folded lie
W.H.Audenの有名なSeptember 1, 1939という詩の最後の2連では、次のように詩人の「声」が立ち上がる。All I have a voiceTo undo the folded lie,The romantic lie in the brain Of the sensual man-in-the streetAnd the lie of AuthorityWhose buildings grope the sky:There is no such things as the StateAnd no one exists alone;Hunger allows no choiceTo the citizen or the police;We must love one another or die.Defenceless under the nightOur world in stupor lies;Yet, dotted everywhere,Ironic points of lightFlash out wherever the JustExchanges their messages:May I, composed like themOf Eros and dust,Beleaguered by the sameNegation and despair,Show an affirming flame.ぼくが持っているのは折り重なった嘘をほどく声だけだ、欲望に生きる街の男の頭のなかのロマンチックな嘘と空にのびる建物の持ち主である「権威」の嘘を。「国家」なんてものはありはしない、そしてだれもひとりでは存在していない。飢えは市民にも警官にも選択の余地をあたえはしない。われわれは遭いしあわねばならぬ、さもなければ死だ。夜の下に無防備にわれわれの世界は昏睡して横たわる。でも、アイロニックな光の点が、いたるところに打たれ、「正しい者たち」がメッセージを交換する場所をすべて照らしだす。どうか、かれらとおなじようにエロスと塵から成り、おなじ否定と絶望に悩まされるこのぼくにも、肯定する炎を示すことができますように。(福間健二訳)「折り重なった嘘」を「ほどく声」はどこにも聞こえず、また「嘘」が折り重なるだけだというような感想を持たざるをえない。ぼくはテレビが報道している選挙結果から逃れるようにして、これを書いている。「アイロニックな光の点」はどこにも打たれなかったね。「正しい者たち」は永久に正しい者たちであり続け、否定も絶望も感じていないのだ。これが現実であるということか?希求された「肯定する炎」はぼくを依然として勇気づけはするが、あまりにも明るい嘘の折り重なりに、今夜は暗澹たる思いの方が強い。4年前の9.11はこうしてこのクニで、その新たな開始を、今度は壊滅的な絶望を告げるために演じられ始めようとしている。