ヘンデルとパーセル
亭主はこのところヘンデルの鍵盤作品にご執心。通勤の車中では以前にご紹介したイェーツの演奏がしばしばかかっていますが、同じiPodのプレイリストにはその昔購入したマレー・ペライアによるピアノ演奏(HWV427,428,430,435)も入っており、こちらについてもその素晴らしさを改めて認識させられているところ。(購入当時は、一緒に入っているスカルラッティのソナタが目当てで、ヘンデルはおまけでしたが…1996年の録音ということですから、すでに20年も前のCDで、残念ながら中古でしか手に入らないようです。)弾く方はといえば、昨年暮れに楽譜を買って以来、よく知っている作品を中心にハープシコードで音にしていたのですが、彼の作品は比較的音が少なくて取っ付きやすいこともあり、最近はなじみのない曲にも手を出しています。そのような作品の中で面白いと感じたのが1733年の曲集に入っている第8組曲(HWV441)。この作品は、アルマンド・アレグロ・クーラント・アリア・メヌエット・ガヴォッタ・ジーグという7曲から構成されたかなり長大なものですが、いたるところでヘンリー・パーセルの組曲に似通った雰囲気を漂わせています。これは、冒頭のアルマンドからしてそうで、符点16部音符を多用した右手旋律の動き、あるいは14小節目の両手を16部音符ずらす進行などが典型です。ベーレンライター版の解説(ベスト氏)をよく読むと、この「1733年版曲集」はもともとウォルシュという出版業者が当時流布していた手稿譜からヘンデルの許可なく印刷譜として出そうとしたもので、収録された作品は1720年以前、主に英国に渡ってきてから作曲されたものと推定されています。(ヘンデルは後にウォルシュにOKを出しますが、肝心の中身を真面目に校閲した気配がなく譜面は間違いだらけとかで、ベーレンライター版は元の手稿譜に依拠しているとのこと。)このような背景から亭主が想像するに、ヘンデルは英国に渡った後、当時まだ人気があったパーセルの音楽を色々と研究したのではないでしょうか?そして、ちょうど第1組曲がヴィヴァルディ風であるように、この組曲をパーセル風の作品として書いてみた、というのが亭主の妄想です。これがあながち荒唐無稽でもなさそうなことには、直前に置かれた第7組曲の終曲として置かれているジーグも、パーセルの「ジーグ」とよく似ていることがベーレンライター版の序文中で指摘されていました。(パーセルのそれはシンコペーションが多く、ヘンデルのそれより技巧的に高度なものを要求されますが、両者のリズム構造は大変似通っています。)それにしてもパーセルの影響力、侮りがたいものがあります。