辻仁成、久々によろし。
久しぶりに、辻くんの本を読んでいます。【送料無料】アカシアの花のさきだすころ元覆面レスラーとそこに転がり込んできた孤独な少年、タクロウのお話。二人とも家族から離れ、孤独を抱えるなかで一緒に暮らし始めるわけですがレスラーはタクロウに自分の亡き息子を重ね、タクロウは幼い時に死んだと聞かされた父を重ねて、寂しさを埋めるように、プロレスや団地での生活を通してゆっくりとゆっくりと信頼関係を築いていくのです。レスラーの生涯を本にしようと、作家が取材に訪れるという設定でレスラーが語り続けるという書き口。もうね、小さなタクロウがいろんなことを考えながら、いろんなことを自分なりに受け入れていることが分かってね、それを「子供は子供らしくなくちゃダメなんだよ」というところで愛情いっぱいに接するところがいいんですよ。久しぶりに辻くんの本にジーンとしました。が、いかんせん長い長い時間の話なのに、内容が短すぎ・・・。その後のタクロウや、その後のレスラーの人生が描かれていれば・・・とちょっと残念だったなぁ。ってことは、まだまだこの二人の物語を読みたいなーと思ったってことですね。最後の最後まで、想像力を働かせて読まないといけない本ではありましたが(相変わらず「で??その後は?」と聞きたくなるラスト・・・)やっぱり、この人の紡ぐ言葉はステキなんだなーと思っています。辻くんは、ヘンな恋愛小説書いてないで、こういう人との関わりを書いた方が絶対にいい小説書くんだけどなー、とまたまた親戚のオバチャンのように思うのでした。これ、映画にもなってます。レスラー役にアントニオ猪木。ナイスキャスティング。それから、表題作のほかにもう一篇収録されている「青春の末期」。この話もよかったですなぁ。政治家になろうと初めての選挙戦の最中に父が急死。長男が喪主をつとめんでどげんするとか!と母の言葉を弟に伝えられ投票日1週間前に、疎遠にしていた実家へ帰る話です。娘はいろいろと「母への想い」があるように、息子にも「父への想い」がありますね。子供たちが「じじは死んで、どこに行くの?空の上?天国?」と聞くのですがばーちゃんの答えがよかった。「心の中。じじはみんなの心の中に出かけなさるんよ」。そして親友の弔辞。やっぱり辻くんの言葉はいいですな。奇しくも今週、母の一周忌を終えた私。そっかー。ママは天国で友達と楽しくやってると思ってたけどみんなの心の中に出かけたのか。と思ったら、何だかちょっと泣けちゃったわよ。でも、この小説も「え、これで終わり? その後は? この問題はどうなった?あのことは解決できた?」とモロモロ思うあたりが、やっぱり辻くんの書き口なんだよなぁ。