長峰ブログ

[書評] カテゴリの記事

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  Horumo

  万城目学氏のホラーならぬ、ホラ小説（解説の有栖川有栖氏命名）「ホルモー六景」を読んだ。この前作「鴨川ホルモー」に登場する人物たちの、6つのスピンオフ的なドラマである。「鴨川ホルモー」を読んでいないと、ピンとこない設定かもしれないが、実に面白かった。個人的には、5年前の記憶を呼び起こさなければならず、なぜ、あのとき、続けて読まなかったのかと思うのだった。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ホルモー六景 [ 万城目学 ]価格：596円（税込、送料込）【楽天ブックスならいつでも送料無料】鴨川ホルモー [ 万城目学 ]価格：555円（税込、送料込）前作が京都大学青竜会の会員たちがメインだったが、今作では違う。もちろん、彼らが話には絡んでくるが、主役はあくまでその周りの人たちだ。まず、京都産業大学玄武組の二人静こと、定子と彰子の「ふたりホルモー」のエピソードから始まる。次は、バイト先での、高校生の「少年」と楠木ふみのエピソード。文庫本のカバーの絵の話であるが、京大青竜会メンバーのひとり、凡ちゃんがもっとも絡んでくる物語だ。映画では、凡ちゃん役を栗山千明氏が演じたっけ。そして、もっちゃん。梶井基次郎の恋文の話。ってわけはないか。同志社大学黄竜陣の話は、ジョーとクラークのイエロードラゴンの話だ。なんのことやら。丸の内サミットにいたっては、京産大玄武組に、竜谷大朱雀団、さらには、白虎一橋に青竜お茶の水まで登場。最後は、立命館大白虎隊会長と織田信長の家来の文通の話だ。どこまでホラを書けば気が済むのかと思いつつ、どれもよくできた話で、引き込まれてしまった。どうやら、私は、この万城目氏のタッチがお好きなようである。

  2014年06月25日

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  クラスメイツ後期

  先日の前期に続き、森絵都氏の「クラスメイツ後期」を読んだ。中学1年A組24人の日常を切り取った物語は、「前期」の入学直後から始まり、「後期」の最終話で中一生の終業式を迎える。【楽天ブックスならいつでも送料無料】クラスメイツ 〈後期〉 [ 森絵都 ]価格：1,404円（税込、送料込）一月4回として、1人ずつ取り上げると6か月かかるが、テレビドラマになるかもしれない。ただ、刺激を求める最近のテレビドラマには向かないかな？　でも本当の学校生活とは、この小説のように、思春期の子どもの心の葛藤そのものなのだ。後期に登場するのは、「久保由佳」「心平」「田町」「日向子」「ノムさん」「このちゃん」「近藤」「風雅」「レイミー」「真琴」「イタル」「ヒロ」の12人。生徒たちのお互いの呼び名は、その生徒の特長も表している。最終話の「ヒロ」のタイトルは「その道のさき」とある。終業式（本書では終了式とある）のあと、クラスで企画された「1年A組解散パーティー」を軸に書かれている。ヒロはクラス委員長を、前後期務めた非の打ちどころのない生徒。しかし、その彼にも悩みはあり、その葛藤が描かれているが、他のクラスメイトによって、そんな彼もまた、救われていく。かけがえのないクラスメイツ。中学1年のわずか1年を切り取った、成長の物語である。

  2014年06月21日

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  クラスメイツ前期

  直木賞作家である森絵都氏の「クラスメイツ前期」を読んだ。一言で表すなら「中学生あるある」だろうか。「中一生」と限る場面もあるが、「中学生」と広げてもいいだろう。⇒著者インタビューある中学の1年生は2クラスしかないが、その１つ、A組24人の一人一人にスポットライトを当てた作品で、前期は12人が登場する。中3生の二男が読書の時間でも読むといいかな？と思ったのだが、期末試験直前なので、私が先に読んでみた。【楽天ブックスならいつでも送料無料】クラスメイツ 〈前期〉 [ 森絵都 ]価格：1,404円（税込、送料込）12人それぞれ、友達関係、親子関係、さまざまな悩みを抱えている。中学生活がはじめって起こる出来事やこころの動きが書き留められていて、思春期の子どもが「自分だけじゃないんだ」と気づける、いい作品ではないだろうか。そして、自分のウン十年前を振り返っても、「あるある」なんだなぁ、これが。「吉田くん」って、同級生の彼もこんなことを思っていたのかもしれないとか。「陸」って、中学では一緒のクラスにならなかったけど、小学校で一緒だった彼みたいだなぁとか。女子の間では、こんなことが起こっていたのかもなぁとか。・・・⇒本書を紹介していた日経新聞の記事★★★★★（星5つ）

  2014年06月17日

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  鎌倉江ノ電殺人事件

  先日妻から回ってきた「京都嵐電殺人事件」に続き、西村京太郎氏の十津川警部シリーズ「鎌倉江ノ電殺人事件」を読んだ。今度は、妻に回す番である。【楽天ブックスなら送料無料】鎌倉江ノ電殺人事件 [ 西村京太郎 ]価格：669円（税込、送料込）夫婦二人の鎌倉旅行の前に読んでおけばよかったと、いまさら思うのだった。鎌倉駅から小町通りへの入口にある喫茶店「イワタコーヒー店」がたびたび登場する。店の前で、「有名らしい」と話し合っただけで、結局、入ることなく帰ってきてしまったが、読んだあとなら、きっとホットケーキとコーヒーを注文したに違いない。東京渋谷で殺人事件が起こり、江ノ電と関わりがありそうだということから、舞台が鎌倉に移る。さらに、2つ目の殺人事件が起こり、その場所が江ノ電の踏切で起こるのだが、両者の関係性が希薄である。謎解きの要素も加わって物語が進行するが、突然、糸口が現れ、2つの殺人事件の関係性が明かされていく。しかし、その動機があまり納得いかない。犯人への感情移入が足りないのだろうか。これは、先の「京都嵐電殺人事件」でも感じたことだ。そういう発想、つまり、殺さなければならないと考えてしまう心情が、私には理解できない。必然性があまりなく、こじつけにみえてしまうのだ。

  2014年06月14日

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  宵山万華鏡

  京都の夏の風物詩である、祇園祭が7月1日から始まる。1か月間にもわたる長い祭であるが、なかでも「宵山」（前祭7月14日～16日・後祭7月21～23日）と「山鉾巡行」（前祭7月17日・後祭7月24日）がハイライトである。去年は夫婦で、前祭山鉾巡行を京都市役所の交差点で初めて見物した。今年も行きたいが、都合がつかなければ、宵山の歩行者天国もいいかな。というわけで、読んでみたのが森見登美彦氏の「宵山万華鏡」である。【楽天ブックスならいつでも送料無料】宵山万華鏡 [ 森見登美彦 ]価格：518円（税込、送料込）不思議な世界が繰り広げられていた。電車に乗って読んでいるときは、ウトウトしながら、何度も同じところを読んでいるような気になってしまった。しかし、それは錯覚などではなく、まさにそう書いてあるのだ。宵山の喧噪のなかで、不思議な世界に入り込んでしまった、バレエ教室に通う幼い姉妹の話から始まる。そして、高校時代から変人であった乙川氏。友人を陥れる壮大ないたずらは、まさに条規を逸している。さらに、目が覚めると、また同じ宵山の朝に戻ってしまうという、時の迷路から抜け出せなくなる不思議な世界。一筋縄ではいかない物語は、実にポップだ。前祭山鉾巡行は、長刀鉾を先頭に、23基の山鉾が巡行するのだが、もちろん物語に登場する「金魚鉾」というものなどない。宵山の夜には、何かが起こりそうである。

  2014年06月13日

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  京都嵐電殺人事件

  西村京太郎氏の長編推理小説「京都嵐電殺人事件」を読んだ。先月、妻が新幹線に乗る際に、ホームの売店で買った文庫本である。読み終わって、私の手元にやってきた。【楽天ブックスならいつでも送料無料】京都嵐電殺人事件 [ 西村京太郎 ]価格：583円（税込、送料込）京都を走る京福電鉄の愛称は「嵐電（らんでん）」だ。この嵐電と京都の町を愛する会員7名が「嵐電会」を結成し、1周年を記念する行事が行われた。嵐電だけを利用して寺社巡りをし、終点の嵐山駅まで行くという企画である。1等賞金が500万円という破格な企画だ。ところが、会員の中のある夫妻だけが行方不明になり、嵐電の通らない鞍馬山で死体となって発見された。さらに、東京では、1年前に会員に応募し、書類選考をクリアしたものの、面接で落とされたという女性が殺された。ご存知、十津川警部が登場する推理小説だが、先日の鎌倉旅行の新幹線の車内で読み始めた。ところが、なんと、後半は江ノ電が絡んでくる。京都の嵐電と鎌倉の江ノ電は、古都を走る路面電車という点でよく似ている。そんなことから、事件の5年前に、嵐電ファンと江ノ電ファンによる座談会が開かれていた。実は、そこに謎を解く鍵があるのだが…。細かなところで、「なんでだ？」という点が払拭されず、そのまま残されていて、「そう言えば、あれは？」とあとから疑問が残る内容だが、十分楽しめた。しかも、姉妹編のように、「鎌倉江ノ電殺人事件」という小説もあるとは、恐るべしである。【楽天ブックスなら送料無料】鎌倉江ノ電殺人事件 [ 西村京太郎 ]価格：669円（税込、送料込）

  2014年06月05日

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  夜は短し歩けよ乙女

  2007年本屋大賞2位だった「夜は短し歩けよ乙女」を読んだ。長男が京都にいるのも今年度限りと決まったからだろうか、無性に京都本を読みたくなった。そこで選んだ、森見登美彦氏の奇想天外な物語である。宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」とか、「ハウルの動く城」とかの映像が浮かんできた。主人公の私は、もう一人の主人公にとっては先輩である。京都の某国立大学に通う、偏屈で妄想癖のある大学生で、イメージはイカ京だ。彼は、クラブの後輩「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せ、外堀ばかりを地道に埋める毎日だった。もう一人の主人公、黒髪の乙女は、天然キャラの女子大生で、マンガチックな乙女である。秘技「おともだちパンチ」を持ち、好奇心旺盛のマイペース。口癖は「なむなむ！」で、妙にかわいらしい響きである。他にも、大酒飲みの美女、羽貫さんに、いつも浴衣を着ている樋口さん。「東堂錦鯉センター」の経営者である東堂さん、自家用三階建て電車に乗っている金ぴか老人、李白さん。京料理「千歳屋」の若旦那、千歳屋に、学園祭事務局長、学園祭でゲリラ演劇「偏屈王」を首謀している偏屈王。失恋から願いごとが叶うまでパンツを穿き替えないと誓った大学生、パンツ総番長など等。まったく、どこからこんな発想が生まれてくるのだろうと呆れた。これは、コミックの世界だと思っていたら、やっぱりコミック化もされていた。【送料無料】夜は短し歩けよ乙女（第1集） [ 琴音らんまる ]価格：583円（税込、送料込）難しく考えず、ただ、文字の海に潜り、波に揉まれ、浜辺に打ち上げられるままである。なむなむ！【楽天ブックスならいつでも送料無料】【2007年本屋大賞＜2位＞】夜は短し歩けよ乙女 [ 森見登...価格：596円（税込、送料込）

  2014年06月01日

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  街道をゆく43

  司馬遼太郎氏の「街道をゆく43」を読んだ。「濃尾参州記」である。きっかけは、「街道をゆく42三浦半島記」だった。巻末の紹介に同シリーズが43まであり、その最後が名古屋市を中心にした話で、これは読まなくてはと思っただけのことだった。【楽天ブックスならいつでも送料無料】街道をゆく（43）新装版 [ 司馬遼太郎 ]価格：540円（税込、送料込）しかし、届いた文庫は、ことのほか薄く、巻末には取材中の司馬氏の写真や、安野光雅画伯のスケッチの様子が載っていて、さながら薄さをごまかしているかのようだった。織田信長から始まる本作は、桶狭間の戦いの地、豊明市を訪ねるのだった。細かく当時の話が綴られる。さらに、家康の「松平」、そして秀吉の墨俣のことなどが語られる。信長が美濃攻めの足掛かりにした墨俣だが、なかなか尾張から美濃の地、墨俣に、付城を気づくことができなかった。秀吉が築くことに成功するが、その際、「夜討強盗を営みとする中に能兵がたくさんいるので、彼らを使えば可能だ」と進言したとある。その名の中に、稲田大炊助、青山新七、青山小助、蜂須賀小六、蜂須賀又十郎、河口久助、長江半之丞、加治田隼人、日比野六大夫、松原内匠助といった名を挙げたという。まったく期せずして、長江半之丞の名が出てきたが、確か、徳島へ流れていった人ではなかっただろうか。ところどころ、「おっ」と思いながら読み進めていったのだが、本作が薄い理由を知り唖然。このシリーズが未完に終わったのである。司馬遼太郎氏が急逝されたからだ。タモリに悪く言われているから、名古屋を取り上げてやろうと思ったらしいのだが、実に残念である。まだ名古屋城について、幾多の話を書こうと思っていたらしい。「街道をゆく」シリーズは、実に読み応えがある。

  2014年05月16日

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  街道をゆく42

  司馬遼太郎氏の「街道をゆく42」を読んだ。「三浦半島は、まことに小さい。」から始まる「三浦半島記」である。なるほど伊豆半島と房総半島に挟まれ、比較すれば小さい。【送料無料】街道をゆく（42）新装版 [ 司馬遼太郎 ]価格：778円（税込、送料込）著者は横浜磯子のホテルに泊まり、三浦半島へ通い、歩きながら、半島であった出来事や人々、街のことなど、いろいろなことを書き記している。中でも中心になるのは、源頼朝や鎌倉幕府のことである。本書を読むきっかけは、自らの先祖の出自が、三浦半島にあることを知ったからだ。鎌倉権五郎景政の孫である義景が、三浦大介義明家の女性を嫁に迎え、長柄郷に住んだことから「長江太郎義景」と称したのが始まりだ。本書には、鎌倉権五郎景政こそ一章を使って紹介されているが、長江氏は一切出てこない。同じ支族でも、大庭氏や梶原氏は、鎌倉幕府で活躍したので、もちろん出てくるのだが。京の公家しか登場しなかった日本の歴史に、初めて一般庶民である武家が登場する鎌倉幕府の話は興味深かった。乱世であり、今の日本が、中国などとは違う形になったのは、ここに原点があったのだろうと著者は言う。また、個人的に興味深かったのは、頼朝の父義朝が、京から落ちて尾張野間の知人の宿を借り、そこ謀殺された。子の頼朝は、関ヶ原あたりまで一緒だったが、降雪のために一行から遅れ、美濃でとらえられた。だが死罪を免れ、伊豆に流されて、のちに鎌倉へ出たことである。実は、長江氏はこの逆を辿るのだった。承久の乱後、美濃国不破郡今須村に移住したとされる。まさに関ヶ原のあたりである。その後、斎藤道三、織田信長とも関わりながら、徳島や愛知県瀬戸市に、移り住む家系なのである。「三浦半島記」に戻すと、後半は横須賀、戦艦「三笠」、太平洋戦争の話も出てくる。その中に「記憶の照度（ルクス）」という章がある。この章が、私のお気に入りである。陸軍と違って、海軍は異文化であったことなどはどうでもいい。「坂の上の雲」を書く際に、記念艦として保存される「三笠」の士官室で、生き残った軍人たちに集まってもらったことがあるそうだ。そして、この「三浦半島記」を書く際、当時を懐かしむように、一人士官室を訪ねたら、印象が全く違っていたという話である。こんなにも暗く、狭い空間だったのだろうか。「おそらくあの日、この部屋にいたひとびとの気品が、私の記憶の中の部屋の照度（ルクス）を上げてしまっているのかもしれない。」こういう類の経験は、生きてきた中で、少なからず経験してきたことでもある。「記憶の照度」かぁ。

  2014年05月12日

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  竹中半兵衛と黒田官兵衛

  嶋津義忠氏の「竹中半兵衛と黒田官兵衛」を読んだ。これは相当面白かった。ＮＨＫテレビ「軍師 官兵衛」を見ている人なら、読むことで理解が深まること間違いなしだ。【楽天ブックスならいつでも送料無料】竹中半兵衛と黒田官兵衛 [ 嶋津義忠 ]価格：802円（税込、送料込）両者の違いをよく表す言葉が、帯に書かれている。竹中半兵衛は「天下は天下の天下、一人の天下に非ず」。秀吉が実現した天下が、この危惧を具現化してしまったかのようだ。一方の黒田官兵衛の言葉は、「主君の罰より、臣下、万民の罰、おそるべし」である。これも、半兵衛に影響を受けてのもので、官兵衛の心に半兵衛は常に寄り添っていた。小説であるし、どこまでが真実かはわからないが、一番魅力的な登場人物が、「霞の幻蔵」と名乗る傀儡師と、その妹の旅芸人の「楓」だ。幻蔵は終生、官兵衛の密使として勤め、楓は半兵衛と二度結ばれる。幻蔵が官兵衛に対して果たした役割の大きさもさることながら、読者として興味を持ったのは、楓の舞の美しさ、妖艶さ、不明な出自である。「軍師 官兵衛」には登場しないが、ドラマ化したら、誰が演じるのが妥当だろう。いや、想像のままに残しておきたい女性である。

  2014年05月03日

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  55歳からのハローライフ

  村上龍氏の「55歳からのハローライフ」を読んだ。連日、愛知県豊橋市と、三重県亀山市へセミナーに出かけているので、その道中に読んでいた。文庫版の巻末に、北野一氏の解説が載っているが、彼の書いたことに、いちいち同意する。【楽天ブックスならいつでも送料無料】55歳からのハローライフ [ 村上龍 ]価格：648円（税込、送料込）まず、この本の存在はずいぶん前から知っていたが、手に取ることはなかった。それは「13歳からのハローワーク」という著書を知っていたので、そのシニア版と読み間違えたためだ。「ハローライフ」と「ハローワーク」。実に紛らわしいが、5編の中篇小説から成っている。登場人物は、離婚したが経済的困難から結婚相談所で男たちと出会う女性、ホームレスになった中学時代の同級生、早期退職したものの再就職に苦労する会社員、夫よりも大切なペット犬を亡くした女性、淡い恋心を抱くトラックドライバーである。彼らの再出発の物語は、「あるある話」でもある。「こういう人いるよね。」「こんなすれ違いあるよね。」それぞれが、それぞれの生き様をさらす中に、希望の光は見えるだろうか。

  2014年04月23日

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  白ゆき姫殺人事件

  湊かなえ氏の「白ゆき姫殺人事件」を読んだ。映画館の予告で見かけて興味を持ったが、映画はまだ見ていない。【楽天ブックスなら送料無料】白ゆき姫殺人事件 [ 湊かなえ ]価格：648円（税込、送料込）化粧品会社の美人ＯＬが殺害された。容疑者として浮かんだのが同期のＯＬだった。そして、その事件を追うフリーライター。彼が取材で行く先の、相手の言葉を繋いでいく形で物語は進んでいく。しかし、当の「彼」はネット上のつぶやきにしか登場しない。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【2009年本屋大賞＜1位＞】告白 [ 湊かなえ ]価格：669円（税込、送料込）人間関係がテーマになっているが、ネットで噂が拡散していくことの怖さを見せつける。「告白」でも感じたことだが、彼女の作品のストーリー展開は、読者を引き込んでいく素晴らしさを持っていると思うが、こころが沈んでいく内容で、「告白」同様、やっぱり映画は観ないことにした。

  2014年04月14日

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  伝える極意

  長井鞠子氏の「伝える極意」を読んだ。彼女を知ったのは、ＮＨＫテレビ「プロフェッショナル　仕事の流儀」で紹介されたときだった。会議通訳者として47年の大ベテランだ。【送料無料】伝える極意 [ 長井鞠子 ]価格：734円（税込、送料込）通訳者の仕事は、異なる言語の間を仲立ちする仕事である。単に言葉を訳すだけではない。異なる思想的、文化的、政治的背景を持つ両者の仲立ちをする。一筋縄ではいかない難しい仕事であり、同時通訳なら瞬時に、置き換える言葉を探す判断も必要になる。セミナー講師にも近いところがあるが、同時通訳ほどの瞬時の判断がいらないだけいい。主催者、協賛者、参加者、みなの思いを繋ぐ仕事であるから、そこには通訳者と近いものを感じる。通訳者としての難しさや、女性と仕事の関わり方などが、体験として語られている。しかし、ＮＨＫテレビで紹介された最高の言葉は示されていない。それは、「準備と努力は裏切らない」である。いい言葉だと思う。

  2014年04月12日

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  それでも僕は夢を見る

  「夢をかなえるゾウ」の水野敬也氏と、パラパラマンガの鉄拳氏とのコラボレーション、それが「それでも僕は夢を見る」である。10分で読めるパラパラマンガと言っていいだろう。【送料無料】それでも僕は夢を見る [ 水野敬也 ]価格：1,035円（税5%込、送料込）夢は、簡単には実現しないもの。しかし諦めて、夢を捨てればそれまでだ。夢はいつも自分の中にあって、励ましてくれる。年月を経て、死が迫ってきたとき、かなわなかった夢なのに、もがいていた日々が輝いて見える。夢を捨てなければよかった。最後に、いや最期に自分の生きてきた証を残したい。そう思って、手紙を書く。あて名のない手紙を。簡単に言えば、こんな話だが、パラパラ風のマンガが動画のように迫ってくる。読み手の感情を揺り動かすかのように。

  2014年03月26日

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  誠なり

  ルバング島で、30年もの間、戦い続けた小野田寛郎氏が先月16日に亡くなった。私が中学生の頃、彼が精悍な顔をして日本に戻ってきた。衝撃的だった。しかし、それに比べると、訃報はそれほど大きなものではなかった。【送料無料】小野田寛郎の終わらない戦い [ 戸井十月 ]価格：1,470円（税込、送料込）そして、2冊の本を読んでみた。戸井十月氏の本を読んだ後、「わがルバン島の30年戦争」を読んだ。著者は小野田氏本人になっているが、ゴーストライターの手によるものらしい。記憶を語る小野田氏の言葉をまとめていったものだろう。【送料無料】わがルバン島の30年戦争　小野田寛郎 [ 小野田寛郎 ]彼は、陸軍中野学校二俣分校出身の諜報部隊員である。彼の使命は、潔く死んでいくのとは違う。自決は許されず、捕虜になっても、敵を欺き、任務を遂行できれば手がらとなる。それが故に、ジャングルに潜んでいる間、再三の捜索隊の呼びかけに応じることはなかったのだ。中野学校二俣分校の教えに、「秘密戦とは誠なり」というものがあるそうだ。敵だけでなく、味方までも欺くことがある秘密戦士にとって、何よりも大切なのは、国や民族を裏切らない誠の心であると。どんな方法をとろうが、誠をもってことに当たれば、最後にはそれが国のため、民族のために役立つと。ゼロ戦の戦闘員とは、真逆とも言える戦い方をしてきた。玉砕は一瞬の勇気とも言えるが、30年もの秘密戦は、常に神経の休まることのない忍耐を要した。誰にでも真似のできることではないと痛感した。ご冥福をお祈りしたい。

  2014年02月03日

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  こころの処方箋

  いま読んでいる文庫本が「こころの処方箋」だ。心理学者である河合隼雄氏の著書である。寝る前に布団の中で、3章ずつ読んでいるが、昨夜読んだ12章は納得して眠りについた。「100点以外はダメなときがある」というタイトルがついている。【送料無料】こころの処方箋 [ 河合隼雄 ]価格：452円（税込、送料込）努力しても報われず、「運が悪い」と嘆くことがある。必死に努力して、常に80点をとるほどなのに、いざというときに報われない。しかし、一方で、普段は60点程度の努力しかしていないやつが、いざというときに報われる人がいる。「運のいいやつ」だ。この違いはどこからくるのか。100点以外はダメというときに、80点では報われるわけがないのだ。「運がいい」という人はどうかと言えば、ここぞというときに100点をとる。平均点が80点以下でも、その効果がまるで違うわけだ。100点をとるのはときどきでいいと言われると、肩の力を抜くことができる。

  2014年01月17日

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  偉大なる、しゅららぼん

  万城目学氏の「偉大なる、しゅららぼん」を読んだ。奇想天外、摩訶不思議なストーリーを展開する彼の小説は、万城目ワールドとも表される。そのパワー全開の内容だった。【送料無料】【予約同日発売】M1213偉大なる、しゅららぼん [ 万城目学 ]価格：798円（税込、送料込）今回の舞台は琵琶湖である。「湖の民」の不思議な話。主人公は高校生。しかも、他の生徒が黒の学ランなのに、主人公の2人だけ赤の学ラン。しかも、学校からのお咎めはない。これだけでも、尋常ではないお話である。まったくオカシイ。謎の力を持つ「湖の民」。かつては、日本の他の湖にも存在したが、今では琵琶湖にしかいない。彼らの存亡を賭けた物語は、3月に映画化される。文庫本には、そのカバーがかけられているが、濱田岳氏と岡田将生氏が演じる。濱田岳氏演じる淡十郎の姉、グレート清子を演じるのは深田恭子氏だが、原作では森三中の誰かのように描かれている。そこに深田氏をキャスティングしたところが興味深い。あの不思議ちゃんぶりは、同じく不思議ちゃんとして知られる綾瀬はるか氏でも、いや能年玲奈氏でもなく、深キョンがしっくりくるのだ。そして、原作を読み進めると、グレート清子が表に出て展開していくところから、ぐいぐい引きこまれた。京都を舞台にした「鴨川ホルモー」、大阪を舞台にした「プリンセス　トヨトミ」、そして琵琶湖の湖東を舞台にした本作「偉大なる、しゅららぼん」。ますますパワーアップしている。恐るべし、万城目ワールド！琵琶湖の「げっぷ」と「屁」の音って…。（謎）

  2014年01月07日

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  くちびるに歌を

  長崎県五島列島にある中学の、合唱部の物語である。女子生徒だけの合唱部だったが、顧問の松山先生が産休に入るため、彼女の中学時代の同級生で、東京の音大に進んだという柏木先生が赴任。その美しさに惹かれた男子生徒が入部し、合唱部が変わっていく。【送料無料】【予約同日発売】M1206くちびるに歌を [ 中田永一 ]価格：650円（税込、送料込）練習にまじめに打ち込まない男子部員と、和を乱されたと憤慨する女子部員との間で対立が起こる。そんな中で、夏のNコン（NHK全国学校音楽コンクール）県大会出場に向け、男子との混声合唱に挑むのだが…。Nコンの課題曲は、「手紙～拝啓 十五の君へ～」である。自由曲は、柏木先生が松山先生の結婚を祝うために作った、いや、作りかけだった曲だ。そこには事情があったし、生徒たちも様々な事情を抱えていた。私は合唱というものはしたことがないが、謡曲をやったことがある。皆で声を合わせて、表現していくときの達成感などの魅力は分かっているつもりだ。そのあたりも読んで行くと、納得できるのではないだろうか。五島列島での練習から、県大会の行われる佐世保の街へ。そして、卒業。非常にいい話だし、ついつい先が読みたくなる。読後も実に爽やかだ。「映画化決定」と帯にあるが、ネットで検索しても出てこない。果たして、誰が柏木先生を演じるのかと気になるのだが…。

  2013年12月26日

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  誤嚥（ごえん）

  12月も半ばを過ぎ、そろそろ年末に向けた動きをしたいものだが、午前中は名古屋市でセミナーだったし、午後からは事務所に戻って、保険や投資信託など金融商品の取扱いでバタバタしてしまった。こういう時こそ、心にゆとりを持ちたいものである。その装置として、音楽は最適と言える。それに読書もいい。波野好江氏「中村勘三郎最期の131日　哲明さんと生きて」を読んだ。【送料無料】中村勘三郎最期の131日 [ 波野好江 ]価格：1,470円（税込、送料込）勘三郎氏の不調の最初は、マイアミのリゾートでだった。突然の耳鳴り。医師はそれをうつ病と診断した。そして、処方された向精神薬、抗ウツ剤睡眠薬の投与が体調を悪化させた。妻の判断で、薬をやめさせ何とか回復に至った。ところが、今度は食道ガン。それでも手術は成功したのだ。順調に回復していたのに、ある時誤嚥してしまう。これが肺全体にダメージを与え、ARDS（急性呼吸窮迫症候群）へと進行させてしまった。たらればであるが、この誤嚥さえなければ、まだ存命されていたに違いない。第二章の夫婦の馴初めは、穏やかな気持ちで読むことができる。しかし、第三章、第四章の日々の闘病の記録は、とても穏やかではいられない。愛情で包まれているが、想定外の事態がどんどん進行していったのが分かる。傍から見れば、家族や友人に囲まれて、幸せな最期だったと思うのだが、彼にとっては芝居の道が絶たれたことがすべてだったに違いない。でも、きっと息子たちが立派に繋いでいってくれるだろう。

  2013年12月16日

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  十八代　勘三郎

  亡くなって早1年。中村勘三郎氏の「十八代 勘三郎」を読んだ。スポーツニッポン新聞に掲載された「勘九郎かわら版」を一冊にまとめたものである。新聞掲載は平成15年6月から17年2月までだ。勘三郎襲名興行前の、まさに輝きを増す時期の会話である。【送料無料】十八代勘三郎 [ 中村勘三郎（18世） ]価格：1,575円（税込、送料込）賑やかな勘三郎氏が、歌舞伎への夢を語り、友らとの出会いを語り、故人をしのぶにはこの上ない本である。さらに巻末には、息子の六代目勘九郎、二代目七之助両氏のインタビューが添えられた。惜しい。実に惜しい。次は、夫婦の物語を、そして闘病の物語を読もう。【送料無料】中村勘三郎最期の131日 [ 波野好江 ]価格：1,470円（税込、送料込）

  2013年12月12日

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  勘三郎伝説

  十八代目中村勘三郎氏が亡くなって、まもなく1年になろうとしている。先月27日、一周忌法要と納骨式が東京都台東区の西徳寺で営まれた。【送料無料】勘三郎伝説 [ 関容子 ]価格：1,680円（税込、送料込）無性に勘三郎氏のことが書かれた本を読みたくなって、読んだ一冊である。著者は関容子氏で、古くから勘三郎氏と交流があり、それは観客席からはもちろん、楽屋であったり、対談の席であったり、稽古場であったり…。表に出ていない、裏の話がいっぱい紹介されている。芸に生きた勘三郎氏の人となりが、よく表されている。いろいろな人との出会いが、彼の芸に生かされてきた。例えば、古今亭志ん朝氏との会話が印象に残る。「芸人というのは、お父さんもうちの親父もそうだけど、最終的に芸を見せるんじゃなくて、その人間を見せるんだ、ということですね。落語も芝居も、それは媒体で、その人を見せるんじゃなかったら誰のを見ても同じなわけですよ。役以外の本人の魅力を見せたのが親父やお父さんだったと思う」と志ん朝氏が言えば、勘三郎氏も「とてもよくわかる。最後は人間なんですね」と受けるのだ。機械がするのでなければ、すべてに通じることだと思って、「なるほど」と膝を打った。次は、「十八代勘三郎」を読もう。【送料無料】十八代勘三郎 [ 中村勘三郎（18世） ]価格：1,575円（税込、送料込）

  2013年12月01日

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  年金ロックンローラーって

  マンガでわかる「年金・投資・お金」のすべて！こう銘打ったマンガ「年金ロックンローラー内沢裕吉」を読んだが、こういうタッチのマンガは読みづらい。【送料無料】年金ロックンローラー内沢裕吉 [ ホイチョイ・プロダクション ]価格：1,575円（税込、送料込）なんて言うのか、劇画というのか。線が多い力作だが、かえってそれが邪魔をして絵が見づらいのだ。就職活動中の女子大生が、落ちぶれロックンローラーのマネージャーに就職するところから始まる物語。内田裕也氏と矢沢永吉氏を合体させた名前になっているが、性格的には泉谷しげる氏である。老後を考えたときに、国民年金保険料を払っていなかったことを嘆くのだが…。離婚した前妻との間に息子、さらに別の前妻との間にも娘がいて、会いに行く。その過程で、企業年金や保険の話が出てくるのだが、東京スカイスリーで落雷に遭い、戦国時代にタイムスリップするというハチャメチャなストーリーで若者に考えさせることが出来るのだろうか？雑誌「ZAi」の連載漫画らしく、データが連載時のままなのだろう。例えば、国民年金保険料は昨年度の月額14,980円で紹介されている。先月の新刊書なのに。それにしても、厚生年金額の平均が、月15万円前後っていう紹介は、ちょっと高過ぎるなぁ。10万円程度じゃないかと思う。専門家の監修は受けてないのだろうか？

  2013年11月29日

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  青春夜明け前

  重松清氏の「青春夜明け前」を読んだ。これは、小説現代などで発表された7編を、あるテーマに沿って集めた講談社文庫オリジナルの短編集である。おもしろい。【送料無料】青春夜明け前 [ 重松清 ]価格：610円（税込、送料込）カバーの絵も見事に内容の一端を伝えているが、カバーの裏の文章も、まさにドンピシャである。あるテーマというのも、それ（赤字）を読めば分かるのだ。10代、男子。愛おしくおバカな季節。何かというとボッキばかりしていたあの頃の僕たちは、勘違い全開のエロ話と「同盟」「条約」「宣戦布告」という言葉が好きだった。そして何より「親友」という言葉が好きだった。男子の、男子による、男子のための（女子も歓迎！）、きらめく7編の物語。40歳代の今から、小学生時代、中学生時代、そして高校生時代を振り返り、当時のおもしろおかしい話が語られる。もし、そこに「友情」が絡まなかったら、なんじゃこれで終わってしまうのだが、まさに青春夜明け前の男子の話である。重松氏の文章に引き込まれていくが、岡山弁？の文体が、広島弁の「はだしのゲン」を思い出させもする。もっとも、ここに書かれているのは、今に続く、戦後の平和な時代の話なのだが･･･。【送料無料】【コミック・書籍全巻セット】【3倍】はだしのゲン 文庫版 全7巻セット [ 中沢啓治 ]価格：5,182円（税込、送料込）

  2013年10月24日

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  たけしくん、ハイ！

  先日読んだ「菊次郎とさき」に続き、「たけしくん、ハイ！」を読んだ。もしかしたら、インタビューされたものを、文書化したものなのかもしれない。すべて、話し言葉で書かれている。【送料無料】たけしくん、ハイ！ [ ビートたけし ]価格：620円（税込、送料込）足立区に住んでいたビートたけし氏の思い出話が語られているが、前に「さき次郎」を読んでいたので、すんなり話に入っていけた。また、昭和の時代の、まだ貧しかった時代の話であるが、私の世代なら、かろうじてイメージできるかもしれない。割と「あるある」と思える話である。また感心するのは、カバー絵や挿画が、著者であるビートたけし氏の手によるものだが、素朴でいい絵なのだ。情景を額縁の中に捉える能力があり、映画監督になるべくしてなったのだなぁと感じさせてくれる。「さき次郎」っていうのは、私が「この『菊次郎とさき』面白かったよ」と妻に話したことがあったが、その後、妻が「あの『さき次郎』はどこ？」って真顔で言ったことがある。本人も意図したわけではなかったようだが、だから余計に二人で大爆笑したのだった。

  2013年10月13日

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  菊次郎とさき

  ビートたけし氏の「菊次郎とさき」（新潮文庫）を読んだ。母親さきのことを書いた「ＳＡＫＩ」。父親菊次郎について書いた「ＫＩＫＵＪＩＲＯ」。そして、母の死について書いた「北野さきさん死去」の3篇だ。さらに、兄、北野大氏の「北野家の人びと」を、巻末に収録している。【送料無料】菊次郎とさき [ ビートたけし ]価格：340円（税込、送料込）毒舌は封印し、母への思い、父への思いを、少しの笑いで包んでいる。心温まる、という表現がピッタリくるだろう。ずいぶん前に出版された本だが、ふと思い立って買った。その直感は正解だった。テレビドラマや舞台にもなっているそうだが、何一つ見ていない。「ＫＩＫＵＪＩＲＯ」については、すべてフィクションと断ってあるので、それなりの脚色が加えられているのだろう。昭和の親子の、1つの愛の形が見えてくる。

  2013年10月03日

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  燃える闘魂

  八重が残った。そう、「半沢直樹」が終わり、「あまちゃん」が終わった今、「八重の桜」だけが残ったのだ。勇壮な八重でクライマックスを迎えた「会津編」に続き、現在の「京都編」では、戊申戦争の影も引きずりながら、新島襄と同志社を軸にした展開を見せている。【送料無料】燃える闘魂 [ 稲盛和夫 ]価格：1,575円（税込、送料込）「燃える闘魂」とタイトルをつけると、「半沢直樹」のことかと思われてしまうのだが、稲盛和夫氏の著書のことである。倍返しのような「仕返し」とは、まったく違う意味の「燃える闘魂」である。フィクションとノンフィクションの違いと言ってもいい。一言でいえば、勇気づけられるビジネス書である。「世のため人のため」という「高邁な動機」をベースに、「燃える闘魂」をもって臨む。そして、「手の切れるようなものをつくる」ことで、日本の再生は可能になるという内容だ。「手の切れるような」というのは、稲盛氏の両親が言っていた言葉らしい。「目の前に理想的な完成品が具現化されているとき、人間はそれに手をふれるのもためらうような憧憬と畏敬の念に打たれるもの」で、それを表現したものである。製造業は中国、台湾、タイ、インドネシア、ベトナムなどに移っている。しかし、コストでは負けても、高付加価値な商品、つまり「手の切れるような」商品は、日本独自のものといっていい。京セラ、ＪＡＬなど、彼が関わったビジネスの成功の肝に当たる部分が語られている。私の仕事は製造業ではないが、ＪＡＬの再生は参考になる。ＪＡＬはサービス産業であるから、私の仕事にも通じるものはあるのだ。東日本大震災に際して、ＪＡＬ社員が行ったサービスなど、興味深い出来事も紹介されている。

  2013年09月29日

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  はだしのゲン 1

  昨日、注文していた中沢啓治氏の漫画「はだしのゲン」が届いた。中公文庫コミック版全7巻セットである。忘れた頃になって、ようやく届いた。ある出来事で、注文が殺到し、予約注文になっていたのだ。【送料無料】【コミック・書籍全巻セット】【3倍】はだしのゲン 文庫版 全7巻セット ［ 中沢啓治 ］その出来事とは、松江市教育委員会が、子供が自由に閲覧できない「閉架」措置を取るよう市内の全市立小中学校に求めていたことである。しかし、個人的には読んでいないので、キョトンとしてしまった。市教委によると、首をはねたり、女性を乱暴したりする場面があることが問題視され、各学校は閲覧に教員の許可が必要として、貸し出しは禁止する措置を取ったというのだ。結果的に、私もこのニュースをきっかけに、読んでみることにしたのである。皮肉なものだ。文庫版は、文字が小さすぎて、もう眼鏡をかけなければ読み進められない。一気に読みたいところだが、目が疲れてしまって、なかなかそうもいかないのだ。思わぬ苦戦である。ところで、第1巻は、戦時下の広島で暮らすゲンたち家族の日常を綴っている。戦争に反対する父親は非国民扱いされ、ゲンたち家族も、様々な嫌がらせにあうのだ。そんな中、昭和20年8月6日はやってくる。エノラ・ゲイから投下された原爆は、広島市民に襲い掛かり、地獄絵と化すのだ。物語の始まりにふさわしい1冊だが、まだ再生の光どころか、どん底まで、いやまださらなる底があるのかもしれない状況で終わるのだ。

  2013年09月15日

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  少年H

  映画を先に見た「少年H」だが、文庫本で上下2冊。結構な分量だが、ようやく読み終えた。【送料無料】少年H（エッチ）（上巻） [ 妹尾河童 ]価格：704円（税込、送料込）【送料無料】少年H（エッチ）（下巻） [ 妹尾河童 ]価格：704円（税込、送料込）昨日、セミナーのため、伊賀上野に入り、1泊した。今日も朝8時半からセミナーを行い、午後3時に2回目を終えて帰ってきたが、その道中の長いことったらない。昨日は、近鉄で伊賀上野入りを果たしたが、今日はJR関西本線で戻ってきた。途中、亀山駅で乗り継ぐが、何せ普通電車だから3時間の長旅だ。近鉄特急とは座席の質も違うからこたえる。そのお供が、文庫本「少年H」だった。著者、妹尾河童氏の自伝的小説と言われるが、実に面白かった。戦時下の神戸の姿が、少年Hの個性あふれる言動とともに語られている。B29による大空襲で焼けた神戸は、あの阪神大震災のようだったんだなぁ。そして、映画に出てこなかった「羽田野の小父さん」が果たした役割が大きく、Hにとって、いやHの家族にとって重要な人物である。長編小説を映画化するために、切り捨てられてしまったんだなぁ。

  2013年08月28日

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  生きる

  先日、テレビで紹介されていた「南三陸から」という写真集が届いた。東日本大震災の発生する前の、穏やかな南三陸の四季の写真。志津川駅裏にあった、ひまわり畑の見事なこと。震災当日の迫りくる津波の写真。ビルの屋上に避難する人の影。次の写真で、波に飲み込まれた。3月11日（金）は卒業式の前日。集合写真は、卒業式に飾ろうとしていたポスターだった。中学校の瓦礫の中から、奇跡的に見つかった。5年後、成人となった君たちが再会することを願うの文字。写真は、不幸も幸福も、そのまま残す。町の写真屋の2代目である著者。この本の売り上げ1冊につき、300円が南三陸町へ義援金として寄付される。【送料無料】南三陸から [ 佐藤信一 ]価格：1,575円（税込、送料込）

  2013年07月14日

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  深い川

  今日は、朝日新書「天職」を読んだ。著者は、秋元康氏と鈴木おさむ氏で、放送作家として著名な二人の対談をまとめたものである。【送料無料】天職 [ 秋元康、鈴木おさむ ]価格：798円（税込、送料込）「これが私の天職だ」と、意識して見つけるということはできないのだろう。ずっと、同じ仕事を続けてきた。それができた仕事こそが天職ということなのだろう。若い人も、その種は誰もが持っているはずだが、それに気づかなかったり、すぐに諦めてしまったりして、たどり着けない人が多い。「深い川」という表現を使っていた。「やる」と「やろうと思った」のあいだって、めちゃくちゃ深い川が流れてるんですよね。品川庄司の品川氏がこう言っていた、と紹介してくれたのは鈴木おさむ氏だ。彼が「ドロップ」という小説を書き、脚本を書いて、自分で映画を撮ったとき、「俺もやろうと思ったんだよ」と何人の人に言われたことか、と。クラスでちょっとおもしろいやつとか素人でちょっとウケるくらいの人たちと、プロのあいだって、すごく深い川が流れていて、僕たちから見ると越えられない差なんだよね。こう言ったのは、秋元康氏だ。芸人は楽しそうだが、それで食べていけるプロというのは、医師や弁護士と変わらない。決して簡単ではない道だが、そうは見えないところが芸人の芸人たる所以である。そう言ったのは、私だ。なんてね。

  2013年07月10日

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  そうか、もう君はいないのか

  城山三郎氏の「そうか、もう君はいないのか」を読んだ。亡き妻との出会いから別れまでを綴った断片を、著者の死後に編集者によって纏められた夫婦の物語である。【送料無料】そうか、もう君はいないのか [ 城山三郎 ]価格：420円（税込、送料込）さらに、巻末には、次女、井上紀子氏による「父が遺してくれたもの－最後の『黄金の日日』」が寄せられ、娘からみた家族の物語も語られている。そして、やはり故人となった児玉清氏による解説まで寄せられているのだが、全編、愛に満ちた内容となっている。足し算型と掛け算型の夫婦があるとすれば、掛け算型の夫婦だったのだろう。掛け算型の夫婦で、妻に先立たれた後の夫の喪失感は大きい。妻の死後7年間も、次女の文章が教えてくれる。城山氏の文章だけでなく、次女の文章、そして児玉氏の解説が一体となって、愛を語っているのだ。

  2013年07月07日

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  野心のすすめ

  林真理子氏の「野心のすすめ」を読んだ。ここで扱う「野心」とは、クラーク博士の「大志」と同じ意味である。彼女が書くと、「野望」に近い意味だと思ってしまうのが、先入観というやつである。【送料無料】野心のすすめ [ 林真理子 ]価格：777円（税込、送料込）草食男子に代表されるように、今は男も女も「低め安定」でヨシとする人が多い。そこで、彼女がもっと上を目指せとばかりに書いた本で、結構、共感できるところが多かった。たとえば…彼女のモットーは「やってしまったことの後悔は日々小さくなるが、やらなかったことの後悔は日々大きくなる」、だそうである。喩えて、「やってしまった過去を悔やむ心からはちゃんと血が出て、かさぶたができて治っていくけれど、やらなかった取り返しのつかなさを悔やむ心には、切り傷とはまた違う、内出血のような痛みが続きます。内側に留まったままの後悔はいかんともしがたいものです」として、まさに野心をもって行動することをすすめるのだ。しかし、野心だけではね、というわけで、「『今のままじゃだめだ。もっと成功したい』と願う野心は、自分が成長していくための原動力になりますが、一方で、その野心に見合った努力が必要になります。野心が車の『前輪』だとすると、努力は『後輪』です」と教える。「両方のバランスがうまくとれて進んでいるときこそ、健全な野心といえるのです」、「野心と努力の関係と同様、自信と謙虚さの両方をバランス良く持っていたいものです」と。あたり前のことではあるが、実は、よく見落としがちで、忘れてしまいがちなことが、彼女自身のエピソードと共に書かれていて、受け入れやすく清々しい感じもする。

  2013年07月01日

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  法医昆虫学

  川瀬七緒氏の科学捜査ミステリー「シンクロニシティ」を読んだ。きっかけは、日経新聞の読書欄に掲載された紹介文に興味を持ったからだった。【送料無料】シンクロニシティ [ 川瀬七緒 ]価格：1,575円（税込、送料込）著者川瀬七緒氏は、子供服デザイナーとして働く傍ら、ミステリー小説を書き、「よろずのことに気をつけよ」で2011年江戸川乱歩賞を受賞している。【送料無料】よろずのことに気をつけよ [ 川瀬七緒 ]価格：1,575円（税込、送料込）「シンクロニシティ」は、法医昆虫学者赤堀涼子氏を捜査官として扱っているが、主役はデコボココンビのような刑事2人を含めた3人のように思う。著者自らの、高校の生物教師だった祖父と一緒に山の中を歩いて教わった知恵が、そのまま活かされた内容になっていて、事件現場の近くに住んでいて、すでに亡くなっていたおじいちゃんに重なる。昆虫の持つ正確な習性が、犯罪捜査に役立つことを、私は初めて知った。著者の説明によれば、「法医昆虫学」というのは、死体に湧く虫の成長と生態系の組まれ方から、死後経過や犯罪環境までも割り出しいていく学問だ。例えば、ある屍肉食種のハエは、生き物が死亡してから必ず10分以内に到着するという。そして即座に産卵が行われ、孵化から羽化に至るまでの日数は正確で狂いがないという。犯罪捜査で、欧米ではなくてはならない学問だそうだ。今回の物語では、ハッチョウトンボの性モザイクが事件解決につながる発見だった。それを見つけて、事件解決に導くのが赤堀涼子だ。面白いキャラクターに仕上がっているが、彼女が次々に見つける「虫の知らせ」。ワクワクするが、ゾクゾクもする。初稿よりは、3、4割、表現を和らげたという虫たちだが、それは読んでのお楽しみ。ただし、気の弱い方は心して！

  2013年06月23日

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  「ギロン」

  東京大学が、検討していた秋入学への全面移行を当面見送り、留学生を受け入れやすくするよう、4学期制の導入を決めた。大学教育の国際化を進めることが目的だ。京都大学は、東大の目指した秋入学とは一線を画しているが、今年4月に、国際高等教育院が設置され、大学教育の国際化という方向性においては変わらない。東大も学内外から反対意見もあるし、京大も同様だ。そして、京大の学生たちが、教授らから意見を聞いたり、議論したりして本にまとめたのが、「ゆとり京大生の大学論－教員のホンネ、学生のギモン」である。【送料無料】ゆとり京大生の大学論 [ 安達千李 ]価格：1,575円（税込、送料込）京大の教育改革は、国際高等教育院を作り、教員の人員配置に大幅な変更をする。中でも、京大10学部のうち、主に教養教育の実施を担ってきた総合人間学部が、事実上、解体されるかもしれない。そんな危機感を持った、総合人間学部の院生や学部生らが中心になって作った本である。巻頭インタビューは、益川敏英教授。そして、第一部は「大学教員のホンネ」を寄稿形式で紹介している。第二部では、「ゆとり京大生のギロン」で、学生たちの対談形式になっている。この「ギロン」を見た瞬間、「ギロチン」に見えて驚いた。結果的に、総合人間学部が解体されることはなかったが、学生たちが動き、いろいろな意見を聞き、討論した。一石を投じたことで、波紋は広がっていくのだろう。あらためて、大学って何だろう。経営者、教員、学生という当事者だけでなく、卒業生を受けいれる企業も、あるいは、社会の要請も、それぞれに求めるものは違うのかもしれない。

  2013年06月21日

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  ハルキ流 ナゴヤ考

  今日の朝日新聞別刷「朝日プラス・シー」では、村上春樹氏の最新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を考察している。私自身はハルキストでもなく、当然、発売日に並んでまで買う気持ちが分からないのだが、この作品は名古屋と関わりがあるようで、この別刷を興味深く読んだ。「ねえ、名古屋って　そんなに居心地の良いところなの？」と題して始まる特集は、まだ読んでいない自分にとって、読んでみたいと思わせるものだった。主人公の多崎さんは、名古屋市郊外の高校を卒業後、東京の大学に進学し、今は東京の鉄道会社に勤務しているという設定だ。その彼が、高校時代の仲間4人から、大学2年のときに、突然絶交され、16年ぶりにその真相を調べるため、名古屋へ巡礼に出かけたという話のようである。「ナゴヤ考」というぐらいだから、その名古屋をどう表現しているか、というのが本特集の内容だ。この記者は、多崎さん同様、名古屋市郊外の高校を卒業して、東京の大学に進学したことで、自分とダブらせているようだ。岡崎市の高校だそうだが、名古屋市郊外と言えば、普通、尾張地区、例えば、春日井市などのことであり、三河地区の岡崎市を名古屋市郊外とは言わないのではないか。【送料無料】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 [ 村上春樹 ]価格：1,785円（税込、送料込）まあ、この際、それは関係ない。で、記者が持ち出してきたのが、約10年前、村上氏が月刊誌の連載で名古屋を歩いた旅行記「東京するめクラブ　地球のはぐれ方」だ。実際に見聞きしたことが、小説に反映されているというのである。【送料無料】地球のはぐれ方 [ 村上春樹 ]価格：1,050円（税込、送料込）「要するに名古屋というエリアは、メスの入っていない手つかずの状態で、外界からは忘れられたまま、コナン・ドイルの『失われた世界』的に孤立進化してきたと言えるかもしれない」というのは、東京するめクラブに出てくるが、小説では主人公のガールフレンドに語らせているという。また、世界のどこでもない場所を設定し、ローカル性を廃して書かれたこれまでの作品と違い、名古屋というローカル性を出したことに、文芸評論家の清水良典さんの解釈を紹介している。「名古屋に生まれて、学校もずっと名古屋、職場もずっと名古屋、名古屋に住みつくと居心地がいい」という名古屋スタンダードは、名古屋を日本に置き換えると、そのまま日本スタンダードになると。名古屋は、その奥にある日本人の普遍的な土着性の象徴として描いた。今の日本は、大きな名古屋だと。小説では、16年前に仲間から絶交され、居心地の良かった名古屋の崩壊から出発しているが、それは1995年のサリン事件で、古き良き日本が崩れたのだという世界観だ。主人公は鉄道会社で駅をつくる仕事に従事しているが、駅とはどこかに出発する拠点である。古き良き日本でなくなった今、どう生きていくのか。出発する駅を見つけなさいというメッセージが込められていると解釈している。

  2013年05月26日

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  きりえの世界

  朝日新聞日曜版に、1970年9月から1978年12月まで連載された、滝平二郎氏のきりえの世界が「名作集（冬-春編）」として出版された。懐かしさも手伝って買い求めたが、人物の切れ長の目が特に懐かしい。きりえで表現された作品は、独特の世界観を持っている。しかし、なぜ12月から5月までの「冬-春編」なのだろうと思ったら、今年7月に、6月から11月までの「夏-秋編」が出版されるようである。四季折々の日本の風景や慣習を切り取った、温もりあるきりえは見事である。【送料無料】滝平二郎きりえ名作集（冬ー春篇） ［ 滝平二郎 ］

  2013年05月19日

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  広がるはずが狭まる空間

  昨日、「不便の効用」を書いていて思い出したのが、鷲田清一氏の「京都の平熱」の下記文章である。ちょっと長いが、そのまま引用。（Ｐ123）　「ここにいて遠くのだれともつながることのできる情報媒体をわたしたちは手に入れた。けれどもはたしてそれで世界は広がったのか。子どもまでケータイやインターネットを駆使できるようになったのに、皮肉なことにコミュニケーションはどんどん内向し、その圏域はどんそん狭まってゆく。交信相手はかぎられ、そのかぎられたひとと強迫的なまでにくりかえしくりかえし交信する。世界を開くはずのメディアを手にすることで、世界はますます小さく閉じてゆく…。」　「これならケータイなどもたずに見知らぬ土地に出かけたほうが世界は広がる。見ず知らずのひとに道を訊ね、地のものを食わせる店がないか訊き、食べ終えたらお店のひとにいろんなことを教えてもらうほうが、うんと世界は広がる。社会に大きな隙間を空ける作業、さてどこから手をつけたらいいものか。」【送料無料】京都の平熱 [ 鷲田清一 ]価格：1,008円（税込、送料込）便利な世の中になったというのに、どうにも住みにくい世の中になった。電車に乗れば、人は一杯であるのに、気持ちはそこにない。皆ケータイやスマホを覗き込んで、別の空間にアクセスしているのだ。本や新聞を読んで、自分と同じ空間にアクセスしている人は一握りである。しかも、別の空間の相手とゲームをしていることすらある。ストレス社会の息抜きなのだろうか。核家族化が進み、さらには個人化が進んで、直接会話するコミュニケーションは苦手である。お互いの息遣いとかを感じることもなく、ペットですら、生の動物ではなくなった。仮想と現実の切り替えがうまくいかなくなって、犯罪も増えたのだろうか。住みにくい世の中である。「哲学者の都市案内」と副題にあるように、ふと思索にふけることのできる本である。

  2013年05月17日

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  数字「206」

  鷲田清一氏の「京都の平熱（哲学者の都市案内）」を読んだ。京都市バス206号系統に乗って、京都駅から東へ、北へ、西へ、南へと、一回りして京都駅へ戻るまでの京都案内である。帯には「舞妓さんと坊さんのあいだ」という言葉も踊る。キーワードである。【送料無料】京都の平熱 ［ 鷲田清一 ］京都市バス206号系統は、私も一番乗る機会のあるバスだ。長男の下宿に行くときに乗るからだが、観光シーズンになると混む系統でもある。三十三間堂、清水寺、高台寺、八坂神社と、名だたる観光ルートを結んでいる。そのため、最近は京都駅から東福寺駅を経由して、京阪電車で出町柳駅へ出て歩くことが多くなった。おなじみの路線を、各所で解説してくれて面白い。歴史上の話、風俗の話、通りの話、京都人気質の話…。へ～ぇ、と感心することしきりである。軽い話なら、こんなことが書いてある。女も男も「うどん」のことを、京都人は「おうどん」と呼ぶのだ。ささやかな食べ物、京野菜をふんだんに使った惣菜の類は、たいてい「お」を付ける、と。おうどん、おそば、おつけもの、おすし、おひたし、おすまし、おいも、おなす、おねぎ、お豆、おじゃこ、お魚、お肉、おぜんざい…。しかし、おにんじん、おすいか、おじゃがいも、お桃、おキャベツ、お白菜、お豚とはまちがっても言わないといい、その理由は分からない、と。さらに、「おみおつけ」は「御御御付け」と書き、味噌汁のことである。これは私も知っているが、何故、これほど「お」を付けるかは不思議である。しかし、奈良漬けのことは「オナラ漬け」とは決して言わないと、茶目っ気を見せるのだ。京都について、薀蓄を語りたいなら、まず読まなければならない本だろう。「206」という数字から、ふと思い出したことがある。テレビドラマ「ウルトラＱ」で、消息を絶った旅客機が「206便」だった。単に語呂がいいのか、もしかして、このバス路線から取ったのだろうか？

  2013年05月14日

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  失敗談

  外山滋比古氏の「失敗談」を読んだ。「思考の整理学」の外山滋比古氏である。彼の経験や見聞に基づくエッセー集であるが、「経験は最良の教師である。ただし、月謝はべらぼうに高い」といった話がたくさん出てきて、ふんふんと読んだ。その中に「シャープの早川徳次」というのがある。【送料無料】失敗談 ［ 外山滋比古 ］世界で初めて、シャープ・ペンシルを発明した早川氏だが、両親が早くに亡くなり、小学校2年生で退学せざるを得なくなったという苦労人だ。かざり職人の店へ丁稚奉公に出された彼は、金属加工の技術を見習いのうちに身につけ、独立間もない22歳で、「早川式繰出鉛筆」を発明した。ところが、関東大震災により、3つあった工場は失われ、妻と2人の子供も亡くした。しかも、シャーペンの生産不能によって、契約違反と事業拡張資金の借入れの返済を迫られた。出来ないのなら、ということで、早川氏が持つ48件の特許を無償供与するという、ひどい条件をのませれてしまった。失意の早川氏を支えたのが、14人の技術者だったそうだが、国産鉱石ラジオを発売し、そのラジオを「シャープ」と名付け再生したのが、いまのシャープである。いままた再建中のシャープは、支援企業探しを続けている。最新技術が集結する亀山工場や高精細、省電力液晶パネル「ＩＧＺＯ」の技術供与などがポイントになる。創業者早川氏が乗り越えたように、乗り越えて欲しいものだ。

  2013年05月06日

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  日本の歴史人物伝（まんが）

  まんがで読める、日本の人物伝が「日本歴史人物伝」である。「政治や戦いで国を動かした人びと」「新しい道をきりひらいた人びと」「文化や芸術の発展につくした人びと」という3章だてで、50人以上を紹介している。【送料無料】日本の歴史人物伝 ［ ムロタニツネ象 ］しかし、日本人に限ってはいない。日本の発展に影響をおよぼした人物を含んでいる。具体的には、ペリー、ザビエル、シーボルトの3人である。卑弥呼から植村直己までの伝記が、たった1冊で読めるのだ。共通しているのは、誰の子として生まれたという生い立ちから始まるところである。伝記だからなのだが、子どもの頃はどうだったといった記述が、中学生の二男に興味を抱かせ、勉強の助けになるのではないかと期待している。

  2013年04月13日

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  科学偉人伝（まんが）

  二男のために買った「科学偉人伝」は、漫画で世界の科学者の物語を、1冊で読める本だ。重く分厚い本は、6つのテーマで構成されている。【送料無料】科学偉人伝 [ ムロタニツネ象 ]価格：1,575円（税込、送料込）「宇宙のなぞに挑戦した人たち」では、コペルニクス、ブラーエ、ガリレイ、ケプラー、ニュートン、ハーシェル、アインシュタインを紹介している。「生命のなぞに挑戦した人たち」では、アリストテレス、レーウェンフック、ラマルク、ダーウィン、メンデル、モーガン、ワトソン、クリック。「原子のなぞに挑戦した人たち」では、デモクリトス、ボイル、ドルトン、ペラン、キュリー、長岡半太郎、湯川秀樹、フェルミ他。「空を飛ぶゆめに挑戦した人たち」では、ダ・ビンチ、モンゴルフェイエ兄弟、シャルル、ケイレー、リリエンタール、ツェッペリン、ヘンスン、ラングレー、ライト兄弟他。「宇宙へのゆめに挑戦した人たち」では、ベルヌ、チオルコフスキー、ゴダード、オーベルト、ブラウン。「日本の科学のさきがけとなった人たち」では、関孝和、平賀源内、杉田玄白、伊能忠敬、華岡青洲、田中久重、二宮忠八である。普通なら、一人1冊でもいいような人たちが、わずか1冊に収録された贅沢な本である。大人でも知らないような偉人もいて、いい刺激を受けられる。もちろん、何のことか、にわかには理解できないことも出てくる。漫画とはいえ、限界もあるのだが、子どもが何かしら興味を持ってくれればいい。そのためには、格好の本と言えるだろう。

  2013年03月31日

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  池上彰教授の東工大講義

  マスコミでひっぱりだこの池上彰氏だが、2012年より、東京工業大学のリベラルアーツセンターの教授として、理系学生を教えている。その講義録というべき本が、「池上彰教授の東工大講義（世界編）」である。池上彰教授の東工大講義　世界篇この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう／池上彰【もれ...価格：1,575円（税込、送料別）工学部生の長男に読ませたいと思った本だが、先に読んでみた。15回分の講義が収録されている。1.実は原爆を開発していた日本（科学と国家）2.世界地図から見える領土の本音（国際情勢）3.日本国憲法は改正すべきか？（憲法）4.紙切れを「お金」に変える力とは（金融）5.悪い会社、優れた経営者の見分け方（企業）6.経済学は人を幸せにできるか（経済学）7.リーマン・ショックとは何だったのか？（世界経済）8.君は年金に入るべきか（社会保障）9.視聴者が変える21世紀のテレビ（メディア）10.オウム真理教に理系大学生がはまったわけ（宗教）11.「アラブの春」は本当に来たのか？（社会革命）12.大統領選でわかる合衆国の成り立ち（アメリカ）13.なぜ「反日」運動が起きるのか（中国）14.”金王朝”独裁三代目はどこへ行く（北朝鮮）15.君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか？（白熱討論）以上、タイトルを見ただけで興味をそそられるのではないだろうか。特に、最後の白熱討論は、簡単に応えの出せるものではなく、学生たちが問題意識を持つことが大切なのだろう。10年ほど前、ある日本の精密機器メーカーで、有機ＥＬパネルの研究に携わっていた人が、会社が一向に事業化を決断しないため、自分の将来に疑問を持ち始めていた。ちょうどそこへ、韓国サムスンＳＤＩの社長、副社長、専務が訪ねてきたという。いわゆるヘッドハンティングだ。そして、彼はサムスンで成果を挙げ、当のサムスンは有機ＥＬ市場で、圧倒的なシェアを握るまでに成長した。ところが、事業部門の統合を機に、退社し帰国したそうだ。再就職活動では、日本のライバル、サムスンに技術指導したことが嫌気され難航。結局、台湾企業で技術顧問を務めているという。そんな実話をもとに、討論を繰り広げるのだが、様々な意見があって興味深い。だが、この話、最近テレビで見たばかりだと思った。ＮＨＫの「メイドインジャパン」である。さて、この東工大講義、どうやら続編が刊行されるようである。さっそく、予約を入れた。【送料無料】この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 [ 池上彰 ]価格：1,575円（税込、送料込）

  2013年03月24日

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  だれかを犠牲にする経済は、もういらない

  本書は、公益資本主義を提唱する原丈人氏と、信越化学工業顧問の金児昭氏との対談を軸に、リーマンショックに代表されるアメリカ発の金融資本主義ではなく、時間をかけて価値をつくり出す実業経済を提唱している。【送料無料】だれかを犠牲にする経済は、もういらない ［ 原丈人 ］「公益資本主義」とは、「会社がお金を儲けて、その利益を使って何らかの形で社会に貢献するということが、経営陣と従業員の目的としてしっかり共有されており、実際に実行している会社が社会で報われる」という資本主義だ。逆にリーマンショックを引き起こした「金融資本主義」は、「市場万能主義」と「株主至上主義」に立脚するが、市場原理には限界があるし、会社は株主だけではなく、従業員、顧客、仕入先、地域社会などのもののはずだから、間違いであると。原氏の持論は共感を覚えるが、金児氏の処世術もいい話だ。「親が○○してくれなかったからこうなった」「会社が、あるいは上司が○○だからこうなった」と言う場合、自分ではどうにもならない境遇や運命を、あきらめていない状態といえる。「自分はいつかはこういう道に進みたい、こういうことをやりたい、それに役立たないから、目の前のことはやる気がしない」と言う場合も、あきらめていない状態だと。目の前のことを一生懸命に考えない、やらない人ほど、遠い未来のことを夢想しがちで、目先のことをやらずに漫然と過ごす、そういう生き方をしていると、自分の不遇を他人のせいにしたくなってしまう。自分にとって、どうにもならない境遇や実力不足はあきらめる。ないものねだりはしない。できないことに無理にしがみつかずに、いまできることを一つひとつ、一歩前に進めるようにする。大切なことである。金児氏の話は、対談以外の、原･金児両氏の原点が書かれた章に出てくる。対談の内容は、他でも読めるが、原点の話は、他で読めない気がする。

  2013年02月28日

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  RAILWAYS

  今日は、愛知県豊川市でセミナーだった。会場は少し郊外にあり、2回目のセミナーは20時終了予定と遅くなるので、自家用車で出かけた。今日の東名高速は、珍しく快適だった。最近は猛烈に飛ばす車があって、こころ穏やかに運転していられないことが多いが、今日は不思議とみな大人しく、安定して走れた。往路は早めに出かけ、途中のサービスエリアで、読みかけの小学館文庫「ＲＡＩＬＷＡＹＳ　愛を伝えられない大人たちへ」を読み終えた。【送料無料】【新春_ポイント2倍】RAILWAYS愛を伝えられない大人たちへ ［ 大石直紀 ］車で行って、RAILWAYSというのも変だが、まあそれはいい。富山地鉄の運転士と妻の物語である。前作「ＲＡＩＬＷＡＹＳ　49歳で電車の運転士になった男の物語」の鉄道シリーズ第2作である。前作は劇場で映画を観たが、この2作目は観ていなかった。それは、前作が前向きに運転士として生きて行く話であるのに対して、2作目が運転士を定年退職して辞める話であったからだ。文庫を読んでも、その章立てが、「妻の決意」「夫の意地」「妻の意地」「夫の夢」「妻の夢」「夫婦のプライド」「夫の決意」となっていて、なんとなく想像のつく話だ。しかし、夫婦のすれ違いは、最後に別のすれ違いになって表れる。終わらない。終わったら、また次の出発がある。「どこまでも線路は伸びていく」という話は、いい意味で裏切られた。

  2013年02月13日

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  マネー資本主義

  先日読み終えた「マネー資本主義」は、ＮＨＫテレビの番組を文書化したものである。2008年9月のリーマンショックは、実に大きなインパクトだったが、「100年に一度」と言われた、その危機の原因を探ったものである。危機の原因を追究するため、当事者たちへの広範囲なインタビューが敢行された。【送料無料】マネー資本主義 [ 日本放送協会 ]価格：546円（税込、送料込）1.激しい競争を繰り返し、暴走の末、破綻していく「投資銀行」、2.超金余りを引き起こし、それを放置したアメリカの金融財政政策を取った「カリスマ指導者」、3.高利回りを求めてマネーゲームに参加した「年金基金」や「ヘッジファンド」、4.複雑でリスクの見えにくい金融商品をつくり出した「金融工学者」から、貴重な証言を引き出している。他に、当事者ではない貴重なインタビューが載っている。特に、原丈人氏の「株主資本主義から公益資本主義」という考え方には共感を覚える。経営者、従業員、資本家が協力し合って、利益を社会に還元していく公益資本主義である。また、宇沢弘文氏が紹介する、元東大総長向坊隆氏の嘆き。市民が豊かで安定した生活ができるための社会的インフラをつくるべく学んだ工学部の卒業生らが、お金を儲ける目的のために、金融機関に働き口を求めていくことに対してだ。実は、工学部生の長男から、金融工学の道に進もうかという話があったとき、きっぱり、「やめておけ」と言ったのを思い出した。本来、金融は脇役であるべきで、実業が主役のはずだという思いがあったからだ。ちょうど2009年春に、このテレビ放送を見た直後のことだが、問題の住宅ローンを証券化して金融商品をつくり出すコンピューターソフトの開発者で、いまは牡蠣の養殖業をするオシンスキー氏を見たからだ。そして、巻末に収録された寺島実郎氏の解説も興味深い。本書に記載される前の時代、1980年代に、「ジャンクボンドの帝王」と言われた、ウォール街のヒーロー、マイケル・ミルケン氏のことや、冷戦後のアメリカで、軍事産業でリストラが始まり、理工系学生が金融界に活躍の場を求めたことなど、さらに理解が深まるのだ。金融界に携わる人、理工系の学生には、是非進めたい本である。コーヒーに月を浮かべながら、読むのもいい。

  2013年02月10日

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  新釈 走れメロス 他四篇

  ブックアドバイザーの綾子さんが、過日、紹介された森見登美彦氏の「新釈 走れメロス 他四篇」を読んだ。【送料無料】新釈走れメロス [ 森見登美彦 ]価格：590円（税込、送料込）実は、ずいぶん前に読み終わっていたのだが、妻が読みたいと言って「早く読め」と急かすので、読み終えて渡しておいた。「で、どうだった？」と聞いたら、なんと、まだ読んでいないという。絶句…この文庫本に収められた短編は5つ。順番に「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」である。「過去の名作を現代に置き換えてみませんか」と、出版社の編集者に言われたのがきっかけになって生まれた短編たちだ。京都、とりわけ京都大学を舞台に、風変わりな学生たちの物語である。5つの話が、それぞれ独立しているようで、しかし、同じ登場人物が出てきたりする。そして、奇想天外な物語が自由な発想で書きとめられている。大学に「弁論部」はあって然るべきだが、「詭弁論部」とは如何に…。「我ら詭弁を弄しに弄して万人に嫌われて悔いなし」だとは、なんたること。しかし京大なら、ひょっとしたらあるかもしれない。吉田寮あたりに住んでないか。それにしても表題になっている「走れメロス」は、巻頭に「逃走図」が付いているが、京都中の人を敵に回して、主人公が逃げ回る様子にスピード感があって面白かった。5つの短編は荒唐無稽に見えて、一体化しているようでもあり、京都の不思議に誘い込むのだ。

  2013年02月01日

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  お勧め本「レ・ミゼラブル百六景」

  映画「レ・ミゼラブル」の熱にうなされ、読んだ本が「レ・ミゼラブル百六景」だ。著者の鹿島茂氏が、パリで偶然見つけたユーグ版の挿絵入り「レ・ミゼラブル」をひも解いて、社会史としてまとめた本である。【送料無料】「レ・ミゼラブル」百六景新装版 ［ 鹿島茂 ］ヴィクトル・ユーゴーによるフランス文学の大河小説「レ・ミゼラブル」を読んだことがなく、ミュージカルも観たことがない。わずかに映画化されたものを観ただけの自分に、この本は時代背景などを補完してくれる。「レ・ミゼラブル」ファンにお勧めしたい本である。パン一つを盗んだために徒刑場に送られ、4度の脱走を試みるも失敗し、刑を加重されて19年。「そんなぁ」というのが正直な感想なのだが、当時のフランスにおける、非人道的扱いや劣悪な衛生状態。徒刑場は海軍の管轄であり、海軍工廠の危険な作業に使われた。だから、映画冒頭のシーンが出てくる。今の日本では、想像つかない背景がある。フォンテーヌについても、男に騙された印象だが、当時のフランスにはよくあることだった。パリの学生街カルチエ・ラタンは、当時、上京してきた地方の名士の子弟であふれていた。学生たちは、女工たちを恋人にして、空虚であるが明るい青春を謳歌していた。しかし、身分制度が厳しかった当時の社会で、上層中産階級以上の出身である学生が、下層階級の女工と結婚することは不可能であり、卒業し親元に帰るときは、必ずこうした別れが繰り返されたようである。束の間の恋の果てに、子どもができた場合は、フォンテーヌのように悲惨であった。フォンテーヌが特別というわけでもないのだ。戦争で死んだ人の戦場荒らしだった、宿屋の主人テナルディエのことを読んでも、「だから、あの厭らしさなのだ」と納得できる。どこまでも貪欲なテナルディエ。でも、そうでなければ生きていけなかったのだろう。当時のフランスを想う時、「レ・ミゼラブル」の世界がはじめて理解できる気がする。

  2013年01月28日

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  別れる力

  伊集院静氏の「別れる力」を読んだ。「大人の流儀」シリーズ第3弾ということだが、個人的には買うまでのことはなかったと思っている。【送料無料】大人の流儀（3） ［ 伊集院静 ］」以前、「大人の流儀」第1弾が出版された際、書店で見つけて、ぺらぺらめくって買うのを止めた。その感覚は正解だったのだ。しかし、今回の第3弾は「別れる力」となっていて、彼が妻、夏目雅子氏と死別したことを知っていたし、実弟とも若くして死別していたことを知り、作家である彼がどんなことを書いたか興味を持った。だが、この「別れる力」というタイトルは編集者の企画に過ぎず、それにうまく乗せられてしまったということだろう。そもそもは、「週刊現代」に1年間連載されたエッセイを修正したもので、「別れ」に対応しているのは、第1章「別れて始まる人生がある」だけと言っていい。そして、巻頭に新たに書かれた伊集院氏の文章とを、書店で立ち読みすれば十分だった。納得の文章は、「出逢えば別れは必ずやってくる。それでも出逢ったことが生きてきた証しであるならば、別れることも生きた証しなのだろう」である。

  2012年12月30日

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  メイドインジャパン

  真壁昭夫氏の「2013メイドインジャパンの大逆襲-ものづくり日本の新世界戦略」を読んだ。【送料無料】2013メイドインジャパンの大逆襲 ［ 真壁昭夫 ］日本の製造業の復活が待たれるが、彼の主張は「経営力」こそが日本企業に不足している能力だということだ。高い「技術力」や柔軟で強い「現場力」があるにも関わらず、それを活かし切り、環境の変化に対応する経営者が少ないと。「現場力」というのは、サービス産業で見られる。レストランや旅館業の「おもてなし」という言葉が代表的なものだ。常に手抜きをしないで、最上のサービスを提供し、結果的にブランド力にする文化がある。日本の現場には「共通の価値観」があり、余計な言葉を要さずに伝わる「暗黙知」が日本の技術力を高めてきた。しかし、舵取りを間違ったために苦境にあえぐメーカーが多い。ソニー、シャープ、パナソニックなどの実例を挙げている。しかし、「トップが変わらなければどうしようもない。自分は関係ない」といって思考停止してしまえば、変化は起こらない。将来、若い世代が希望を持って生きられる社会にする、我々一人一人の責任は重いと結ぶ。日はまた昇る。「よし！」と意気込ませる一冊だ。

  2012年12月29日

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  僕の死に方

  流通ジャーナリスト金子哲雄氏が最期に残した「僕の死に方　エンディングダイアリー500日」を読んだ。思えば、彼が41歳の若さで亡くなったのが2012年10月2日。87歳で亡くなった俳優、大滝秀治氏と同じ日である。【送料無料】僕の死に方 ［ 金子哲雄 ］個人的に、しばらく見ていないなあぁと思っているとき、久しぶりに見た彼の容貌には驚いた。「ダイエットに成功した」と隠す裏には、こんなことがあったのか、という真実が切々と綴られている。読んでいると、彼の名調子が浮かんでくるようだ。「肺カルチノイド」が彼の体を蝕んだ病名で、しかも、それは組織型という珍しいタイプだ。実に、数千万人に1人という病気だった。2011年6月6日の診断から、2012年10月2日に亡くなるまでの記録を出版することは、彼の生前の望みだった。その遺志を継いで、残された妻、稚子氏が出版にこぎつけた。彼は、積極的な治療を行わなかった。ベッドでチューブに繋がれれば、情報発信ができなくなるからだ。最期の最後まで、彼は、流通ジャーナリストをやめなかった。そして、読んでいて思うのは、「死んだら終わり」という発想がないのではないかということだ。彼が生前に、自分の告別式をプロデュースしたことは知られているが、これを機に、実は彼のジャーナリストとして生活が始まっているという気がする。世話になった方へのお礼、ジャーナリスト魂、肺カルチノイドという病、在宅終末医療の現実など等、彼のサービス精神の詰まった力作だ。（期日前投票を済ませ、初雪が舞った春日井で）

  2012年12月09日

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