なんでも屋ナンデモアリ 2/菅野彰/新書館ディアプラス文庫
なんでも屋ナンデモアリ(2)****あらすじ****柳瀬敦・森田寅次郎・中川幹彦…今日も今日とて朝からドンジャラを囲みビールを煽る、負け犬三匹が寄り集まり始めたなんでも屋「ナンデモアリ」。やる気のない社名そのままの仕事振りの3人の下に、青天の霹靂が。中川が世を拗ねた原因の一である2人の元妻の1人・馨が作曲の依頼にやってきたのだ。恐るべき女・馨の襲撃から逃れられず、しぶしぶ依頼を引き受ける事になった中川は、それでも自分で作曲をする事は容れられず、ある男の元に敦と寅次郎を向かわせる。あらゆる常識の持ち合わせがないその男・高橋は、しかし中川が音楽を諦める原因となった、才能だけはある美男子で、しかも再会した中川の事を「一夜の恋人」と呼び…!?**************** 2003年12月に出たCDのノベライズ(※)。1巻に同じく、ほぼCDそのままで、若干話が膨らんでいるようないないような。 キャストはレギュラー陣に敦:森久保祥太郎/寅次郎:岩田光央/中川:関俊彦。新キャラには、高橋:池田秀一/馨:勝生真沙子。 1巻でも言いましたが、というか1巻以上に強く言いたい。 読んでいる間このキャストを頭に置け! 特に新キャラ二人。はまり役以前に、これ以外のキャストありえませんから~。いやもう…。 2巻は、1巻においてペリペリと皮が剥げるかのごとく謎が解け、中身がむき出しになってしまった中川幹彦が、さらに玉葱のように際限なく剥かれて中身が無くなってしまう話です。もとい。 とりあえずスタートラインには立ったものの、長年培われた負け犬気質はそうそう変わるものでもない3人の元にやって来た、中川の元妻・馨。曰く「新人が土下座して詩を書いてくださいとお願いに来る身分」の彼女は、その破壊の女神っぷりも強烈なキャラクターで、3人、主に中川に対して活を入れます。 菅野さんもあとがきで書かれてますが、小説の馨様はジョークの域を超えてるよ…読んでる人も、うっかりすると殺されるかもしれません、という勢いで。 更に中川をぶっ壊しにやってくる破壊の王子・高橋もスバラシイです。 いやもう、この王子が強烈で強烈で…高橋の登場シーンは全編ミュージカル調で、とにかく人の話を聞かずに中川に迫りまくります。浅草の裏通りに住まい、限界ギリギリ無精ひげにステテコ姿でウロウロし、ぶつからないと止まれない殺人的な運転技術で恋人と呼ぶミニクーパーを乗り回し、無駄な美貌を垂れ流しているという。 気が遠くなりそうなキザったらしい台詞をさらりと…いや、さらりじゃないか…言って嘘臭くないでたらめなキャラですが、それが「持たされた者」の代償であると納得できる説得力は流石です。 中川も無駄にハンサムと形容されており、美形の大人2人の恋愛劇は、BLとしても十分見所があります。 しかし、この話はそれだけに留まっていません。 「負け犬」を自称する3人ですが、傷を舐め合っているだけでは生きていけないのだと。敦は明らかに「持たざるもの」なのですが、中川は本当はそうではなく、持っているのに見失って向き合わないだけなのだと…そんな中川と側にいる2人も含め、持とうが持つまいが、留まり続ける事はできないのだと、持っていて向き合う人や、持たされて自然な人達に押されて、少しずつ向き合わされていきます。 それは本当は普通に皆がやっている事で。でも、きっと誰も皆、本当に向き合えば少なからぬ痛みや恐ろしさを伴うものなのだと思います。 何の事だかとりとめがなくなってきましたが、とりあえず、高橋と中川のラブ模様だけでも大変読み応えのあるお話です。 しかし、高橋の愛は大きすぎて…どうなの、これは。中川が切ない… 2巻まで読んで、改めてこの一連の話の主人公は敦なんだなあと思いました。 菅野さんの他の作品、「おおいぬ荘の人々」にしても「毎日晴天!」にしても、いろんな形の…でも家族を描いているせいか、複数のキャラ、複数のカップルが出てきても、要になるのは「いつもそこに居る人」なんですよね。それは勿論「行けない人」であるという事ではなく。 今すっごく気になるのが、馨様と「毎日晴天!」の志麻姉、どっちが強力なのかしら…ということ。キッツイなぁ…(※)ルビーにくちづけラジオドラマCD「負け犬のなんでも屋」\3,2002003年12月発売「負け犬の食卓」の続編。脚本は同じく菅野彰書下ろし。二枚組み。ブックレットには書き下ろしSS(文庫に加筆収録済み。)。通販のみ1巻感想はこちら