京王線ジャック。
みんなにおじさん扱いされ始めた26~28歳の頃、僕は、中米大陸のコスタリカという国にいました。車はボロボロだったり、道路も穴ぼこだらけだったり、車の排気ガスにまみれた路上でフルーツ売ってたり、歩いて数分の範囲内に同じスニーカー屋が3件あったり。「整った国か」と尋ねられたなら、申し訳ないけど「No」と言わざるをえないと思う。僕は“世界で一番整ってるだろう国”から来たんだからね。それを一番感じたのは、バスでした。コスタリカの主要交通手段のバス。日本との違いが多くありました。停留場はなくて、ルートは複雑。手を上げなきゃ止まってくれない。バスの運ちゃんは攻撃的運転(笑)。慣れるまでは、ほんとに緊張の日々。まだ乗り慣れてない時、思い出深い出来事がありました。停留場がない上に、次どこに止まるというアナウンスもない、コスタリカのバス。周りの景色を見てないと降りれません。でも、初めてだと景色すらよくわからない。知り合いに聞いた目印を探すためにキョロキョロキョロキョロしてました。すると、隣にいた「太っちょおばちゃん」が 「どこに行きたいの?」と聞いてきてくれました。目印と町の名前が書いた紙を見せると、 「わかったわ。 近くになったら教えてあげるからね。」と優しい声で言ってくれました。しばらく経つと太っちょおばちゃんが「次よ」と教えてくれたので、僕は降りる合図である窓際の“紐”を引っ張りました。本当は「ビビー」と鳴るはずなのに、その時に限って何故か音は鳴ってくれませんでした。運ちゃんは攻撃的な運転をしてるから、このままだとあっという間に過ぎちゃう。どうしようかと僕が考えるよりも早く、太っちょおばちゃんが声を出してくれました。 「次降りるわよーーー!!!」でも、僕と太っちょおばちゃんは後ろの方にいたし、帰宅時間だったせいか超満員だったので、攻撃的な運ちゃんまで声が届きません。どうしようかと僕が考えるよりも早く、真ん中くらいにいた「ダンディおっちゃん」が、やはり声を出してくれました。 「おーい、降りる人いるぞー!!!」そして、他の「コスタリカンたち」は天井をバンバン叩き、攻撃的な運ちゃんにそのことを気付かせようとしてくれました。バスは無事に停車。太っちょおばちゃん、ダンディおっちゃん、他のコスタリカンたちの 「よかったよかった。気をつけてね。」っていう嬉しい言葉と共に、目的地に降りることが出来ました。みんなにおじさん扱い以外はされなくなってしまった31歳の8月21日。僕は京王線という電車の座席に座ってました。夏らしいハッキリした陽射しが車内を照らしていました。周りを見渡すと、正面の席には「爆睡おじさん」。その隣に「ほのぼのばあちゃん」。逆隣には「夏休みギャル」。扉の近くに立っているのは、どこかの「バスケ部女子高生」5人ほど。しばらくすると、夏休みギャルが後ろの窓を見ながらソワソワし始めました。窓と日除けの狭~い間にデッカイ蜂が侵入してたのです。夏休みギャルは逃亡。爆睡おじさんは気付かず、やはり爆睡。ほのぼのばあちゃんは気付いてるものの、やはりほのぼの。容赦のない蜂クンは、爆睡おじさんの背後を取りました。爆睡おじさんはその音で、異変が起きたことに気付き起床。ほのぼのばあちゃんが、一部始終を伝えます。ほのぼのと。すると、「お助け車掌さん」登場。 「あらー蜂が入ってきちゃったんだー。」蜂クンが窓を歩いて登り始めたのを見て、お助け車掌さんは作戦を決行。“一番上まで行ったら窓を開けて外に逃がす”作戦。作戦は順調に進行。みんなお助け車掌さんの一挙手一投足に大注目。ジワジワジワジワと蜂クンは上へ。ついにお助け車掌さんが一気に窓を開けました。すると!!!!!蜂クンは微動だにせず(笑)。それでも使命感いっぱいのお助け車掌さんは、果敢に手で蜂を掴んで外へ出そうとします。すると!!!!!勢いよく車内を飛び始めてしまいました(笑)。みんな大興奮、大爆笑。お助け車掌さんは苦笑いです(笑)。ここで、バスケ部女子高生ひと言。 「これある意味テロだね。」みーんな再び大爆笑。そういえば蜂クンはどこに行ったのかな。行き先がわからなかったり、「ビビー」って音が鳴ってくれなかったり、とそんなことが起きないように“世界で一番整ってるだろう国”は出来てる。でも、たまには、蜂クンが車内をジャックしちゃったりもする。刺されてないから言えるのかもしれないけど、その時の僕は結構楽しかったんだ。知らないみんなと笑い合えたことが嬉しかったんだ。で、知らないみんなも笑ってた気がするんだ。それでもやっぱり、もっともっと整えていかなきゃいけないのかな?大事なものを、失っていってはいないのかな?『“予定どおり”には、 感動も感激も、感謝もない。』 (株)地球探検隊“隊長”・中村伸一