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カテゴリ:最近読んだ本
ツバメのように軽やかに
JR東日本の車内誌に連載したエッセイが単行本化されたもので2年半前に発行されている。車内誌発行はコロナ禍の前だ。IR東日本の車内誌だから、旅の舞台、旅の中で回想されるのは大部分がJR東日本の沿線周辺である。 「旅のつばくろ」(新潮社:2020年8月20日 第5刷) (「つばくろ」とはツバメの意、春の季語、といった説明が目次の裏にある」 沢木耕太郎は「深夜特急」以来のファンで、好きな作家と言われれば「沢木耕太郎」、愛読書はと訊かれたら「深夜特急」なのである。彼の本はなかなか書棚から処分できないで、今でも書棚の一定部分を占めている。 この本は40余りの章から成っている。驚いたのはこのエッセイの文体というか文章から伝わってくる空気だ。彼のノンフィクションの、「研ぎ澄まされ、どこを切っても血がほとばしるような緊張感のある文章」とは違う。書名通り「つばくろ」のような「ひらり感」に満ちた、一言で言えば「脱力感あふれる」文章になっていた。 この中で竜飛崎への旅については連続6回で取り上げている。 二年がかりの仕事が終わり、ほっと一息ついたとき、ぽっかりと暇な 時間ができた。 そんなとき、これまでだったら、外国にいこうと思ったことだろう。 ところが、今回は日本国内を旅行してみたいと思った。 ーさてどこに行こう・・・・・。 考える間もなく、すぐに目的地は決まった。 青森の竜飛崎。 「旅のつばくろ」P47 彼が竜飛崎を選んだ理由は、高校1年の終わりの春休みに、当時国鉄が発行していた「均一周遊券」で東北一周の旅に出ているからだ。まず彼は奥羽本線で秋田に向かった。そして彼の最初の目的地は男鹿半島の付け根にある寒風山だったという。 東北の寒さをそのまま表現しているようなこの山には、自分も若い時に立ち寄った、八郎潟を見下ろす小高い丘状の山だった。彼がなぜここを東北の旅の第一目的地にしたのかは書かれていない。多分「寒風山」という名に魅かれたのだろう。 旅の二番目の目的地は竜飛崎だった。この地名にも旅心を誘われる。ところが、16歳の沢木は津軽線の中の、行商の小母さんたちの言葉が全く分からないことや知らない土地に行くという心細さに負け、なんと途中で青森に逆戻りしたという。「深夜特急」の孤独な外国の乗り合いバスの旅をやり遂げた沢木耕太郎が、なんと津軽半島の竜飛崎に達する前に挫折していたのだ。 「竜飛崎にて」2018.9.9 バイクでの日本沿岸一周にトライ中 (どの岬でもそうだが、「ご覧あれが竜飛岬~」が流れていて興ざめした) 沢木は、いつか竜飛崎に行きたいと思い続け50年が過ぎた。そして近年「この夏」、竜飛岬へ到達する旅に出た。そしてその旅のあれこれを、いろいろな人々とのかかわりを含めて書いている。ちょっと司馬遼太郎の「街道をゆく」を思わせる。もちろん内容も表現も違うけれど・・・。 もちろん沢木は太宰治の「津軽」にも触れる。太宰は故郷の金木に立ち寄らず、友人と竜飛崎に向かう。このあたりのことは自分も「津軽」を読んでいたし旧知のことだったので、沢木の50年ぶりの竜飛崎到達の旅に同行している感じがした。 「テレビに出た沢木耕太郎」NHK「クローズアップ現代より (こだわりや目標を捨てた軽やかさが表情からも伝わった) ともかく、この「旅のつばくろ」の軽やかな表現に、沢木の違った面を見た。この「軽やかさ」は最近放映されたNHK「クローズアップ現代」に出演した沢木の表情にも通じる。もう沢木は後期高齢者の入り口にいる。こだわりや目標を捨て自由になったさわやかな表情が印象的だった。 ↓ランキングに参加しています。良かったらクリックをお願いします。 写真日記ランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023/03/04 04:27:13 PM
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