『古城の幽霊ボガート』
ハリー・ポッターは今回も面白かったです。 いつも各巻を2度以上読むハリポタファンです。でも、実はイギリスやスコットランドを舞台としたファンタジーで、もっと好きな本があるんです。 2,3年くらい前、ちょうど僕がウィスキーにはまり始めてまもなく出会った本です。 ある日、居間のソファに無造作に一冊の本が投げ出されていました。おせっかいな妻が、子供の読書感想文のために図書館から借りてきた本でしたが、子供達は興味を持てなかったようです。しかし、僕はその表紙の絵とタイトルを見ただけで「これは子供たちのための本じゃない、僕のためにこそ書かれた本だ」と直感しました。 『古城の幽霊ボガート』 スーザン・クーパー作、掛川恭子訳 岩波書店(1800円+税) 内容は、小学校高学年から中学生向けのファンタジーです。 スコットランドの古城であるキープ城に何世紀も住んでいたマクデボン一族。その最後のマクデボンが死に、遠い親戚のカナダ人一家が相続することになる。これをきっかけに、マクデボン一族よりもずーっと昔から城に棲み続けていた妖精ボガートが、カナダにやってきてしまう。 E・Tとかキングコングとかプレデター2とか、「未知の生物が突然文明社会に放り込まれたおかげで町は大パニック」というお決まりの設定ではあります。 そのあと、「頭の固い大人じゃ解決できないが、機知にあふれた子供達のおかげで故郷へ帰ることができた」っていうストーリーも定番。 でもでも、素晴らしいですよ。作者のスコットランドに対する愛情があふれ出ています。ボガートといってもハリーポッターの『ものまね妖怪ボガート』とはまるで違います。ここで描かれるボガートは、人間が生まれるよりずっと前からスコットランドに住んでいるいだずら好きでかつ気高い存在です。タイトルでは幽霊となっていますが、実際には妖精に近いです。 たとえば、ボガートが長い歴史の中でたった一度だけ得た人間の友人ダンカン・ボガートを失ったときの模様を紹介しましょう。「誰の目にも見えなかったが、ボガートもキープ城からアイオーナの島につくまでずっと、ダンカンの亡骸によりそって、泣きながら行列についていった。一族のものたちが家に帰っていったあとも、ボガートは長いあいだアイオーナの島にとどまって、バグパイプの悲しみの調べのように空で鳴きかわすカモメの声に耳をかたむけ、ダンカンの墓が草むすのを見守りつづけた。墓が緑におおわれると、ボガートはキープ城にもどっていき、二十年の間、音もたてず動きもせず、だれにもいたずらひとつしないで、静かに横になっていた。けれど二十年たったときには、自分がどうして悲しみにくれているのか忘れていた。ボガートは所詮ボガートで、人間ではないのだ。そしてまた、マクデボン氏族のだれかにいたずらをはじめた。それでも、ごくたまにだが、つらい思いをしたこと、心が張り裂けるほど痛んだことを思い出して、けっしてけっして、二度とふたたび、人間を愛するようなまねはしまいと心に誓った。」 随所に散りばめられたスコットランドの風景や人々の会話、歴史、伝説。子供向けですから当然わかりやすく、それでいて美しい文章に感激しました。 日本の子供達にその面白さがわかるわけないですよ、残念ながら。でも、子供達に読んでほしい本です。今はわからなくても、将来ウィスキーを飲んだ時にデジャヴュのように思い出すかもしれないですから。 ちなみにAMAZONでは扱っていましたが、楽天広場では売り切れでした。小中学校や公立の図書館に置いてあるかもしれません。