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カテゴリ:言語・文化・コミュニケーション
実務翻訳や実務翻訳のトライアルで、基本的に気をつけるべきことを書きますね。
ただし、これは「原文の意味をこなれた日本語に忠実に訳出すべき実務翻訳」の話であって、「原文のエッセンスを意訳して日本語で日本人の心に食い込むべき」映像翻訳(台本や字幕)や音楽・劇の翻訳とは、全く異なることをご了承ください。 1:原文と訳文の意味の一致 ・原文の意味を変えない。 (=訳しにくいから、読みにくいからといって、原文の意味を変えて訳さない) ・原文の意味をカットしない。 ・訳文に、原文にはない別の意味を追加しない。 ただし、「原語と訳語の言語構造や単語の意味の範囲が違っているので、原文の意味を表すのに、原文の1単語を訳文で数単語にすること、または原文の数単語を訳文で1単語にすること」は、上記に該当しません。 [このような翻訳をした場合に留意すべきこと] このような翻訳は、意訳がわかっている人は評価するでしょうが、稀にトライアル評価者や翻訳の校正者によっては、このような意訳を評価しないことがあります。 大抵の場合、こういう評価者や校正者は、高校生レベルの英日翻訳(英単語を日本語の単語に置き換えて英語を学習するのが目的)から脱却していない新人さんか、原文の意味を完全に理解できずに字面だけを訳して翻訳と称する人(=原文読解力がない)なので、ほとんどの人がすぐ翻訳業界から消えていきますが、稀にこういう人が消える前に不運にも遭遇してしまうことがあります・・・ たとえば、私は遥か昔、ある翻訳会社の登録トライアル翻訳で、原文で『both』という単語を訳文で『双方』という言葉を使わずに、かなり工夫して『双方』をいう意味を完全に訳出したことがあります。(たまたま『双方』と言う単語をそこで使うと、少し日本語としてぎこちなかったからです)。でも、トライアル評価者に「訳文で『双方』という単語を使っていない。これは訳抜けである」と言われて、「評価者は日本語が母語なのに、日本語がわからないのか?」とびっくりしたことがあります。 この評価者のトライアル訳文の見本を見ると誤訳があったので、その誤訳を指摘して、しっかりトライアルに通りましたが。(ただし、そのトライアル評価者のレベルは低くなかったらしく、彼はなぜそれが誤訳なのかを理解できたようです。彼は翻訳業界に残ったかもしれません。) 校正でも苦い経験が数回あります。笑。新人さんに翻訳を校正されて、高校生レベルの訳文に改悪されていました。笑。英単語を辞書で引いて日本語の単語に置き換えて、日本語の文法で組み立て直しただけ。辞書に載っていなかった訳語は、何でこんな辞書に載ってない訳語を使うんだとばかり、全て辞書の単語に置き換えられ、英語の名詞は辞書で見つけた日本語の名詞に、同じく動詞は動詞に、副詞は副詞に書き直されていましたっけ・・・ 直訳だと意味が通らないのでかなり工夫して訳した意訳の箇所ほど、直訳に書き直されていました。それで日本語の訳文が意味不明になっても、ぎこちなくなっても、あの校正者は全く平気でした・・・ あれはちょっと信じられませんでしたが、おそらく訳語をせっせと辞書の単語に置き換えているうちに時間が足りなくなり、改悪した日本語の文章を読み直す時間がなかったのでしょう。少しでも読み直せば、自分がどんなに酷い訳文に変えたかがわかったはずです。 直訳しか理解できない評価者や校正者に当たってしまった意訳の人は、できれば(できない場合も多々あります)、翻訳会社に自分の訳を説明し、評価者や校正者から説明を求めてみましょう。特に慣れない新人さんや低レベルの評価者や校正者は、好況時でもあまり仕事がないので、「こんなに直しました!」などと言って、自分の評価や校正料金を上げようとすることがあるので、要注意です。運悪くこのような人に遭遇して闘う羽目に陥った場合、あなたの実力の方が上なら、このような評価者や翻訳者の方が消えるかもしれません。笑 蛇足ですが、ある単語に背景など暗黙の意味が備わっている場合、意訳でそれを訳出することがありますが、人によっては、訳注として別途記載することを要求してきます。意訳に訳す場合、このようなことも気をつけた方が良いでしょう。 2. こなれた訳文にする。 この「こつ」としては、1文ごと、1段落ごと、そして最後に文書全体で誤訳がないかどうか、訳抜けその他のミスがないかどうかを見直した後、1日か数日期間をおいて、今度は訳文だけ読んで(=原文の表現や構造を忘れて)修正すると、こなれた訳文になりやすいです。 つまり、最後に日本語の頭で日本語を読んで、こなれた日本語に修正するわけです(和訳の場合)。ただし、この最終段階では原文を参照しないことが多いので、最終段階の修正で誤訳や意味のズレが生じないように気をつけます。(必要に応じて原文を参照しますが、その際、原文によって日本語の訳文が影響されないようにします。) ちなみに実務翻訳は納期が短いことが多いので、この「間を置く期間」がわずか数時間になることがあります。時には全くないことも・・・笑 3.訳抜け、数字表記などの不注意なミスに気をつける。 4.専門用語の把握 専門用語はインターネットや本などで調べて、専門家がみても違和感がない専門用語を使用します。 5.各社が指定した用語や表記方法を使用 エンド・クライアントや翻訳会社が指定した用語や表記方法を使用します。表記というのは、数字やカタカナを全角にするのか半角にするのか、コンピュータをコンピュータと記載するのか、コンピューターと記載するのかなどです。各社に表記マニュアルがある場合、それに従います。 6. 読者層(readership)を考慮して翻訳 これは翻訳会社の登録トライアルにそれほど関係ないかもしれませんが、実際の翻訳では、場合によっては「読者層を考えて訳語や訳文の文体などを変更」します。 何のための翻訳か、エンド・クライアントが何のために翻訳を依頼しているのか、などを念頭に置いて訳します。実務翻訳は、お金を払ってくれる人のために翻訳をしているのですから、その方の要望に応えるわけです。 たとえば、極端な例ですが、法律関係の文書の場合、「とにかく何を書いてあるのか知りたい。このわけのわからない法律英語をなるべくわかりやすく訳してくれ!」という要望がある一般の人から翻訳を依頼された法律文書なのか、法律事務所など法律のプロに提出する文書なのかでは、訳文の硬さや専門用語の使い方が違ってきます。 英訳でも、英語のネイティブの人が読む文章なのか、それとも非ネイティブの人が読む文章では、使う英語が違ってくることがあります。英語力が英語のネイティブ・レベルの非英語ネイティブもいますが、そうではない非英語のネイティブの人が多いのです。慎重にどのレベルに相当するのかを考えたうえ、非ネイティブの人が読む英文では、平易な英語を使って、とにかく意味を伝えることを優先することがあります。 ただし、非ネイティブ用の訳文の場合、「万人の方にわかっていただくために、オーソドックス且つベーシックで平易な英語を使った」といった訳注を記載した方が、(特に難解な言い方を好む法律・契約分野では)無難かもしれません。あまりに簡単な英語では、こいつ英語ができないんじゃないかと思うエンド・クライアントもいるからです。 その際、「英語ができないと思うので」などと言うことは決して書きません。非ネイティブがその訳注を読んだ場合でも、絶対に非ネイティブの気に障らないような訳注にします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.10.15 00:19:54
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