連詩「地震(なゐ)振る夜」・完成
1小さな地震(なゐ)振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。 (英己)2箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは (英哉)3酒に渇いた、喉を焼く、鳥の羽ばたき、不意に閉ざされた、黄昏の、窓辺に静かに「羽毛」が降り積もっている温泉宿の、床の中で波に呑まれた、小舟のように乱された、食欲と性欲、静かに、埋もれる、「羽ばたき」、のような時間が優しく腐乱している (啓之)4喉を焼いて、言葉は、羽ばたく歌い、羽ばたくごとに、「羽毛」が天へと舞い戻って行き時間は、堆積する。そこでは、透明な言葉を獲得する。だれの耳にも聞こえない。静謐な、深き声よ小舟が、そっと、岸辺を離れる (英哉)5浅さが深みであったり、エンジンが薔薇であったり、ことばがたばこでしかない、しがない詩の、ささやきを満載して、スロー・ボートはチャイナに、偽装の都に、ジャパンに、すべてが偽装の国に、ブラブラ、ベラベラ喋りつづけるオタクの詩人に遭った。坑夫のように母語がつるはしの音を立てる詩人に遭った。所有をひた走るものの、毛のような軽さ、奪われたものの、色彩豊かな響き、異邦の言語たち。師走の穴八幡は一陽来復を狙っている。 (英己)6薔薇を撃つ不意に、乱されて、「花園」を殺す母語の時間が、木立を、巡り黄昏は、途切れて「薔薇の色」、は行方知れず奪われたあらゆる芽よ射撃手のように窓辺から、死んだ児の名前を放つ (啓之)