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Jan 14, 2014
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「小栗上野介忠順」(219)

 その客とは京の三井組の番頭、三野村利左衛門であった。

 彼は一座の者達に挨拶をし、

「殿、今宵が江戸最後と聞き及び飛んで参りました」

 彼は一段と貫禄を増している。前にこの三野村利左衛門を紹介したが、

この人物が三井財閥の中興の祖である。

「お主が別れに来てくれて嬉しいぞ、まずは一献じゃ」

 上野介は江戸最後の夜に訪ねてくれた、利左衛門に礼を述べ酒を勧めた。

「ご苦労に存じました。既に体勢は決したと感じ取れます」

 利左衛門が杯を干し、上野介の顔を凝視した。

 彼は長年に渡る上野介の努力と無慈悲な慶喜の仕打ちを知っていた。

「何の、わしは些かも悔いてはおらぬ、横須賀製鉄所も完成が近づいておる。

他のわしの施策も追々と実現いたすじゃろう」

 上野介は利左衛門にそう語り、嬉しそうに破顔した。その顔には一片の悔い

も浮かんではいなかった。

「左様に御座いますな、殿が献策なされた施策は今後は新政府が引き継ぎま

しょう。経済の振興こそが我が国を救う手立てに御座いますからな」

 と語り、利左衛門が上野介の顔を見つめ、何事か言わんとする素振りをみせ、

上野介が見逃さず低い声で訊ねた。

「わしに極秘に申したき事があるようじゃな」

「御意に、些か内密なお話が御座います」

「左様か、わしの部屋に参れ」

 上野介は気軽に立ち上がり、利左衛門を伴って部屋を後にした。

 二人は庭の廊下を伝って部屋に向った。

「おうー、蝋梅が咲いておりますな、良い香りにございます」

「お主に見せたいが、この夜では無理じゃな」

 上野介が利左衛門の問いに答え部屋に招き入れた。

「まあ、座れ」

 と座布団を勧め、彼の眼光が往年のように鋭く輝いている。

 利左衛門が座布団に腰を据えた、彼の顔色が優れなくなっている。

「申したきことは何じゃ」

 上野介が短絡に用件を訊ねた。

「殿、薩長は殿のお命を狙っております」

「ほう、わしの命か、既に何の力も持たぬわしを狙う根拠がないわ」

 上野介が他人事のように応じた。

「殿の辣腕が怖いので御座います。更に申さば報復の意味も御座います」

「わしえの報復か、奴等と戦った事もないし覚えがないの」

「この江戸で薩摩藩邸の焼き討ちを成されましたな」

「そのような事が漏れておるか?あれは奴等があくどいからじゃ」

「殿、勝者の理論は勝手なものです。罪名なんぞはいくらでも作れます」

 三野村利左衛門は三井の番頭とし、今は新政府に肩入れをしている。

 本店は京にあり、利左衛門の思惑と違った形と成ることは当然のことである。

 彼は上野介に対する新政府の情報を得て、それを知らせるべく訪れて来た

のだ。新政府の考えは上野介が思うよりも深刻なものであった。

「お玄関先の部屋に千両箱を置いて御座います。それで暫くは米国に渡り、

新政府の様子をご覧になって下され。数年後には世の中も静かに成りましょう」

 利左衛門は真心を溢れさせ、懸命に説いた。

「その方の厚意は身に染みるが、幕臣として命を惜しむような行動は出来ぬ。

わしは予定通り権田村に隠遁し、様子を見る積りじゃ。わしの身に万一の事が

起こったら、女共の事を宜しく頼む」

 上野介が頭を下げた。

 利左衛門は更に翻意するように説得したが、上野介は耳を貸さなかった。

「万一、そなたが心配する事態と成れば、旗本として見事に散ってみせよう」

 上野介の覚悟を見た利左衛門は説得を諦めた。

「充分にご注意成されて下され」

 と忠告し辞して行った。

 翌朝、小栗家一行は荷駄を先頭に江戸を発った。母のくに子に妻の道子、

養子の又一に許嫁の鉞子、用人の塚本真彦、家臣の荒川祐蔵、大井磯十郎、

渡辺太三郎、多田金之助、それに権田村出身の歩兵達も同行していた。

 三月一日に漸く権田村に着いた。この村は小栗家が百六十年もの永い間、

知行地としていたが、館も陣屋も無く一行は村の片隅にある東善寺を宿舎とし、

荷物を解いて長旅の疲れを癒している。

「ほんに長閑な村じゃな」

 母のくに子がこれから棲みつく景色を眺め呟いた。


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Last updated  Jan 14, 2014 03:51:36 PM
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