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2011.07.15
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カテゴリ:拙文であそぼ
風呂上りに子どもを追いたてた後の脱衣室で、

化粧水のボトルの影にひっそりと隠れていた瓶に目がとまった。

それは若い時分に愛用していた香水の一つで、

十年来、ひっそりと化粧水の裏に隠れていたのだった。



そう、夫と出会った頃につけていたのが、このトワレだ。

初めての夜、キョウコの匂いだね、と言ったのを覚えている……。



この瓶がそこにあることは知っていたけれど、

ケイスケが遅い今日に限って目に留まったのは、どうしてだろう。



キョウコは瓶を手に取ってみた。

匂いよりもブランドよりも、やわらかな曲線に一目ぼれしてしまったこの瓶を、

最後に手に取ったのは、一体いつだろう……。



後ろで、子どもが争う声がする。

「これはボクのよ」

「ちがう。ちーちゃんがもってたのよ」

「ぼくの!」

「ちーちゃんの!」

ああ、行かなくては。

行って、とめなくては。

今日はケイスケがいないのだから……。



それなのに、この瓶のやさしさはどうだろう。

何年かぶりで手に取った香水瓶が、うふふ、とやさしく微笑む。

わたしを体につけたいでしょう、とささやく。



キョウコは香水瓶を手に載せて、戸惑った。

若い頃には香水をつけないでいることなど考えられなかったのに、

今は、一吹きふりかけるだけが、ひどく気恥ずかしい。



今更若い時の香水なんてやめておこうか。



でも、つけたい。



わあああああん!!!!

後ろでついに、子どもの泣き声がする。



ボトルをプッシュするだけの勇気が出せないまま、

キョウコは香水瓶を棚に戻した。

残念な気持ちの裏側で、ほっと息をつく自分がいるのを感じて、

口の端で笑ってしまう。



いつかこの子たちが一人立ちをしたら。

いつかまた、一人で街を歩く時が来たら。

迷わず、このトワレをふろう。



その時、ケイスケはどんな反応を見せるだろう。

キョウコの匂いだね、と言ってくれるだろうか。

若い時のように、抱きしめてくれるだろうか。



ぱたん、と音を立てて棚の扉を閉める。

いつかどこかで、またこの香水をふろう。

その日まで待っていてね、と小さく笑みをおくりながら。








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Last updated  2011.07.15 23:49:03
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