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カテゴリ:読書
もしも、突然、自分が<若年性アルツハイマー>になってしまったとしたら?
読者は皆、主人公と自分を重ねあわせ、深く考えさせられたことだろう。 次第に記憶が失われていく恐怖、不安、そして絶望。 主人公は広告代理店に勤める営業部長、どこにでもいる普通のサラリーマンだ。 近頃、人の名前や映画のタイトルが出てこない、自宅の鍵を閉めたどうか不安になる・・・ そんなところから始まり、次第に大切な仕事の会議に穴をあけてしまったり、 めまいや頭痛、不眠症に悩まされるようになる・・・ 過労だと心配する妻の勧めにより、病院で検査した結果告知されたのが、 <若年性アルツハイマー>。 そんな残酷な運命を、にわかに受け入れられるはずが無い。 彼は何とか記憶を失うまいと、出来る限りのことをメモしまくる。 得意先からの電話、部下との会話などを速記さながらにメモし、 人の名前と顔が一致するように、名刺にその人の特徴を記し、似顔絵を書く。 辛いのは、何度も足を運んだことのある得意先の会社へ行くのに、道を迷ってしまうところだ。 道が分かりにくいわけではないのに、どこもかしこも見たことのないような風景と化し、 建物の看板の文字も何の意味もなさない記号のように見え、 渋谷の街を汗だくになって彷徨うのだ。 日が経つにつれポロポロと抜け落ちていく記憶、たびたび起こる幻聴や妄想・・・ やがて彼は、隠していた病気が上司にバレ、早期退職に追い込まれる。 記憶を失い、人格が壊れていくことに恐怖しながら、彼は自問する。 脳死の議論があるなら、記憶の死だってイコール人の死ではないか?と。 娘の顔も生まれたばかりの孫のことも忘れつつある中で、 彼は若かりし頃通っていた陶芸家の老人の棲む山に、苦労しながら向う。 彼が趣味として唯一楽しんだ焼き物を焼くために。 そこで彼は、記憶を失うことの恐怖から解放される。 そして山から降りた彼を迎えたものは・・・? 涙が誘われる、美しいラストシーンである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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