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カテゴリ:最近読んだ本
「君たちは、どう生きるか」 1937年7月7日、満州の日本軍は盧溝橋事件を発端に本格的に中国侵略を開始しました。日中戦争の始まりです。両国政府の不拡大方針もあり、1941年12月に太平洋戦争が始まるまで互いに宣戦布告をしていません。宣戦布告無き戦争が4年半も続いたのです。 「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎:「日本小国民文庫」)は、まさにこの日中戦争が始まった1937年7月に発行されています。この「君たちはどう生きるか」が「日本小国民文庫」(全16巻)の最後の刊行となったのです。 吉野自身は東京大学文学部哲学科に在学中の1931年に、社会主義系の団体に関係したとして治安維持法違反で逮捕されています。その翌年の1932年には、海軍将校らが首相官邸に侵入し、内閣総理大臣犬養毅を殺害するという五・一五事件が起こりました。 日本が戦争に向かっていく中で、社会主義的思想だけでなく、自由主義的な考え方まで弾圧されるようになります。そんな時代の風潮の中で、吉野源三郎は科学的な考え方やヒューマニズムにもとづき、独立した個人を育てたいとしてこの本を書いたと言われます。 「君たちは、どう生きるか」 主人公のコペル君は中学2年生です。ただ当時の中学校は旧制中学校で、尋常小学校(4年)、高等小学校(2~4年、時代によって変遷があった)を修了した者が中学校の試験を受けることができました。旧制中学校(5年制)の2年というと、今の13歳~15歳にあたります。 コペル君というあだ名は、地動説のコペルニクスから来ています。あだ名には科学的にモノを考えることの大切さが込められていて、コペル君自身もこのあだ名を気に入り、科学に興味を持ち始めます。彼は裕福な家庭ですが父親が亡くなっていて、叔父さんが社会の仕組みや人間として大事なことを教えてくれる灯台の役割を果たします。 家が豆腐屋で油揚げのにおいがすることから、仲間からいじめられている友人を通して貧困について考えます。この友達はすぐにコペル君の大切な友人になります。ナポレオンと戦争の話からは国家と国民の関係や人類の歴史について考えるようになります。 そのコペル君が最大の悩みを抱えることになります。それは、大雪が降った日に親しい友人たちが上級生からいじめられているのに出会ったのです。上級生が、こいつらの仲間はいないのかと言ったのに、彼は後ろ手に持った雪球をそっと落として立ち去ったのです。 自分の勇気のなさに苦しみ、友達を裏切ったという情けなさに意気消沈して本当に具合が悪くなって寝込んでしまいます。さて、こんなことは、現代の学校でもよくおこっていることです。コペル君はこの悩みをどのようにして解決するのでしょうか。 内容紹介はこのくらいにしますが、この本の最後は次のような文章で終わっています。 著者の吉野源三郎は、戦後は岩波書店の「世界」の初代編集長を務め、岩波少年文庫の創設にも関ります。1981年に82歳で没しました。優れた児童文学者で、編集者でした。 マンガ版の売れ行きも好調なようですが、中学生以上には文章で書かれたものを薦めたいと思います。大人にとっても子育ての参考になる良書だと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018/02/21 05:51:17 PM
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