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カテゴリ:言語・文化・コミュニケーション
私は仏教徒だが、
遥か昔、数年間、カトリック教会が経営する上智の寮に住んでいたことがある。 スペイン人のシスター数人が寮母さんだった。 ある日、シスターの部屋で、イエス・キリストの絵に テ・アモ・イエズス (Te amo Jesus. = I love you, Jesus.)と書かれたポスターを見た。 (スペイン語では、主語を省略することが多い。 ここの「テ」は、主語ではなく目的語。) スペイン語には、「あなた」や「君」(you)を表す単語(主格)に 親しい間柄で使う 「ツ (tu)」と、 それほど親しくない間柄で使う 「ウステッド (usted)」の2種類ある。 私は日本語の敬語の感覚で、 「ウステッド」の方が丁寧な表現ではないのか、 相手に対する敬意を表すのではないのか、 目上の人やイエス・キリストに使う時は、 「ウステッド」を使うのでないかとシスターに聞いてみた。 シスターは違うと言う。 『イエス・キリスト様はとても親しい存在なので、 「ツ」(ここでは目的格の「テ」)を使う』のだそうだ。 フランス人の知り合いの女性も、同じことを言った。 フランス語では、 偉い上司に対しても、親しくなれば 「ヴ」ではなく、「テュ」を使うと。 「ツ」と「ウステッド」のどちらを使うのか、 「テュ」と「ヴ」のどちらを使うのかは、 社会的地位や年齢などに対する敬意(respect)ではなく、 親しさ(familiarity)によるのだそうだ。 スペイン人のシスター曰く、 神様は私を愛してくださる。 テ・アモ (= I love you.)・・・と。 (何があっても愛してくれる「神の無償の愛/無条件の愛(unconditional love)」にも、 「テ」を使うらしい。) そこで、シスターに聞いてみた。 スペイン人男性は何とおっしゃるんですか。 シスター曰く、 スペイン人男性は、テ・アモ(I love you. 愛してる)とは言いません。 テ・キエロ(= I like you very much. I care for you. 時にはI want you.の意味) と言います・・・*注1 参考訳: I like you very much. 君のことがとても好きなんだ。 I care for you. 君のことを大切に思っている。気遣っている。 I want you. 君が欲しい。 スペイン人男性の愛情(?)は、神の無償の愛ではないのね。 私は若干18歳にして、一瞬のうちに、 このスペイン人シスターがなぜ神に仕える道に入ったのか、 わかったような気がした・・・ *注1 テ・アモとテ・キエロという表現について、私は全く詳しくないが、 基本的に、テ・アモは神や国などに対する愛、絶対的な愛、 テ・キエロは、様々レベルの「情(affection)」 (= 好きという感情、相手を大切に思う気持ちや相手への気遣い、時には欲望)を 指すのだそうだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.05.28 21:10:05
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