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Jan 12, 2014
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「小栗上野介忠順」(218)


 上野介は再び小栗家の置かれた立場を、道子に語ることに成った。

「じゃから戦わぬのじゃ」

 と、短絡に云った。

「貴方、済みませぬ。女子の身で差し出がましい事を申しました」

 道子が大粒の涙を溢れさせている、初めて夫の苦衷が理解できたのだ。

「道子、引っ越しの用意を内密に致せ」

「何処に参ります」

「上州の権田村と考えておる。田舎じゃが良い土地じゃ、隠居には若いがの」

 彼は行灯の明かりを見つめ、権田村の風景を思い浮かべていたが、

「寝るぞ、参れ」

 と、言葉を残し部屋を辞してて行った。

(お慰めいたさねば) 道子が顔を赤らめいそいそと跡を慕って行った。

 江戸で全国各地の動きを見つめ、上野介は静観を決め込んでいたが、

此のまま江戸で滞在を続けていると徒に、主戦派の面々を刺激すると感じ、

用人の塚本真彦に命じ引っ越しを急がせた。

 既に屋敷の荷物はあらかた長持ちに収められ、彼が米国より持ち帰った

器機類も荷造りを終え、彼の自慢の洋館に飾っていた青銅の大砲も分解さ

れ荷物となっていた。

 小銃類も二十挺その中に含まれている。

 彼はこれ等の銃で農兵の養成をし、村の水利の整備や新たな田畑の開墾を

計画していた。

 その地で隠居し、一農夫として生涯を全うしても良いと思っていたのだ。

 彼は江戸出立の日を二月二十八日と決め、家臣達に通達した。

 そんな折に振武隊隊長の渋沢成一郎が、戦いを勧めに訪れてきた。

 彼は武蔵の農民の長男として生まれたが、成人となるや一橋家に雇われ、

その才気を慶喜に買われ、家臣として彼に仕えてきた。

 併し、鳥羽、伏見の合戦に敗れ、江戸に戻り己と目的を同じくする者達と

彰義隊を結成し、上野介に頭取に成ってくれと頼みに来たのだ。

 上野介は自分の今の心境を告げたが、渋沢成一郎は尚も戦いを勧めた。

「小栗さま、拙者は貴方さまのように戦略眼が御座いませぬ。彰義隊は今の

ままでは戦いは出来ませぬ、まげてお願い仕る」

 その時に上野介の言った言葉が残っており、以下に記す。

『予固(もと)より見る所ありて、当初開戦を唱えたれども行われなかった。

今は主君恭順し、江戸は他人の有に帰せんとする。人心挫折し機は既に去っ

た。最早、戦うことは出来ない。縦令(たとい)会津、桑名諸藩が東北諸侯を

連衡(れんこう)し、官軍に抗した所で、将軍既に恭順せられた上は、何の名義

も立たないのである。況(いわん)や烏合の衆をや。数月の後には事応に定ま

るであろう。然れども強藩互いに勲功を争い、軋轢内に生じ、遂に群雄割拠と

なるであろう。三百年の徳沢施して人に在り、国家の再造、難事ではないで

あろう。我らは時機の到来を待つの外なし。予は之より知行所権田に土着し、

民衆を懐け、農兵を養い、事あらば雄飛すべく、事なければ頑民(がんみん)と

なりて終わるべし』

 この彼の言葉には新政府の世に成っても、内乱の起こる事を予見し、そうなれ

ば、雄飛する機会も有ろうと言っている。如何にも幕臣とし辣腕を振った上野介

らしい感慨が述べられている。この群雄割拠とは西南の役を予見していたのか

興味深い言葉である。

 江戸を去る最後の夜、小栗家はささやかな宴席が設けられていた。

 家族全員と家臣一同が屋敷の大広間に集まり、和やかな雰囲気を醸しだし

ている。上野介が上座から全員に声を懸けた。

「今宵は江戸との別れの宴じゃ。わしの力が及ばず皆に苦労をかけた。

此れからは権田村に移り、わしは自分の夢を実現する積りじゃ。皆々の

力を貸して貰いたい」

 上野介は自分の本心を隠して語っている。

「今夜が江戸最後の夜かの」

 母のくに子が淋しそうに呟き顔を伏せた。

「母上、数年も経たずにこの沸騰した世は治まりましょう。江戸に戻ることも、

難事でなくなります。母上、権田村は良き村に御座います、気に入って頂ける

と思います」

 上野介がくに子を慰めている。家臣達も心持ち元気がない。

「塚本、皆に酒を勧めよ」

 上野介の命で塚本真彦と小姓が其々の間に、酒を注いで廻っている。

 既に十四歳と成った養女の鉞子(いきこ)が、くに子の背中を擦っている。

 その様子を上野介が柔和な眼差しで眺めていた。

 この夜に最後の賓客が小栗家を訪れてきた。


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Last updated  Jan 12, 2014 05:14:10 PM
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