バラク・オバマ演説集!
もうすぐ、バラク・オバマ大統領が誕生する。彼が、なぜ大統領になれたか。演説上手。それは、そうだろう。アメリカ人が、ブッシュ大統領のもとで、ばらばらになったアメリカをもう一度立て直そうとした。それもそうだろう。イラク戦争への反対と経済危機、この大きな課題を新しい大統領が解決してくれるかもしれない、という期待。それもそうだろう。演説で、多用された「Yes, We Can」と「Change」このシンプルなメッセージが人々に届いた。それもそうだろう、と思う。しかし、ぼくは、簡単に言ってしまえば、アメリカの、しいては世界の「多様性」を認めたうえでの、もしくは、「多様性」を包含した上で、人々の統合、融合、団結を訴えたこと。現代のアメリカや世界が抱えている困難を、問題を指摘するだけではなく、僕たちには出来る、みんな一緒にやっていこう。僕たちが新しい社会を作るのだ。という前向きな希望「Hope」と参加意欲を引き出したからではないかと思う。だから、彼の演説は、アメリカ人だけではなく、日本人のぼくが聞いていても、引き込まれ、ぞくぞくし、前向きになれる。そうした普遍性を備えていたからではないかと思う。オバマ演説集そして、ぼくが彼をただものではないと思ったのは、2004年民主党大会で、ジョン・ケリー大統領候補を応援する演説の中での、彼のこのフレーズ、にはっとしたのである。引用する「われわれを分断させようとする人たちがいます。しかし、私は彼らにこういいます。There is no a liberal Amerika and a conservative America..(中略)..There is not a Black Amerika and and aWhite Americca and Latino Amerika and Asian America--there's the United Stetes of America.リベラルなアメリカも、保守的なアメリカも、黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン系のアメリカも、アジア系のアメリカもありはしない。あるのは、アメリカ合衆国なのだ、と」「United States of America」のここでの意味は、「アメリカ合衆国」という国名を意味するだけではなく、「統合されたひとつのアメリカ」、アメリカ人たちよ、今こそ問題解決のために団結しよう、というメッセージが含まれていると思う。2004年は、2003年にイラク戦争に突入したブッシュ政権を倒せるかどうか、非常に厳格なキリスト教右派と、外国に対して好戦的なネオ・コンの2つの本来は全く違う勢力にささえられたブッシュ政権に対して、アメリカを二分する世論があり、まさにアメリカは絶望的なほどに分断されていたのだ。この時の大統領選は、結局、ブッシュの再選に終わるのだが、この時期に「分断ではなく、団結を。多様性と統合を」訴えていたバラク・オバマに注目した。2007年になって、僕の周りでは、大方の人が、ヒラリー・クリントンが次期大統領でしょ、というような雰囲気があった。ある近未来予測のようなプロジェクトで、大方の人が、そういいきった時に、ぼくは、「まだそうなるとは限りませんよ」と言った。今や、オバマ政権の重要な外交政策を担当する国務長官になったヒラリー・クリントンなので、悪くは言いたくないが、彼女は、「私には経験と実績があります。私に任せてくれれば、私が問題を解決します」というように、まるで、アメリカのビジネス・コンサルタントのようなメッセージを発信していたのに対し、バラク・オバマ候補は、「私たちには出来る、一緒にアメリカを、世界をよりよきものへ変えていきましょう」という希望のメッセージを発信していた。どちらが、大統領として、国民をまとめていくのにふさわしいか、明らかに、バラク・オバマ候補だと、ぼくは当初から確信していたし、出来ることなら、彼への小口寄付をしたいくらいだった。しかし、オバマ氏への小口寄付のサイトはちゃんとしていて、アメリカ人ではないぼくが、小口の寄付をしようと思っても、受け付けない仕組みになっていた。考えてみれば、あたりまえだ。外国のある勢力が、アメリカの大統領選挙に関与して、自国またはその組織に有利な結果に導こうとして資金提供するようなことが、出来ないようなシステムになっていた。さて、このオバマ氏の演説は、圧倒的な説得力がある。まさに、聞いているとしびれてしまうような力強さと包容力がある。それは、わかりやすい言葉で、希望と団結をとき、我々にはできる、という確信をいだかせてくれるものだが、演説には、彼、独特のリズムがあり、まるで、良質の音楽やラップを聞いているような雰囲気もある。「ひとつのアメリカ」、というメッセージは、2008年11月シカゴで勝利演説をしたときにも繰り返されている。引用したい。「Hello, Chicago.もし、アメリカではあらゆることが可能だ、ということをまだ疑うならば、アメリカの建国の父たちの夢がまだ生き続けている、ということに疑問をもつひとがいるなら、我々の民主主義の力に疑いをもつ人がいるなら、今夜(私が次期大統領に選ばれたという事実)がその答えである。It's the answer spoken by young and old, rich and poor, Democrat and Republican, black, white, Hispanic, Asian, Native Ameican, gay, straight, disabled and not disabled--老いも若きも、金持ちも貧乏人も、民主党員も共和党員も、黒人、白人、ヒスパニック、アジア系、アメリカ先住民も、ゲイもストレートも、障害者も健常者も、みんながその答えを出したのです。我々は、単なる個人の寄せ集めや赤い州(共和党支持)も青い州(民主党支持)の単なる寄席集めではなく、われわれは、今もこれからもずっと、統合されたひとつのアメリカなのです」このあと、オバマ氏の演説は、さらにもりあがって、その日、アトランタの投票所で106歳のアフリカ系アメリカ人女性が投票行動したというエピソードを話し、「彼女が生まれた時代は、奴隷制が終わってすぐの時代、まだクルマも飛行機もない時代、彼女は、女性であるということと、肌の色によって、投票できなかった時代から、100年以上にわたって、悲嘆と希望、苦闘と進歩をとげてきたのを目撃してきたのです。」そのときシカゴの広場に集まった市民は25万人ぐらいいたといわれているが、その中で何回もテレビカメラに映されたアフリカ系の人物がいた。ぼくの記憶違いでなければ、このひとは、ジェシー・ジャクソンさんだ。マーティン・ルーサー・キング牧師の意思を次ぎ、1984年と1988年に民主党の大統領候補となりながら、ついに民主党の指名を受けられなかったジェシー・ジャクソン氏。彼は、今、自分の目で、目のまで、歴史上初めての黒人大統領が誕生する瞬間に立ち会える、という喜びと感激と、そして苦闘の歴史を思う感傷、それらがいっしょこたになった気持ちで、涙ぐんでいたのだと思う。オバマ氏は、大統領選の選挙中は、人種や民族間の対立感情を和らげるために、みずからはあまり「初の黒人大統領になる可能性のある」候補、という位置づけをあえて、とってこなかった。しかし、アメリカの多くの黒人の市民たちは、自分が生きている間に「初の黒人大統領」が生まれる、その歴史的瞬間に立ち会っている、その歴史の一部になっている、という圧倒的な感慨と感動ははかりしれないものがあるにちがいない。もうすぐ、大統領就任演説の日だ。どのような演説になるのか、日本にいるぼくにとってもとても大きな関心をもっている。それまでは、この「オバマ演説集」という本についているCDを聞いていたいと思う。聞いていると、英語がわかる人でも、たぶん、英語が全然わからないひとでも、オバマ氏の前向きのメッセージに励まされ、勇気がわいてくるのを感じるはずだ。英語の出来るできないや、アメリカ政治に関心あるなしにかかわらず、ぜひ聞いていただきたいオバマ氏の演説CDだ。同時代に生きるものとして、ぜひみんなに、聞いてもらいたいと思う。