長峰ブログ

[書評] カテゴリの記事

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  往復書簡

  湊かなえ氏の「往復書簡」を読んだ。いま公開中の映画「北のカナリアたち」の原作である。いや、詳しく言えば、「往復書簡」は、4つの往復書簡で構成されており、その中の「二十年後の宿題」が原作だ。【送料無料】往復書簡 [ 湊かなえ ]価格：630円（税込、送料別）実は、映画「北のカナリアたち」は、公開日に、妻と観に行こうと計画していた。しかし、妻の方の予定が合わず、翌週に先延ばしにしたところ、義母が亡くなり、それどころではなくなってしまった。四十九日が過ぎたら、あらためて計画しよう。ところが、読んでみると、映画の紹介と原作の内容とはずいぶん違うようだ。映画では、北海道を舞台に、教師と小学生が合唱を通じて和やかに過ごす姿が映し出されている。ところが、ある事故をきっかけに…という物語だが、原作では、北海道でもなく、合唱も出てこない。原作でも、事故は起こる。しかし、設定自体が違うので、きっと映画の「事故」も違うのだろう。煙突から落下する場面が、映画の紹介に出てくるが、それが事故なら、やっぱり原作と違う。文庫本の最後には、映画で主役を演じる吉永小百合氏がインタビューに応じている。そこを読みはじめて、やはり違うのだと分かった。もともと北海道を舞台に、学校の先生を主人公とした映画を考えていたところに、本書に出合い、映画に取りこんでいったと語っている。ただ、事故で主人公の夫が亡くなるという設定は同じであるようで、そこまで読んで、先を読むのはやめにした。「どんな事件？」と気にしながら映画を観たいと思ったからだ。映画を観るまでは、お預けである。「往復書簡」は4つの物語である。それぞれが、手紙のやり取りを通じて、どんどん流れが変わっていく。最後に、どんでん返しが待っていておもしろい。

  2012年11月26日

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  間抜けの構造

  ビートたけし氏の「間抜けの構造」を読んだ。「間」の取り方で世界は変わる。というわけで、漫才はもとより、映画、会話そして人生…。この世で一番大事な「間」の話を、軍団などの実例を交えて語っている。【送料無料】間抜けの構造 ［ ビートたけし ］なるほどなぁ、と思うことばかりだ。テレビの「間」を紹介するところを読んで感心した。その直後、たまたま見かけたバラエティ番組で、熟練アナウンサーである志生野温夫氏が、タレント出演者の早い話に乗りきれず、ダメだしされる場面があった。読んだばかりだったので、別の意味で笑えた。野球とか、サッカーとか、スポーツでは、いかに相手の間を外すかが勝つためのポイントだ。ところが、相撲だけは、立ち合いがあり、そこでお互いの呼吸を合わせなくてはいけない。それが解せないという。確かに、それでは外しようもないのだが、腕相撲も同じだ。職人とアーティストの違いの話も面白い。いろいろな視点で、「間」を語りつくした本である。語りつくす、というのは、文字通り、口述筆記されたものだろうと思うからだ。

  2012年11月03日

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  iPS誕生の道程

  京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授に、人生とiPS細胞について聞いてみた。というタイトルの本を読んだ。帯には、「唯一の自伝」と書かれているが、幼少の頃からの詳しい話が出てくるわけではない。第一部は山中教授による「自伝」だが、第二部は、「しんや」違いのフリー記者、緑慎也氏のインタビューに答える形式になっている。【送料無料】山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた ［ 山中伸弥 ］「ジャマナカ」は有名だが、「ヤマチュー」と呼ばれる時代を経て、「シンヤ」に至る過程で、どのように研究が変遷していったかが、簡潔に語られている。まさに、「人間万事塞翁が馬」を地で行く話は、「中学生から読める」という宣伝通りだった。ノーベル賞を受賞するまでの、彼の大きな力になったのが、グラッドストーン研究所の当時の所長ロバート・メーリー所長の「VWが大切」という話だったような気がする。所長の愛車「VW」（フォルクスワーゲン）にかけて、「研究者にとって、いや、人生にとっても、大切な魔法の言葉」だという。「V」はビジョン、長期的な目標。「W」はワークハード、一所懸命働くことで、どちらが欠けてもダメだ、と。そして、彼の右腕、高橋和利氏はよく報道されていて知られているが、他にも、徳澤佳美氏、海保英子氏、一阪朋子氏、中川誠人氏など、iPS細胞誕生に関わった人の名前も記していて、山中氏のお人柄がよく表れている。▲Eテレの「サイエンスZERO」のホームページに、別のインタビューがノーカットでアップされている。

  2012年10月26日

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  サマーレスキュー

  ＴＢＳテレビ系列で放送されているドラマ「サマーレスキュー～天空の診療所～」の脚本をもとに書き下ろされた文庫を読んだ。忙しくなった今では、この日曜のドラマと、ＮＨＫ朝ドラ「梅ちゃん先生」だけを、欠かさず見ている。【送料無料】サマーレスキュー ［ 秦建日子 ］ドラマでは向井理氏が演じる速水先生を中心に話が進んでいるが、文庫では、診療所が出来るまでが中心になっている。山小屋の小山氏が奔走して開設できた診療所。最初に協力した花村医師、そして、テレビでは、時任三郎氏が演じる倉木医師が中心だ。速水医師が登場しても、テレビの設定とは違う部分も多い。テレビに比べ、人間関係は複雑ではなく、全般的に物足りなさが残る内容だ。ただ、巻末に書かれた、モデルとなった香川大学の医師の手記は、実際の話だけに貴重なものだ。私は高校1年のとき、父と二人で御岳に登ったことがある。軽い高山病にかかった経験もあるが、山小屋での食事は美味しかった。豪華でなくても、味噌汁一杯が美味しいのだ。そして、星が煌く夜空と、知らない大人たちとの雑魚寝。澄み切った空気や雄大な大自然は、街では経験のできないものだ。それらを求めて、今では山ガールも出没する。それだけ、山の医療の必要性も増している。山での少ない登山者への治療と、街での大勢への治療。どちらを優先すべきか。大切な医療問題を扱った話である。

  2012年09月03日

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  偏差値70の野球部

  中1になる二男が、学校の読書の時間に読んだらいいのでは？と思って買った本、「偏差値70の野球部　レベル1　難関合格編」を読んだ。【送料無料】偏差値70の野球部（レベル1（難関合格編））価格：500円（税込、送料別）小学生時代は、リトルリーグで全国ベスト4、中学2年では、春季大会で全国準優勝にチームを導いた主人公。しかし、中2の夏の県大会で、一転する。主人公のポジションはピッチャーだが、相手バッターに「死ね」と言いながら、デッドボールをぶつけ、退場処分になったのだ。以降、彼は干されてしまう。野球推薦で、強豪高校への入学も断念せざるを得ず、3年の夏から必死に勉強し、なんと横浜にある野球の強豪校、「海鵬」高校に入学した。はずだったが、なんと意に反して、鎌倉にある東大合格全国1位の強豪、「海應」高校に入学してしまった。ちょっと、ありえない設定だとは思うが、まあいい。主人公は自由時間のない寮に入り、しかも野球部が部として機能していない状況に、諦めに似た心境に陥る。そこへ、ドイツ語教師セバスチャンが登場し、彼が監督を務めるというのだが、今号は前段階で、次号以降が物語の本編だ。【送料無料】偏差値70の野球部（レベル2（打撃理論編）） [ 松尾清貴 ]価格：560円（税込、送料別）しかし、二男には難しすぎるという印象だ。例えば、寮の同じ部屋の同級生（高校1年生同士）の会話。「ニーチェと平家物語の間には親和性があるのか？」「ないよ。ニーチェはそれでも生きろと言うけど、平家はそれなら死になさいと言う」とにっこり。「ただ、気持ちが落ち込んでいるときに読むなら平家にしたほうがいいね。生きろと言われると、むしろ死にたくなってくるから」

  2012年07月16日

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  受いれる

  今日は、1等前後賞合わせて5億円が当たるサマージャンボ宝くじが発売された。1等4億円（26本）は、ジャンボ宝くじ史上最高額だそうだ。私もニュースを思い出し、いつもの販売所へ立ち寄った。グリーンジャンボの番号確認も一緒に行なったが、とうとう、封すら開けていなかったことに気づいた。買わなければ当らないが、自分の中の期待値が低い証拠だ。結果も案の定、なかなか期待を裏切らない。【送料無料】受いれる価格：1,470円（税込、送料別）さて、加島祥造氏の「受いれる」を読んだ。「受いれる」という文字が、私が好んで使う「受け容れる」とは違う。つまり、容認するというのとは、ちょっと違う。「受いれる」と言うとき、許すとか、許さないとか、そうした判断する意識は働かない。ただ「受いれる」。そうすれば、優しい気持ちに還る。そうすれば、固くこわばっていた体に柔らかさが戻る。そうすれば、自分の心が意外に広いと気づく。許すということがわかりだす。人の気持ちがわかってくる。受けいれなかった自分が小さく見える。自分の根にある明るさに気づく。・・・【送料無料】求めない価格：1,365円（税込、送料別）求めない、そして、受いれるもちろん、簡単なことではない。仙人のような暮らしができるわけもない。社会で生きていくために、社会の仕組みを受いれ、社会に受いれられる必要がある。だが次第に、社会は我々を利用し始める。要求は多くなり、強くなる。「社会の中の自分」が、本来の「ピュアな自分」を押しやってはいないだろうか。もう一度、もう少し、「ピュアな自分」を取り戻してみることが必要なのではないだろうか。両者のバランスを取り戻すために、「求めない、そして受いれる」ことが必要だと説き、その方法を示している。

  2012年07月09日

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  2％の余地

  ノートルダム清心学園理事長である、渡辺和子氏の「置かれた場所で咲きなさい」を読んだ。彼女の父は、あの2.26事件で亡くなった軍人の一人、渡辺錠太郎氏だ。その次女である彼女は、現在85歳になる。【送料無料】置かれた場所で咲きなさい価格：1,000円（税込、送料別）「自分自身に語りかける」、「明日に向って生きる」、「美しく老いる」、そして「愛するということ」の4つの章に分けて書かれている。悩んだり、迷ったり、苦しんだりしたときに、読み返すことによって、こころを落ち着かせたり、気持ちを切り替えたりすることができる。そんな内容である。なかでも、ハッと思ったのを1つ紹介すると、「2％の余地」というのが、「愛するということ」の章にある。一人ひとりに人格があり、同じ悲しい経験でも、感じ方や悲しみの深さは千差万別だ。「その気持ち、よくわかるわ」という言葉をかけるのは、あまりに安易である。別々の人格なのだから、完全に分かり合えるわけがない。同じように、どんなに信頼できる相手であっても、100％信頼してはいけないと説く。「100％信頼しちゃだめよ、98％にしなさい。あとの2％は相手が間違った時の許しのために取っておきなさい」と。人間は不完全であるが故に、100％信頼するから、万一のときに許せなくなる。逆の立場で考えれば、個人的にもよく分かる。セミナーや相談で話したことが、間違えることだって、まったくないとは言い切れない。そんなとき、100％信頼したのにと言われても…。「ほかの人よりずっと信頼するけど、あなたは神さまじゃないことを私は知っています」という、2％の余地。それは「ゆとり」なのかもしれないが、仕事だけでなく、友達同士や夫婦、いやどんな関係にあっても必要ではないだろうか。

  2012年06月02日

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  はなちゃんのみそ汁

  わずか33歳で亡くなった千恵さんと、その夫、信吾さん、そして、一人ムスメのはなちゃんの3人が共著の形になっている「はなちゃんのみそ汁」を読んだ。【送料無料】はなちゃんのみそ汁実は、千恵さんの書いた部分は、楽天ブログの書き込みのものであり、彼女が乳がんとの闘病生活を綴ったブログ「早寝早起き玄米生活～がんとムスメと、時々、旦那～」は、いま、夫の信吾さんが書き続けている。最新の書き込みは、5/3付けのもので、なんと、信吾さんが緊急入院したと書かれている。出版祝賀会の夜、2次会で急に腹部が痛み出し、救急車を呼び、検査の結果、急性胆嚢炎で手術されたとのこと。どうぞお大事に。二人が結婚しようと決めたすぐあと、千恵さんの乳がんは発見された。千恵さんは、まだ25歳のときである。そして、手術で片方の乳房を摘出し、二人は結婚した。そして。天は二人に、はなちゃんを授けた。その時々の気持ちや症状、試された様々な治療法などが記録されている。千恵さんは、はなちゃんが一人でも生きていけるように、5歳から朝ごはんをつくらせた。その象徴が、タイトルの「はなちゃんのみそ汁」だ。「なんとかなる」「切り換え、切り換え」というのが千恵さんの口癖だったそうだが、いまでは、ムスメのはなちゃんが信吾さんに言う口癖のようである。天がムスコではなくムスメを授けたことに、意図があったように思う。彼らのこと、この本のことを知ったのは、テレビ番組であった。TBS系列の新番組「アカルイ・ミライ」でのことだったが、音楽に携わっていた千恵さんの好きだった曲として紹介されたのが「ハナミズキ」である。花はいま、見ごろを迎えている。

  2012年05月05日

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  左京区恋月橋渡ル

  瀧羽麻子氏の「左京区恋月橋渡ル」を読んだ。これは、「左京区七夕通東入ル」の続編である。京都の大学4回生の寮生たちの話が前作だが、今作では、彼らは大学院生になっている。私の長男が、まさに来年進むであろう青春世界を、垣間見たような気持ちになる。【送料無料】左京区七夕通東入ル価格：1,680円（税込、送料別）河合橋、鴨川デルタ、高野川、出町柳、百万遍、下鴨神社、御蔭通など、長男の生活環境でもお馴染みの地名が続々に出てくる。ただ、長男の場合、来年大学院に進むと、桂キャンパスに行くことになるので、左京区を離れることになる。【送料無料】左京区恋月橋渡ル価格：1,680円（税込、送料別）前作の主役はたっくんと花ちゃんだったが、今作はその取り巻きだった山根くんと安藤くんである。特に、山根くんの初恋がテーマであるが、「理系男子が初めて恋した相手は姫だった」という物語だ。そして、その姫のことを読んで想像していたら、あの「エトランゼのすべて」の会長を思い出してしまった。姿形までも同化してしまったのだが、もちろん違う。学生たちとは次元が違うという点だけは、同じなのかもしれない。【送料無料】エトランゼのすべて価格：1,260円（税込、送料別）山根くんと姫の水素結合の話は、4月1日嵐の下鴨神社から始まる。5月15日上賀茂の参道を行く葵祭の行列、6月の蛍狩り、北白川で見上げた雨上がりの虹、三条通りのマトリョーシカ、夕陽を浴びて微笑む小さな石仏、そして、8月16日の満月の下の大文字焼きで結末を迎える。山根くんの成長を感じる物語。Pink Floyd - Shine On You Crazy Diamond.David Gilmour - Rick Wright - Nick Mason.Saxophone: Candy Dulfer.

  2012年05月03日

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  ぎん言

  関越道で早朝に事故を起こしたバスは、JR金沢駅で33人を乗せて出発し、途中、JR高岡駅で12人、45人満席の乗客を乗せて、東京ディズニーランドへと向かったバスだった。運転手の居眠りが原因のようだが、現在7人が亡くなり、他全員が重軽傷を負った。今日もGW中のお休みで、ゆっくり起床するつもりだったが、明日は早朝から富山市へセミナーに出かけるので、リズムを狂わさないように6時過ぎに起きたのだが、いきなり飛び込んできたニュースだった。亡くなった人の情報として、最初に伝わってきたのが、富山県高岡市の50歳の女性だった。実は、明日、JR高岡駅で一旦下車する予定なので驚いた。特急のしらさぎ号で富山に入るが、書店で働いていたというその女性とも、もしかしたら、すれ違うことがあったかもしれないと想像すると、何とも言えない気持ちになる。ご冥福をお祈りしたい。【送料無料】ぎん言ライフプランセミナーで、長生きの秘訣として触れることがある「きんさんぎんさん」。「きんは100シャア！」「ぎんも100シャア！」でテレビに登場して、日本を明るくしてくれたのが、1992年のことだった。しかし、きんさんが107歳で亡くなると、張合いを無くして一気に衰弱し、ぎんさんが亡くなったのが108歳だ。ところが、そのぎんさんは5人の女子を産んでいた。二女こそ3歳で病死したが、残りの4姉妹はいままだ元気である。今年、長女は98歳、三女は94歳、四女は91歳、そして五女は89歳になる。平均年齢93歳でボケてないとは、どえりゃあ！そして、娘たちが亡きぎんさんのことを語ったり、教えの言葉をまとめたものが本書である。ぎんさん、ずいぶんとカカア天下だったようだ。娘たちにとっても怖いお母さん。一方、81歳で亡くなった父は仏さんのようにやさしい人だったという。ぎんさんは「夫婦はにゃあ、カカア天下がいちばんだよ。亭主関白の家庭に福は宿らん」と、よく言っていたそうだ。その裏には、男子を授からなかったことも影響しているのかもしれない。当時は家督を継ぐ男子を産むことが期待された時代。肩身の狭い思いもしたようだ。でも、逆に、「自分がしっかりしなければならない」というようになったのではないか。家族の中でだけ語り継がれ、伝授される珠玉の言葉の数々が、たくさん詰まった貴重な本のように思えてくる。戦前、戦中、戦後、伊勢湾台風などの時代を、当時のぎんさんがどう過ごしてきたか、ぎんさんの4姉妹が、今に伝える大切なエッセンスをどう捉えるかは、その人次第ではある。

  2012年04月29日

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  舟を編む

  今年の「本屋大賞」受賞作品である「舟を編む」を読んだ。国語辞典を発行するという、実に出版社の中でも地味な部署にスポットライトを当てた物語は、大変おもしろく読むことができた。【送料無料】《本屋大賞2012 大賞作品》舟を編む「言葉の海」を渡る舟を編纂し発行するまでの、15年にも及ぶ、気の遠くなるような地味な作業。しかし、この作業に関わる人物たちが個性的だ。この物語も、今後、映画化とかされるのだろうか。主人公の妻、「香具矢」役は、誰がいいだろうか？なんて考えるのも楽しい。ただ、気になる点が1つ。主人公「馬締（まじめ）」君が、自分のことを「俺」と言うのだが、個人的には、「ボク」じゃないかと思うのだが･･･。先に本書を読んでいた妻に、その点を聞いてみたら、彼女には「俺」と発する人物設定に違和感はないとのことだった。まじめ君と香具矢さんが、初めてデートをした後楽園遊園地で、観覧車に乗る場面が印象深い。彼女が「観覧車は楽しいけど、少しさびしい乗り物」だと表現する。彼も、ちょうどそう感じていたという。「こんなに狭い空間に一緒にいるのに、いや、狭い空間にいるからこそなおさらに、触れあえず覗きこめない部分があることを痛感させられる。地上から離れて二人きりになっても、一人と一人だ。同じ景色を見て、同じ空気をわけあっても、融けて交わることはない。」そして、彼女が業とする板前も同じ。「どんなにおいしい料理を作っても、一周まわって出ていくだけ」（胃腸を経て排泄されるの意）。いや、彼の辞書作りも同じ。「どれだけ言葉を集めても、解釈し定義づけをしても、辞書に本当の意味での完成はない。」（略）「食べても食べても、生きていれば必ず空腹を感じるのと同じく、捕らえても捕らえても、まるで実体のないもののように言葉は虚空へ霧散していく」と。いやいや、板前や辞書作りだけではない。「仕事」というものに、本当の意味での完成はないのではないか。どんな仕事も、より完成度を高めようと繰り返されるのが、その本質なのかもしれない、と感じたのだった。今日のYou Tubeは、竹内まりや「グッドバイ・ユニヴァーシティ」。彼女の曲は数あれど、個人的には一番思い出のある曲。大学に入学したばかりのとき、カセットテープで買ったアルバムの最後の曲。入学してすぐグッバイでもないのだが、この美しいメロディーラインに魅せられた。動画に出てくるキャンパスは、彼女が通った慶應義塾大学のようである。

  2012年04月23日

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  普通に生きてること

  先週の土曜日、NHKテレビの土曜ドラマスペシャル「あっこと僕らが生きた夏」（前編）を見た。大分県の女子高生の実話である。前向きで、明るく、部員を引っぱる、高校野球の女子マネージャーだった彼女は、上咽頭がんに侵される。彼女と、その家族と友だち、先生たちの物語。彼女が大分県楊志館高校に入学した2006年4月から20011年5月までが、ドラマの原作本に書かれていた。【送料無料】あっこと僕らが生きた夏女子マネージャーの闘病により、奇跡的な力を発揮し、楊志館高校はなんと甲子園に出場。しかも、ベスト8に残ったというのだが、知らなかった。こんな裏話があったなんてこと。テレビドラマでは、あまり感じなかったことが、原作を読んでいると沸々と沸いてきて、思わず涙が溢れるのだ。若いゆえに、がんの進行も早いのだろう。発見されたときには、末期に近かった。そして、がん治療は壮絶を極めた。原作のエピローグに、こんな言葉が書かれていた。　今めっちゃ幸せやあ　どこも痛くなくて　久々に寝れた～　　本当幸せっち　普通に生きてることだよ～彼女のことは、特に、野球部員やクラスメイトたちのこころに、いつまでも残っていくのだろう。野球部員で、同学年だった大輔氏は、こう綴っている。　何でも　無くしてから　気づくことが多いです　　でも自分の命を　無くしたら　何にも気づけないんです　自分がやっていること　やろうとしていること　生きているから　できることなんです　キャロル・キングの「You've Got A Friend」。キャロルのピアノに、セリーヌ・ディオン、グロリア・エステファン、シャナイア・トゥエインも加わった、貴重なライブ映像。

  2012年04月16日

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  ８９

  9階建てのホテル。エレベーターに乗り、予約した9階へ。ところが、このエレベーター、普通と違う。階のボタンを押すと、ボタン自体が点灯するのではなく、液晶画面に押した階が表示されるのだ。9階のボタンを押したはずが、「8」と表示された。間違えたと思って、9階を押しなおすと、液晶表示は「８９」。「おいおい。でも9階が最上階だから、これでいいか。」そして、エレベーターが上昇。そのスピードの速いこと。「あー、あー！」ドーン！「わーあ！」なんと、エレベーターは屋上を突き抜けて、空へ。ここで、手を広げた状態で目が覚めた。これが今朝見た夢なのだ。得てして、夢は荒唐無稽である。でも、何でこんな夢。もしかしたら…。【送料無料】ルーズヴェルト・ゲーム池井戸潤氏の直木賞受賞後第一作にあたる「ルーズヴェルト・ゲーム」を読んだ。実業団野球がテーマだが、所属企業の業績悪化、ライバル企業からの合併の誘い、高校野球の暗部とその後、といったドラマを織り込みながら、話は展開していくのだ。タイトルの「ルーズヴェルト･ゲーム」は、野球好きだった米国大統領ルーズヴェルトが、「一番おもしろい試合は、8対7だ」と言ったことに由来する。個人的に、そんなことは知らなかったのだが、そうかもしれない。アインシュタインが、「人類最大の発明は複利だ」と言ったことは知っているが、あまり知られていないのと同じだろうか。物語の展開は、やはり、この言葉のように進んでいく。その意味では、ビハインドからの逆転劇という、痛快な後味を残していく。明日へと繋がるドラマである。直木賞受賞作の「下町ロケット」同様、企業の生き残りを掛けた物語と言える。面白い。【送料無料】下町ロケットさて、夢の方は、「ルーズヴェルト・ゲーム」を読み終えたばかりで、野球絡みで王監督をイメージし、ホークス時代の背番号89が出てきたのだろうか。そして、「下町ロケット」も脳裏にあり、エレベーターが発射したというのか。あくまで、こじつけだが、潜在的にあった頭の中のいろいろが、混在した結果だったのかもしれない。

  2012年04月07日

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  エトランゼのすべて

  京都大学出身の作家による、京都大学を舞台に繰り広げられる青春小説「エトランゼのすべて」を読んだ。表紙からして、おやじが読むには恥ずかしい。若者が読むべきところかもしれないが、主人公を長男に重ねながら読むことにした。【送料無料】エトランゼのすべて入学したばかりで、大学生活をエンジョイしたいが、できるかどうかはサークル活動にもかかっている。それなのに、各サークルの新入生歓迎行事が終わろうとして焦り始めたとき、掲示板で見かけた「京都観察会」。その新入生歓迎説明会での、ミステリアスな会長（表紙のイラスト）との出会い、さまざまな勘違いや思い違いを経て、「京都観察会」の成り立ちが明らかになっていく。個性的な部員たちとの交流から、主人公が成長していく1年間の物語である。時折ダジャレ的な表現で笑わせるあたりは、ライトノベルと言われる由縁であろう。京大周辺の馴染みある地名が、個人的には、飽きさせることなく読み進むための仕掛けになった。ニート再生の物語と考えると、是非、引きこもりがちな若者に読んで欲しい。⇒作者：森田季節氏ブログ「森田電鉄」

  2012年01月26日

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  舞い上がっとっただけ？

  映画「悪人」の原作本を読み終えた。悲しい話である。ある意味、不器用な人たちの物語だ。でも、不器用と、ひと言で済ませていいのだろうか。不器用にこそ、人間味が宿る。映画をテレビで観て、疑問に感じたために、原作が読みたくなったのだ。【送料無料】悪...価格：567円（税込、送料別）映画の最後に、殺人事件を起こした主人公が、一緒に逃亡を続けていた彼女を絞め殺そうとした。そのワケは何だったのだろう。読んで見ると、やはり、主人公が彼女の将来を想ってのことだったのだろう。しかし、映画にない続きで、彼女が「私が舞い上がっとった」だけかもしれん、とそう結論づけてしまうところは悲しい。【送料無料】悪...価格：567円（税込、送料別）そもそも夜の峠道で、女性を置き去りにしたことが、事件の発端でもある。その置き去りにした、金銭的に恵まれた生活を送る男子大学生に、女性の父親が語るセリフがよみがえった。今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれは駄目とよ。九州の言葉が、セリフを生かしているようだ。来年1月、長崎までセミナーに行くが、現地の言葉を聞くと、また思い出すだろうか。

  2011年11月20日

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  ファントム・ピークス

  北林一光氏の「ファントム・ピークス」を読んだが、物語にどんどん引きこまれてしまった。面白い！ とは言え、著者はすでに他界している。映画宣伝会社のプロデューサーを経て執筆活動に入り、2005年に第12回松本清張賞に応募した「幻の山」が最終候補に残った。次回作を書き進める中、ガンを発症して2006年に亡くなったそうだ。「幻の山」は、彼の友人たちの手によって、「ファントム・ピークス」として単行本化されたという。 内容はこの際、ネタばらしになるのでやめておくが、たまたま角川文庫が今、キャンペーンをやっている。しおりに、それが表現されているが、そのかわいらしい絵を見てゾッとしたり、しおりの文章を読んで、苦笑したりする。「ハッケンくんが本に夢中なので、白クマは動けませんでした。」角川文庫といえども、さすがに本の内容によって、表現を変えることはしていないのだろう。何だか、間が抜けている。

  2011年09月19日

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  下町ロケット

  第145回直木賞受賞作品「下町ロケット」を読んだ。「ロケット」というぐらいだから、宇宙開発が素材になっている。「その部品がなければ、ロケットは飛ばない。」【送料無料】下町ロケット主役は中小企業の社長である。彼は、以前、宇宙科学開発機構でロケットエンジンを開発する技術者だった。しかし、打ち上げ失敗の責任を取って退職。父親が創業した中小企業の社長になっていた。彼によって大きく育った会社だったが、突然、大口取引先から契約を打ち切られる。さらに、競合他社から、言われなき特許侵害を理由に訴えられ、泣きっ面に蜂の事態に。しかし、この「特許」というものがキーだった。大企業が独占するロケット開発に、中小企業がその一翼を担うことになれたのだから、なんとも皮肉なものだ。もう少し、社長の家族絡みで話を盛り上げられそうな気もするが、実に面白く読んだ。すでにWOWOWでドラマ化され、8月21日から全5話で放送されるようだ。我が家では見ることができないが、きっとワクワクさせる内容になるのではないだろうか。

  2011年08月08日

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  奇跡の教室

  伝説の灘校国語教師、橋本武氏の教育について、教え子たちへのインタビューなどで構成された本である。しかし、橋本氏、通称「エチ先生」の授業は型破りだった。1冊の文庫本を、実に中学の3年間もかけて読むという、究極のスロウリーディングなのだ。（ちなみに、エチ先生とは、「橋本」のHからきているわけでも、「エッチ」が好きという意味でもない。「エチオピア」というあだ名からきている。）【送料無料】奇跡の教室灘校といえば、言わずと知れた私立の名門校である。中高一貫校だが、そのうちの中学3年間を「銀の匙」という文庫本しかやらない。教師が6年間持ち上がる学校独自の仕組みや、時代背景など、いますぐマネのできる授業ではないが、読み進むと、なるほど、と思うことばかり書かれている。【送料無料】銀の匙長い人生のうちの、多感な3年間。たった1冊の文庫本を教材に、次々に横道へ逸れる授業は、多くの逸材を輩出した。いまや、有名大学への合格だけを目標にして、難関校になった学校もあるが、エチ先生の目標は全く違った。ホンモノの教育って、こういうものだろうなぁと思った。一緒に「銀の匙」を読んだ生徒がねえ、還暦過ぎても、みんな前を向いて歩いている。それが何より嬉しい。エチ先生は明治45年生まれ。誕生日が来れば99歳ということになる。今、全く同じことをするには、様々なハードルがあるだろう。でも、だからと言って、簡単に「ムリ」と思うのではなく、カケラでも何とか授業に取り入れようとする教師がいるといいのだが…。

  2011年05月31日

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  プリンセス・トヨトミ

  万城目学氏の「プリンセス・トヨトミ」を読んだ。映画も観たいので、その前にと思ってペラペラめくった。忙しい仕事の合間に、随分と頭を解してくれた。それにしても、相変わらず、飛ばしているなぁという感じだ。よくも、こんなに奇想天外な、荒唐無稽な発想ができるものである。今週末には、映画が封切られるが、登場人物の設定は違うようだ。【送料無料】プリンセス・トヨトミ3人の会計検査院の調査官が、社団法人ＯＪＯを糸口に、独立国である大阪国の存在を掴むのだが、太っちょで童顔の、憎めない存在の男性調査員、ミラクル鳥居を、映画では綾瀬はるか氏が女性版として演じている。体形よりも性格的なところで、キャスティングされたのだろう。逆に、切れ者のハーフである女性調査員、旭ゲーンズブールを、男性版として岡田将生氏が演じている。原作では、とびきりのいい女に書かれているが、男女入れ替えてのストーリーが、果たしてそれだけなのかどうか、興味深い。文春文庫で読んだのだが、巻末に付録として収録されているのが、エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」である。ここには、「プリンセス・トヨトミ」が生まれた背景や、作者の心情、映画のロケ地情報など、興味深いことが書かれていて、実に楽しい。他にも、大阪には御堂筋のような「筋」があるのを不思議に思っていたが、南北の道路を「筋」と言い、東西の道路を「通」と言うことも教えてくれた。そう言えば、映画のホームページ、左下にある「ひょうたん日記」が、これまた面白い。この作品には、ひょうたんがシンボルとして使われている。事が起こるときの合図になっている。万城目氏はひょうたんのことを調べ、さらに栽培もしている。その日記だが、これも楽しい。

  2011年05月24日

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  これからを生きる君たちへ

  東日本大震災は、多くの学校の卒業式を延期、あるいは中止させることになった。4月に入って実施された卒業式で、中止になった場合はホームページや学校通信で、学校長が語った文集のような本がこれだ。【送料無料】これからを生きる君たちへネットでも、立教新座高校の校長の言葉が話題になったが、1編目はその文章だ。その後の、卒業感謝礼拝の出来事も紹介されている。その他に10人の校長、学長の言葉が集められた。リーフレット程度の、小さなムックの体裁で出版されたが、子どもたちだけではなく、否、被災者だけでなく、多くの日本人に勇気を与えてくれる本である。通常、考え抜かれた卒業式の言葉は、時間とともに消え去り、日々の格闘の中で、思い出すことも叶わない。しかし、こうして書き残されると、振り返ることができる。まだまだ、復興には程遠い困難な状況にある。復興ということでなくても、様々な困難が待ち受けている。その折に触れ、我々を奮い立たせてくれるカンフル剤になり得る本である。

  2011年04月28日

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  投資の大原則

  ビッグネームの二人が書いた「人生を豊かにするためのヒント」と副題のついた本である。【送料無料】投資の大原則ビッグネームとは、バートン・マルキール氏とチャールズ・エルス氏である。前者は「ウォール街のランダム・ウォーカー」、後者は「敗者のゲーム」で有名だ。いずれも、古典的名著である。【送料無料】ウォール街のランダム・ウォーカー原著第9版【送料無料】敗者のゲーム原著第5版その二人が、アインシュタインの言葉通りに、「できるだけシンプルに、しかし、シンプルすぎないように」と心掛けて、一般向けに書いた本である。書かれていることは、まさに、大原則だ。普段、私もセミナーの中で触れたり、あるいは、証券投資に関してコンサルする際に話すものばかりである。たとえば、マーケットのタイミングを見るのではなく、いろいろな資産に十分に分散する。投資タイミングを考えるのではなく、毎月自動的に投資し、時間を分散する。さらに、短期収益を狙うのではなく、長期に投資して収益を狙う手法である。アメリカの事例が書かれているのが、日本の読者にはわかりづらいところだが、それは読み飛ばしてしまって構わない。例えば、401ｋは日本版もあるが、403ｂというのは日本にはない。それより、アインシュタインの「複利こそが宇宙で最も強力な力だ」という言葉の方が、重要である。ただ、複利がプラスに働くのと同様に、マイナスにも働いてしまうので、より安定的に運用すべきだという点は出てこない。記載されているデータも、アメリカのデータであるので、日本のデータを使った翻訳が出れば、言うことないのだが…。

  2011年03月05日

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  四十九日のレシピ

  先週から、NHKテレビで始まった「四十九日のレシピ」の原作を読んだ。伊吹有喜氏の書き下ろしだ。いやぁ、面白かった。ドラマでは、主人公を和久井映見氏、その父を伊東四郎氏、亡くなった義母を風吹ジュン氏が演じるが、やはり原作で、人物を自分なりにイメージした方がいい気がする。（ドラマは全4回）【送料無料】四十九日のレシピ作者は三重県出身で、原作の舞台は名古屋市である。NHKのドラマでは、名古屋市という舞台設定ではないようで、原作を読んで知った。他にも、NHKの制作らしく、設定を変えているようだ。原作で、すごく気に入ったところが1つある。亡くなった義母が、ボランティア的に働いていた施設のことを「リボンハウス」という。いろいろな事情を持つ、少女たちの更生施設だ。「リボン」とは可愛らしい響きだが、「reborn」である。その施設の元園長である、老婦人に語らせる、次のような言葉がいい。「テイクオフ・ボード、飛び箱の踏切板ってあるでしょう。私たちはそれなんです。思い切り走って、板を踏み切って箱を飛んだら、もう思い出さなくていい。過去を飛び越えたことに自信を持って、まっすぐに走っていけばいいんです。」「思い出さなくていい。思い出してはいけない、飛ぶ前の世界のことなど」「リボンハウス自体がテイクオフ・ボードなんです。でも大きく考えれば、人ってそういうものじゃないでしょうか。親が子を支えるように、みんな、誰かの踏切板になって、次の世代を前に飛ばしていく」「世界は無数のテイクオフ・ボードで成り立っている…」

  2011年02月23日

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  名門大学の「教養」

  「爆笑問題」の二人が、NHKテレビで出演している「ニッポンの教養」という番組がある。略して、「爆問学問」という番組だ。その中で、大学を訪ねて、教授や学生と難問を語り合うスペシャル番組があった。5つの大学を訪ねた番組を、1冊にまとめた本が、「名門大学の『教養』」だ。【送料無料】名門大学の「教養」5つの大学とは、放送された順に、東京大学、慶応義塾大学、京都大学、早稲田大学、東京藝術大学である。語り合ったテーマが、また難題だ。東大では、「本物の『教養力』とは？」を、慶大では、「デジタル時代の『幸福力』とは？」京大では、「時代を切りひらく『独創力』とは？」早大では、「平成世代の『突破力』とは？」そして、藝大では、「伝える・伝わる『表現力』とは？」である。どれも難題であるから、1つの解答が示されるわけではない。しかし、教授が言った、学生が言った、太田が言った…。夫々の、思考回路がスパークする様が、「おー！」「へー？」「う？」「はて？」と、私の思考に化学反応を起こさせるのだ。おもしろい！

  2011年02月05日

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  マボロシの鳥

  爆笑問題の大田光氏が書いた「マボロシの鳥」を読んだ。彼にとっては処女作となる、短編小説集である。表題作を含む9つの短編小説は、私にとっては、決して後味がいいものではない。気難しい彼の渾身の作というイメージである。マボロシの鳥ＮＨＫテレビ「爆笑問題のニッポンの教養」で出会った学者の話もヒントになっていると思われるが、彼の膨大な知識を使い、考えさせる小説である。人によって受け止め方は、さまざまなのではないだろうか。9つの短編の中に、統一したテーマがあるわけでもないのだろうが、一つあるとすれば、「繋がる」ということなのかもしれない。過去から未来へ、人から人へ、祖父から孫へ、輪廻転生…。世の中はすべて繋がっている。9つの中で、一番好きな作品は「タイムカプセル」である。美しい島を舞台に、戦争と平和、父と娘、祖父と孫、65年の歳月を経た物語は、以下の文章で終わっている。「おじいちゃん。ありがとう。これからも、ずっと大好き」この文章を、「切ない」と感じさせる物語である。

  2010年11月07日

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  梅原猛の授業「道徳」

  今朝になって、右足の痛みはひどく、それは痛み止めの薬効が切れたことにもよるのだが、湿布を貼りかえるためにはがした足は、パンパンに腫れていた。この症状は、やはり痛風なのだろう。そこで、二男の野球に付き合うことは、今日もお休みにした。公式戦が入っていたが、靴も履けないかもしれず、準備の手伝いも出来ないので、足手まといにならないようにした。二男は先発投手を務め、大差で楽勝のはずが、リリーフ陣が打ち込まれて、危く負けるところを、なんとか踏ん張って勝ったようだ。私は横になりながら、久しぶりにTBS「サンデーモーニング」を見ていた。最後に、「風をよむ」というコーナーがあるのだが、今日のテーマは「自然」だった。各地で、クマの被害が出ている。また、河川を調査すれば、外来種の宝庫になっている現状。何かがおかしい。そもそもは、増えすぎた動物を駆除する目的で、人間が持ち込んだ外来種が、逆に絶滅させてしまうほど増えすぎてしまうなど、人間が「自然」をコントロールしようとしたことに無理があった。生物を、お金で買うという行為を止めることから、始めなければならない、などの様々な意見があった。梅原猛の授業道徳価格：630円（税込、送料別）その意見を聞いていて思い出したのが、先日、大阪へ行く近鉄の車内で読んだ「梅原猛の授業　道徳」である。2002年4月から9月まで、京都市の洛南高等学校附属中学校で行なわれた、12回に及ぶ、梅原氏の「道徳」の授業を収録したものだ。その6回目の授業で扱われたのが「仏教とキリスト教」「東洋と西洋」の違いである。「第一の戒律　人を殺してはいけない」というテーマだ。実は、普通の状況下で同属を殺すのは、サルとその遺伝子を受け継いだ人間だけなのだそうだ。だからこそ、道徳が必要で、それは宗教と密接にかかわりがある。仏教では、「生きとし生けるものを殺してはいけない」というが、キリスト教では、「人間を殺してはいけない」とある。この違いは、人間を特別のものとみる西洋と、人間も動物も同じ命を持っていると考える東洋の違いである。西洋の考え方は、人間が理性を持つために、動物より優位な存在とみる。しかし、お釈迦様が「歩くときはいつも、虫を踏みつけないように、下を向いて歩かないといけない」というように、生きとし生けるものはすべて同じと考えるのだ。そこで、アイヌの人たちに教えられたと書いている。アイヌの人は、人間を特別視しない。例えば、クマはあの世で人間と同じような生活を送っており、この世にやってくるとき、土産として素晴らしい毛皮や肉を携えてくる。そういうお客様なのだと。お客様の意思だから、お客さんを殺して、土産の肉や毛皮をいただく。その代わり、クマの魂を無事にあの世へ送り届けようと考えて、クマの頭を供えてお祭りをする。それが、イオアンテというクマ送りのお祭りだ。あの世へ送り届けられたクマの霊は、この世で人間が踊りを踊ったり歌を歌ったりお酒を供えたり、たいへん良くして、礼儀正しくあの世へ送ってもらったことを仲間に話す。仲間はそれを聞き、じゃあ来年は自分が土産を持っていこうとなり、たくさんのクマがとれる。一種の豊猟のお祭りなのだ。人間は、生きとし生けるものを殺さなくては生きていけない。殺生はいけないが、人間が生きていくためには必要だから、どうかその身や肉をください。アイヌの人には、木一本を切るにも、木の神様に頼んで切らせてもらう。その代わり、必ず接ぎ木をして、次の木が生えてくるようにしていく。「共生と循環」の思想が、根底にあるのだ。今朝のサンデーモーニング、そしてこの本を読んでいくと、いま、名古屋で開催されている生物多様性条約会議COP10に繋がっていく。東洋的なものの考え方が、もっともっと再評価されていい。自然や人間に対する考え方を深め、道徳教育の必要性を再確認できるいい本である。この授業を実際に受けた、中学生たちの感想を聞いてみたい。当時の感想と、20歳を超えたであろう、いまの感想を。

  2010年10月24日

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  はやぶさの大冒険

  「はやぶさ」とは、小惑星探査機の名前である。彼は（と擬人化するのがピッタリだ）、小惑星「イトカワ」に降り立ち、表面の物質を地球に持ち帰る任務を得て、2003年5月に打ち上げられた。これまで人類が降り立ち、表面物質を持ち帰ったことがあるのは「月」だけだ。しかし、月のような大きな天体は重力も大きく、物質自体が押しつぶされて変成してしまっている。それでは、太陽系の初期の頃の物質についての研究ができないのである。しかし、小惑星なら重力も小さく、惑星が誕生したころの記録を、比較的よくとどめていると考えられ、その表面物質を持ち帰るということは、「惑星や小惑星を作るもとになった材料がどんなものであったか」「惑星が誕生する頃の太陽系星雲内の様子がどうであったのか」についての手がかりを得られるため、大きな意義をもつことになるのだ。 打ち上げから7年。2010年6月に、はやぶさは地球に戻ってきた。ところが、途中、度重なるトラブルにより、最後は燃え尽きる運命となった。（本来は、表面物質を閉じ込めたカプセルだけを地球に返し、はやぶさ自体は宇宙空間に戻り、さらなる研究を続ける予定だったらしい。）小惑星探査機はやぶさの大冒険7年に及ぶ、はやぶさの試練と、地球から交信を続けたJAXAスタッフの心情まで、本書では余すところなく伝えている。無人で、はるかかなたのはやぶさと交信し、指示を出し、それに答える様子は臨場感すら感じる。こんなことが行なわれていたなんて、知らなかったことばかりなのだ。また、日本の技術水準の高さにも驚かされる。カプセルに入っているはずの物質の調査は、いま始まったばかりだが、有益な結果が出ることを期待させる。はやぶさ君の死を無駄にしないためにも。（やはり擬人化が相応しい。）科学技術に対して、親しみを感じさせてくれる好著である。⇒大気圏突入時の動画はNECのページへ

  2010年09月08日

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  モチベーション3.0

  ダニエル・ピンク氏の新刊「モチベーション3.0」を読んだ。副題は、「持続する『やる気（Drive）！』をいかに引き出すか」である。「ハイコンセプト」も良かったし、マンガ本「ジョニー・ブンコの冒険」も良かったが、これまた、腑に落ちる話に感服した。モチベーション3．0モチベーション1.0は、飢餓動因、渇動因、性的動因などの生物学的な動機づけのことである。要するに、生存を目的にしたものだ。しかし、モチベーション2.0は、周囲からの報酬や罰に対して反応する動機づけである。2.0は、ルーチンワークには、有効に機能していたが、もはや、ルーチンワークは、先進諸国の仕事ではなくなった。そうすると、「アメとムチ」、「交換条件つき（こうしたら、これをあげる）」報酬による動機づけ（2.0）が機能しないのである。外的な報酬と罰による2.0は、創造的で思索に富んだ才能をつぶすことすらある。人の生理的欲求（1.0）や、信賞必罰による動機づけ（2.0）ではなく、自らの人生を管理したい、自分の能力を広げて伸ばしたい、目的を持って人生を送りたいといった、そうした人間に深く根ざした欲求（内的な報酬、満足感）には逆効果なのだ。 どうすればいいのか？　まず、「オートノミー（自律性）」が必要である。課題、時間、手法、チームについて、自律を与える企業は、競合他社よりも高い成果を挙げる。グーグルやベストバイ等が好例だ。次に、従順なる姿勢ではなく、積極的に関与する姿勢が、「マスタリー（熟達）」を生み出す。それには、心の持ち方として、「無限に向上することができるのだ」と理解することが必要だ。その上で、努力、根性、意図的な訓練が必要である。そして、「完全にマスターすることがないもの」であるから、もどかしく、でもだからこそ、魅力的だと理解することが必要なのである。最後に、人間は、本質的に人生の意義や目的を探すものである。自分以外の人、もの、社会などの利益に貢献する永続的な目的を求めるものだ。この「目的」という要素が、企業活動においても表に出てきている。利益の最大化に、この目的の最大化を加えた企業は、その活力をよみがえらせつつあるというのだ。ファイナンシャル・プランナーという仕事が生まれたのは、単に金融の自由化、複雑化によって、水先案内人が必要になったというわけではない。まさに、「他者の利益に貢献」するという人間本来の目的が、どんどん大きく膨らんできたところに、時を同じくして、社会環境の変化が表れたからではないか、と個人的には思っている。（出来過ぎか？）

  2010年08月11日

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  楢山節考

  100歳以上の高齢者が所在不明となり、その数が日増しに増えている。各地の行政の調査が進むにしたがって、そのうち100名に迫る勢いである。だが、100歳以上という括りでいいのだろうか。元気だった私の祖母が、今年98歳で亡くなった。100歳には届かなかったが、大往生と言える。そう考えると、95歳以上だって、いや90歳以上だって、ずいぶんな高齢者と言える。調査しなくていいの？楢山節考改版そこで、故緒形拳氏主演でも映画化されたことのある「楢山節考」を読んでみた。原作を読んでいなかったし、映画も観ていない。「姥捨ての話」程度にしか理解していなかったのだ。楢山節考読んでみると、いまの時代とは比べものにならない貧しい時代の山村の話である。わずか22世帯が住む山村は、恋愛結婚など考えようもなく、死別したヤモメは、向う村から後家さんを自動的に貰い受けるような風習すら残っている。世帯人数は12人、8人といった大家族だから、70歳を前にしたおばあが、ひ孫の誕生をみるようなことでは、家計が立ち行かない。いや、家計といえるお金すらなく、自給自足の暮らしが食糧不足で立ち行かないのだ。だから、楢山へ姥捨てる必要性が生まれる。そんな風習を、昔歌（楢山節）とともに描いている。そこで「考」となるのだが、つくづくいまの世は、複雑になったものだと考えてしまった。この小説の時代背景となる、文化的でなかった頃というのは、本能の趣くままである。しかし、最低限の秩序を守る工夫がされていた。その一つが「姥捨て」ということになる。しかし、いまのような、心が通い合わない世とは違う。「姥捨て」は、あくまでもやむをえない行為なのだ。捨てられる側もわかってのこと。幼い姉と弟が、マンションの一室に閉じ込められて餓死した事件。23歳の母親は、自分が遊びたいばかりに、わが子の死はやむをえないと思ったのだろうか。家族を守るための「姥捨て」とは、その質が全く違う。所在不明の高齢者も、調査が進むにしたがって、様々な原因が浮かび上がってきたようだ。「徘徊したまま行方不明」になったり、「独居生活のまま連絡を絶つ」ことになったりというのだが、核家族化が行き着く先、終着駅を示しているのだろうか。

  2010年08月06日

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  御巣鷹山と生きる

  今年の8月12日で、事故から25年になる。この節目で、出版された「御巣鷹山と生きる」を読んだ。著者は、この事故で9歳の息子を亡くした。「8.12連絡会」の事務局長を務めている。御巣鷹山と生きる「8.12連絡会」の事務局長としての立場から、会の運営や遺族間の交流、賠償交渉のことなどが細かく書かれている。とりわけ、会報「おすたか」が果たした役割は大きいのだと感じる。茜雲（総集編）連絡会の基本的なスタンスは、賠償交渉の窓口にはならず、世界の空の安全を求めることである。それが、520の御霊が安らかになるためだから。しかし、事務局長の立場で書かれた文章より、子を亡くした一人の母としての心情の吐露が胸を打つ。初めての一人旅、しかも、初めての飛行機である。まだ9歳、小学3年生の子を、心配しながらも送り出したのに、まさか…。羽田空港には、彼女が送っていった。「ちびっこＶＩＰ」という日航のサービスを利用して、大阪の親戚の家へ出掛けた。大阪のいとこたちと、阪神電車に乗って、甲子園球場の高校野球を応援に行くはずだった。「ちびっこＶＩＰ」のワッペンを胸につけて、ジャンボ機に歓声を挙げていた子も、出発前、日航職員の女性に手を繋いでもらい、搭乗口に立つと、不安そうな表情を浮かべていたそうだ。その時、係りの女性に、何かを話しかけた様子が忘れられないと言う。離陸後しばらくして、JAL123便は32分間のダッチロールの後、御巣鷹山に墜落した。子ども一人の32分間は、とても恐かったに違いない。想像すると、胸が張り裂けそうになる気持ち、痛いほど分かる。事故から2ヵ月後、四国から1本の電話があった。それは、偶然、隣に乗り合わせた22歳の女性の母からだった。娘はやさしく、子どもが大好きだったという話を聞き、きっとこの女性に手を繋いでもらい、32分を耐えていたに違いないのだ。さらに、事故から1年後、羽田空港で「ちびっこＶＩＰ」の手を繋いだ、日航職員の女性から手紙を受取った。そこには、子どもが不安そうに言った、最後の言葉が記してあったそうだ。「ママとすぐ会えるよね」9歳の子どもの、不安そうな表情が目に浮かんだ。⇒柳田邦男氏の書評

  2010年07月18日

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  わかりやすさ

  セミナーで講師を務める立場からすると、話の「わかりやすさ」はキモである。もちろん、話す側がいくらわかりやすいだろうと想像して話しても、実際に聞く側にとってわかりやすくなければ意味がない。努力は当然だが、結果も出さなければならないわけだ。そんな私に打ってつけの本が、「＜わかりやすさ＞の勉強法」だ。著者は、ＮＨＫテレビ「週間こどもニュース」で、お父さん役を務めた池上彰氏である。わかりやすさには定評があり、彼の勉強法や情報の整理の仕方など、この本も文字通りわかりやすく書かれていた。〈わかりやすさ〉の勉強法読んでいると「ある、ある」と思うところが多数出てくる。そして、「なるほど」と思うことも多々あるのだ。その中で、大学の学部生と、大学院生、そして指導教授の、三者の話の違いに大きく頷いた。ある分野に関して、大学の学部生は意外にわかりやすく説明が出来る。ところが、大学院生になると、とたんに話が難しくなる。しかし、指導教授になると、一転してまた話がわかりやすくなることがある。どうしてか？彼の説明では、大学の学部生は物事を単純化しすぎたり、ニュアンスを歪めたりしている可能性があるという。つまり、中途半端な勉強だけで、わかったつもりになっているが、その深淵に気がついていない状態だ。これが、大学院生になると、深い勉強をするから、一概には言えないというレベルになり、「この場合は…」「あの場合は…」と、複雑な話になってしまうのだ。しかし、さらに突き詰めて学び、指導教授のレベルまでいけば、学部生の誤りを訂正してあげられるほど、わかりやすい説明が出来るようになるわけだ。「最初の単純化で満足せず、さらに高みを目指すとスランプに陥る。そこを突破すると、『分かりやすい説明』が可能になる。このプロセスが、キモなのです」と書いている。その通りだ。自分がどのレベルにいるのかを、よく見つめなければならない。

  2010年07月01日

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  ずっとつづく「ほんのちょっと」

  宇宙飛行士、山崎直子氏の夫、山崎大地氏が書いた「宇宙主夫日記」を読んだ。二人の輝かしい新婚生活から、来月5日に延期されたが、いよいよシャトルで国際宇宙ステーションへと飛び立つ、今日に至るまでの10年間に及ぶ「彼（と彼女）の苦悩」が克明に書かれている。宇宙主夫日記この本は、時間つぶしに寄った書店で見かけた。手にとって、パラパラ立ち読みしたら、山崎大地氏は長男と同じ発想で夢を追いかけたことを知った。つまり、映画「アポロ13」を観て、飛行士ではなく、運用管制センターのフライトコントローラー（管制官）たちを指揮するフライトディレクター（飛行指揮官）のジーン・クランツ氏に魅了されたのだ。国際宇宙ステーションに、日本の実験棟「きぼう」を建設するミッションの指揮が目標になった。アポロ13そこで、買って読んだが、長男の参考になるのは、冒頭の立ち読みをしたところまでだろう。あとは、宇宙飛行士に一目惚れし、自らの夢を諦めざるを得なくなり、その後も続く苦悩の日々が書かれている。宇宙飛行士の夫というのは、大変すぎる。おまけに、彼の場合、両親の介護もあれば、生まれたばかりの長女の世話もある。うつ状態に陥る気持ちも分かる気がした。限界を悟った彼の側から、離婚調停を申し立てる。泥沼だ。しかし、その中から薄明かりが漏れ、ようやく今がある。その薄明かりは、彼の忍耐と彼女のほんの少しの変化からもたらされた。彼は綴っている。自分にも気負い過ぎたところがあった。それで息切れしてしまったのだ。これからは、「ほんのちょっと」だけど、ずっとつづく「ほんのちょっと」を心掛けよう。そうすれば、自分の中に、余力が残せる。その結果、「ほんのちょっと」の相手への思いやりが生まれ、それが相手にも連鎖して、大きな力になるはずだ、と。山崎直子宇宙飛行士が地球に帰還したとき、もしかしたらドラマチックなことが起こるかもしれない。それが、今の彼らふたり、いや長女を加えた三人の夢に違いない。よければ一緒に「ひとりでは無理でもふたりで、ふたりでは無理でも3人ならできる」という記述を読んだら、ＫＡＮ氏の「よければ一緒に」という歌を思い出した。

  2010年03月16日

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  フルタの方程式

  通常、商売は2月と8月はヒマと言われる。私も8月はヒマだが、例年2月は「超」の付く忙しさになってしまう。今年もそうだった。なんとか乗り切った感じだが、土日も仕事続きだったために、小4の二男の野球には付き合ってやれなかった。小学4年生はCチーム、5年になるとBチーム、そして6年がAチームということになる。昨年の10月から入部したので、これまで二男は守備位置も決まらないままだった。練習試合も途中出場か、途中交代でレギュラーにはなり切れないでいた。Bチームに上がるに際して、我らがチームの最大の問題は、ピッチャーがいないことである。できるヤツはピッチャーもこなせるが、そうすると野手がいなくなる。フォアボールも盗塁もあるから、バッテリーがしっかりしていないと試合には勝てない。練習試合も、全く勝てない有様だった。そこで、この2月に、現4年生全員に投球練習をやらせて適正を見たらしい。コントロールがまずまずだったそうで、なんと二男がピッチャー候補になってしまった。そんなこともあって、読んだ本が「フルタの方程式」である。フルタの方程式一流プロの新しい視点を、文字だけでなくDVD付きで映像も見られる。テレビ朝日であった番組を編集したものらしいが、「なるほど！」と頷くものが多い。しかし、古田敦也氏が書いているので、キャッチャー編である。ピッチャーのためやアンパイヤのジャッジのことを考えた、キャッチャーのための本と言える。バッテリーのことが頭に浮かび読んだのだが、これよりも何か適当なピッチャー編を探す必要がありそうだ。でも、野球の奥深さを教えてくれる良い本だと思う。プレイのひとつひとつに、練られた理論があった。

  2010年03月02日

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  日本人の知らない日本語 ２

  面白くてためになる。一言で言うと、そんな本だ。「日本人の知らない日本語２」というくらいだから、前作がある。これも以前に読んで、爆笑したのを憶えている。日本人の知らない日本語（2）日本で、外国人に日本語を教える日本語教師が、外国人からの素朴な質問攻めに困惑しながら、自ら調べて成長する物語だ。マンガがその現場を明確に描き出すから、より可笑しい。 「スッパ抜く」の「スッパ」とは、なんと忍者のことだった。ジャックさんは来日してすぐ、取引先の社長宅に伺ったところ、娘さんが出てきた。「父（ちち）はいますか？」を丁寧に言おうと考えた挙句、「おちちはございますか？」と言っちゃった。神社のおみくじ、「吉」と「小吉」とどちらがいいのか。実は、「大吉」「中吉」「小吉」「吉」「末吉」「凶」「大凶」の順番だった。「たまに」と「時々」の頻度の順番は？　「いつも」「たいてい」「よく」「ときどき」「たまに」の順。これは簡単。「うれしい」と「たのしい」は、「喜ばしい気持ち」が続く時間の長さが違うのだ。「うれしい」に比べると、「たのしい」の方が長く続く。なるほど…。日本人の知らない日本語

  2010年02月22日

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  神様のカルテ

  夏川草介氏の「神様のカルテ」を読んだ。著者の夏川氏は、信州大学医学部を卒業し、長野県内の病院で地域医療に従事する医師である。本作は、彼のデビュー作だ。神様のカルテこの小説に書かれていることは、彼の医療現場の身近な出来事なのかもしれないが、夏目漱石を愛するという主人公の、古臭い口調、さらに著者の文体が、最初は煩わしいと感じた。主人公と妻、彼らの住まう「御嵩荘」の住人に、勤務する本庄病院の医師、看護師、患者らの織りなす話である。漱石の「坊ちゃん」を意識しているのか、関係者は主人公作のあだ名で呼ばれることが多い。「大狸先生」「古狐先生」「男爵」に「学士殿」など等である。学士殿の真実が明らかになるや、話が一気に引き締まる感じがする。そして、末期患者の安曇おばあちゃんの最期へと、いよいよ話はクライマックスに突入するのだ。地域医療の現状を伝える、というのがテーマだったのだろう。しかし、あまり切迫した感じはなく、淡々と読んでしまった。読後、強烈に訴えてくるものはないのだが、最先端医療を必要としない医療というものがあることを知った。

  2010年02月15日

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• 超シンプル仕事術

  「日経ビジネスＡssocie」（2/16号）を読んだ。今回のテーマは「超シンプル仕事術」である。これからの日本を背負って立つ、若いビジネスエリートに向けた数々のメッセージが込められているが、我々世代にも役に立ちそうだ。例えば、Google日本法人の村上憲郎名誉会長の「”完璧”にこだわらない」というメッセージは確かにそうだ。100％の完成度を目指せば、いつまでたっても別の仕事にいけなくなる。そこにムダが発生する。80％の完成度に達したら、人に任せたり、あるいは、人目にさらして意見を聞き、改善することで100％を目指すのだ。あるいは、NPO法人ヒューマンサイエンス研究所の川井かおる理事の「”～せねばらない”を捨てる」という考え方も、追い詰められたカツマーの人にはお勧めだ。他にも、曹洞宗徳雄山建功寺の枡野俊明住職のインタビュー記事は、「禅の教え」からシンプルに考えるヒントを数々示してくれている。個人的には、心の持ちようとして、非常に参考になると思う。混迷が続く日本経済、「不安とは実体のないもの」と心得て、迷いを吹っ切る。前向きに、先へと歩みを進めるのならば、きっと役立つ仕事術が、ひとつは見つかるに違いない。 日経ビジネスアソシエオンラインオフィシャルページ　⇒　http://www.nikkeibp.co.jp/associe/

  2010年02月08日

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  気になる言葉

  先日、TBS系ドラマで「筆談ホステス」というのを見た。2歳になる前に、病気で聴力を失った女性の話である。彼女はいま、東京銀座でホステスをしている。お客様の話し声がまったく聞こえないから、万年筆とメモ帳を使って、筆談で接客することになる。筆談ホステス67の愛言葉ドラマでは北川景子氏が演じていたが、目で見る言葉に敏感なのだろうか？　言葉に独特の解釈を加える、その筆談内容に興味を持った。そこで買って読んでみたのが、上記の「筆談ホステス67の愛言葉」である。読んでみてわかったのは、すべてが彼女の創作ではないことだ。大変な読書家で、言葉に強い関心があるのは間違いないだろう。だから、筆談の中で、ひょいっと適切な、的を射た言葉が出てくるのだろう。以下に、私の気に入った言葉を少し。難題のない人生は、”無難”な人生。難題の有る人生は、”有難い”人生。隣に誰かがいるだけで、”憂い”は”優しさ”に変わります。お風呂で転んだからといって、二度とお風呂に入らない人はいませんよ。過去と他人は変えられませんよ。でも、未来と自分は変えられます！前向きな言葉が好きだ。

  2010年01月12日

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• 大人の教養

  教養というのは、なかなか身につかないものである。特に自分の関心がないものは、すぐに忘れてしまうから、始末が悪い。ところが、試される局面は急に訪れ、結果、恥をかくことになるのだ。雑誌「日経ビジネスアソシエ」が1月4日号でリニューアルされた。その特集が「大人の教養＆マナー2010」である。「教養」とひと言で言うけれど、ここまでで大丈夫という類のものではないから、実際には途方に暮れるのではないか。19項目が挙げられているが、「宗教」「サイエンス」「礼法」「接待」「経営者」「ファッション」「東京の歴史」「クラシック音楽」「ジャズ」「シェークスピア」「ワイン」「バー」「米国」「中国」「司馬遼太郎」「ドラッカー」「源氏物語」「茶道」「絵画」である。同誌のこれまでがあまり知らないので、単純な比較ができないのだが、リニューアル誌面の第1回の特集記事としては、役に立つと思う。もちろん、この紙面だけで、教養が万全になるという意味ではない。さらに関心事を学ぶための書籍も紹介されているから、索引的な使い方ができるのだ。京都から帰省中の長男が、コタツの上に置かれた同誌をペラペラとめくって、「読み終わったら、頂戴！」と言った。まだ、大学に入ったばかりだが、一人暮らしを始めて、自分の興味を広げていく今の時期に、「教養」の範囲を示す、ひとつの参考になるに違いない。（参考）日経ビジネスAssocieオフィシャルページ ⇒ http://www.nikkeibp.co.jp/associe/

  2010年01月04日

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• 数学の暗号　‐Number Code‐

  あるアンケート会社の、【読書モニター募集】に応募した。その本が「数学の暗号」というものである。著者である風水トレーナーのシウマ氏が、約5万人を占ったデータを分析して、「数字」に秘められた吉凶をまとめたものである。「数意学」という、統計学に基づくのだそうだ。例えば、ケータイの番号、クレジットカードの暗証番号、クルマのナンバーなど、基本的に自分で決められる数を占う。二桁までの数字は、80を超えると、80を引いた数で占ったり、三桁以上になると、一桁ずつ足し合わせて占うなど、一定のルールがあるので、詳しくは読んで確認してもらうしかない。ケータイ番号は、下四桁を足し合わせる。私の場合、その数が「13」になるが、芸能人のような明るさが身につく数字とある。決断力があり、チャンスを生かす力もつくとあるが、う～ん、ちょっと当たっているとは言い難い気もする。しかし、よく考えると、ケータイ番号は勝手には決められない。いくつかの候補の中から選択することになるので、むしろケータイの暗証番号で見た方がいいのかもしれない。そこで、四桁の暗証番号を、一桁ずつ足すと「5」になっている。この数字は、優しさや協調性にあふれる数字とある。ちょっと、抽象的で当たっているのかどうか。そこで、もう一度「13」に注目すると、チャンスに強いが、やや落ち着きに欠けるので、地道に取り組み、コツコツ努力を重ねて成功できるという「8」を取り入れてバランスを取ると、運気は最高潮とある。そこで、ケータイの暗証番号を、合計「8」になるように設定し直してみた。まだ、その効果はない。（即効性を期待してはいけないだろう。）正直なところ、暗証番号を変えるの簡単ではない。ケータイは端末操作で簡単にできるが、銀行のキャッシュカードの暗証番号が、合計が「14」になっており、これは金運が悪い数字となっていて、一番気になっている。突然の出費が増えたり、詐欺などにもあいやすく、気づけば貯金がゼロと、トンでもないことが書かれている。確かに、残高は思うように積み上がらないのだ。この番号こそ、早く変更しなければならないのだが、ここ数日、銀行に行っている時間がない。当たるも八卦、当たらぬも八卦で、もし、効果が表れたら、また、このブログで紹介したい。ただし、数字だけ合わせれば、目出度し目出度し、というわけにいかないだろう。それでも、運気の悪い数字を、避けておくに越したことはない。また、営業マンが顧客との話題の一つにするにも、なかなか面白いのではないだろうか。大勢を相手にするセミナーでは、ちょっと使えないけど…。

  2009年12月07日

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  心を遊ばせる

  先日読んだ「思考の整理学」について、ＰＣの調子が悪く、書けなかった内容の一部を、今日は書いてみたい。書かれてあることは、これまでの経験からも、うなづけるものが多い。試行錯誤に数々の失敗、それを考えたら、この整理された本を読んでおくことは、人生を2倍豊かにしてくれる。思考の整理学中国の欧陽修という人が、グッドアイデアの生まれる場所として、3つ挙げている。それが「三上」であり、つまり、「馬上」「枕上（ﾁﾝｼﾞｮｳ）」「厠上（ｼｼﾞｮｳ）」である。いずれも、何事かをしなければならない場面だが、そんなに集中しなくても出来るので、拘束されているにも関らず、頭は自由でいられる場面と言える。「馬上」とは、通勤電車の中である。クルマ通勤ということもあるが、いまどき集中せずに運転したら事故になる。昔の馬車の上とは、時代が違う。会社へ行かなければならないが、電車に揺られているときは、自由な発想が出来る。このとき、音楽を聴いていたり、ゲームをしたり、ケータイメールをしていると、拘束の中から抜け出せない。「枕上」とは、文字通り、寝ているときであるが、その最中よりも、むしろ目覚めて布団から出るまでに間に、発想が結実しやすい。レム睡眠中は、カラダは休んでいるが、頭は働いていて、目覚めた瞬間、ビリビリとスパークする。無意識の中にあって、思考しているのである。「厠上」とは、トイレの中である。辞書を置いている人もいるというが、割と読書などにも向いている。用を済ませる必要はあるが、生理現象なので、いちいち考えてする作業ではない。頭は自由なのだ。しかも、「ひとりだけの城」にこもるわけだから、まわりからの妨害もないのである。「ものを考えるには、ほかにすることもなく、ぼんやり、あるいは、是が非でもと、力んでいてはよくない」というのだ。「いくらか拘束されている必要がある。ほかのことをしようにもできない。しかも、いましていることは、とくに心をわずらわすほどのこともない。心は遊んでいる。こういう状態が創造的思考にもっとも適しているのであろう」と。そして、アイデアがひらめいた瞬間に、ケータイでも鳴ろうものなら、一瞬で失われてしまう。そして二度と、そのアイデアは再生しないことが多い。だから、ポケットにメモ用紙、枕元にもメモ用紙、トイレにもメモ用紙を常備して、逃さないようにしなければならないのだ。

  2009年11月29日

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  思考の整理学

  東大・京大で1番読まれた本として、注目される「思考の整理学」を読んだ。文庫本の帯には、ある書店員の言葉が添えられている。この言葉が、20数年前に書かれた本を甦らせた。「もっと若い時に読んでいれば…」という言葉には、まったく同感である。また、帯の裏には、東大生の読後感が紹介されているが、その中の「この本を読んでいないなんて、人生の半分を損している」という言葉にも同意したい。 大学生よりは、長く生きてきて、この本に書かれいる事態にたびたび遭遇してきた。せっかくのアイデアが、不意に失われたことは数知れず。だからこそ、先に読んで整理していれば、という気持ちになるのだ。半分は損したかも、と。思考の整理学税込み、わずか546円の文庫本は、価値がある。私のこれから先、短い人生かもしれないが、必ずや役に立つ。「どう役に」と書きたいのだが、自宅のＰＣが調子が悪く、この文章で5回目の書き直しである。途中で固まって、やり直しばかり。さすがに明日は早いので、別の機会に譲ることにした。

  2009年11月27日

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  引退間近の親方･･･

  自分のことを「引退間近の親方」と称して、忙しい現役力士に代わって、まわしを締めて書いたという本が、「『金融工学』は何をしてきたのか」である。うまいことを言う方だ。つまり、決して、金融工学を悪者にして排除すべきではない、と著者、今野浩氏は主張するのだ。彼は、東工大教授を経て、現在は中央大教授という方である。「金融工学」は何をしてきたのか金融工学とは何か？　彼の答えは明解だ。「将来の不確実なキャッシュフローの計量と制御だ」と言う。「将来のことはわからない。だから、いかに知恵を絞ろうがダメなときはダメ、という意見もあるだろう」としながらも、分散投資はリーマンショックにも、一定の効果を発揮したという。確かに、私の顧客にも、継続して毎月の分散投資を続けている方に顕著である。ところが、この金融工学こそが、リーマンショックの元凶と言わんばかりの説がはびこっている。このままにしておかず、多忙な現役研究者に代わって、その誤解を解いておくというのが、親方の務めと言うわけなのだ。例えば、サブプライムローンを組み込んだ証券は、金融工学の手法で生まれたには違いない。しかし、金融工学に全責任があるのではない。サブプライムローンは証券化商品に組み込まれていき、そのリスクをわからなくしてしまった。そこに、格付会社が高格付を付した。格付会社にとって、「その商品の信用度合いはわかりません」とか、「難しくて手におえない」といったことが言えなかった。理論がすでに、限界を超えているのに･･･。また、ノーベル賞学者が関わったヘッジファンドであるLTCMが破綻したのも、理論が限界を超えたためと言える。つまり、売りたいときには、金額は別にして必ず買い手がいるというのが理論の世界だ。ところが、ロシア危機のあおりを受けて、誰も買わないという事態が起こり、さらに高倍率のレバレッジが息の根を止めることになった。結局は、「強欲の暴走」がバブルを産み、その崩壊も産む。金融工学は悪者ではなく、社会の役に立つものである。いわば「社会の命」にかかわるものであるから、例えば、リスク・リターン構造がわからない、複雑な投機目的のデリバディブ取引などは、規制してしかるべきだと主張している。結局は、その使い方であり、人間の欲望に任せてしまうと同じことを繰り返す。ナイフで料理は容易になったが、人を刺し殺すことも出来るということだ。著者が言うように、残念ながら、ある程度の規制は必要なのだろう。欲望という名の、悪夢にうなされないように…。

  2009年11月09日

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  動くところから始まる

  二男の通う小学校は、今日から金曜日まで休校となってしまった。先週、インフルエンザで学級閉鎖になり、昨日再開されたばかりなのに、全校で複数の感染者が確認され、これ以上の感染拡大を避ける目的である。二男にしてみれば、この10月は、まるまる2週間お休みで動けない日々が続く。金曜日までなので、週末の野球ができるのが救いだろうか。この際、冬休みは無しにしないと、授業が消化できないのではないか？と心配する。「動けない」というところから、唐突にも、中川昭一氏の著書を思い起こす。先ごろ亡くなられたが、遺族によれば、死因は急性心筋梗塞だという。ただ、その後、病理検査が行なわれたはずだが、まだ死因の特定には至っていないのではないだろうか。訃報に接して、どうしても、あの「朦朧会見」が思い浮かぶ。今となっては、彼の思いを聞くことは出来ないので、「飛翔する日本」と題する著書を読んでみた。思えば、政治家の本を読んだのは、初めてである。しかし、こうして自分の主張を書くのは重要だ。演説などは、マスコミによって都合のいいように編集され、一部しか我々の元には届かない。限られた紙面とは言え、十分伝え切れるからだ。本書は2008年9月の出版だから、今から1年以上前、リーマンショックの前に書かれている。そのときの彼の関心事は、経済、エネルギー、環境、資源、水、農業、食料だと書いている。日本が飛翔するためには、どうしても避けられない問題と言える。しかも、どれも外国との交渉が必要であり、そのエピソードも多々、盛り込まれている。しかし、その後の外交大一番、2009年2月14日ローマでのG7会合後の記者会見が失脚に繋がったのは、なんとも皮肉である。内容は共感できるものが多いが、例えば、「日本人の体感温度を上げる」と題した、最終節に出てくる「人間力」のレベルアップが必要だという話は頷ける。「人間力」のアップは教育だけでなく、コミュニティの密度を高めることが必要だと書いている。喫茶店で友人同士がテーブルをはさんでメールのやりとりをしたり、自販機やコンビニやスーパー、回転寿司なども、話さなくても事足りることが多くなった。でも、人と会い、話をすることで、言葉だけでなく目線や身体から発するエネルギーを無意識に感じ取る。当然、こちらから相手に発するエネルギーもあるから、その両方のエネルギーの衝突が、人間が生きる力としては必要ではないか、と。人やモノやお金が動くことを、肌で感じることにより、そこに摩擦を感じるだろう。その摩擦は、もしかしたら、差を生むことになるかもしれない。しかし、摩擦熱も、生じた差も、閉塞状態を打破するエネルギーになるのではないか。この「動かすこと」が何より重要だという主張に、私も賛成である。昨日の「おひとりさま」も、人と人の摩擦を避け、動かなくなった結果ということも、ひとつには言えるのではないだろうか。避けるから、エネルギーも萎縮してしまう。待つのではなく、まずは動くところから始まるのだろう。インフルエンザは別だが、郵政の国有化や、モラトリアムは、動かさなければならないものを止めてしまうことに繋がると思う。代わりに、どこからエネルギーを持ってこようというのか。子ども手当、高校の授業料や高速道路の無料化？　何だか、施しを受けているような気がしてくるが、与えられることで、ますます自律的な活力は奪われる。これでは、湧き上がるエネルギーは、生まれてこないのではないだろうか。

  2009年10月27日

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  欲望の果て

  NHKテレビで放送された「NHKスペシャル　マネー資本主義」の書籍化本を読んだ。サブタイトルに「暴走から崩壊への真相」とある。放送では、松平アナウンサーがナビゲーターとなって紹介していたが、私にはこの本の方が分かりやすい。マネー資本主義章立ても、放送にならって、第1章「投資銀行」第2章「超金余り」第3章「年金マネー」第4章「金融工学」、そして最終回は、識者によるコラムとしてまとめられている。読み進めると、人間の欲望の果てに、リーマンショックがあったことがよく分かる。金融工学を駆使して、投資銀行やヘッジファンドが新たな収益源を産み出した。しかし、皆が欲に駆られて同じ手法を取ると、その収益は枯れてしまう。出し抜けないわけだ。そこで、新たな収益源を探すことになるが、それはリスクを大きくしていくことに他ならない。しかし、欲望は際限なく、リスクは肥大化していく。欲望というのは、まだ大丈夫という、根拠なき自信を産み出していた。年金マネーまでもが、利益の追求に迫られ、巻き込まれていったのだ。NHK取材班による、当事者らへの取材が、いつも興味深く感心する。「金融工学」は何をしてきたのか今日の日経夕刊のお知らせ欄に「『金融工学』は何をしてきたのか」という本が、今日発売されたと紹介されている。著者は今野浩氏とあるが、もしや中央大の先生だろうか？　以前、このブログにも、「すべて僕に任せてください」という本を紹介した。部下だった東工大助教授の死について、愛情あふれる文章を書いていた。「本書はバブルとその崩壊を引き起こす『強欲の暴走』のメカニズムを描きながら、金融工学の本質とその限界を」解説しているとある。早速、楽天ブックスに発注した。すべて僕に任せてくださいそして、その日経夕刊のトップ記事は、「ヘッジファンド、資金戻る」である。運用成績の回復が理由だが、「同じ戦略のファンドが増えると、収益力は低下する」と指摘する声も紹介されている。果たして、人間の欲望は、またしても歴史を繰り返させてしまうのだろうか？

  2009年10月13日

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  何もなくても

  「この世界の片隅に」という漫画本を読んだ。上・中・下巻の三分冊になっている。著者は、こうの史代氏。1968年の生まれと書いてあり驚いた。何故なら、この本の時代背景は、昭和の9年から昭和21年であり、もっと年配の方を想像していたからだ。　　　　　　これは、戦中の広島県呉市を舞台にした、家族のドラマである。主人公である「すず」は、絵が上手だ。（だから、彼女と著者をどこかで重ねてしまい、意外に著者が1968年生まれであるのに驚いたのだ。）広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑いながらも、戦中を生き抜く話だ。時代考証も、細かくきちんとなされていて、余白に絵で紹介されている。今の暮らしを知ってしまった我々には、もうできない暮らしがそこにある。何もない。何もないが、幸せな、家族との暮らしがそこにはあるのだ。しかし、時代は戦争へと突き進んでいく。そして、すずは焼夷弾で右手を失ってしまう。様々な不幸が起こるのだが、懸命に、懸命に戦中を生き抜いた少女の物語。確かにモノはなかったが、家族愛など、ココロは満たされていた時代と言えるのかもしれない。 昨日　ない事を思い知った右手6月には　晴美さんとつないだ右手5月には　周作さんの寝顔を描いた右手4月には　テルさんの紅を握りしめた右手3月には　久夫さんの教科書を書き写した右手2月には　鬼いちゃんの脳みそを拾い上げた右手1月には　カルタを取りまくった右手去年の12月には　水原さんの手を握った右手去年の11月には　おねえさんの着物を裁ち間違えた右手去年の10月には　震えながら引き出しを開けた右手去年の9月には　周作さんをぱしぱし叩いた右手去年の8月には　リンさんにすいかを書いた右手去年の7月には　利根と日向と憲兵さんに出会った右手去年の6月には　こまつなのタネをのせた右手去年の5月には　楠木公に驚愕して箸を落とした右手去年の4月には　たんぽぽの綿毛を摘んだ右手去年の3月には　ふるさとを描きとめた右手去年の2月には　初めて周作さんに触った右手一昨年の暮れには　海苔すきが大好きだった右手7年前の2月には　うさぎをいくつも描いた右手10年前の8月には　すみちゃんのために砂にお母ちゃんを描いた右手　

  2009年09月21日

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  谷間の憂鬱からの脱出

  370万部を誇る「チーズはどこへ消えた？」のスペンサー・ジョンソン氏が書き下ろした新作「頂きはどこにある？」を読んだ。チーズはどこへ消えた？装丁からして、またビジネスマンが苦境の中で、ある寓話を聞くという展開も含めて、シリーズという形態になっている。しかし、寓話の主人公がネズミである前作と比べると、今回は若者が主人公であるので、個人的には逆に、感情移入が難しかった。頂きはどこにある？人生にも仕事にも、山あれば谷もある。しかし、それは外的な要因が元であるのではなく、内的要因が元になっていることもある。しかも、自然と同じで、山と谷はつながっている。山（順境）で過ちを犯せば、明日の谷（逆境）につながり、逆に、今日の谷で賢明な行動をすれば、明日の山へとつながる。また、実は心の持ちよう次第で、山に感じたり、谷に感じたりすることもある。そう、外的なものは自分の思い通りにできないことも多いが、内的なものは心の持ちようで変えられる。谷間から脱出するためには、物事の見方を、自らが変えたときなのだ。谷間を避けることは難しいが、できるだけ山にいつづけるには、傲慢にならないことだ。そして、谷間では恐怖心を捨てることだ。つまり、山にいるときは、物事を実際よりもよく思ってはいけない。逆に、谷にいるときには、物事を実際より悪く思ってはいけない。現実を味方にすべきだと説いている。「山の目的は人生を讃えることで、谷の目的は人生について学ぶこと」なのだろう。また、山と谷の間には、高原が広がっていることもある。その高原は、休息し、熟考し、元気を回復する期間になると書かれている。これ、以前、このブログで紹介した禅の考え方と同じである。谷間の憂鬱から早く脱出するには、現実を味方につけることが必要だ。谷間にいるなら、事態を悪く考えすぎずに、この事態の原因を見極めることだ。そして、自分のエゴを捨てて、原因に対処することだ。「チーズ」に比べると、驚くような気づきは与えられないかもしれない。感動もあまりないかもしれない。むしろ、再確認をやさしく導いてくれるような内容だった。あたり前のことというのは、だからこそ、行動に移せないことも多い。どう活かすかにかかっている。

  2009年09月16日

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  ぼーっと過ごす

  ぼーっと過ごすのも悪くない。そんな救いの言葉が書かれていた。禅、「あたま」の整理以前、このブログで、静岡県東国寺の塚原史方副住職の「さとる」についての法話を紹介した。その後、なんとご本人からメールをいただき、さらに、書籍2冊と寄稿文を郵送してくださったのだ。そのうちの1冊が本書であり、気づきを与える40の話で構成されている。感謝。今日は、そのうちの1つ、道元禅師の「正法眼蔵」に出てくる禅語について書かれたところを紹介する。「精にして雑（ま）じらず、進んで退かず」について、著者である宝泰寺の藤原東演住職の思いが綴られている。時間だけは、いかなる人にも平等だ。もちろん、お金があれば飛行機に乗って、時間を買うことはできる。しかし、1秒1秒過ぎていく時間は同じで、過ぎたものは取り戻せない。だから、1日1日、1年1年の積み重ねが大事だ。人生に後悔したくなければ、日々無駄に過ごすことはできないのだ「何事も努力する。一所懸命やることは大切である。しかし自分の欲の実現のみに打ち込むことは仏法の精進とは言えない」というのが、道元の「精にして雑じらず」であるという。「精」の心には、「清」の意が込められているのだ、と。仏法の教えとしては当然だろう。一方、「進んで退かず」の意味は、焦ることなく、後退することがあったっていいのではないかという励ましであるという。世の中、常にうまくいくことばかりではない。壁にぶつかり、絶望感を抱くこともある。そんなときは、休めばいいのだ。気力を取り戻して、また一歩ずつ進みなおせばいいわけだ。むしろ、立ち止まることがあるから、新たな気力が沸いてくる。常にうまくいくのであれば、それは無味乾燥なのかもしれない。右に曲がり、左に曲がる。行き止まりの道に入って突き当たり、また戻り、別の道を探す。上り坂があれば、下り坂もある。これらがすべて、彩りを添えてくれることになる。1日たりとも無駄にはできない。そのプレッシャーに押しつぶされるのでなく、無為の時間を過ごすことがあってもいい。そう考えると、肩の力が抜けていった。

  2009年09月05日

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  クラゲの緑の光がもたらす教訓

  タイトルの「クラゲの緑の光がもたらす教訓」というのは、昨年、ノーベル財団が作成した、ノーベル化学賞記念ポスターのタイトルである。「教訓」とは何か？ それは明かされていないようだが、ノーベル賞委員会による警鐘ではなかったか？ 最近の研究が、とかく「応用」とか「成果」を重視する傾向が強いが、このたびの受賞研究のように、純粋な好奇心に基づき、損得を考えずに探究すべきである、と。クラゲの光に魅せられてそんな考え方で締めている本が、「クラゲの光に魅せられて」である。著者は、下村脩氏になっているが、彼の講演録や対談、パネルディスカッションなどがまとめられたものである。専門的な部分はもちろん理解できないが、それでもできる限り平易に紹介してくれている気がする。研究内容、その過程は、やはり彼の人柄から生まれたものなのではないかと思えてくる。決して社交的ではないが、もちろん悪意などのない人なのだ。そして、巻末の朝日新聞科学グループ　行方史郎氏（「ゆくえがわからなくなったら、知ろう」みたいなお名前だが、「なめかたしろう」氏と読むそうだ。）による、冒頭のくだり、またノーベル賞受賞の舞台裏、そしてその場でも発揮される下村氏の個性など、あっという間に読めるが、興味深く読ませていただいた。報道で見た下村氏の、長身でシャイなイメージとは裏腹に、奥底で消えることない探究心が燃え盛っている様を、きっと垣間みることができるだろう。

  2009年08月08日

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  日常のなかの「日常」

  花ちゃん「ずっとこのままでいられたらいいのに・・・　　　　　そういうわけにもいかないね」たっくん「そやな」アンドウくん「細胞は毎日生まれ変わってるねんで」花ちゃん「細胞？」アンドウくん「細胞は一日も一緒じゃないねん。古いやつは　　　　　どんどん死んで、新しいのに入れ替わってくねん」たっくん「つまり、人間は常に変わってくんやってことやろ？」アンドウくん「それが、ながーい目で見たら進化ってことに　　　　　なるんとちゃうかな」花ちゃん「さびしいときもあるけどね」アンドウくん「なんかが終わるってことは、なんかが始まるって　　　　　ことやろ？　それに、楽しいことばっかり続けられ　　　　　へんのは残念やけど、反対に、つらいことやって　　　　　永久に終わらないわけじゃないやん？」左京区七夕通東入ル瀧羽麻子氏の小説を読み終えた。京都の大学4年生、花ちゃんが、七夕の日に出会った数学専攻の彼、たっくんと過ごす、卒業までの9ヶ月弱の話である。たっくんの寮の悪友、遺伝子専攻のアンドウくんや、爆薬専攻のヤマネくん、花ちゃんのバイト先の店長、陽子さんや友人のアリサなどを交えて、繰り広げられる青春小説だ。一部を抜粋して、再構成して紹介したのが冒頭のくだりである。読んでのとおり、ごく普通の大学生の世界がそこにある。最近の小説やテレビドラマなどは、心を乱す話が多い。これでもか？と繰り出される昼メロの世界、欲望や事件を書き綴ったものが多い。いや、現実の方が、「小説よりも奇なり」であったりするくらいだ。なんだか、今は、日常のなかに「非日常」が多過ぎる気がする。恋愛小説ではあるが、三角関係的なドロドロはない。もちろん、ケンカも暴力もなければ、強引な駆け引きもない。性描写すらないのだ。それでいて、最後まで、飽きさせずに読み進めさせる話の展開がいい。言ってみれば、日常のなかの「日常」の話に、心が安らぐのだ。新鮮で清々しい。花ちゃんは実家の東京に戻り、社会人生活をスタートさせる。残された男どもは、そのまま、それぞれの研究を究めるために大学院に進む。果たして、その後はどうなるのか？という興味を持たせながら終わる。どこまでも前向きに思えて、読み終えたあとの、あと味も悪くない。

  2009年08月05日

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  取材学

  藤井誠二氏の「大学生からの『取材学』」（講談社）を読んだ。「取材学」なる学問があったのか？と思い、興味を持ったのだが、「コミュニケーションの術を学ぶ」ぐらいの意味に捉えればいい。大学生からの「取材学」最近は、こうしたハウツウものも多く出版され、情報が溢れている。しかし、この本は、単なるハウツウというレベルではないと感じた。著者はノンフィクションライターとして生計を立てている。例えば、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」、最近では「光市母子殺害事件」などもそうだが、地道な取材活動を通して、ひとつの真実をあぶりだしている。そんな彼が、大学で学生たちに、自らの取材経験で得た術を教えている。その内容の一端を紹介した本なのである。数々の取材を通して感じ、会得したものを書いている。しかし、それは取材という限られたコミュニケーションに限った知恵だけではないのだ。例えば、「入れ替え可能性」についての記述。オリジナリティでも、独自取材学でも置き換えられると書いているが、彼がノンフィクションライターとしての地位を確立するまでの苦悩を書いている。これなど、他の職業にも生きてくる考え方だ。私も、講師業を捉えるときに、思い悩むことでもある。いや、著者が紹介しているように、「ライフワークを持ちうるための原則」なのかもしれない。 たまたま今日、彼が教えている大学のオープンキャンパスがあったようだ。朝日新聞に3面も使って、大々的な広告が打たれていた。それが、上の写真だ。来年4月に、学部の大幅再編を行なうことが書かれている。その中に、彼が教えるメディアプロデュース学部も載っているのだが、果たして卒業生がこの分野に行き着く確率はどの程度だろうか。むしろ、各学部間の共通科目にした方が有意義に思える。しかし、今や少子化は鮮明になっており、大学も生き残りをかけている。勢い、「即戦力」を謳い文句に、専門学校化が進んでいるようだ。これは、企業サイドの思惑もあるだろう。一から育成する時間もカネもないし、折角育てても、すぐに他社へ行かれてはたまらないのだ。大学への期待は歪んでいるのではないか。ファイナンシャルプランニングも、大学の授業に取り入れられることが多い。確かに、考え方を学ぶには有意義だと思う。私は教えたことはないが、FPの仲間たちが教壇に立っている。これも有難いことである。しかし、単なるFP資格取得講座であるのなら、あまり意味がないのではないかと個人的には思っている。なぜなら、この資格が、金融業界へのパスポートにはならないだろうと思うからだ。しかし、大学では資格をとらせたことが、「就職活動に熱心な大学」というラベルの取得に繋がるのだ。目に見える形で示すには、資格はもってこいと言える。が、しかし、である。･･･この本には、プロの取材に対する考え方が、ふんだんに散りばめられている。しかし、それは取材活動に限らず、様々なコミュニケーション力を育てることに役立つ術である。貴重な内容を多く含んでいると思う。「『反逆する風景』を無視してはいけない」という章も、貴重な考え方だと思った。

  2009年07月26日

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  経済と地震

  岩波ジュニア新書というのがある。子ども向けだが、学ぶ意欲の高い子ども向けで、割と難しい言葉も平気で出てくる。今日読んだのは、その中の「経済の考え方がわかる本」である。ネット上で展開された、中高生のための無料の学び場「e-教室」を書籍化したものだ。中高生のみならず、現場の教師も参加しているようだ。経済の考え方がわかる本扱っている内容は、「希少性と選択」をテーマにした「帰省ラッシュは解消できるか」、「機会費用」をテーマにした「失敗した買い物は」、「裁定取引」をテーマにした「産地値段は安くない？」、「比較優位」をテーマにした「無人島脱出大作戦」など、子どもが「あれ？」と思うことをネタに、考えさせて学ばせる内容となっている。そして最後に、「経済を学ぶと幸せになれるか？」という章で締め括られているが、理科の先生のコメントは的を射ている。いわく、科学でも、地震学は経済学に似ているというのだ。つまり、「何かがおきてから、原因はこれだったとは言えるけど、なかなか予知はむずかしい。（中略）経済はわからないからおもしろいし、学ぶ価値があると思います」。しかし、何故、地震も経済も、予知が難しいかと言えば、「影響をおよぼしあっている要素がたくさんあり、それが複雑にからみあっている」からに他ならない。ただ、「『ある条件』のもとで、ある政策をとればこうなるはずという、筋道は立てることが」できる。この筋道こそが経済学と言うわけだ。「経済を学べば、思考が深く多角的になる、人が豊かに（経済的に豊かでなくても！）生きていくことができると信じています」と結んでいる。教室とは言っても、一方的な授業ではなく、お題が与えられ、それに対して、全国の中高生や現役教師が意見を出し合う。お互いの顔も知らない、そんな前向きな彼らの学びの場を再現したこの本は、実に読み応えがあった。

  2009年07月10日

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