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テーマ:洋楽(3357)
カテゴリ:ビートルズ
「ビートルズのアルバムから何か一枚」と言われたらコレを挙げる人も多いのではないだろうか。 四人の個性がよく出た作りであり聴き所満載といえる内容だが、本作の評価を決定づけているのはB面の2/3を占める"メドレー"だろう。 そのメドレーに関しては興味深い事実がある。 ポールはそれについて「うまくいったと思う」と言っているのに対して、ジョンは「あれはジャンク(ガラクタ)を集めただけ」と発言しているのである。 この正反対ともいえる、ふたりの評価の違いは面白い。 そして、僕はこのふたつのコメントの両方に「なるほど」と思えるのだ。 ポール・マッカートニーの作品である「You Never Give Me Your Money」は、メドレーの冒頭を飾る曲である。 「あんたは金をくれない」という一節からはじまる、アップル(ビートルズが起こした会社)の財政難を嘆いた歌だ。 時間にして4分2秒の曲だが、これ自体がひとつのメドレー形式となっており、バラード→ブギウギ風味のロック→ブルース・ロック風という具合にわりと目まぐるしく展開していく。 この楽曲構成は、後のソロ作「Uncle Albert~Adminal Halsey」や「Band On The Run」にも引き継がれる、彼十八番の作風だ。 ここで特筆すべきは、弾き語り風のバラード部分だろう。 ピアノによる物悲しい響き、じめやかなポールの歌唱、マイナー調を使ったメロディの美しさは絶品。 多重録音のヴォーカルで「...your funny paper」と歌われる部分などは鳥肌が立ちそうだ。 "バラードのポール"と言われる彼の作品中でも、トップ・クラスに位置するものだと自分は思う。 なのに、この弾き語りパートはわずか1分7秒。 こんないい曲をメドレーの一部として放りこむなんて、ポールどんだけだよ!? ---というのが今も昔も変わらぬ感想だ(笑 かと思いきや、メドレー後半のポール作品「Carry That Weight」でもこのフレーズが顔を出すという仕掛け。 ポールもやはりもったいないと思ったのだろうか。 よいメロディを活用し、構成の妙も見せつけるという、ひと粒で二度おいしいメドレー技ですな。 一方、1:08あたりから飛び出すブギウギ風演奏は、やや唐突な感じがして、どうも違和感を払えない。 歌い方がまったく違う上に曲自体の出来もポールにしては凡庸で、前パートからのつながりも考えると若干チグハグな印象。 それでも、ジョンやジョージも加えたウーアー・コーラスなどはなかなかにグっとくる。 後ろで鳴る鐘の音もなんだか耳に残りますね。 第三パートも楽曲の出来は可もなく不可もなくといったところか。 ただし、ハードにうなる演奏はそれなりにカッコよく、ジョージ・ハリスンの弾くギター・リフも強い印象を残す。 ジョージらしい旋律を持つこのリフは、彼が前年にエリック・クラプトンと共作した「Badge」(←クリームの曲)のそれを元にしたもの。 このリフもまた「Carry That Weight」で再度顔を出している。 「1-2-3-4-5-6-7 いい子はみんな天国に行ける」と繰り返すラストも意味深で好きだ。 曲がフェイド・アウトするのと同時に聞こえてくる虫の声は、ポールが自宅で録音したもの。 次に控えるジョンの「Sun King」につなげるためのSEだが、これも雰囲気作りにひと役かっている。 そして、それは同時に、XTCの'86年の傑作『Skylarking』へもつながっていくのである。 圧倒的な評価をものにした"アビイロード・メドレー"だが、結論を言うならコレは(よく言われるように)70%くらいポールとジョージ・マーティンの作品だろう。 実際、メドレーの幹を支えているのはポールの楽曲だ。 ジョンの曲は、メドレーの一部としてだから聴けるものの、彼の作品としてははっきり言って弱い。 ポールの活躍が目立つこれをジョンが面白く思ったはずもないだろう。 自作に対するクールな評価とポールへの嫉妬心が、先述の辛辣な発言を生んだといったらどうだろうか。 一方のポールは、このメドレーを「僕らの最高傑作のひとつ」とまで言っている。 もっとも、細部のつながりがうまくいってない部分はあるし、小奇麗で"出来すぎ"な印象があるのも事実だ(ジョンが嫌がる理由はこの辺もあるのだろう)。 それでも、ここにある緊張感とカタルシスは何物にも代えがたい。 ビートルズの"有終の美"として確かにこれ以上のものはないだろう。 シャレとも別れの挨拶ともとれる「The End」には、言いようのない淋しさが漂っている。 ポールは90年代以降のライヴで「Golden Slumbers~Carry That Weight~The End」をたびたび演奏し、ファンを喜ばせている。 エリック・クラプトン、フィル・コリンズ、マーク・ノップラー、そしてジョージ・マーティンを迎えたロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ('97年)は涙モノでした。 「You Never Give Me Your Money」を聴くにはここをクリック! 豪華メンバーによる「Golden Slumbers~Carry That Weight~The End」のライヴ・バージョンはこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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