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テーマ:洋楽(3395)
カテゴリ:ビートルズ
同時に、"元ビートルズ"であるジョージの方も五年ぶりの新作を出したとして、地味ながら話題になっていたと記憶する。 当時は、まだLPとCDが混在していた時代。 いきつけのレンタル屋には、ジョージ・マイケルの『Faith』、デフ・レパードの『Hysteria』と並んで、アルバム『Cloud Nine』(上写真)がアナログ盤でかざられていた。 ジャケットの中には、グレッチ・デュオ・ジェットをかかえて不敵な笑みをうかべるジョージ・ハリスンがいた。 清潔とは言いがたいヒゲ面に、白く光るサングラスをきめた中年男。 そんな彼の姿を見て、「シブイなぁ」と思ったことをよく覚えている。 ビートルズの音楽は知っていても、ソロとしてのジョージはよく知らなかった、21年前の冬だった。 その時、ビルボード・チャートでは、先行シングルとしてリリースされた「Got My Mind Set On You」がトップへ向けてジリジリと上昇していたのだった。 '82年に発表した『Gone Troppo』が商業的失敗に終わったのをきっかけに、ジョージはしばらくの間、音楽から距離を置いてしまう。 アルバム『Cloud Nine』は、そんな彼にとって業界へのカムバックとなった作品でもある。 共同プロデューサーに選ばれたのは、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のリーダー、ジェフ・リンだった。 ジェフは、ジョージが製作者として出資した映画『上海サプライズ』(←マドンナ主演)に出演しており、それがきっかけで二人は親交を深めるようになる。 そして音楽への情熱をも取り戻したジョージは、ジェフに協力をあおぎ、アルバム制作へと着手するのだった。 「That's What It Takes」は、その『Cloud Nine』収録のナンバー。個人的にはアルバム中のベスト・トラックといえるチャーミングな一曲だ。 作者はジョージとジェフ、そして元スプーキー・トゥースにして「夢織り人」のヒットでも知られるゲイリー・ライトもクレジットに入れられている。 ミドル・テンポで派手さのない楽曲ながら、ジェフのプロデュース・ワークに包まれ、ほんのりと温かい仕上がりとなった。 曲は、ちょっぴり幻想的なサウンドに始まり、アコースティック・ギターの優しげなコード・ストロークへとつながる。 マイナーコードをうまく使った曲作り、いぶし銀のポップ・センスが光るメロディ・ラインはジョージならではの世界。 サビ部分における、リード・ボーカルと追っかけコーラスが合わさることでワン・フレーズが完成するというパターンも、いかにも彼らしい。 短いながら、お得意のスライド・ギターが聴けるのも嬉しい。甘い音色のソロには思わず頬をゆるんでしまう。 名セッション・ドラマーにして、のちのトラヴェリング・ウィルベリーズでもサポートをつとめるジム・ケルトナーもいい演奏を聴かせている。 そしてエンディングでのギター・ソロは、盟友エリック・クラプトンによるもの。 一聴して彼と分かるプレイでありながら、自己主張しすぎない、曲にぴったりなソロを聴かせている。 ジョージとクラプトン、ふたりのソロが楽しめるという意味でも"ひと粒で二度おいしい曲"であり、男の友情を感じさせる好トラックといえる。 淋しげな余韻の残すフェイド・アウトの終わり方もウマいですなぁ。 ジョージは、自身もプロデューサーとして優れた男だったが、コマーシャルな音作りは得意とはいえなかった。 同時に、フィル・スペクターとのコラボ作品『All Things Must Pass』('70年)を成功させた経験もある彼は、ほかの誰かにプロデュースをまかせることで自分の音楽が輝きを増すことを知っていたと思う。 強度のビートルズ・フリークであり、ELOとして数々のきらめくようなポップ・ソングを残してきたジェフ・リンは、その役割に最適だと判断したのだろう。 ジェフは、フィル・スペクター同様、オーバープロデュースをするタイプだったが、ジョージと相性は実によかったと思う。 『Cloud Nine』は、ジョージのポップ・センスが華やかにコーティングされた傑作となった。 ここからは、先述の「Got My Mind Set On You」が全米1位を記録。後続シングルの「When We Was Fab」(過去ログ参照)も中規模ながらヒットしている。 アルバム自体も商業的にひさびさの大成功をおさめ、賛否は分かれるものの、『All Things Must Pass』と並ぶ代表作となった。 そして、この時のセッションはそのままトラヴェリング・ウィルベリ-ズにつながっていくのである。 アルバム・タイトルの「Cloud Nine」は"至福の時"という意味らしい。 "ビートルズ第三の男"だったジョージの人生は、ソロになってからも苦難の連続だった。 盗作問題による裁判、妻パティとの別居~離婚、多量の飲酒による肝臓病、ソロ・ツアーや自己レーベルの不振、創作活動の挫折……などなど。 精神の救いを宗教に求めた時期もあった。 全米1位を記録した「My Sweet Lord」や「Give Me Love」は、神への希求を歌った曲である。 そんな幾多の逆境を乗り越えて『Cloud Nine』は発表された。 ここでのジョージの歌声は、余裕と貫禄を感じさせるものだ。 「That's What It Takes」を聴くと、仲間にかこまれて楽しそうに演奏している彼の姿が浮かんでくるようでもある。 思えば、このアルバムの頃が彼にとって、アーティストとして、あるいは人間としての"ほんとうに幸せな"時期だったのかもしれない。 それだけに、これがジョージ生前最後のオリジナル・アルバムとなってしまったことが、よけい残念に思えるのである。 「That's What It Takes」を聴くにはここをクリック! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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