緑仙の日々是好日抜粋
「雪女」朝方は薄日が射込んでいたのに午後になると急に風が強くなり空は雪空に変わった。TVの天気予報では今宵は雪になるらしい。雪の降る夜、家路を急いでいると美しい女がこう語りかけてくる。「ちょっと雪の中の失し物を捜す間、この子を抱いていてもらえないでしょうか」風も強く雪は舞い、女は困っているのだろう‥そんな風に思って赤ん坊を預かるとその子はずんずん重くなり、あなたもろとも雪の中に埋もれてしまう。「もしかしたら雪女?」気付いた時にはもう遅い。雪国には、「雪女」の話がいろいろと伝わっている。雪は美しい‥何しろ「化粧」をしているくらいだから‥特に夜の雪は妖しく「魔物的要素」を含んでいる。日本の美を表わす際に「雪月花」が使われるが、それは大抵、京都や江戸の発想である。雪深い東北や北陸‥何ヶ月も雪に埋もれることを余儀なくされる人々にとっては、雪は美しいものである以上に恐ろしい白い魔物である。雪女がこの世のものではないほど美しく語られながら、すさまじい形相の鬼女にも描かれるのは、そのためである。今宵、「雪見酒をご計画の皆様」くれぐれも帰り道にはご用心下さい。*みちのくの雪深ければ雪女郎 (青邨)*人の世の遊びをせんと雪女郎 (双魚)*ふりむけば瀬に沿い消えし雪女(日郎)*いちにちを無為に通して雪見酒(柿木)*戯れて昨日の晩の雪うさぎ (緑仙)