ぬか喜び?
収入保障保険など一部の生命保険では、一括で保険金を受取る代わりに、遺族年金の形で受取れるものがある。本来、遺族の生活費が加入目的であれば、一括で保険金を受取らずに、毎月、あるいは毎年分割で受取り、その都度、生活費に充当する考えは理にかなっている。一括で保険金を受取る場合は、その金額がみなし相続財産として、非課税枠を控除した残額が相続税の対象となる。ところが、遺族年金形式で受取る場合は、一括で受取る場合と同様に、相続財産として課税され、さらに分割した年金を受取る度に、雑所得として所得税が課税される。この課税に対する、最高裁判決が下された。裁判長は、「二重課税に当たり、違法」との初めての判断を示した。国税当局は、過去42年間にわたり同様の形態に、二重課税を続けており、実務の見直しや徴収した所得税の返還を求められることになりそうである。長崎市に住む主婦の亡夫は、生前に保険金4,000万円、さらに年230万円の年金を10年間分割して受け取る特約付の生命保険に加入した。(合計6,300万円という高額な保険である。)2002年に夫が亡くなったため、生命保険会社から主婦は、一時金(4,000万円)と初年分の年金(230万円)を受け取った。国側の言い分は、相続税の課税対象は年金を受け取る「権利」(230万円×10年分)であり、現金で分割払いされる年金には、所得税を課しても許されると主張したわけだが、最高裁は「年金を受け取る権利と、実際に分割払いされる年金とは実質的、経済的に同一のもので、所得税を課すことは許されない」と指摘したのだ。この年金受取部分は、一括で受取ることもでき、選択が可能だが、年金で受取る方が、総額で多くを受取ることができる。保険会社にとって、すぐ支払わなくてもいいのだから、運用益と言うこともできる。また、相続税の対象となるのは、年金を受取る権利として評価するため、年金総額の一部であると言える。具体的に権利の評価というのは、年金受取期間によって決まっている。年金受取期間が5年以下なら70%、5年超から10年以下なら60%、10年超から15年以下なら50%、15年超から25年以下なら40%、25年超から35年以下なら30%、35年超なら20%で評価される。原告の主婦の場合も、10年の分割だから60%で評価され、確かに一部しか相続税の課税対象にされていないと言える。最高裁の判決では、初年度は運用益もくそもないのだから、所得税の課税は不当であると言っているに過ぎない。残りの2年目以降の分については、所得税を課すことは許されるという判決なのである。なんとも、ぬか喜びをしてしまいそうだ。必要経費を除く220万円程度が、その年の雑所得として計算され、所得税25,000円程度が差し引かれたようだが、この初年度分についての違法性を指摘したに過ぎない。