幻想」はいつの時代にも共同幻想の至上にあるのである。　この遠野物語は「ヲコ幻想」を十分に語っている。　この遠野物語に出てくる老婆は「ヲコ幻想」の賞味期限の過ぎた巫女なのである。神社や長者の使いばしりや、村の情報を収集したりすることを生活の糧としている。だから村の住人ではなく何処からかやってきたのである。娘が三人で、男手がないからこの家は貧乏であると知っている。長者の裕福老人からなぐさめものできる若い娘をさがしてこいといわれ、一番下の可愛い娘をと親に話をつけ、支度金ということで、いくらかをこの家族に渡した。家のものは大いに喜んだ。当の娘は、エロジジイの慰み者になることも悲しいが、家のものが喜んで自分を売ることに落胆したのである。こういう話はその老人のもとに行ったとは、絶対にならない。それが貧しい者たちが共有する「ヲコ幻想」なのである。吉本のいう「共同幻想」は下から（貧しい）方から積み上げられるのではなく、「私有幻想」の方からつくられるのである。貧者の共同幻想は上昇しないで、村の中でくすぶり続けるのである。

  2020.08.21

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑧

  ⑧　　　巫女論　吉本先生の説明を受けるまでもななく、わたしたちは巫女を知っている。正月に神社で白と赤の衣装に身を包んだ若いアルバイトの女性のことだ。縁起物の札や矢を売っている。　それは古くから神に仕える神聖な人たちだということもわかっている。​何よりも子供を生み育てるかなめが女性だから、ひとびとの依存心があつまる巫事に適するとおもわれたにちがいないとかかれている。そして〈想像〉を拒否して巫女の成立をかんがえるとすれば、経済社会的な要因をみつけだすほかない。(p332)​　女性は「ヲコ幻想」のかなめだから「私有幻想」に組み入れられるのだといった方が簡単である。子供を生み育てるのとは違った方向に価値を持っているのである。それが共同体の「私有幻想」に利用されるのだ。​　わたしのかんがえでは〈巫女〉は、共同幻想をじぶんの対なる幻想の対象にできるものを意味している。(p333)　わたしの考えはまったく逆である。〈巫女〉は共同体の「ヲコ幻想」の象徴であって、巫女なるそのひとは〈性〉的な意味合いを取り除かれて、神聖化され、共同体から犯しがたい位置に置かれているのである。それは共同体の利害である「私有幻想」の中で「ヲコ幻想」の価値を上げるために、神に近い存在として創り出されたのである。　​​いいかえれば村落の共同幻想が巫女にとっては〈性〉的な対象なのだ。巫女にとって〈性〉行為の対象は、共同幻想が凝縮された象徴物である。〈神〉でも〈ひと〉でも、〈狐〉とか〈犬〉ような動物でも、また〈仏像〉でも、ただ共同幻想の象徴という位相をもつかぎりは、巫女にとって〈性〉的な対象でありうるのだ。(p333)​　「ヲコ幻想」がみえないから説明が逆になってしまっている。この論理的欠点はこの『共同幻想論』の最期まで続くことになる。巫女という共同幻想のなかで神聖化された「ヲコ幻想」が、これらの共同幻想の象徴に転化されるのだ。巫女という女性の〈性〉的な対象であるはずがない。これでは巫女という女性が〈獣〉〈姦〉を願っているようにきこえるではないか。女性の〈獣〉〈姦〉幻想を持つのは男の「ヲコ幻想」なのである。　吉本先生は「ヲコ幻想」という概念がないから、ひとのメス（女）の説明に苦労している。このことはあとの「対幻想」の章でも出てくる。せめて「性的幻想」とでも、いうような言葉をつくっておけばもう少し論考が楽に進んだのではないか。　つぎに吉本先生はフロイトの講話を引き合いにして、女性について説明している。そして女性をこう定義している。​ここまできてわたしなりに〈女性〉を定義すればつぎのようになる。あらゆる排除をほどこしたあとで〈性〉的対象を自己幻想にえらぶか、共同幻想にえらぶものをさして〈女性〉の本質とよぶ、と。(p334)​　これではまったく、なにが〈女性〉の本質を定義しているかわからない。ましてや〈巫女〉という存在が、共同体のなかでどういう立場になるのか、といことは置き去りにされている。　〈女性〉の定義はこうなる。動物としてのメス（女）は子を産み育てることである。人間の〈女性〉としては「ヲコ幻想」の根源をなしている。　女性の本質というよりは、女性が持つ「ヲコ幻想」と男性が持つ「ヲコ幻想」はまったく違うということである。そして、女性は男性の「ヲコ幻想」につねにおびやかされるのである。だから男の子を産んだときから、おびやかされることになる。女の子を産んだならこの怯えはないのである。ここにあるのは生まれてくる側の問題ではなく、産む側の問題なのである。　吉本は人間の持つ幻想を「共同幻想」、「対幻想」、「自己幻想」という三つの概念でしか分析していないので、まったく女性の本質をとらえることができない。これではえらい政治屋さんのように女性は産む機械だといっているのとかわりない。　もう一度強調するが、女性の「ヲコ幻想」と男性の「ヲコ幻想」は対立しているのである。

  2020.08.18

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑦

  ⑦　　　巫覡論２​ここで狐が化けた〈女〉は、けして柳田国男がかんがえるように、たんに女性を意味するものではない。むしろ〈性〉そのものを、いいかえれば男女の〈性〉関係を基盤とする対幻想の共同性を象徴しているのだ。(p330)​　ここで吉本隆明が言わんとしているのは、「ヲコ幻想」そのもののことである。男女の〈性〉関係を基盤とする対幻想というのを「ヲコ幻想」という造語をもって表現したら、この『共同幻想論』はもっとスムーズに論考を進められたはずである。しかし吉本のような偉い先生は〈女性〉器を直接連想させるような言葉を造語するにいたらなかった。そのことが対幻想という概念の弱さに現れるのである。どうしても家族（ファミリー）のほうにベクトルはいってしまうのである。もうひとつの家族という言葉でいいあらせないベクトルが男女の〈性〉関係を基盤とする対幻想が共同体（社会）にあるのは自明のことである。そしてこちらのベクトルの方が家族を基盤とする対幻想のベクトルより大きいのである。​　ここで言葉を改めなければならぬ。　村落の男女の対幻想は、あるばあい村落の共同幻想の象徴でありうるが、それにもかかわらず対幻想は消滅することによってしか共同幻想に転化しない。そこに村落の共同幻想に対して村民の男女の対幻想の共同性がもっている特異の位相がある、と。いうまでもなく、これは村落共同体のなかで〈家族〉はどんな本質的な在り方をするかを象徴している。(p330)​　吉本はここでも「対幻想」を家族というベクトルの方に引っ張っているだけである。吉本というひとが女遊びをするような人だったら、このあたりの書き方も変わっているのではないか。家族という対幻想は村落の中でわりと安定しているが、そうでない対幻想が、あることないこと、うわさ話をふくめた「ヲコ幻想」としてうごめているのである。それは共同幻想などという立派な概念に転化しないで、村落の中で消滅することなく、いつでも息をひそめているのである。​しかし注意すべきは、この場合〈女〉は男女の対幻想の共同性の象徴であり、〈狐〉や〈蛇〉やその他の動物や〈神〉は、共同体の共同幻想の象徴だということである。そして心あるならばひとびとは、男女の対幻想の共同性を本質とする〈家〉の地上的利害は、共同幻想を本質とする村落共同体の地上的利害といかに、いかなる位相でむすびついたり、矛盾したりするか、という問題をこういった動物が女に化ける伝承的な民譚から読み取るべきである。(p331)​　この場合の〈女〉は「ヲコ幻想」と読み替えるべきである。〈狐〉〈蛇〉〈その他の動物〉〈神〉も「ヲコ幻想」と読むべきなのである。家族対象の「対幻想」になりえない女と男の「ヲコ幻想」関係の象徴なのである。とてもやないが共同体の象徴にはなりえないのである。お稲荷さんの狐や三輪神社の蛇は共同体の共同幻想の象徴であるが、ここでの〈狐〉や〈蛇〉そうではない。男をたぶらかす女狐や、忍び寄ってじわじわとしめて男を身動きできなくさす蛇なのである。　男女の対幻想の共同性を本質する〈家〉を中心に考えていたら、〈狐〉や〈蛇〉は出てこないのである。〈家〉の利害と村落の利害はいかなる位相でも結びつかないのである。心ないわたしは、そういうしかない。　それにしても、巫覡という言葉も、辞書の意味するところもでてこない。〈おんな〉に催眠術をかけられて、入眠状態であるかのように〈女〉のまわりをうろついているだけである。

  2020.08.17

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑥

  ⑥　　　巫覡論（ふげきろん）　この巫覡も憑人と同様に読めないままでいた。　広辞苑の電子辞書に​次のようにある。ふげき（巫覡）ブゲキ神と人との感応を媒介する者。神に仕えて人の吉凶を予言する者。女を巫、男を覡という。​　この前、放送されたNHKの100分の名著で、これを「かんなぎ」と読んでいた。​かんなぎ（巫覡）（古くはカムナキ。神なぎの意）神に仕え、神楽を奉して神慮をなだめ、また、神意を伺い、神おろしを行いなどする人。男を「おかんなぎ（覡）」、女を「めかんなぎ（巫）」という。かみなぎ。こうなぎ。​　吉本はここで芥川龍之介の『歯車』をテキストとしいてとりあげている。これと広辞苑に記されている「ふげき」、「かんなぎ」の意味とどういう関係があるのだろう。​　わたしがここで『歯車』の主人公の離魂症的な体験をとりあげたのは、べつにこの現象が異常だとかんがえたからではない。また物珍しい心的な現象とかんがえたからでもない。こういった個人と個人との心の相互規定性では、一方の個人がじぶんにとってじぶんを〈他者〉に押しやることで、他方の個人と関係づけられる点に本質があることをいいたかった。(P319)一方の個人が他方の個人にとってよそよそしい〈他者〉ではなく、勝手に消し去ることができない総合的存在としてあらわれる心の心の相互規定性は、一対の男女の〈性〉的関係にあらわれる対幻想においてだけである。(P320)​　心の相互規定性は対幻想ににだけあるというなら、それを説明できる文章を例として引っ張り出せばいいのではないかと思ってしまう。　わたしたちは現実（カントのいうもの自体）を認識しているわけではない。現実はすでにわたしたちの心の中で加工されたもの（カントのいう現象）として認識されている。それは他者を自分の物語の中でつごうのいい役に仕立て上げているということである。他者もまたその人の物語の中でこちら（自分）をつごうのいい役に仕立て上げているというわけである。そして、そのお互いの役がうまくかみ合っているときは、歯車はほどよく回転する。歯車の回転が悪くなれば、良好であった相互関係は崩れてしまうのである。くずれたものを無視できればいいのだが、そうは簡単にいかない。関係があるということは、ひとつの共同体（会社、学校、家庭等）の中かにいるということであるから無視できないのである。できないからパワハラやセクハラが、病原菌のようにはびこるのである。だから「勝手に消し去ることができない綜合的存在としてあらわれる心の相互規定性は、一対の男女の〈性〉的関係にあらわれる対幻想においてだけである」とはならない。「私有幻想」と「ヲコ幻想」、これらの関係の内に必ずあらわれるのである。　自分の物語の中にある自分も、その物語に必要十分な存在ではない。ここに心の葛藤が発生する。他者との関係性の不安定さを助長させる。そして自分自身の関係性のバランスを失ったとき、つまり自分の物語の中で自分の役を見失ったとき、自死を選択してしまう。​芥川龍之介に悲劇があるとすれば、都市の近代的知識人としての孤独にあるのではない。都市下層民の共同幻想の願望を、自死によって拒絶し、拒絶することによって、一切の幻想からの解放を求めた点にある。(P323)​　吉本がこう書いているのは、芥川の死を反面教師として自死することなく、都市庶民の共同幻想の願望を受け入れているようにふるまうことにある。吉本自身にも「対幻想」と「共同幻想」がある。吉本が友人の奥さんをうばって、結婚したという話は、本人も書いているから有名である。だから彼の「対幻想」における倫理は奥さん、家族を絶対に幸せにするということなのである。貧しい詩人や売れない文士ではダメなのである。お金を稼がなければならない。吉本隆明が「共同幻想」の中でで文筆家として生活の糧を得ようとすれば、大衆をくいものにするしかないのである。しかし大衆をくいものにするというのは彼の「共同幻想」における倫理が許さない。その矛盾を解決するために、彼は自分自身を大衆の原像という型にはめたのである。魚屋のおっさん、八百屋のおばさんと同じ立場であるとみせることによって、都市下層民の共同幻想の願望を受け入れているようにふるまうことができたのである。

  2020.08.16

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン⑤

  ⑤　　　憑人論（ひょうじんろん）　わたしは『共同幻想論』を何度か読んでいる。しかし「憑人」を正確に発音認識していなかった。なんとなくとりつかれるということで納得していた。それぐらいだから『共同幻想論』の内容など理解できているはずがない。わたしは実業高校の機械科をでて就職したが、社会に挫折して半年で辞めてしまった。それから受験勉強してなんとか大学にもぐりこんだのだ。2年浪人したことになる。大学受験の勉強をするまで、吉本はおろか小林秀雄の名さえ知らなかった。呉智英氏が「吉本隆明という『共同幻想』」で書いているように、小林秀雄が入試によく出るということで、なんとか読まなければならないと思い、かろうじて高見沢潤子の「兄小林秀雄との対話」を読んで、小林秀雄のしっぽをつかんだ気になっていた。　大学に入ってすぐに小林秀雄の講演会があった。早めに出かけたのだが、ドッジなことに会場の場所を間違えていた。会場についたときはもう満員で中に入れなかった。がっかりしていると、サブの会場で音声で聞かせてくれるということになった。小林秀雄の姿は見ることはできなかったが、講演は聴くことができた。講演の内容なんぞはまったくおぼえていないが、小林がなにか冗談のようなことをいったら、笑わなくてはと必死であったことだけ憶えている。　小林秀雄の講演を聞いたことを自慢しようと学校へいったら、だれも相手にしてくれない。もう小林秀雄ではなく吉本隆明であった。呉氏とはレベルがちがうが、わたしも（吉本に）マウンティングされたひとりということになる。吉本の本をわかろうがわかるまいが読むしかなかった。　「ヲコ幻想」と「私有幻想」はなるべく見えなくするという意図が社会にはある。下ネタは嫌がられるし、お金の話しも下品とされてきた。いまでは下ネタなんぞはへたに女性の前ですると、セクハラといって訴えられかねない。　「ヲコ幻想」が禁制（タブー）化されることにより、女と男は共存できるようになった。禁制が強くなれば、妄想も強くなる。それは女の「ヲコ幻想」の価値を上げることにもなる。さらに「私有幻想」がその価値を利用する。そうするとますます「ヲコ幻想」の価値が上がる。女の「ヲコ幻想」の価値が上がったからといって、女性そのものの価値が上がるわけではない。「ヲコ幻想」が商品化されて、その交換価値が上がるということなのである。女性は「ヲコ幻想」の付属品にすぎない。付属品としての女性の立場は女奴隷から女王までの格差がある。もっているものはひとつで、それそのものの機能と表情には大差がないのに、幻想化されることにより差をつけられるのである。　嫉妬はここから生まれる。嫉妬はもともと女同士の間にしか発生しないものであった。しかし「ヲコ幻想」にとりつかれた男にも発生する。そういうことがおろかなわたしには身に染みている。　嫉妬は「ヲコ幻想」という人間の最も古い感性から発生するので、自分ではコントロールしにくい。そして他人からはコントロールされやすいのである。　この憑人論で語られている憑くということはどういうことなのか。人に狐が憑くというのは、自己否定、自分から抜け出したいということである。入眠幻覚という、いいかたをしているのも同じことなのである。　個人的な「ヲコ幻想」を一族のための「私有幻想」に変換させなければならない、そういった立場に立たされている良家の娘に憑くのである。「ヲコ幻想」の意味もよくわからずに「私有幻想」の道具になる自分に納得すること、あるいは納得させることができないとき、自分の心か体かどちらか一方が狐になるのである。自分を完全に自己否定できない（自分は自分のことを嫌いではない）状態に狐が憑くのである。　入眠幻覚も同じことである。個人の将来こうありたいと思う「ヲコ幻想」と将来実現されてしまうであろう「ヲコ幻想」とのギャップを考えたときに、入眠幻覚におちいるのである。

  2020.08.15

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン④

  ④　　　禁制論④​　民俗譚は現在に伝えられているかぎりすべてあたらしいものだ。未開の状態をうかがえるとしてもかなり変形されている。そしてこの変形は、神話のように権力にむすびついた変形でなく、習俗的なあるいは生活威力的な変形というべきものである。(p292)​　未開の「禁制」をひもとくのになぜ民俗譚なのか、わたしにはわからない。子供のころ禁制はたくさんあった。それは子供を誘拐や事故から守るためのものや、貧しさの言い訳のようなものであった。母親がいう「禁制」の言葉には、嘘や誇張が混じるはずである。いま、そういった言葉を思い出そうと試みたが、適当な言葉が思い浮かばない。思い出した場面は、わらび餅売りが来て、近所の友だちがそれを買ってうまそうに食べている。それを僕がうらやましそうに、家の前で眺めている。母親が僕を手招きして家の中に入れ、だまって手のひらにサッカリン（いまは使われな甘味料）をのせてくれた。それは直接口に入れると、甘いというよりにがいものであった。　いまここで取り上げられている、山人と（村人）の話しは〈境界〉のことを語っている。お互いに侵してはいけない領域である。たまに村人が山に入っても深入りしてはいけないということなんだろう。〈境界〉は〈禁制〉ではなく〈黙契〉なのだろう。​別の言葉でいえば〈黙契〉は習俗をつくるが〈禁制〉は〈幻想〉の権力をつくるものだ。(p291)​　宇田亮一は〈禁制〉を"権威・権力"としてあらわれる高強度の共同幻想、〈黙契〉を"習俗・生活習慣"としてあらわれる低強度の共同幻想と解説している。　また、吉本は〈入眠幻覚〉や〈既視〉という個人的な体験の中に、共同的な幻想があらわれるとしている。　吉本隆明は「禁制論」最後にこう締めくくられている。​　わたしたちの心の風土で、禁制が生み出される条件はすくなくともふた色ある。ひとつは、個体がなんらかの理由で入眠状態にあることであり、もうひとつは閉じられた弱小な生活圏にあると無意識のうちでもかんがえていることである。この条件は共同的な幻想についてもかわらない。共同的な幻想もまた入眠とおなじように、現実と理念との区別がうしなわれた心の状態で、たやすく共同的な禁制を生みだすことができる。そしてこの状態のほんとうの生み手は、貧弱な共同社会そのものである。(p303)​　鍋でいえば最後のだしの出た雑炊である。これで今日の鍋はうまかったと、満足できるのだろうか。呉氏のいうように文章がわかりずらい（具がよく煮えていない）のか、そもそも内容がない（うまいといえるようなものが入っていない）のかと思ってしまう。まあ、お前ごときの舌でこの鍋の味がわかるかといわれればそれまでなのだが。　そもそも個人の入眠状態と共同的な禁制、幻想の関係がわからない。現実と理念の区別のつかない貧弱な共同社会が「禁制」を生みだすのだろうか。そうではなく、　ここでいわれている「禁制」は支配者側から押しつけられる「愛国心」とか「格差なき社会」とかというキャチコピーや、その他いろいろのことばである。それらは貧弱な共同社会にはびこりやすいといえるのだろ。そしてそれは権力者によって変わるだろうし、支配者の都合によっても変わる。そういったものは「禁制」とはいわない。「禁制」は個人の集合体としての共同社会からしか出てこない。それも入眠状態などでなく、はっきりとした意図があるものとして出てくるのである。　そういうことで、ほんとうの「禁制」は「ヲコ幻想」にしかない。「ヲコ幻想」の女性と男性のあり方の違いによって「禁制」は発生するのである。そこにまた芸術から犯罪までがついてまわるのである。

  2020.08.09

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン③

  ③​​​　　　　　　禁制論3​​フロイトのいう〈リビドー〉は、あるときは個人の〈性〉的な心の世界であり、あるときは〈性〉的な経験の世界であり、あるときは〈性〉的な行為がもたらす結果であるが、これはかれにははっきりと自覚的になっていないため、無造作に混同されている。(p288)​　フロイドのリビドーとは「ヲコ幻想」のことである。「ヲコ幻想」は下品な妄想まで含まれるが、リビドーは生の本能としての性的なエネルギーと定義されている。心理学者の岸田秀は「人間は本能の壊れた動物」だという、決して本能をなくしたのではないと。「ヲコ幻想」も、この「本能の壊れた動物」という考え方に影響を受けている。本能が壊れたのはなぜか、それは直立二足歩行によって「ヲコ」が見えるということに原因がある。そう考えると、人間は本能が肥大化した動物だとも言える。岸田先生の「ものぐさ」にはそこまでは書いてなかったと思う。この先生のプロフィールをインターネットで見てみると、その辺のことがわかっていて女性と接していたのではと思えるが。吉本隆明の『共同幻想論』と岸田秀の「唯幻論」思想内容は似ているのだけど、「対幻想」の考え方が違うのだろう。女性に関しての体験（母親を含む）の違いからくるのだろう。​​​　官僚はなぜ王と大衆のあいだに発生してくるか？それは王のタブーを和らげるためである。こういうフロイトの制度にたいする理解の仕方は、興味をそそるが無意味なことのようにおもわれる。(p289)​​​　わたしは官僚は王のタブーを和らげるために発生したのではなく、むしろ王をタブー化、権力強化するために現れたのだと思う。​フロイトはこのやり方で、日本の古代王権で神権と政治権力が分離するさまに言及した。……この理解には、たしかにいくらかの真実性が感じられるが、矢が的を射あてたときの真実性とはまったくちがっている。真実性にはちがいないが、人間の観念がつくりだした世界は、どんなものでも心理的なかんぐりで解釈できるものだ、という意味での真実性である。(p289)​​​　日本の支配者の王権と神権分離という問題はこの『共同幻想論』の重要なテーマのひとつである。吉本はフロイトのいっていることが、なんとなくあてはまりそうな気もしないではないが、そうではないといってる。この問題はあとから俎上に乗せられることになる。　そこでわたしたちは、禁制にもまた〈自己なる幻想〉と〈対なる幻想〉と〈共同なる幻想〉を対象とするまったく異なった次元の世界があるのを前提としなくてはならなくなる。(p289)　宇田亮一は「『共同幻想論』十一編をサッカーに見立てれば、「禁制論」はキーパーの役割を担うのです。」といっている。わたしはこの「禁制論」は『共同幻想論』という建物をたてる基礎工事だと思う。〈自己幻想〉、〈対幻想〉、〈共同幻想〉は建物を支える杭である。この三本の基礎杭が岩盤に届いていないと、建物は振動（世間の批判）に対して危ういものになってしまうのである。わたしは人間の基本は「ヲコ幻想」と「私有幻想」にあると考えている。岸田先生流に言えば、本能の壊れた動物の代替本能である。この三本の杭は岩盤に届いているのだろうか、わたしはそうではないと思う。だから『共同幻想論』に対する世間の評価が揺らぐのである。

  2020.08.08

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン②

  ②　　　禁制論2​​　いまここにある未開種族が母子soukanや兄弟・姉妹soukanについて禁制を持っているとする。フロイトによれば禁制のあるところには、またつよい願望があることを暗示しているはずである。(p266)​　フロイトは「ヲコ幻想」というものが見えていたが、吉本にはまったくといっていいほど見えていない。強い願望（欲望）があるから禁制ができたのである。それがなければサピエンスは滅んでいる。また禁制が男の行為を牽制したことによって、「ヲコ幻想」が生まれたのである。　ここでいう​母子とか兄弟・姉妹あるいは父とかいう言葉にとらわれない方がいい、直立二足歩行をはじめてから、わりと早い時期に禁制ができて、「ヲコ幻想」は生まれている。それは何百万年というスパンのわりと早い時期ということである。この時期には兄弟・姉妹などという意識はない。だから、近親soukanに対して禁制がでてきたわけではない。あくまでも、メス（女）の（ヲコ）見えによって、オス（男）がメス（女）を襲うという混乱をさけるために、禁制ができたのである。Evaのイチジクの葉が人類最初の禁制なのである。　禁制とはなにか、宇田氏の『共同幻想論』の読み方で見てみる。​　禁制（タブー）とはある特定の対象物に特別な意味づけをすることです。「絶対にやってはいけない」とか、「絶対にやらなければいけない」といった意味づけのことです。だから、禁制（タブー）によって、人間はある特定の対象物を過剰にか、あるいは過少にか歪めてとらえることになります。禁制（タブー）の対象となる特定のモノは、事物、動物、人格、思想、何でもよいのですが、それを客観的に取り扱えなくなる、ということです。(p78)　吉本のことばを真似るなら、矢は禁制（タブー）という的に向かって放たれたが、まったく届いていない、ということになる。​未開の時代の話を現代に持ち込み拡大解釈しているだけである。この解釈でいけば、この場もそうだが、どの時代、どの国においても禁制（タブー）に囲まれていることになる。カントの「純正理性批判」をひもとくまでもなく、客観的に取り扱えるものなどない。主観をいかに確立しているかなのである。でないと、AIがもたらす「客観的認識絶対論」（逐電先生のブログ）にからめとられてしまうのである。

  2020.08.03

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• いきあたりばったり『共同幻想論』ロン①

  ①　ロン（論）とは、麻雀でいえば当たりのことである。当たりの牌を間違えればチョンボである。『共同幻想論』は言わずと知れた（今の時代のひとは言っても知らないだろうが）吉本隆明の主著のひとつである。超難解な書物であるといわれている。その理由は、呉智英氏の『吉本隆明という「共同幻想」』（ちくま文庫）に書かれている。だいたいで言えば、ひとつは文章が日本語としておかしいということ、もうひとつはなにがいいたいのかはっきりしていないということである。呉氏とはレベルが違うけれども、わたしも「マウンティング」された人間だから、その辺はよくわかる。よく解らないのに解ったような顔をしてしゃべっていたということである。そこで、『共同幻想論』を「ヲコ幻想」と「私有幻想」という視点から読んでみて、なにか書けないかと考えたのです。　うまく上がれるか、ノーホーラーで終わるのか、とにかくサイを投げてみないとわからない。　なお、『共同幻想論』に関する引用は、晶文社「吉本隆明全集」10の『共同幻想論』を使わせていただきます。　まえに、「ヲコ幻想」をエンジンにして『サピエンス全史』を読む」でも書いたように、「ヲコ幻想」と「私有幻想」という言葉をキーワードとして読み解いていく。なぜなら、わたしはホモサピエンスはこのふたつの中だけで生きているという立場を取っているからであります。平たく言えば、人間はエロと欲だけで生きているということです。そのバランスをどうとるかが、人間という社会の全てだと考えているからです。　　　1、禁制論（きんせいろん）P285​​　禁制（タブー）のようなもともと未開の心性に起源をもった概念に、まともな解析をくわえた最初のひとはフロイトであった。(P285)​​　未開とはいつのことをいっているのか。宇田亮一氏の「吉本隆明『共同幻想論』の読み方」（菊谷文庫）によると、「原始未開とは生活手段が狩猟・漁労・採集の社会のことです。」(P66)となっている。　直立二足歩行をするようになったことによって、類人猿からヒトになった。ヲコ見えにともなう混乱、それを回避しなければ人類は滅んでしまう。それを回避するための禁制が、人類の早い段階で出てきたのではないか。いまでも合意なき性交は犯罪である。そしてそれを破ることも多々起こっている。​　フロイトのタブー論のうち、わたしの関心を引くのは近親SOUKANにたいする〈性〉的な禁制と、王や族長にたいする〈制度〉的な禁制である。なぜならばこのふたつは前者が〈対幻想〉に関しており、後者が〈共同幻想〉に関しているからである。(P286)​ 　こんな文章を書いていても〈禁制〉があらわれるのである。たぶんこういった表現の場にも多くの〈禁制〉があるのだろう。そのなかでも「ヲコ幻想」にまつわるものが圧倒的に多いことは想像に難くない。　〈対なる幻想〉が「ヲコ幻想」、〈共同なる幻想〉が「私有幻想」なのである。先ほども言ったとおり、ホモサピエンスという種はこれだけで生きているのである。そして驚いたことに、これだけで他の動物や、他の人類の種を圧倒する存在になっているのである。それだけにとどまらず、宇宙までも手に入れようとしているのである。　未開以前の社会の集団内部で、近親SOUKANという言葉はなかったであろうが、近親的な〈性〉行為は禁制化されていたのである。これを「私有幻想」的な共同幻想の禁制と同一にするのはおかしいのである。未開社会に、王などいるわけがない。せいぜい族長か首長である。定住農耕が始まって、富（作物を産み出す土地とそこで働く人）が集中するようにならなければ、王と呼ばれるような権力を持った者はあらわれない。だから〈対なる幻想〉の禁制と、〈共同なる幻想〉の禁制を同じ土俵にあげるのは、なぜ禁制というものが生まれたかを理解するには妨げになるのである。

  2020.08.02

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