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テーマ:吐息(401)
カテゴリ:Essay
急遽、用事ができて大阪に飛んだ帰り、秋晴れに恵まれた空の下、京都を散策した。 わたしが大好きなのは、南禅寺から哲学の道を辿っていく銀閣寺である。 ところが、今回は時間の関係もあり逆のコースを辿ってみた。 銀閣寺は、亡くなった元夫と新婚旅行で行った思い出の場所である。 わたしは若い頃からなぜか京都が大好きで、新婚旅行にはぜひ彼を案内してあげようと思っていた。 景色にも草花にも、それほど興味のない彼が実際には、どう感じたのか分からないけれど、年老いたとき同じ思い出を語る場所としては、そう悪くないと思った。 でも結局、わたし達は離婚し彼は先立ってしまったのだから、どっちにしても二度と語られることはなかったのだ。 わたしが今立っているのは、紛れもなくあの時の哲学の道である。 歩き疲れたわたしを労わり、後れ毛をかき上げてくれた彼が居たあの哲学の道。 だけど、どんなに探しても彼はどこにも居ない。 その現実をいやと言うほど思い知り、わたしはたまらなくなった。 哲学の道沿いに、俳優の栗塚旭さん経営の『若王子』という喫茶店があった。 当時、店に出ていた栗塚さんと遭遇し新婚旅行だと告げると、快く写真に入ってくれた。 そんなエピソードを思い出して喫茶店を訪れてみたのだが、閉まっていた。 疎水沿いの哲学の道は整備され、どこかこぎれいになっていた。 茶店風の店はほとんどカフェテラス系に変わり、時代の流れを強く感じた。 十代からずっと愛したこの哲学の道。 色んな思い出がわーっと押し寄せてきたけど、やっぱり今は亡き元夫を一番思い出した。 わたしが結婚を決意したのは、背の高い彼ならどんなにぶら下がり甘えても、びくともしないからだったのに、先に逝っちゃった。 幸せにするって約束したのに、嘘つきだ。 だけど、先にその約束を放棄したのは、わたしなんだよなー。 だから、嘘つきはわたしの方なのだ。 つまり、五分と五分。 だから恨んだり、悲しんだりはもうしないよ。 哲学の道を歩きながら、わたしはそう誓ったから……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年10月22日 00時43分44秒
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