『 銀 』 は 『 金より良い 』 と書く。
何ヶ月も前からドキドキしていた男子フィギュア、女子フィギュアが終わり、 なんとも 燃え尽き感、というか、空っぽになってしまった感というか。 茫然としてる状態が続く今日この頃。 今回ほど泣かされた五輪はかつてなく、 いろいろなことが私のなかで渦巻いた五輪であった。 フリー直後の真央ちゃんの涙に 何度も泣かされながら、 北京五輪の折、体操男子個人総合で銀メダルを取った、 内村航平選手のおかあさまが 「 銀は『 金より良い 』と書くのよ 」 とおっしゃり、 ニュースで流されたことを思い出す。 奈良の薬師寺で 『 銅は金と同じ 』と言われる所以 を学んだのだったが、 きっとそんな話が 『 銀 』にもあれこれとありそうだ。 私の辞書には、残念ながら、 「 艮 」 は 白い、という意味で 「 しろがね 」の意、としか 書かれていないのだけれど。 そう、この銀は、真央ちゃんをきっともっと強くする。 大きな大きなバネになる。 NHKの実況中継で、女子フリー終了後から表彰式の間中の、 実況アナウンサー刈屋氏と解説の八木沼氏との会話で耳にした言の葉が とても素敵だったので 覚書として。 刈 「 凄い勝負でしたね 」 八 「 はい。 でも、これだけの異様な空気感のなかで、 本当にハイレベルな戦いをどの選手も行ったと思いますね 」 刈 「 228.56というのは、ほんとに男子のなかに入って試合をしても 戦えるんではないか、という位の内容のキム・ヨナ。 しかし、浅田真央もそれに、まさに真っ向勝負というか、 自分の持っている今シーズンのプログラム、 その最高レベルのものをぶつけて来た、ということが言えますよね 」 八 「 キム・ヨナ選手の後で、『 でも自分のスケートはこれです 』 という 攻めの姿勢を最後まで貫いたのが、このオリンピックの舞台で、 それをやった、ということが本当に素晴らしかったな、と思いますね 」 ~ 中略 ~ 八 「 これだけのプレッシャーの中で大変だったと思います 」 刈 「 いや、でも、浅田真央選手の本当に純粋な強さと言うのは、 銀メダルでしたけれども、終わった後 戻ってきて、 キム・ヨナに負けたという敗北を 真正面から受け止めようとする姿勢ですよね。 「 やるだけやりましたからいいです 」とか 「 もう自分では悔いはありません 」とか 一切言いませんでしたね。 とにかくキム・ヨナに負けた、 トリプルアクセルは2つ入れたことだけは嬉しいけど、 それ以外のところは不満があるとはっきりと言いました。 敗北を受け入れるというのは、とっても難しいことでね。 必ず何か言い訳をしたりとか、何か自分を慰めたりする言葉を言う選手が 殆どだと思うんですけれども、でも彼女はオリンピックの勝負を賭けた舞台で 負けたということを、最初の一言でそれを言ったところが、 それが浅田真央選手のプライドだと思います 」 八 「 だからこそ、その気持ちがあるからこそ、 今の浅田真央選手がいるわけであって、 そしてきっと、次に向けてまた始動すると思いますね 」 刈 「 そういう選手はきっと強くなりますよね 」 八 「 はい。 まだまだ これでは終わらないと思います 」 刈 「 そうですね。 今シーズンの浅田真央選手の戦い方というか、 やはり、また一つフィギュアスケーターとして人間として 大きくなったんじゃないかと思いますよね。 やはり、プログラムは当初重すぎるんじゃないかとか、 あるいは要素が詰まりすぎているんじゃないかとか、色んな批判を受けて、 もう少し浅田真央選手に合ったプログラムで やっぱり金メダルを狙いにいった方がいいのではないか、 という話もありましたけど。 しかし、彼女は彼女の意思で、 これまでの自分のイメージとは違うかもしれないけれども 気に入ってるんだと、そして、あのヤグディンが演じた様な 一つの大きな作品としてオリンピックの舞台で世界に発表したい、 そう言いましたね。 そういう選手はきっと強くなりますよね 」 八 「 そうですね。 いつかは選手は変わっていかなくてはいけません。 特にフィギュアスケートは音楽を使うスポーツで、自分の得意なもの、 不得意なものというのをやはり曲想でも出てくるんですけれども、 でも、いつかは殻を破って違う自分を出していかないといけないんですね。 で、それをやるというのが一番難しい作業で、選手自身にとっても 凄く怖い作業なんです。 やはり、どういった得点が出るのかとか、 もしかしたらダメになってしまうんではないかとか、 自分が立ち直れないんではないかとか、 そういう風に思うことも数多くあるんですけれども。 でも、それをあえてオリンピックの年に、 自分自身で選んで、やれたということが、 『 鐘 』という音楽で、新しい浅田真央選手を作り出して、 それでまた新しい自分の引き出しが出来たと思うんですよね。 で、これを滑り切ったことで、もう怖いものはなくなった、 また新たに もっとチャレンジしていこうっていう気持ちが きっと生まれたんじゃないかなって私は思います。いつも思ってた。優しく熱い刈屋さんもだけど、八木沼さんってほんと凄いって。マラソン中継されるときの増田明美さんのように。絶対に「 上から 」解説をしない。選手に寄り添った こころの解説をなさると。