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Jan 31, 2014
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「小栗上野介忠順」(224)  


 遠ざかって行く上野介主従に向って、道子、くに子等女達が手を合わせ

見つめている。これが今生での別れと思うと心が引き裂かれる。

「貴方ー」

 道子は夫の姿が消え失せるまで街道に佇んでいた。今頃になって気付いた、

新緑の匂いが一行を包みこんでいる、これが二人の最後の別れであった。

 上野介は四人の従者を伴い、細い街道をゆったりとした歩調で歩み、後ろを

振り向いたが、残った家族や護衛の農兵の姿を見ることは叶わなかった。

「多田金之助、そちに頼みがある。此処から高崎まて脚を伸ばしてくれぬか」

 珍しく上野介が剽悍な眼差しを見せている。

「高崎で何をいたしまする」

「新政府の動きがきな臭い、又一と塚本の様子を探ってはくれまえか」

 主人の言葉に多田金之助は無言で肯いた。主人の心配は理解できる。

「さらば拙者はここでお別れ致します」

多田金之助は追分に似た街道の分岐点で一行と別れ、高崎へと向かった。

 上野介と三人の家臣は、ほどなく東善寺に着いた。寺の周囲は常と変らず

深い静けさを保ち、時折長閑に鶯の鳴き声が響いてくる。

「殿、三ノ倉の様子を探って参ります」

 大井磯十郎が精悍な顔で申し出た。一同も危惧を抱いていたので任せる事

とした。大井磯十郎は百姓姿に身をやつし寺を出て行った。

「皆、楽に致せ。官軍も直ぐには襲って来ぬだろう」

 三人は上野介の部屋で車座となり、藤七の持参した瑞龍を口にしている。

「久しぶりに歩いたので、腸に染みるわい」

 上野介が豪胆な笑みを浮かべ湯呑を口に運んでいる。

 かれこれ一刻半(三時間)ほどで大井磯十郎が汗を滴らせ戻った。

「どうであった。官軍に動きはあったか」

「約千名ほどの兵が集結しておりますが、目立った動きはありませぬ」

「藤七の言葉によれば、東山道鎮撫使総督府の参謀は二人と聞いておる。

一人は土佐の乾退助、それに薩摩の伊地知正治じゃそうな。案外と薩摩は

手強い、大軍監の香川敬三も手を焼くじゃろうな」

「殿、赤熊(しゃぐま)と黒熊(こぐま)の将校が居りました」

 大井磯十郎が思いだし報告した。赤熊は土佐藩の将校が被るもので黒熊は

薩摩藩が使っている。伊地知正治は薩摩の精忠組出身で知られた男である。

(成程、わしを狙う者は薩摩藩の参謀かも知れぬな)

 と上野介は悟った。

「皆、夕餉は女の手がない。握飯で済まそう」

「それは拙者が遣りましょう、沢庵でもあれば宜しいな」 

 荒川祐蔵が請け負った。こうして権田村も東善寺も夜の帳に包まれた。

 上野介は寝酒を持って一人で寝床に座っている。

 官軍はわしら主従をどう扱う、これが上野介が危惧する事であった。

 そうしたことに思案を巡らし、何時の間にか睡魔に襲われ眠りに就いた。

 翌朝、騒々しい物音で目覚めた。

「殿、官軍が寺を包囲しております」

 荒川祐蔵、大井磯十郎、渡辺太三郎の三人が血相を変えて部屋に現れた。

「騒ぐでない、万一を考えて新しい衣装に着替えるのじゃ」

 そう命じた上野介も、道子が置いていった衣装を纏い、枕元の瑞龍を咽喉に

流し込み、寺の大広間へと足を運んだ。

庭には官軍の兵士が銃を構え、厳重に警備している。

 上野介は大広間の入口で足を止めた。上座には床几に腰を降ろした赤熊の

将校と警護の兵が、左右に控えている。

 上野介は臆する態度も見せず中に踏み込んだ。大広間には座布団も用意さ

れてない、彼は床几の前の床板に腰を据え、家臣等は彼の背後に座った。

「拙者は東山道鎮撫使総督府の軍監、原保太郎と申す。そこもとが小栗殿に

ござるか」

 中肉中背の男が上野介に訊ね、不覚にも語尾が振いた。剣術のみで今の

地位に登りつめた男で、時勢も人物も見る眼のない人物であった。それ故に

幕閣で辣腕を振った、目の前の小柄な男が発する気迫に圧倒されたのだ。

「それがしが小栗忠順に御座る。背後に控えおるは我が家臣にござる」

「左様か、いま小栗殿一行の捕縛の報せを総督府に伝える伝令を発し申した。

総督府の命令があるまで、ご一同は我等の監視下に置きます」

「ご随意に」

「家臣等を部屋に軟禁いたせ、監視は厳重に致すのじゃ」

 原保太郎が命じ、兵士を大広間から去らせた。

「小栗殿、そこもとは江戸で薩摩藩の藩邸を焼き討ち成されましたな」

「それが何か」

 上野介がしらっとした顔付で答えた。

「総督府では土佐と薩摩の参謀が、今の件を巡って激論を交わしております」

 原保太郎が上野介の総督府の内情を告げた。

 外様の陪臣と幕府の重鎮の差が、二人と成って顕かとなった瞬間である。

「薩摩藩邸の者共は、御用盗と称し夜な夜な江戸の町に盗人、放火など無辜

の民を苦しめた報いとし、藩邸の焼き討ちを命じたまでに御座る」

 上野介は昂然と嘯いた。

 その後、彼は部屋に軟禁され、長い一夜を過ごす事に成った。

 明日が勝負じゃ。総督府の尋問には痛烈な反駁を行い、新政府の計画の

非道さを衝いてやる。上野介が剽悍な眼を爛々と輝かせた。

 これで完結と考えておりましたが、女子の様子なども描きたく、一話追加します。
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Last updated  Feb 2, 2014 10:56:05 AM
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