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カテゴリ:映画「元町映画館」でお昼寝
ビータ・マリア・ドルィガス「PIANO ウクライナの尊厳nを守る闘い」元町映画館
最近、街角ピアノというのでしょうか、公共の建物の広場とか駅のコンコースのはずれとかにピアノが置いてあって、誰かが弾いているという光景に出くわすことがあって、ちょっと嬉しいのですが、この映画では革命が進行しているど真ん中で、ショパンの「革命」が響いていました。 見たのはビータ・マリア・ドルィガス監督の「PIANO ウクライナの尊厳を守る闘い」でした。40分の短いフィルムでしたが、内容は納得です。 敷石を掘り返し、たたき割ったコンクリート・ブロックの破片を投石用の小石に「生産」しているシーンで映画は始まりました。 覆面姿で工事現場用のヘルメットをかぶり、投石用の石ころで武装(?)した市民と盾と警棒を構え、整然と隊列を組んだ風防付きヘルメット姿の警官隊が広場で対峙しています。 そんな中、バリケード用に持ち出されたピアノに気づいた一人の女性が、周囲の男たちを説得し、そのピアノを救い出し、バリケードの上に担ぎ上げ、その場で演奏を始めます。女性は音楽学校でピアノを学ぶ学生のようですが、彼女がバリケードの上で弾いた曲はショパンでした。 2014年2月にウクライナで起こった「ユーロ・マイダン革命」、当時の親ロシア派ヤヌコービッチ政権に反対した市民たちが軍や警察と衝突し、多くの死傷者を出しながら政権を倒した事件をそう呼ぶのだそうですが、その騒乱の最中、この映画に登場するピアノはショパンの「革命」を、ベートーベンの「歓びの歌」を、そして、ウクライナの「国歌」を奏でます。 1台のピアノが救い出され、何人もの演奏者によって演奏され、その演奏に市民たちが声を合わせて歌うシーンが映し出されます。一方で、演奏を妨害するためでしょうか、ロシア製らしいポップミュージックが広場の拡声器から大音量で流れ始めます。 次のシーンでは武装した警官がバリケードに襲いかかり、容赦なく振るわれる暴力と地べたを転げまわる市民の姿が映し出されていきます。 やがて、軍によって制圧され、静けさを取り戻した広場には、あのピアノが雨ざらしにされて残されていました。で、そこにやって来たのはあの女子学生でした。彼女は、今度はピアノ職人らしきオジサンを連れてきて修繕し始めます。ピアノは息を吹き返しますが、試し弾きした彼女の演奏は、駐屯している軍人から「うるさい」と𠮟られてしまいます。 やがて、居る場所を失ったピアノがトラックに乗せられて田舎道を去っていくシーンで映画は終わりました。広場を制圧したのが、親ロシア派なのか、反ロシア派なのか、ぼくにはわかりませんでした。 昨年だったでしょうかスペイン市民戦争で「ワルシャワ労働歌」が歌われる「ジョゼップ 戦場の画家」というアニメーション映画を見て、こころ騒ぎましたが、この映画では、2014年のウクライナで市民に対して武装したエセ「民主主義」権力との戦いでショパンやベートーベンが革命歌として広場に響き渡った様子がドキュメントされていて衝撃的でした。 この現場を撮った監督、ビータ・マリア・ドルィガスに拍手!です。それから、広場のピアノを二度にわたって生き返らせた女子学生、アントネッタ・ミッシェンコさんに拍手!でした。 国旗の色に青く塗られたオンボロ・ピアノがどうなっていくのか、ワクワクして見入りながら、フト、市民的な自由の希求の可能性が、ニッポンのショボイ街角ピアノにだってあるんじゃないかと思いました。 「ウクライナの尊厳を守る闘い」と副題にある通り、ソ連解体とともに独立したウクライナという国家のここ10年の歩み、現在のロシアの侵攻の背景的な政治情勢や社会情勢を伝える歴史的ドキュメンタリーとして見るべき映画だと思いますが、一方で、まあ、牽強付会かもしれませんが、自由を求める表現としての芸術、とりわけ音楽の力にあらためて驚きました。 監督 ビータ・マリア・ドルィガス 撮影 ユラ・デュネイ アレクサンダー・チューコ 編集 トーマス・チェセールスキー 2015年・41分・ポーランド 原題「Piano」 2022・06・29-no87・元町映画館no136 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.06.30 21:50:08
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