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テーマ:今日の出来事(292646)
カテゴリ:トルコ的生活/わたし的生活
エレベーター内のパネル上には、緊急用ブザーとして黄色いボタンがある。 が、押してもピューピューピューという気の抜けたような音が出るだけで、日本のように警備会社に通報がいくわけではない。 ブザーの音を聞きつけた住人が、中で閉じ込められている人がいることを察知するためのものに過ぎない。 たまたまエレベ-ターに乗ろうとホールに出ている人が気づいてくれればいいのだが、いつやってくるか分からぬ住人を待ち続けるのも、あまり効率のいいものとは思えなかった。 それにしても、携帯を持っててよかった! 私はまず、自宅に電話し、エレベーターに閉じ込められたからしばらく帰って来れない。心配しないで待っていてほしいと伝えようと思ったが、諦めた。 エミが部屋に閉じ込められている状況では、私の窮状を知ったナナが、たったひとりでパニックに陥る可能性のほうが高かった。 そして、オズレムのお母さんアイギュル夫人の携帯にかけようと試みた。 しかしエレベーター内は電波がうまく届かず、携帯には繋がらなかった。 そこで、祈りつつアイギュル夫人の自宅の方へかけてみると、なんとか繋がった! 簡潔に、エレベーターに閉じ込められたことと、カプジュが留守なので連絡を取って欲しいことを伝える。 やがて5分ほどして、私の居場所を確かめるために、各階のエレベーターの外扉をコンコンとノックしながらアイギュル夫人とオズレムが近づいてきたのが分かった。 扉越しに会話を交わした後で、アイギュル夫人はカプジュに連絡をとってくれたようだった。カプジュは町の中に出ていて、至急戻ってくるが20~30分ほどかかるだろうという。 エレベーターの扉を手動で開けるための鍵は、カプジュしか持っていないのであった。 私は、アイギュル夫人にナナとエミの様子を伺ってくれるようお願いした。 エミが自室に閉じ込められて、ナナひとりだということ。今頃、私の帰りが遅いので、ふたりとも心配してるのではないかということを訴えた。 アイギュル夫人とオズレムが階段を上がっていくと、しばらくあたりは静かになった。 もともとエアコンのないエレベーター内は、換気扇も止まってしまい、天井の裏に置かれたラジオの音だけが空しく鳴り続けている。 エレベーター内の電気は、どういう加減か、消えては点き、消えては点きを繰り返していた。 私の吐く息と滲み出る汗で、鏡はうっすらと曇り始めている。 酸素に不足はないが、室内はかなり蒸し暑かった。 それにしても、いったいなんてことだ! エミだけでなく、私まで閉じ込められてしまうなんて! アッラハ・バナダ・ジェザー・ヴェルミッシュ。。。(神様は私にも罰を与えなさったらしい。。。) 私が、いったいどんな悪いことをしたのだろう? 私は、自分の起こしたハター(間違い)について振り返ってみた。 今日のこの事件のことの起こりは、あくまでエミの傲慢な態度にあったと思う。しかし、私も強硬手段に出るのが早すぎた。相手は子供だし、もう少し辛抱して、相手の話に耳を傾けることから始めるべきだった。 自分の話に耳を傾けさせることに一生懸命で、エミの話は聞こうともしていなかった。エミにはエミの言い分があったに違いない。 あるいは、ただ落ち着かせるだけで十分だったかもしれないのに。 キレて物事を途中で放棄し、その場から逃げ出すというエミの習慣的態度は、夫の血を濃厚に引き継いでいるように見えるのだが、娘たちに反抗的な態度に出られたとき、一刀両断に始末してしまおうとする私の態度からも、影響を受けていないわけがなかった。 つまり、いくら言っても聞かないなら叩く。あるいはそれに代わる何らかのジェザー(罰)を与えようという態度。 私の子供の時分は、子供が親に反抗的な態度に出たとき、容赦なく木に繋がれたり、押入れや倉庫に閉じ込められていたものである。その影響が、私にも跡を深く残していた。 しかし今日のこの場合、おそらく私の態度は適切ではなかったのだろう。 エミが自分で散歩を放棄して家に戻ったのは、私には不可抗力だった。 しかし、肝心なのはその後。電気を消すという強硬手段が、エミの態度をエスカレートさせたのだ。あそこで、もう少し忍耐強く説得を続けるべきだったのではないか・・・? そんなことをぼんやり考えている間にも、スィテの住人が代わる代わるやってきては私に声を掛けていった。 「イェンゲ(奥さん)、大丈夫ですか?」 「空気は来てますか?」 「イェンゲ。空気は来ますか?大丈夫ですか?」 「大丈夫です。大丈夫ですけど・・・この時間に来てくれる鍵屋はいるかしら・・・?娘が部屋に閉じ込められてしまったもので・・・」 私は扉の向こうの人物が誰かも分からないまま、弱々しく訊いていた。 「いやあ・・・今カプジュが来ますから、カプジュに訊いて下さい」 そう、そうだよね。カプジュが到着してから訊けばいいことなんだから。。。 アイギュル夫人とオズレムが戻ってきて、誰も電話に出ないし、チャイムを鳴らしても誰も応答しないといった。 きっと、疲れてナナは眠り込んでしまったのだろう。 エミはもちろん電話の音やチャイムの音に気づいたとしても、出れるわけがなかった。心配してるだろうか。泣き叫んでたりしてないだろうか。 閉じ込められてから、何十分経っただろう。携帯で時刻を確認すればいいのに、その時の私にはそれすら思いつかなかった。 カプジュがようやく帰宅し、鍵を取り出している音が聞こえた。 やがて、鍵を回す音。扉が開き、カプジュ、アイギュル夫人とオズレム、その他5~6人のコムシュ(隣人)たちの顔が見えた。 エレベーターは、1階(トルコ式の0階/Z階)に着き、さらにそこから50~60cmほど下に沈んだ位置で停止してしまったらしい。 私は、段差に足を掛けて登り1階のホールに立つと、カプジュとそこに顔をそろえていた全員に、お手数を掛けたお詫びとお礼の言葉を述べた。 そして、すかさずカプジュにお願いするのを忘れなかった。 エミが部屋の鍵を掛けた後、開かなくなってしまったこと。もしかしたら壊れてしまったかもしれないから、見に来て欲しいということ。もし壊れていた場合、この時間でもやってきてくれる鍵屋を知っているかということ。 カプジュは、エレベーターのことを片付けた後で伺うと約束してくれ、ほっとする。 アイギュル夫人もオズレムも、私が10階まで上がる際、心配して同行してくれた。 自宅の鍵を開け、中に入る。テレビの音を除いては、人の泣き声など一切聞こえない。 ナナは案の定、テレビも電灯も点いたままのオトゥルマ・オダスで眠り込んでいた。 エミの部屋の前に立つ。鍵穴から覗くと、エミの動かない足が見えた。どうやらエミも眠っているようだった。 アイギュル夫人に一度鍵を試してみてくれるように頼んだが、彼女も開けられなかった。もちろんオズレムも。 10階まで何往復もしてくれた彼女たちに冷たい水を振る舞い、カプジュを待つ。 ほどなくしてカプジュもやってきた。 鍵屋に電話しようか?と訊く。いや、その前に一度見てくれないかとお願いし、試してもらうと、さすが男性。何度か回してみた後、カチッと音がして、見事に鍵が開いたのだった! 壊れたわけではなく、強く締まりすぎていただけだったのである。 これで、ようやく一件落着。 カプジュにも、もちろんアイギュル夫人とオズレムにも再度お礼をいい、彼らは引き取っていった。 私はナナをソファーに寝かせたまま、オトゥルマ・オダスの電気とテレビを消し、次に子供部屋の電気を消し、エミが途中で目覚めたときに怖がらないよう、ドアを大きく開け放したままにしておいた。 時間は、9時半を回っていた。 夕食の支度はもう必要なくなったので材料を冷蔵庫にしまい、と同時に、コンロをかけてなくてよかったと心底胸を撫で下ろした。 その夜、私は、夢を見てうなされ、何度か声を上げていたエミの添い寝をすることにした。 肩や背中をトントンし、腕を身体に軽く回してやるだけで、子供は安心して眠れるものである。 エミは、私がエレベーターに閉じ込められたことを知らない。 明日の朝、エミが目覚めたら、真っ先にこのことを面白おかしく話して聞かせよう。 アッラハ・サナ・ジェザー・ヴェルディ(アッラーはあなたに罰を加えなさったけど) アマ、バナダ・ヴェルディ!(だけど、私にも罰を加えなさったのよ!) そこから、昨日の一件について、落ち着いて話し合えるような気がした。 いつも応援ありがとうございます。 神はどこまでもお見通し、と思える不思議な事件でした。 娘との相克が、これでやめばいいのですが。。。 子育ては難しい。年嵩が大きくなるほどそれを実感しています。 人気blogランキングへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006/08/28 06:52:17 AM
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