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テーマ:洋楽(3396)
カテゴリ:ビートルズ
邦題、『愛の不毛』。 ジョンのかき鳴らすアコギからはじまるこの曲は、当時オノ・ヨーコと別居生活をしていた彼の心情を赤裸々に歌ったものだ。 作詞作曲はもちろん、プロデュースもジョンによるもの。 さびしげな歌声が強い印象を残すポップ・バラードで、「フランク・シナトラに歌ってほしかった」という本人のコメントもなんとなく頷ける名曲となっている。 個人的にはジョンのソロ作でもっとも好きな曲のひとつだ。 "打ちひしがれているとき 誰も愛してはくれない" "有頂天になっているとき 誰も見てはくれない" という出だしのフレーズからして胸に突きささる。 それは、その時の彼の心の叫びであると同時に、すべての人間に多かれ少なかれ通じる哀しい真理だ。 単に自分の傷をさらけ出すだけでなく、その言葉が普遍的な響きを持つからこそ、多くの人の共感が得られるのではないだろうか。 二十世紀ポピュラー音楽史においてもっとも成功した男は、こうも歌う。 "僕は向こう側にも行ってきた きみには僕のすべてを見せた もう隠していることなど何もないよ なのに 君はこう尋ねる - 愛している? なぜだ? なぜなんだ?" そして、その先に続く言葉は "僕にいえることはただ一つ この世はショウ・ビジネスさ" である。 さらに、曲の終わりを彼はこうしめくくっている。 「きみが地に深く眠るとき、皆は初めて君を愛してくれるだろう」と。 つまり、生きている間は誰の愛も得られないと言っているのだ。 なんとさびしい歌だろうか。 クライマックスでの感情が爆発するようなヴォーカル、エンディングで聴ける口笛にも泣ける。 男という生き物の悲しさ、頂点をきわめた人間の孤独が痛いほどに伝わってくる。 サウンド面では、ニッキー・ホプキンズの繊細なピアノ、ジェシ・エド・デイヴィスによるやわらかなギター・ソロが光っている。 反面、しめっぽいストリングスや厚ぼったいホーン・アレンジは演出過剰で、この曲が本来持つ美しさや魅力を半減させてしまっているように思う。 このへん、フィル・スペクターの悪影響が出ていますね。 基本的にジョンはセルフ・プロデュースには不向きな人なのかも。 この曲は、のちに世に出たデモ・テイクと合わせて聴くことをおすすめしたい。 ジョン・レノンについては、「愛と平和の人」というレッテルがいまだ貼りついたままであり、世代やジャンルを越えたカリスマとしてのイメージが強い。 それが間違いだと言うつもりはないし、こうした状況は今後も変わることはないと思われる。 が、自分の場合、残された映像や文献から判断するかぎりでは、この男を"人として"評価する気にはあまりなれない。 ソロ以降のジョンが平和運動に力を入れたのは事実だ。だが、それは彼の一面でしかない。 ジョンは基本的に、粗野でひとりよがりでガキっぽい、"困ったヤツ"だと思う。 その結果、時には信じがたい言動をとることもあった。 他人(ひと)を傷つけることも少なくなかったんじゃないかと思う。 けど、それでいいのだ。 彼はガンジーでもなければマザー・テレサでもない。 常に自分の考えや感情をむき出しにする性格は、創作の原動力のひとつであり、同時に強烈なカリスマ性にも結びついていたのだろう。 ジョンは、いつだって自分に正直だった。 彼は、聖人君子ではなかったが嘘つきでもなかった(広義な意味で)。 人間の優しさ、醜さ、残酷さ、孤独、矛盾、虚栄、毒、すべてを受け入れ、生きていったのがジョンだったのではないだろうか。 「Nobody Loves You」は、そんな"人間ジョン・レノン"の魅力がいっぱいにつまった名曲だと思う。 この曲での、弱々しく独白するような彼の歌声が、僕は大好きだ。 アルバムの内ジャケットの中では、顔に皺(しわ)をきざんだジョンがこちらに向かってにっこりと笑っている。 「Nobody Loves You」を聴くにはここをクリック。 シンプルなデモ・バージョンはこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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