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長編時代小説コーナ

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龍5777

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Feb 4, 2013
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          「小栗上野介忠順」 (二)


 更に剛太郎を柔術は久保田助太郎に、砲術は田村主計に学んでいた。

 剛太郎は父母の懐古話なんぞに気付かず、綿入れの羽織を纏い、

庭に向い石畳を伝っている。小径には寒椿の花が満開に咲き誇り、

椿の下には遠慮がちに黄金色の福寿草が顔を出している。

 裏に廻ると一際、立派な松の老木が天に向かって聳えたっている。

 そこに安積塾の見山楼がひっそりと佇んでいる。

 前髪姿の剛太郎の顔色は浅黒く、疱瘡(ほうそう)痕が痛々しい。

 彼は痩せた肩を怒らせ風呂敷に学習道具を包み、それを大事そうに

小脇に抱え、塾の玄関へと急いでいた。

 彼は一見、病弱そうに見えるが、最近は風邪もひかずいたって元気であっ

た。疱瘡面で醜い顔つきに見えるが、目鼻立ちはなかなかと凛として育ちの

良さを、感じさせる容貌と成っていた。

 見山楼の自分の席に座るや、

「剛さん、早いな」

 と、隣の喜多村瀬兵衛が声をかけてきた。

 彼は剛太郎よりにも五つ年上であったが、父親は幕府の典医の喜多村

槐園で、その三男に生まれ、後に昌平黌で学ぶ逸材であった。

 剛太郎と瀬兵衛は、何かと馬があって剛太郎の唯一の友人であった。

 瀬兵衛は成人し栗本家の養子となり、栗本鋤雲と名乗り奥詰医師となる

人材であった。

 剛太郎は無言で肯き、机に学習道具を取り出し、きちっと並べはじめた。

 常に書物は左脇、硯や筆は直角水平に置き、帳面の類は手元に並べてい

た。これが彼の癖であり、持って生まれた性癖のようである。

 その様子を師の安積も感心して眺めている。文才はないが流石は血統か

と、安積艮斎は剛太郎の文才の無さに失望していたが、剛太郎も自分には

詩文の才能のないことを悟っていた。

 読み書きが出来、字が上手に書ければ良しと幼いながらも達観していた。

 八歳としては大人びた少年であり、暗い顔つきで悪戯をやり悪童としても

近所に名を轟かしていた。

 こうした剛太郎も師の安積艮斎を驚嘆させる才能をもっていたのだ。

 それは算術であった。一を聞いて十を知る神童と言っても良い才能を

示したのだ。

 この一事をもってしても後年の小栗上野介の非凡な一端が知れよう。

 小栗剛太郎が江戸の町に向っている。

「小栗さまの若さまじゃ」

 路傍の人々は見ぬふりをしているが、一様に労りのこもった眼で見ている。 

 剛太郎はそれらの視線を無視し、小さな眼を輝かせ黙々と町並みを歩んで

いる。今日は島田道場での稽古日である。

 幼年の彼の稽古は素振りから始まる。一当たり稽古を終えた時に師から

呼び出しがあった。

「忠順君、これから亀沢町の大先生の許に行ってはくれまえかね」

 島田虎之助は何時も剛太郎をこのように呼ぶ、忠順は剛太郎の諱である。

「分かりました」

 剛太郎は即答した。彼は師の先生の男谷精一郎道場が好きであった。

 とりわけ男谷精一郎を尊敬していたのだ。彼は時々、自ら竹刀を執り

剛太郎の稽古の相手をしてくれたのだ。

 小栗忠高は男谷精一郎の弟子で彼から、直心影流の皆伝を授けられてい

た。そんな縁で男谷精一郎は剛太郎には人一倍心を配っていたのだ。

 剛太郎の剣術の腕は人並みであると男谷精一郎は、竹刀を合わせて見抜

いたが、敏捷な身ごなしで撃たれても撃たれても、決して音をあげない彼の

闘争心には感心した。今日、剛太郎を呼び出したのには訳があった。

 当然、島田虎之助も承知していた。

「大先生、剛太郎にございます。島田先生から伺うよう申し遣って参りました」

「剛太郎、そこに座りなさい」

 男谷精一郎は柔和に声をかけ剛太郎の前に座った。

「今日は君に剣の話がしたくて呼んだ」

 柔和な声が剛太郎の下腹に、ずんーと響いた。

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Last updated  Feb 4, 2013 04:08:35 PM
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