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Feb 22, 2013
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          「小栗上野介忠順」 (12)


 こうして七ヶ所の知行地の検分を終え、忠順一行が江戸に戻ったのは

九月七日であった。

 およそ一ヶ月の旅であったが忠順にとり、生涯の思い出として深く脳裡に

残った。江戸の町は各地の不安定な状況など全く感じさせないほど、平穏

で長閑な光景を見せつけていた。

「こんな事で良いのか」

 忠順の心の奥に不安と疑問が湧きあがっていた。

 駿河台の屋敷の前には使用人や、母のくに子が出迎えている姿が見えた。

「母上、ただいま戻りました」

 忠順が挨拶の言葉をかけ一行は裏に廻り、旅装を解き女中等の運ぶ水桶

で旅垢を落している。

 母のくに子が忠順の姿を眺め驚きの声を漏らした。

「何と大人びて、顔付が変わりましたぞ」

「奥方、若殿は立派に知行地の庄屋や村民を安堵いたしましたぞ」

 筑紫五郎左が足を洗いながら、興奮を隠さずにしわがれ声を挙げた。

「五郎左よ、大儀であった。早う部屋で休息いたせ」

 忠順が用人の筑紫五郎左に労りの言葉をかけ、足早に自室に戻り畳に

転がり大の字となった。

 そうしていると旅の出来事が次々と脳裡を駆け巡ってくる。

 忠順は暫く思い出に浸り、畳の匂いが懐かしく感じられた。

「戻ったのじゃ」

 と、独り言を呟いた時、庭先から甘い香りが漂ってきた。冷夏の所為か

早咲きの金木犀が花を咲かせたようだ。

 その日の夕餉は久しぶりに父母と一緒に過ごした。

 忠高は酒を手酌で楽しんでいる、彼は何も聞かずとも忠順の顔つきで

全てを察しているようだ。

「父上、わたしにも一献下さい」

 忠順の唐突な言葉に母のくに子が慌てて止めたが、忠高は咎めずに

無言で杯を差し出した。

 忠順が杯を手にすると父は無言で酒を注いでくれた。

「頂戴いたします」

 忠順は押し戴くように杯を軽く持ち上げ、一気に飲み干した。

(矢張り江戸の酒は旨い)と、忠順は感じられた。

、咽喉から胃の腑が焼けるように熱く感じられ、杯を返そうとした。

「もう、一杯どうじゃ」

 と、忠高が徳利を差し出した。

「貴方、忠順はまだ十四歳ですよ」

 くに子が夫を咎め、顔を曇らせた。

「忠順は旅先で酒の味を知ったようじゃ、いずれは飲む」

 くに子を制し、笑顔を浮かべ杯を満たしてくれた。

 大人びた顔つきで杯を干した忠順に向い、知行地の様子を訊ねた。

 忠順が居ずまいを正し道中で見た各地の悲惨な状況や、知行地の

出来事を熱っぽい口調で仔細に報告した。

 語りながら身内から何かが噴き上げるような激情に襲われ、気持ちを

抑えられずに、うわずった声を挙げた。

「父上、各地の農民達は我等武士の犠牲者にございますな」

 忠高は倅の激情した言葉を驚きをもって聞いた。

(旅に出して一段と成長いたしたな)と、莞爾と胸中で思った。

「我等は、こうして毎日の食事に事欠くことは御座いませんが、知行地の

者達も他藩の農民も飢えで苦しんでおります。政事の根幹は経国済民

と聞きおよんでおりますが、困窮する彼等に何の助成も成されぬ幕藩が

非難されることは当然かと存じます」

「忠順、良くぞ申した。だが他言は許さぬ、我が小栗家は徳川譜代の

直参じゃ。その我等が御政道の批判をしてはならぬ」

 忠高は静かに諭しながら、言葉を継いだ。

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Last updated  Feb 22, 2013 11:36:56 AM
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