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国際紛争の報道に関する留意点 前回に続いて『国際報道を問い直す』(杉田弘毅~筑摩書房:2022,7,10)から、改めて大切だと感じたこと、新しく知ったことを、記述の中から紹介する。 ※章名は上掲書の章名である。 「第1章 先駆者たち」 より 芥川賞作家の日野恵三(1929~2002)は、1964年に読売新聞のサイゴン特派員となり、AP通信のサイゴン支局に挨拶に行った。しかし、彼はAPの記者たちの打った電報のカスを取材源にするのを潔しとせず、自分で行動し取材している。 毎日新聞の特派員として1970年代のベトナムを取材した小森義久は著書の中で、「日本人記者団はマイナーリーグで試合をしている感は否めなかった」と書いている。小森のライバルだったという、『サイゴンから来た妻と娘』を書いた産経新聞の近藤紘一も、「全般に日本の報道はまだ子供の報道」と対談で語っていたという。 そのような日本人記者の「ヨコタテ」を打ち破った人としてフォトグラファーの岡村明彦や、開高健の例を挙げている。ベトナム戦争は取材にある程度制約が少なかったために、直接取材することのできた時代でもあった。 「第2章 国際報道の落とし穴」より ベトナム報道にでは、多くの日本人記者には「ベトナムに対しるロマンティックな思い入れがあった」という。1975年にサイゴンは陥落した。共同通信サイゴン支局長の金子敦郎は著書の中で解放戦線首脳に「臨時革命政府はどこにあるのか」と訊いた。答えは「それは紙の上で存在していただけだ」。臨時革命政府は1969年の樹立が発表された。ところが、それは完全に北ベトナム政府にコントロールされていたのだ。ベトナム戦争は、抑圧された南ベトナム人民を開放する戦いではなく、東西冷戦の一環だったのだ。 朝日新聞の本田勝一は、『ベトナムはどうなっているか』の中で、「ベトナムでは自由が亡くなっている」と書いた。記事への批判も多かったが、汚職や官僚主義や秘密主義や取材の不自由を知ってそれを報道しないことは「ジャーナリストではなくなってゆく」と反論している。自分も2000年代に、短い時間であったが2度ベトナムに入国した。そこで、一般の市民の声として、共産党員の子弟はいい職場に入っているという不満を聞いた。我々は、一記者の思い入れで取材して報道されていることの怖さを知るべきだと思う。 『国際報道を問い直す』 (世界各地での出来事を、我々はどのようにして知り、どう判断しているか) 「第3章 混迷するアメリカメディア」より アメリカメディアは世界で力を持っている。その理由も多くて実績もある。ウォータゲート事件などが代表的なものだ。しかし、そのような固定観念を持っているとつい取材源の豊富なアメリカメディアに日本のメディアは頼ってしまうことになる。今回取り上げた『国際報道を問い直す』の著者杉田はその心配をしている。我々が外国報道に触れるとき、その情報源をしっかり把握することが大切という警鐘を鳴らしている。 「第4章 世界の思想戦とメディア」 各国は国際世論を操作し国益のため種々の手法をとる。インターネット時代になり、国際的に有力なメディアやオピニオンリーダーに頼らないでプロパガンダが容易になった。それと、メディアも一企業であり一般消費者やスポンサーの意図に沿う必要がある。そこを勘案してメディアに接する態度が大切になる。また、国際言語である英米メディアの影響力は大きい。しかし、それが公平であるかどうかを判断する目が重要になってくる。 日本で報道されるのはほとんど西側諸国メディアの映像である。ウクライナ東部では、以前からロシア系住民との内戦がおこっていた。しかしゼレンスキー政権がこの問題にどう対応してきたかは報道されないし、我々日本人の多くは知らない。そこにもどかしさも感じるし、ニュースを両面からとらえるという点ではやや問題もあると感じる。 (※この項は、次回に続く) ↓ランキングに参加しています。良かったらクリックをお願いします。 写真日記ランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023/03/18 07:54:23 PM
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