川上未映子さん
川上さんの芥川賞受賞インタビューと受賞作「乳と卵」が文芸春秋三月号に出ています。 昨日書いたように、ころ父は「乳と卵」は読み通せませんでしたが、受賞インタビューは大変興味深く読みました。以下は、同号からの一部の抜粋・要約です。・川上さんは、31歳、大阪市立工芸高校でデザインを学び、卒業後、書店員、歯科助手、北新地でのホステスなどさまざまな職業を経験。日大文理学部の通信教育で哲学を学びバンド活動もする。歌手を経て、作家デビュー。・家には本が一冊もなし。学校の国語の教科書で小説に興味を持ち、図書館に通う。文学全集を「あ行」から順に読む。・弟さんを大学にやるためホステスに。大学卒業したころにライブを見たビクターのひとからCDデビューの声がかかる。・子供のころから「知りたい、不思議だ」と思っていた。それを言語化してくれるのは哲学かも知れないと、色々哲学の本を読んでいくうちに(故)池田晶子さんや、永井均さんの著作に出会った。・文章を書き始めたきっかけはブログ。「書きたいことを書く」のは「一番嫌いなタイプかも」。「他者に対する自覚が無いと良いものは出来ないんじゃないか」と、面白い内容を目指して書く。・ブログ「純粋悲性批判」をまとめて2006年処女エッセイ集「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」を出す。若島正が06年のベストに挙げて高く評価。・「ユリイカ」に売り込み、ときどき散文詩を書かせてもらえるようになった中で渡部直己に推薦され「早稲田文学」に書かせてもらう。最初の小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」を書き、芥川賞候補に。二作目が今回の受賞作。 働きながら哲学を学び、積極的に文章を売り込んでいった、というのが凄いと思いました。 「仕送りをしてくれる人も面倒をみてくれる人もいないから必要に迫られて働く」ということだったそうですが、普通は、働くということは、身も心もボロボロになって、食べるのが精一杯、というのが現代社会であると思います。 そういう現代にあって、弟さんを大学にやり、自分も通信制で勉強もし、職業も生活のためと割り切って、更にバンドや文章など、いろいろ挑戦していくのが、なかなか偉いのではないでしょうか。 子供のころからの「不思議だ」という気持ちを、言語で明確に表現したいという思いが強かったのでしょう。才能とパワーを感じます。 インタビューの中で、言葉がきらめいていたように思います。コロ父は、こういう、ある種の臭さが好きなんですねえ。たとえば、次のような感じです。 「文学が好き、というより、ただ何かを読みたい」 「哲学を学んで気づいたが、物語だけでは満足できない。自分の中に言葉に出来ない不安や問いがあって、それを本を通して考えたかった」 「子供のときから、「私の人生どうなるんやろ」という感じは、ずっとあった。」 「でも「本当の自分になる」とか「自分探しをする」という発想には一度もなったことがない。生は苦なり、生きていくことは基本的にしんどいものだと思っている」 「社会的なアイデンティや出来事にはあまり期待しない。自分が何になれるかではなく、自分が何をできるかにしか興味を持たないようにしている」 「どうすればケータイ世代にも伝わる小説を書けるか。出来ないわけがない。実際、村上春樹さんは出来ている。」 「誰にでも伝わるテーマと書き方をしながら、読み終えたときには必ず読者の目盛りを三ミリ上げてくれる。名作ってそういうものだと思う。」 村上春樹、あんまり好きじゃないな(笑)。 コロ父も、実は、小学校から帰るとき、いつもの坂道を登りながら、「どうして生きているんだろう。この思いって何だろう。世の中ってなんだろう。」などと考えて、頭がくらくらしてきたものでした。 そのときの記憶を思い出しました。 でも、いつしか、そういう気持ちは忘れるもんです。 受賞してしまえば何でも言えるという側面はあるかもしれませんが、それにしても、表現として、31歳で、これだけ言えるというのは、凄いと思います。生活感覚もあって、単なるアッパー志向だけではないと思いました。 コロ父が31歳のころは、自分のことも回りのことも何も見えてませんでした。 仕事がうまくいかずに、もがき苦しんでいた思いはありますが、サラリーマンの位置に安住していた情けない青春でした。 今のわたしは、自分のこれまでを反省する意味もあって、子供には、つねずね、「自分が何になれるか、何ができるか」ではなく、「自分が何をしたいか」で考えなさい。学校も「どこなら行けるか」ではなく「どこに行って何をしたいか」で考えなさい、と言っています。 「何をできるか」については、川上さんと違う表現ですが、子供には、いまはやりたいことを見つけてほしいという思いです。 とにかく、子供には、人生について考えてほしいです。 このインタビューも子供に読んでほしいのですが、子供によると、「あの人、嫌い」という感じでした。今回の受賞を、マスコミが興味本位で取り上げるのが、少しいけないのかな、と私は思います。 ところで、肝心の受賞作ですが、私は、ちょっとパスかな。 テーマが、少し肉っぽく、血っぽいこともありますが、文章がちょっと読みにくい。 でもこれは、純文学ですし、好き好きだから仕方ないと思います。 審査委員の大勢から評価が高かったようです。例外として、石原慎太郎さんが酷評していたのが印象的ですね。あそこまで言わなくても、という気もします。 川上さんは、春から、日大の聴講生になるそうです。 歌手としてライブもやりたい、と言っていますが、あくまでも趣味にしていただいて、仕事は、貴重な才能と言葉への思いを生かして、文章に専念してほしいですね。 エッセイなら、たぶん私の好みでしょう。正直、本が出たら、買いたいと思います。 「文芸春秋」の思惑、売り出し路線、に乗せられているのかもしれませんが、苦労してるし、考え方がしっかりしている人が、世の中に評価されて、素直に嬉しいと思うことにします。 純文学、頑張れ。