「月下の恋人」 浅田次郎
浅田さんの短編集です。浅田さん、読んでて「あわない?」ってのが一冊もない程好きです。長編もぐいぐい読めていいですし、短編も(短編のくせに?)ぐっときます。短い文章でぐっと話に引きこまれる感じが、いつ読んでも気持ちいいです。 少し前に読んだ「あやし うらめし あな かなし」も同じ短編集ですが、こちらは一応タイトルどおり「幽霊もの??」という風なお話でした。今回のは別に「幽霊もの」ではないのですが、何となくノスタルジックというか、ビミョーにファンタジーというか・・・。本全体の時代設定が多分昭和。というか、まだまだ今みたいな風になってない頃。田舎の方はホントに「田舎」で、世の中もまだまだ混沌とした部分があった時代。なんで、ファンタジーと一口で言ってしまえない というか、その当時の世相(雰囲気)の中なら、こういうこともあったかも と思わせられるような話です。この不思議感が何とも言えなくて良いです。私よりもう少し年配の方々にはちょっと懐かしい感じがするのかもしれません。一番印象に残ったのは「忘れじの宿」というお話。ずいぶん前に妻を亡くした中年男性。ある出来事に「考える時間がほしい」とぶらぶら旅に出たところで、ある一軒の宿にたどりつきます。結婚まもなくあっという間に妻が亡くなったせいで、忘れられずにいる主人公にその宿にいた女性が「忘れられるツボがありますよ・・・・」 と不思議な話をする・・・。というようなお話。現実にそのツボはどうなんだ というのはさておき(おきたくなるような話なのです)そういう些細な「どうなんだ」はどうでもよくなってしまうような文章です。優しい人ほど不器用 というか、苦労して生きている と読む程思えてきます。それに、「だからいいんだ」という気持ちもわいてきます。毎度毎度、この良さはお子ちゃまにはわからんだろうなー と思わされる浅田本です。