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テーマ:洋楽(3395)
カテゴリ:ビートルズ
↑有名なのかそうでないのかよく分からない、ロック・トリビアのひとつである。 "明日への希望"を歌ったこの曲は、Wingsとしてのデビューアルバムである『Wild Life』('71年)に収録された、ポールの隠れた名品だ。 出だしのコード進行が「Yesterday」と同じ、ということもファンの間ではよく知られているだろう。 「昨日」と「明日」の出だしが同じというシャレっ気。 それでいて(一般的な意味における)両曲の知名度は天と地ほどの差がある、というのがまたイイのですね 「Yesterday」がストリングスを取り入れた美しいバラードだったのに対して、「Tomorrow」は軽快なポップ・チューンというのも対照的だ。 同時に、ただ明るいだけでなく、演奏にはほのかな哀愁も漂っている。 曲はポールの弾くピアノで始まるのだが、きざむような音色と鍵盤を叩くような弾き方が日本のバンド、チューリップを思い起こさせる(って、逆かw)。 アルバムが三日間で録音された、というエピソードを証明するようなラフな仕上がりで、素人耳にも「これ、リハーサル・テイク?」と言いたくなるようなサウンド、演奏となっている。 だが、それがまた魅力となっている所が、あばたもエクボならぬポール・マジックだ。 マッカートニー節全開のメロディ、よれよれな彼のヴォーカルとそれをやさしく包みこむリンダ(とデニー・レイン)のコーラスという組み合わせは、何とも温かな気持ちにさせてくれる。 曲調的にはビートルズのホワイト・アルバムに入っていてもおかしくないのだが、ここには後期ビートルズにはなかった解放感がある。 そしてそれは当時のポールがもっとも欲していたものではないだろうか。 歌詞は、不遇時代のピカソにインスピレーションを受けて書かれたものだという。 もっとも、歌い出しの「baby, don't let me down tomorrow」というフレーズからして、曲がジョンに向けられたものであることは明白。 ポールは、ケンカ別れした相方に向かって暗に「仲直りしようぜ」と呼びかけているのだろう。 また、「明日は晴れるといいね」「手を取り合い、悲しみを捨てて」という一節は、誤解や曲解の果てに当時メディアから集中砲火を浴びていた彼の心の叫びだったのかもしれない。 だが、曲の荒っぽい仕上がりが災いして、ポールはますます叩かれることとなった。 アルバムも全米10位、全英11位と、当時の基準としては商業的失敗に終わり、「ポール・マッカートニーはもう終わりだ」とまで囁かれたという。 アーティストというのは、多かれ少なかれ孤独だ。 ポールも例外ではないと思う。 クリエイターゆえの苦しみ、理解されないことの辛さ。 ただ、彼は苦悩をおもてに出すタイプではないし、ソロ以降顕著になる"おセンチで甘い作風"が能天気なイメージに拍車をかけた部分もあったのだろう。 人は、彼の"悩める天才"の部分に気づきにくいのだ。 そういう意味でポールは長島茂雄と同じタイプであると共に、ジョン・レノンとは対照的だったと思う。 ポールの義父であるリー・イーストマン(リンダの父)はこの曲のファンだったらしく、ポールは「もういっぺん録音したらどうかね。君はこの曲を放棄してしまったけど、作り直すだけの価値はあるよ」と常々言われていたという。なるほど、うなづける話だ。 それでも僕は、曲自体はもちろん、このバージョンが大好きだ。 完成度が高いと言えばウソになる。 だが、デモテープ・レベルの演奏とすき間だらけの音作りからにじみ出る"何か"は、今も風化していないように思う。 ポール自らが「マニア向け」と呼ぶこの曲は、のちに70年代ポップ・アイドルとして知られるデヴィッド・キャシディーがカバー。 2001年に発売された二枚組ベスト・アルバム『Wingspan』にも、"ポールお気に入りの曲"としてディスク2に収録された。 「Tomorrow」を聴くにはここをクリック! あした天気になぁ~れっ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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