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テーマ:お勧めの本(7400)
カテゴリ:読書
大江健三郎氏自身と同様に、安保闘争で引き裂かれた若者たちが、
この作品の登場人物である。 失われた自己の根っこを求めて、故郷へ帰ってゆく。 そして自己同一化するべく、歴史的時間との同一化が行われるのだ。 その歴史的時間とは、彼の故郷で実際に起こった 〔万延元年の一揆〕という動乱の時代である。 根所蜜三郎と鷹四という対立する兄弟を巡って、 自己の内部と歴史への内部の探求が行われる。 蜜三郎が直方体の穴ぼこの中に犬を抱いて横たわり、 異常な縊死を遂げた友人を観照するところから、この物語は恥じまる。 蜜三郎と妻の菜採子の間には、頭に瘤があり、 脳に異常のある子供が生まれたばかりだった。 蜜三郎は、その障害を持つ子供と共生して生きていく決心が付かない。 その子供を養護施設に置き去りにしたまま、 弟とたちと一緒に故郷の四国に帰るのである。 鷹四は今まで決して誰にも語ったことが無い、<本当のこと>を隠し持っていた。 積極的で行動的、人にから慕われる鷹四は、 親衛隊と共にフットボールチームをつくる。 そして故郷の谷間の村で、かつて彼らの曽祖父の弟が先導した 〔万延元年の一揆〕をなぞらえて、再び現代で暴動を起こそうと企てる。 そんな鷹四を常に徹底的に批判し、自ら何もすることなく、 傍観者たろうとする蜜三郎。 ついに鷹四は、蜜三郎に妹の自殺に関する<本当のこと>を語る・・・ 私が大江氏の作品の中で、最も好きな作品である。 実際に彼には周知の通り、光さんという障害を持つ息子がいる。 後年彼はそれをモチーフに、実際の家族を描いた小説も多く発表している。 しかし、苦悩に満ち、穴ぼこから出口を探し求めていたこの頃の作品の方が、 私には忘れがたいのである。 大江氏の作品は難解で読みにくいという人もいるが、 少し読めば文体が掴め、慣れてくるので、ぜひ挑戦してみてほしい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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