8回めの冬
悠く(とおく)から流れてくるあの溜息は月の満ち欠けに怯える者の歌 (THE BARRETT/バイバイロングサマータイム)初めてこの歌詞を見たとき。どうしてこんなにリリカルな詩が書けるのか、と嫉妬した。叙情的なのに情景がありありと目に浮かぶ。私は音楽を聴くときほとんど詩は気にしないが、彼らだけは別だ。歌詞カードすべてを自分のノートに写したこともある。不定期なサイクルで彼らのアルバムを聴きたくなる。不定期、でもないか。この時期だ。フミは私の同級生。自信家。でもどこか揺らいでいる。頑固。でも言ってることがすぐに180度変わる。人の話を聞いてない。でも記憶力抜群。いつも仲間の中心で豪快に笑っている。でもどこか寂しげ。涙脆く人情に厚い。でも時折驚くほど冷酷。料理上手、日曜大工好き。でも着る物には無頓着。1人で何でも抱え込む癖。誰かに指図されるのが大嫌い。頭の回転は速すぎるほど速いが融通が利かない。人見知り。なのに周りに人が集まって来る。筆マメで達筆。とにかく純粋。純粋。そして不器用。不器用。手先は器用なのに。以上、フミ分析。仲間に自分の手料理を食べさせるのが何よりの楽しみだったね。フミに彼らのアルバムをカセットテープにダビングして渡したら、ずっと車の中で聴いてたね。いつも黒のレザーコンバース履いてたね。君を遠くで眺めてる僕に気がついてよ君はいつどこにいても人に囲まれる人気者だから(THE BARRETT/失踪)フミ、私が行き詰まったときは現れてくれるんじゃなかったの?私に気づいてよ。アドバイスをちょうだい。それと絶品のアボカドソース作り置きしといてよ。マネして作っても本家の味にならないの。うっせーなーおまえは!!って言ってる声が聞こえてくるけど。聞こえないフリするもんね。誤解を解くために弁明することをしない私。時が解決してくれるよって成り行き任せにする私。だってどうすればいい?何て言えばいい?さらに誤解を招いたらどうするのよ?フミ。もういいよ。頼りになってくれなくていいから。ソースも自分で作るから。何もしてくれなくていいから、夢の中でもいいから、少しだけでもいいから。一緒にbarrett歌おう。季節はずれのあの歌を。フミ。一年に一度でいいから。空から降りて来てよ。何もしてくれなくていいから。